SS詳細
カードデュエル≪アストラークゲッシュ≫!!
登場人物一覧
●カードゲームの誘い
「「アストラークゲッシュ?」」
ローレットにいたリリィ・クロハネとラーシア・フェリルが揃って声をあげる。二人の前にいた『レジーナ・カームバンクル』善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)は頷いて一枚の招待状を見せた。
「クラルス・アルカナムという幻想貴族がいるのだけれどね、そのクリスが集めて、レプリカを開発したトレーディングカードゲーム≪アストラークゲッシュ≫の大会にイレギュラーズを呼びたいそうなの。
イレギュラーズの方には声を掛け終わったのだけれど、もしよかったら二人もどうかしら、と思ってね」
「ラーシアちゃんはともかく、私は行ってもよいのかしら? ただの情報屋だけれども」
「構わないわ。賑やかな方が大会も盛り上がるでしょうし」
レジーナにそう言われて、リリィは小首を傾げてラーシアに尋ねる。
「どうするラーシアちゃん? 行っとく? 行っちゃう?」
「まあせっかくのお誘いですし、遊びに行っても良いんじゃないでしょうか。カードゲームはあんまりやったことはないですけれど」
その言葉にリリィはガッツポーズを決めて叫んだ。
「いっよし! やるわよぉラーシアちゃん! ケイオスホルダーズで磨き上げたデュエルセンスを魅せてあげるわよぉ!!」
「いやいや、リリィさん、ケイオスホルダーズはルール無用のゲームなので参考にはなりませんよ」
二人のやりとりを微笑ましくみつつ、レジーナは大会の日程を告げる。
「大会は次の週末。場所はクリスが経営してる複合アミューズメントパーク内で行うわ。場所の詳細は地図が招待状に入ってるから確認しておいて欲しいのだわ。
≪アストラークゲッシュ≫のカードは当日借りれるけれど、なんだったら練達と取引してる雑貨屋で購入することもできるでしょう。当日慌ててデッキを組むよりは、事前に好みのデッキを組んでおく方が楽しめるのではないかしら」
レジーナのアドバイスに、リリィはうんうんと頷いてラーシアの手をとった。
「そうね、やっぱりデッキは重要よね! ラーシアちゃん、早速カードを買いに行くわよぉ! 暗黒混沌的最強魔法デッキを作り上げるわよぉぉ!!」
「わーリリィさん、そんな引っ張らないでくださいいぃ~」
荒らしのようにローレットを出て行った二人を見送り、レジーナはテーブルの上に残された招待状を見た。
「大会は良いけれど……この賞品――」
記されているのは優勝者に与えられる限定カード。
トレーディングカードゲームでは良くあるものだが、その希少性からしばしば高額な取引の対象となる。
「何事もなければ良いのだけれど……」
妙な胸騒ぎを覚えるレジーナはそう呟くと、ローレットを出るのだった。
●大会白熱!
大会当日。クラルスの経営する複合アミューズメントパーク内に可憐な声が響き渡る。
「みんなぁ~、デュエルしよっ!
≪アストラークゲッシュ≫大会はっじまっるよぉ~!」
司会進行役を依頼された幻想アイドルすぴかちゃんが、マイク片手に参加者に呼びかける。
「それじゃぁ大会開始前に主催者であるクラルス・アルカナムさんに一言もらおうとおもいまぁす! クラルスさん、よろしくお願いしますぅ!」
紹介されたクラルスが、壇上に立つ。銀髪ツインテールな様相はレジーナとよく似ており、また、その貴族らしからぬ格好が妙に目立つ。
「今日という日によく集まってくれたのさ! 存分に力を奮って、そして大会限定カードを手に入れて帰って欲しい!」
壇上に飾られた、金属で出来たカード。≪蒼眼の究極女王≫に羨望の眼差しが集まる。
果たして誰があのカードを手に入れるのか。
今、空前絶後のカードバトルが幕を開ける――!
「それではぁ、大会一回戦、行ってみましょぉ~! カードに誓え、勝利の栄光を! ≪アストラークゲッシュ≫、オープン・ザ・デュエル!!」
すぴかちゃんの掛け声と共に、卓上で一斉にデュエルが開始される。
今回の大会には一般のキッズから大人、そして招待状を受け取ったイレギュラーズな方々、リリィ、ラーシア、レジーナも参加している。計六十四名に及ぶ中規模大会と言えるだろう。
大会はトーナメント式なので、六回勝てば優勝となる。
各卓上で早くも白熱したデュエルが繰り広げられる。リリィやラーシアもその渦中にいた。
「ふふふ、あはは――! 来てる、来てるわっ! 神引きよっ! さあ、私そのライフ全て差し出しなさい! ≪闇夜の尖兵≫を生け贄として墓地に送り、さらにライフを消費して≪黒底の堕天使≫を召喚! 一気に片付けるわ! 攻撃よ!!」
(うわ……高コストな手札ばかり……火力至上主義ね……)
手早く自分の試合を終えたレジーナがリリィの手札を覗き込み苦笑する。
リリィの操るデッキは、高コストでありハイスペックなものだ。その分、召喚コストが高く、自身のライフもゴリゴリと削っていく。
召喚できれば圧倒的な火力で相手を蹂躙できるが、カードの引きが悪ければ、何も出来ずやられてしまうハイリスク・ハイリターンなデッキである。
様子を見るに、引きは良いようでデッキが想像以上に回っているようだった。相手は運が悪かったと言えよう。
「えっと……≪風雪の巫女≫を召喚します。それから魔法カード≪創造庭園≫を配置してフィールド効果を発動します」
(こっちはとっても手堅い感じだわ……隙はないけれど、その分決め手にかけるわね)
一方のラーシアの手札は、全体的にバランスよく、扱いやすそうなデッキのように見えた。尖った部分がないというのは、利点ではあるが、同時に欠点ともいえる。その欠点をプレイヤーが理解していれば、大分勝率は良さそうだと思った。
両者ともに性格がよく表れてるデッキで、実にそれらしいと感心した。
そんなこんなで試合は順調に進んでいった。
「次は四回戦だね! 勝ち残ってる皆は次の試合もがんばってぇ! 負けちゃった人は応援に回って盛り上げていこーぅ!」
「はわー、負けてしまいました」
「ふふ、ラーシアちゃんもまだまだね。私は紙一重の勝利を重ねてるわよー!」
ラーシアは三回戦で負けて、リリィは勝ち残ったようだ。
「次の相手は……と」
同じように勝ち残ったレジーナもトーナメント表を見て、その名前に気づく。振り向くとリリィが得意げにレジーナを覗き込む。
「勝負よー! レジーナちゃん!」
「これはこれは、お手柔らかに――」
そう挨拶しようとしたとき、その場に似つかわしくない悲鳴が響いた。
「きゃあああああ――!」
「なに――?」
三人が悲鳴のした方へ向かうと、壇上の上ですぴかちゃんがメカメカしい何者かに腕を掴まれていた。
「わわっ、だ、誰ですか、あなたは!」
ラーシアの誰何に謎のメカ者は答えない。代わりに少女然とした声色で、宣言する。
「この少女を解放してほしければ、我と≪蒼眼の究極女王≫を賭けて勝負してもらおう」
「何をふざけたことを――」
名も無きイレギュラーズが、言葉より早く飛びかかりメカ少女を抑えようとする。しかし、腕を振るっただけで名も無きイレギュラーズは吹き飛ばされた。
強い。強すぎる。誰もがその一瞬でその力量差を自覚するに至った。
「デュエルだ。決着は全てデュエルでつける」
それだけの力がありながら、カードでの決着を望む謎のメカ少女。
会場は騒然となるが、しかし相手の実力も測れず、おいそれとデュエルを望む自信家はこの場にいなかった。
「――貴様だ」
そんな中メカ少女がレジーナに指を突きつける。
「貴様からはデュエリストのオーラを感じる。貴様が勝負しろよ」
その言葉に、レジーナ一息考えて、そして――
「イヤよ」
と、答えた。
「臆したか」
「いえ、全然。勝負はしてあげてもよいのだけれど、相手するのは我(わたし)ではないわ。この二人よ」
ビシッとレジーナが指さしたのはリリィとラーシア。
「ええぇ!?」
「ちょ、ちょっとレジーナちゃん私達じゃ無理よっ」
「二人……? ルールに則っていないようだが?」
慌てる二人に、怪訝そうにレジーナを睨むメカ少女。レジーナは素知らぬ顔で答える。
「彼女達は初心者ですもの、別に二人でもよいでしょう。デッキは彼女達二人のデッキを混成したもので。何も二回行動するわけじゃないのだから良いでしょう?」
「……良いだろう」
一つ考えたメカ少女はそう答えて壇上に用意された決勝用の卓上の前に立った。
「さあ、上がってくるが良い。我とデュエルだ!」
「リリィさぁん、どうしましょうぅう」
「くっ……やるしかないのね、ここが私の真の力を見せるところなのねっ!?」
(以外にノリノリだな……この人)
「みなぁさぁぁん、助けてくださいぃぃぃ~」
すぴかちゃんのふわふわした悲鳴が響く中、限定カードを賭けたデュエルが始まった――!
●デュエルの行方
突如始まった限定カードを巡るデュエルは、大方の予想に反して、一進一退の攻防を繰り広げていた。
「≪暗殺令嬢≫を召喚し、新たに≪深淵の楽園≫を再配置、ターンエンドです」
「初心者と聞いていたが、中々やるな。デッキの構成がいいようだが――」
リリィとラーシアのデッキは対極的なものだった。
一発の大きいリリィのデッキでは、引きが良ければ強いが、常勝できるようなものではない。対してラーシアのデッキは平均的に戦えるバランスのよさがウリだが、勝ち筋の少ないデッキだ。
レジーナは両者のデッキを見て、思ったのだ。二つを合わせればかなり強いデッキになると。
カードゲームはデッキの構成が勝率に直結すると言っても良いだろう。もちろんプレイヤーの腕次第という面もあるが、デッキの強さというのは決して無視できない要素だ。
レジーナの読みは、見事に当たったと言える。リリィとラーシア二人の混成デッキは、メカ少女の強気なデッキに対して十分以上に対応できていた。
さらにリリィの引きの良さが継続していたのも大きいだろう。まるでカードゲームアニメの主人公のような、狙ったカードをターン毎に引き当てて、理想的なカード運びとなっていた。
「くっ……それでも……まるで綱渡りのようなターン行動になるわね」
「相手の人とっても強いです、一つミスしたらそのまま負けてしまうかも――」
「諦めたらだめよ、勝利を信じれば必ずカードは答えてくれるわ」
レジーナの言葉に、リリィとラーシアは頷き合う。
「それはどうかな。互いにライフは少ない、一気に勝負をつけさせてもらう! 魔法カード発動、≪黄金双竜の知略≫! 場に出ている闇属性のカードを一枚選んで墓地へと送る!」
このままではコストを消費して出した≪暗殺令嬢≫が無駄になってしまう! だが、ラーシアはこの手を読んでいた。
「速攻魔法発動です! ≪放蕩王の厳命≫! これによって一度だけ魔法カードを無効化します!」
「なに……!? 読まれていたのか――!」
これによってメカ少女の手番が終わる。逆転劇の始まりだ。
「ドローよ!」
リリィが宣言と共に一枚のカードを引く。確認した瞬間、二人は勝利を確信した。
「――だが≪暗殺令嬢≫だけでは我のライフは削り切れん――!」
メカ少女の言葉を遮って、二人が声を合わせて宣言する。
「≪暗殺令嬢≫以外のカードを墓地へと送り、≪善と悪を敷く天鍵の女王≫をリンク召喚!
更に二体の相互リンク効果で、相手の場に出ている二枚のカードを選んで墓地へと送る!
攻撃は終わらないわ! ≪暗殺令嬢≫と≪善と悪を敷く天鍵の女王≫でライフに直接攻撃よ!!」
「な、なにぃ――!?」
リリィの強運と、ラーシアの読みによって完璧なコンボがなされた。直接攻撃を受けたメカ少女のライフは0となり、デュエルは決着したのだった。
「やったわ! ラーシアちゃん!」「やりましたね」
ハイタッチする二人に、悔しそうに歯噛みするメカ少女。そして二人、そしてレジーナを指さし口を開いた。
「今回は我の負けだ、しかし次はビギナーズラックで勝てるとは思わないことだ。必ず≪蒼眼の究極女王≫は頂く!」
それだけ言うととんでもない機動力で立ち去っていく。
「ふ、ふぇぇ……皆さんありがとうございましたぁぁ~」
安堵したすぴかちゃんがリリィとラーシアに抱きついて感謝する。
そんな様子を見ながら、レジーナは思うのだった。
(また、すぐに出会いそうね……)
その日がいつになるか。今はまだ、知ることはなかった。