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インフィニティハートがクルーザーを攻めるほん
登場人物一覧
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これは同人作家『魔法少女執行委員会』が委託販売中の同人誌『インフィニティハートがクルーザーを攻めるほん』の内容です。
実在の人物団体21歳現役魔法少女とは一切の関係がないんだからね勘違いしないでよね(ツンデレ)。
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海原を刻むS字のカーブ。
はじけるしぶきを置き去りに、魔法少女インフィニティハートstyle.D(略してイニD)はクルーザーのレバーへ足をかける。
ショッキングピンクの靴底が金属レバーをこすり……ごり、と音をたててヒールの付け根がハンドルの溝へ食い込んでいく。
強くヒールを溝の縁へと押し込み、踏みにじるかのようにハンドルをきるインフィニティハート。
船は猛烈なエンジン音をふかせ、敵船から放たれる小銃の弾幕をはねのける。
ピンクベースにインフィニティハートがプリントされたラッピング仕様ボディに焦げ後が斜線を描き、それを横目にしたインフィニティハートは目を僅かに細めた。
計器の針が揺れ、大きく赤いラインへと振り絞られる。
唸るエンジン。
あがる水しぶき。
暴風を突き抜けて、インフィニティハートは何事か呟いた後――マジカルサイズをアンチマテリアルライフルモードへと変化させた。
キキン、という空間凍結音と共に実体化する無数のミニバリア。突きだした砲身を敵船に向け、巨大な魔方陣が間に展開されていく。
「『魔砲』――type.D」
ズオグ――という海と空気を穿つ独特の魔砲音が、敵船をもろとも貫いていった。
「すごい、あれがDの力を体得したインフィニティハート」
「クルーザーとの動きはまさに人馬一体」
「食い込ませたヒールでハンドルを操作するなんて、一体どこであんな技術を」
「やはり……最強……か」
完全に手抜きで書かれた顔の無いイレギュラーズらしき仲間(白ハゲ仕様)たちが口々に述べる声を、まるでそよ風のように受け流し……インフィニティハート無限乃愛は、海風になびく髪を小指で払った。
――これは、人馬一体の操船技術とラッピング仕様のクルーザーをいかにして作り出したかを描く、モックドキュメンタリードラマであるである。
●シップオーダー
『俺』は小型船Dクルーザー。
DはデンジャラスのDだ。
「お客さん、こいつはとんだじゃじゃ馬だ。その権利書をどこの闇市で買ってきたかしらないが、ほかの船にしたほうがいい」
俺を持て余した何人もの女たちが中古販売店シップ王に売り戻し、俺はなかばシップ王のキングと化していた。
そんな俺を買い取ろうというのが……。
「構いません。その船を」
都会めいたピンクのパーカーを羽織った長髪の女。
成人したばかりの真面目なOLといった雰囲気だ。貴族のクルージングに夢見て俺を買いに来たんだろうが……残念だったな。
この俺を乗りこなす女がこの世にいるとは思えな――
「さっさとイグニッションしなさいこの中古船(うれのこり)」
エンジンルームをつま先で蹴りつけ、氷のような目を向ける女。
少女のようなフリルが山のように盛りつけられたピンク色の衣装に、ハートを連ねた鱗のような鎌をかつぎ、ピンク色の靴底を俺で俺の計器盤を踏みつける。
『変身』によってピンク色に満たされた瞳が手も足も出ない俺を見下ろしていた。
俺を買いに来た時とはまるで比べものにならない圧と……そして俺のキー差し込み口に突き刺さるような魅力。キーが捻られるたび、俺のエンジンは否応なく声をあげた。
甲高く鳴いた俺がだらしなくドルドルとした熱い排気をあげるのを、女……いやインフィニティハートはただ黙って見下ろしている。
反応を待つ俺に見せたのは、ただ唇の片端だけをあげる仕草だった。
だがその歪んだ唇の形に、どこか艶めいたリップの質感に、海辺の日差しゆえか流れた一筋の汗に、俺のエンジンは止まらなかった。
身体が勝手にエンジンベルトを回し、正直になったスクリューが猛烈に回転を始める。
俺が海面を走り出したというのに、しかしインフィニティハートは計器盤を踏みつけて見下ろすばかり。
フン、と小さく鼻を鳴らしたと思ったら、ドカッと乱暴に座席に腰を落とした。
その衝撃が。圧迫が。シートに押しつける重みが。――俺のエンジンを加速させる。
「――れ」
無理矢理にひねられたアクセルが俺からさらなる声を絞り出し、船首が浮いてしまうほどに水面を走らせる。
みっともなく船首を浮かせた俺に驚くかと思いきや、インフィニティハートは……いや、インフィニティハート様は! 俺のレバーを靴底で踏みつけ、ヒールを溝に押し込んだのだ!
「私は曲がれと言いましたよね? キャブレターに海水を入れられないとわかりませんか?」
アアア! と獣のように声をあげる俺のエンジン。捻られたバーに操作されるかのように、俺の身体は大きくカーブし水しぶきをあげていく。
風に乗って吹き付けてくる水滴がインフィニティハート様の頬にかかるが、インフィニティハート様は小指でそれをぬぐってごりごりと俺のハンドルを踏みにじり始める。
まるで操られるように船首を振るわせ、水上をドリフトしていく俺の船体。
「何ですかその走りは? 本当に球状船首ついているんですか? 蹴り潰しますよ?」
俺はもう望んでいた。
キーを差し込まれることを。
ハンドルをひねられることを。
アクセルを開かれることを。
いや……そんな生やさしい干渉じゃない。
インフィニティハート様が注ぐピンク色の視線とヒールの傷(いた)みが、俺を俺だと感じさせてくれる。
もう俺は中古船じゃない。
俺の燃え上がるモーターがピンクに輝き、船体までもがピンクに塗り変わっていくのを感じる。
これが支配。
いや、支配されたいという欲求。
「こういうのがいいんですか? ヘンタイですね。ワーニングランプをそんなに赤らめて」
ありがとうございます!!!!!!!!!!
鳴り響くブザー。接近するサメ。
衝突寸前のコース。
だが俺は安堵していた。
ハンドルを踏みつけられサメに船首を囓られようとしているこの瞬間にいたって、何も不安などなかったのだ。
ハンドルから痛いほど伝わるインフィニティハート様の感覚。これが、これが……これが……!
――『 愛 』
ズオグ、という空気と水面を切り裂くビームの音。
俺の上から放たれた魔砲がサメを貫いていくのを、嵐の雲間が晴れゆくさまのごとく見つめていた。
ハートの塵となって消えるサメを置き去りにして、俺はどこまでも走って行く。
インフィニティハート様はシートに腰を下ろしたまま、俺のハンドルにしっかりと靴底を食い込ませ、小さく、しかし確かに俺を操縦していた。
今なら分かる。
俺はもうただの船じゃない。
インフィニティハート様の一部になったのだ。
そして俺をピンク色に染め上げ包み込んだそれこそが、インフィニティハート様の『愛』なのだ。
これからも、どこまでも、いつまでも……走り続けていたい。このハンドルに刻まれた疵痕と共に。