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アイしてアイされて
登場人物一覧
「う、んっ……ッ?!」
「うふふ……こんばんは、
本当に突然のことだった。
ノアは自分の上に「誰か」の重みを感じて目を開いた瞬間、彼女の唇に生暖かく柔らかな感触が重なった。
何が起こったのか理解する暇など与える気はないと言わんばかりに、その人物は唇の隙間をこじ開けて彼女に舌を絡めていく。執拗に、粘着質に、そして思わず漏れてしまいそうになる甘い声を我物にせんと貪るように。
2人分の唾液が混ざり合い、触れていた唇が透明な糸を引いて離されたところで、ようやくノアは目の前の人物を視認する。
──そこにいたのは、
「私、って……」
「そう、私は貴女。可愛い可愛い貴女が、目を向けていない……裏の人格、といったところかしら」
「な、何よ、それ……っていうか、早くどきなさいよ」
自分の裏人格を名乗る人物の言うことに、ノアの理解はまだ追いつかないまま。戸惑い交じりに尋ねる彼女の声色とは裏腹に、
それはもう一人の彼女も同じようで。先の強引な接吻だけでは物足りないと言わんばかりにノアの耳元で囁く。
「あら、素直じゃないのね……
耳朶が柔らかい吐息交じりの声で震えると同時に、ノアの身体がピクリと跳ねる。
裏の彼女はその反応すら愛おしそうに、細く繊細な白い指でノアの髪を梳きながら、ノアの白く柔らかい肌をゆっくりとなぞっていく。
「期待だなんて……こんなの知らないしそんなこと……」
指でなぞられるくすぐったさは、次第にゾワゾワとしたある種の心地よさに変っていく。
そんな自分の姿は見たくないし見てはいけない。
──でも見たい。
口では反抗しつつも、撫でられることでぼんやりとしてきた彼女の無意識中にそんなことが過ぎる。
「ふーん、知らないのね。じゃあ教えてあげる……こういう
「愛され方……?」
愛される、というワードに思わずノアは反応するとともに、初めて裏人格の彼女の目を見る。
愛おしそうに彼女を見つめて細められている目の奥の赤い瞳が、怪しく光って見えた。
──もっと、知りたい。愛されたい。
「……はい、よく言えました」
そう漏らしたノアとそんな彼女にご褒美をと言わんばかりの裏の彼女、その二人ともまた一段と期待に胸が膨らんでいく。
ノアの上に馬乗りになった彼女はグッとノアに顔を近づける。
先程までとは明らかに違った柔らかさと2人分の体温が、密着することで混ざり合う。
指先で滑らかな肌がなぞられていくたびに、ノアからも少しずつ荒い息遣いが漏れていく。ノア自身が目を背けていた何かが噴出さんとしていたその時、裏人格のノアは少し意地悪く微笑んだ。
「人に愛されたいなら、まずはありのままの自分を愛することよ……そう、
そう言って、まるで子供が大好きなぬいぐるみを取られまいとするようにノアのことを抱きしめ、もう一度唇を重ねて舌を絡める。
「……っ! 私、もっと愛されたい……この先も、もっと知りたい。だから……!」
はちきれんばかりにノアの期待が膨らんだその瞬間。
「ふふっ……今日の所は
「えっ、待って……」
──待って!
自分の大声で、ノアは目を覚ました。
どうやら寝ている途中で部屋の空調の電源が落ちてしまっていたようで、彼女はぐっしょりと汗をかいていた。
「夢……か……」
ぽつりと一つ呟くと、そばに置いてあったタオルで汗をぬぐった。
──夢。
時に希望をみせ、時に気を引き締めるきっかけになり──そして時に、自分の
「次逢った時は、もっと楽しいことを、ね?」
一瞬だけ、夢の中で聞いた自分とそっくりな声が聞こえたような気がした。