PandoraPartyProject

SS詳細

今日だけは貴女の為の一日に

登場人物一覧

雑賀 千代(p3p010694)
立派な姫騎士
クウハ(p3p010695)
あいいろのおもい


 時刻は午前十時二十分。再現性東京のどこかにある公園。
 約束の時間より十分ほど早く雑賀 千代 (p3p010694)は公園へ到着した。途中にあるカフェの硝子の壁を屈み代わりに前髪を整える。チークよし、アイシャドウよし、リップよし。お化粧だってばっちりだと大きく頷いて千代は約束の花壇の前へ移動した。すると特徴的な猫耳のついたフードを被ったシルエットの男性が既にいた。

「あれ、クウハさん? もう来てたんですか?」
 てっきり自分の方が先だと思っていた千代が声を掛けると、二、三回ほど周囲を見渡した後千代に気づいたクウハ (p3p010695)が片手を挙げた。
 ポケットに無造作に手を突っ込んでクウハは千代を迎えに行く。

「そりゃ、デートだってのに女の子待たせるわけにはいかねぇだろ」
「で、デート……」
 その単語だけで千代の声は簡単に上擦る。
 異性と二人っきりでお出かけする。確かにデートには違いないのだが恋人でもないのに妙に意識してしまうのは仕方ないだろう。八咫烏だって夢見る年頃の乙女なのだ。許してほしい。

「それにしても……」
「なんですか?」
 クウハのアメシストの目が緩く弧を描き、ふむと千代の全身を軽く一瞥する。
 首を傾げる千代に、クウハが口を開いた。

「なんだその恰好、誘ってんのか?」
「誘ってませんよ!? これが私の勝負服なだけなんですけど!?」
 発達の良い胸をこれでもかと強調する白いノースリーブシャツ。
 着物の振袖をイメージした大きな袖は千代の華奢な身体を浮かび上がらせ、黒いミニスカートからは健康的な太ももが覗いており黒いサイハイソックスとのコントラストが眩しい。
 そんな千代のコーディネイトは甘辛ミックス、セクシーな要素も入っている。

「へぇ、俺の為に勝負服着てきてくれたのかよ」
「~~~っ!!!」
 千代が何も言い返せずぷっくり膨れてしまったので口だけでごめんと謝りクウハがベンチを指さした。
「とりあえず、ジュースでも飲みながらどこ行くか決めようぜ。時間はまだあるんだからよ」
「……はい」
「何飲みたい?」
「……カフェオレの甘い奴で」
 すぐ隣の自販機で炭酸飲料とカフェオレのボタンを押し落ちてきたアルミ缶を拾い上げる。
 カフェオレを千代に渡した後自身の炭酸飲料のプルタブに指をかけ、喉元を駆け抜ける清涼感に気をよくしながらクウハは本題を切り出した。

「で、なんかしたいことはねぇのか?」
「したいこと、ですか?」
 うーんと顎に指を当てて千代は考え込んでいる。
 美味しい食事、気になる映画、最近できたという水族館……。
 しかし全部回るには到底時間は足りない、絞り込まなければと千代の眉間に皺が寄る。
「そんな考え込むなくていいんだぞ? 今日の俺は千代だけのものだからな。

 好きなだけ我儘言うといい。叶えられる範囲なら叶えてやるさ」
「ぴぇ!? な、なんでクウハさんの癖にそんなこと言うんですか……というかいま呼び捨てにしました!?」
「しちゃいけねぇのか?」
「そ、そんなことないですけど……!」
「じゃあ、いいよな? 千代?」
「うっ」
 いつもは意地悪に揶揄ってきたりするくせに今日のクウハはうんと優しいし、普段ならお嬢ちゃんだの鴉ちゃんだの好きに呼ぶくせに名前で呼んできた。恋人にする様に。
 ドキドキさせられっぱなしで悔しい。唇を尖らせじっとりとクウハを千代はクウハを睨みつけた。
「……思いっきり甘えちゃいますよ?」
「いいぜ、好きなだけ甘えろよ」
「じゃあ……まず、ここに行きたいです」
 そう言って千代はaPhoneを取り出し、とあるウェブページをクウハに見せた。
「……手芸屋?」
 うん、と千代は大きく頷いた。


「へぇ、手芸屋って初めて来たかもしれねぇな」
「そうなんですか? わっ、この模様可愛い……!」
 至る所に置かれたスタイル抜群なトルソー。
 くるくる巻かれた大きな布、ふわふわの綿を詰め込んだパックに壁に掛けられた鮮やかなカラフルなリボンに同じくカラフルな太さの違う糸。小瓶に詰められたキャンディのようなくるみボタン。
 見知らぬ道具や材料が所狭しと並んでいてごちゃついているのは嫌いではない。
 いつか気まぐれに読んだ絵本の様な不思議な世界ワンダーランドの様だった。
 
「そういや千代の趣味は裁縫だったな」
「そうですよ! この布とか糸とか選んでる瞬間! 最高に楽しいんですよね~!」
 満面の笑みでとてとてクウハに近づいてきた千代は手に何やらグレーの生地とワインレッドの布地を抱えている。そのままクウハにかざしてなにやらうんうん頷いている様だった。
 不思議そうに目を瞬かせていたクウハだったが、千代が何をしているかすぐに思い至る。

「もしかして、俺になんか作ってくれんのか?」
「はい! クウハさんに前から着てほしいと思っていた衣装がありまして」
「衣装?」
「うーん、クウハさん細身と思ってたけど結構筋肉ありますよね。ならちょっと布地は多めに取ってた方が……あっ、こっちの色もいいかも」
 布合わせに夢中になる千代は真剣そのものだ。
 のめり込むあまり無意識の内にクウハにボディタッチを繰り返していることに気が付いていない。いや採寸も兼ねているのだから当たり前ではあるのだが。

(よくこんな無防備で今まで無事だったもんだな……)
 千代は小柄な体躯に似合わず豊満な体つきだ。よからぬことを企む輩も多いだろうに。
 溜息交じりに苦言を呈す。
「……俺以外には絶対やるなよ」
「? 何か言いました? 聞き取れなくて……」
「いや、いい。それより何の衣装作ってくれるんだ?」
「チョイ悪スーツ、任侠人のお兄さん仕立てです」
「なんだって?」
「チョイ悪スーツ、任侠人のお兄さん仕立てです」
「チョイ悪スーツ、任侠人のお兄さん仕立て」
 やや面食らったクウハを千代は心配そうに下から見上げる。
「あの、やっぱり嫌ですか……?」
「ああ、いや聞きなれなかっただけだよ。全然嫌じゃねぇさ」
 ぽんぽんと自分よりも低い位置にある頭を軽く撫でてやると、幼い顔に滲んでいた不安の色は霧散した様だった。
「それに言ったろ。今日は好きなだけ我儘言っていいって。俺は約束は守るぜ」
 いつもより僅かに掠れた低い甘い声で千代の耳に吹き込めば真っ赤な顔でわなわなしている。反応に気をよくしたクウハが千代のまろやかな頬を指の背でなぞれば、はっと我に返ったように千代は慌てて布を抱え込んだ。
「と、とにかく!! 私はお会計してきますから!! クウハさんはあそこで待っててください!!」
 ビシっと千代は店の二階を指さした。作業台やミシンが何台か見えているので裁縫ができるスペースなのだろう。自分が代金を持つと申し出たクウハだが、千代がそれだけはだめだと頑なに首を縦に振らなかったので大人しく二階へ上がることにした。

 白い作業台と揃いの椅子があり、練達製のミシンや可愛らしいケースに納められた裁縫道具が置かれている。壁には誰かの作品なのか花を象った刺繍が飾られ、テーブルの上にはちょこんと可愛らしいテディベアがお座りしていた。テディベアの柔らかな腹を何度か突きながらクウハは千代を待つ。暫くするととんとんと軽快なリズムを刻みながら足音が近づいてきた。

「クウハさんお待たせしました! わぁ……広くていい作業台ですね!」
「そうなのか?」
「はい! なかなかこの広さの作業台を置けるスペースが確保できなくて……はぁ」
 元の実家の広さでは何の不便も無かったが、絶賛反抗期家出中の千代にとっては裁縫専用のスペースを確保するだけでもなかなか大変である。
「ミシン置いたらもう机の上がいっぱいとかザラなんですよね」
「へぇ、裁縫って結構大変なんだな」
「でもそれ以上にとっても楽しいので!」
 どさりと紙袋を降ろし、千代は買ってきたばかりの布地を広げ裁断の際に目印となる点線を引いていく。愛用の裁ち鋏の刃を入れる手付きに迷いはなく初めから切れ目が入っていたかのようにすっと一枚だった布が形を変えていく。
「なんつーか、見ていて気持ちいいな」
「そうですか? えへへ、嬉しいです」
 クウハは生憎裁縫の知識も技術も持ち合わせてはいないが、針と糸がバラバラの布を繋ぎ合わせ立体的な服の形へ変えていくのを見るのは楽しかった。またその手を動かしている千代の目は真剣そのもので、それでいて楽しくて仕方ないと言った風の顔は好ましく思う。
 千代は手元を、クウハは千代の横顔を見つめ時計の針が何週かした頃、糸切鋏のパチンと音を合図に千代が顔を上げた。

「できました! 我ながらすごくよくできましたクウハさ」
「ああ、よくできてるな。すげぇじゃねぇか」
「近い! 近いですクウハさん!!」
「ん? 嫌か?」
「い、嫌じゃないですけど! びっくりするから!!」
 恋愛対象ではないと言えどクウハは千代にとって好みの顔であり、世間一般からみてもイケメンである。
 そんなイケメンが気が付いたら頬と頬が触れられそうなくらい近くにいたらびっくりするなんてものではない。呼吸も忘れるし心臓が止まる。死んでしまったら責任を取ってくれるんだろうか、意外と取ってくれるかもしれない。
 脳内を駆け巡る訳の分からない思考を思いきり首を振って千代は追い出した。真っ赤に染まった顔を優しい笑みで見つめてくるクウハになんだか腹が立ち整った顔に出来上がったスーツを押し付ける。ぐえ、と短いうめき声が聞こえたがこの際気にしない。気にしたら負けである。
「とりあえず、せっかくなんで着てみてください!」
「わかった、わかったからそんな押し付けるなって」
 ぽこぽこと湯気を立てる千代に苦笑しつつ、クウハはスーツを受け取ると併設された試着室へと姿を消した。その背を見送ってから、千代は近くにあったスツールへどさりと腰かける。
「はぁ……わかっててやってるんでしょうか。やってるんでしょうね……」
 なんてタチの悪い人なんだろう。
 今までもああやって女の子を甘やかして勘違いさせてきたんだ。悪霊だから。
 優しくて甘い、紅茶に溶けたお砂糖の様に屹度相手を溶かして食べてしまうんだ。

「クウハさんなんてちょっと、ちょ~~っとだけ酷い目に遭えばいいんです!」
「随分酷ぇ謂われ様だなオイ」
 カーテンを開けてスーツの襟を正しながら出てきたクウハに千代の視線は釘付けになった。ぽかんと開いた口が文字通り塞がらない。髪の色より僅かに濃いワインレッドのシャツはセクシーで上品な光沢のあるグレーの生地がその鮮烈な赤を引き立てている。寛げられたシャツの下から覗く薄くもしっかりと鍛えられた筋肉はクウハが『男性』であることを焼き付けてきて余りにも目に毒だ。
 普段のカジュアルかつパンクロックな服装とのギャップでどうにかなってしまいそうだった。
「……」
「千代?」
「…………」
「……おい、あんまり無防備だと悪戯するぞ」
「はっ!? ご、ごめんなさい。余りにも理想の男性だったから……」
「は? やっぱり誘ってんのか?」
「だから誘ってませんけど!? ちょっとときめいただけですけど!?」
「正直か??」

 必死に否定する千代の顔が余りにも可愛らしいのでクウハは喉の奥で笑い、そのまま千代の手に自身の手を重ねる。突然の感触に逃げようとする小さな手を追いかけ簡単に捕らえて閉じ込めた。
「それともこっちの方がいいか?」
 一旦するりと手を解き、千代の細い腰へ手を回して引き寄せると手を繋ぐよりずっと距離は近く。酸素を求める金魚の様にパクパクと口を開閉させることしかできなくなった千代は叫んだ。
「手で! 手でお願いします!!」 
 腰に回されていた手が離れ、再度手を繋がれる。クウハの体温は自分より低く彼が「霊」であるという事を主張している様だった。少し離れた距離に安堵しつつもほんの少しだけ寂しいなんて感じたのはきっと勘違いだ。そう、勘違い。
 自分に言い聞かせるようにぶつぶつと千代は呟く。
「……あんまり、こんなことしないでくださいね。勘違いしちゃうんで」
「勘違いしてくれねぇのか? 俺としては千代みたいな可愛い子に好かれるのは大歓迎なんだがな」
「あ、あなたって人は……!!」
 もう何度目か分からない胸の高鳴りが悔しくて、繋がれた手に軽く爪を立てる。
 水族館だとか映画館だとか、考えていたたプランは全部空の彼方へ吹き飛んでしまった。

  • 今日だけは貴女の為の一日に完了
  • NM名
  • 種別SS
  • 納品日2022年09月03日
  • ・雑賀 千代(p3p010694
    ・クウハ(p3p010695
    ※ おまけSS『道中にて』付き

おまけSS『道中にて』

「そういえば千代、オマエさん。異性に服を贈る意味知ってんのか?」
「え? なんですか? ……も、もしかして失礼だったりするんですか!?」
 手を繋ぎ町へ繰り出したクウハに突然話を振られ、千代の顔は真っ青になる。
 さっきまで真っ赤だったというのに、忙しなく変わる様が面白い。
「いや、そんなんじゃねぇけど。知りたいか?」
「?」
 クウハがそっと千代に耳を貸せとジェスチャーするので、素直に千代は耳を差し出す。
 数秒後、再度真っ赤に染まった涙目の千代にぽかぽかと胸板を叩かれた。

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