PandoraPartyProject

SS詳細

枯れ尾花では済まない

登場人物一覧

フーガ・リリオ(p3p010595)
君を護る黄金百合
クウハ(p3p010695)
あいいろのおもい



「なー、クウハ。暑い時期、真夜中のお泊りと言えば……怪談話、だよな?」
「……ほん?」

 そう言い出したのはフーガだった。時刻は真夜中、焚き火を囲む2人の男。片や素朴な雰囲気を見せるやや浅黒い肌の男、フーガ。片やチェシャ猫の様に気まぐれでな雰囲気でニンマリとした笑みを浮かべる男、クウハ。彼らは友人関係であり、今日はフーガがよく居る大木の元にクウハが訪ねてきた形だ。普段のフーガは木の下でごろ寝をし自由気ままに住み着いている様であったが、クウハが遊びにきたと言うことで急遽テントを張って野営という形でこの夜を楽しんでいた。

「"幽霊"の俺に怪談話を強請るたぁ、いい度胸してんな?」
「幽霊だから、だよ。なんか面白そうな怪談話、知ってるんじゃねーの?」

 マシュマロを焼きながら、にやりとクウハが笑う。のんびりゆったりと過ごすのも悪くはないが、退屈は好むところではない。フーガとしても折角遊びに来てくれた友人ともっと盛り上がりたいと思っての提案だった。

「いいぜ、聞かせてやろうじゃねェか。確かにある意味適任だろうしな」

 そう言って、クウハの口は軽快に怪談話を語り出した。海洋で聞いた幽霊船の話、練達で広まる呪いの動画の噂、傭兵に伝わる砂漠の魔物……2、3話語ったところで、ワクワクと聞き役に徹するフーガを軽くジト目で見る。

「なぁ、オマエさんはネタが無いのかフーガ? 夜明けまで俺様の独壇場じゃ流石に声が枯れちまうぜ」
「あー……確かに悪いな。じゃあ、おいらも仕事中にあった話をしてやろうか?」
「お、いいな。ぜひとも聞かせてくれよ」
「へへ……ビビるなよ?」

 とは言ったものの、ビビってくれるのならそんなレアな姿を見れるものならぜひ見てみたい……そんな下心もちょっぴりと持ちながらフーガは頭の中で言葉をまとめてゆっくりと語り出した。



 これはおいらが夜勤の仕事中にあった話だ。
 おいらが勤めていた城では暗黙のルールがあってな。それが『夜に口笛を吹いたら、城の脇にある湧き水を身体にかけなければならない』って内容なんだ。おかしなルールだろ?
 なんでも昔、異教徒が捕まった時に城に呪いをかけたらしくて……その時の名残らしい。夜に口笛を吹くと蛇の悪魔が寄ってきて、そいつを苦しめるんだ。それで、その呪いを解くためには当時の悪魔祓いエクソルシスモ達が清めた城の脇にある湧き水を身体にかけなきゃならないんだと。
 ちょっと条件が面白すぎて、流石においらも信じてなかったよ。そもそも真夜中に口笛なんて吹かなきゃいい話だしな。あんまりにも馬鹿らしくて試す気にもならない怪談話……みんな、そんな風に思ってたんだ。
 それで、夜勤でおいらも含めて数人が詰所にいた時に雑談でその話題になったんだ。「馬鹿な話だよなぁ」ってみんなで笑って、その流れで口笛を吹いた同僚が1人いた。その時は何にも起こらなくて、やっぱり何も起こらないじゃないかってみんなでまた笑い合って……夜が明けて、おいら達は家に帰った。
 でもその後すぐ、口笛を吹いた同僚が病気で何日か仕事に出られなくなったんだよ。家に帰ってから急に高熱が出たんだと。衛兵ってのは身体が資本だから滅多に風邪なんて引くものでもなくて、その時、夜勤してたメンバーはおいらも含めて「まさかな」って思ってた。だから、自然と見舞いに行こうって話になったんだ。仲も良かったし、何より例のルールを否定したかったんだと思う。
 それで見舞いに行ったら……酷い有様だった。同僚は高熱でフラフラで、熱による寒気のせいか震えていた。夜勤明けからろくに眠れていないのか目の下に濃いクマができていたし、たった数日でびっくりするほど痩せこけてたんだ。それでおいら達を見たら叫ぶように言った。

「頼む、水を! 城の湧き水をくれぇ!!」

 おいら達は絶句したよ。同僚の寝巻きの隙間──腕や、腹や、首に、鱗のような痣が出来てたんだ。

 ……。

 ……それで、おいら達が慌てて湧き水を汲んできてそいつにぶっかけてからはそいつは快方に向かったよ。その後本格的に風邪を引いたみたいで、おいら達が医者にこっぴどく怒られたが。
 口笛を吹いた同僚はどっちかと言うと怪談話なんか嘘っぱちだと進んで確かめようとする無鉄砲なタイプだったんだが、病気が完治してからは信心深くなってさ。無理もないよな。迂闊に噂を確かめようとしたら、今度は死ぬかもしれねぇんだから……。



「これで、おいらの話はおしまいだ」
「なるほどなぁ、蛇の霊か……あいつら執念深いからな。その程度で済んでよかったな?」
「……もうちょっと怖がる素振りとか見せてくれねえか?」

 涼しい顔をしているクウハに、語り終えたフーガはガクッと肩を落とした。自分が生きてきた中でも最上位で怖かった体験なのだが、クウハにとっては『よくある話』のようだった。

「あのなぁ、こちとら悪霊だぜ? しかも悪魔だか邪霊は知らんが、人間に呪いとして使役されてるんじゃ程度が知れてるって。オマエさんの目の前に居る奴の方がよっぽどタチが悪いぜ?」
「うう……クウハは友達だし……」
「とはいえそうだな……夜勤の仕事、か。ちょうど話をひとつ思い出した。俺が洋館の住人から聞いた話をしてやるよ」

 そう言うクウハは、にぃ……と意地の悪そうな笑みを浮かべて雰囲気たっぷりに語り出す。



 そいつも元衛兵でな、丁度オマエさんと同じく城勤めだったらしい。仮に……Aとしようか。
 これはAが城で夜勤をしていた時の話なんだ。その城の衛兵は夜勤で特定の場所を見張る役目と城の中を巡回する役目があるんだが、その夜Aは巡回役の当番だった。
 Aは正直言って気が乗らなかった。一箇所に立っててうっかり眠りこける心配をしなくていいのは良かったんだが、夜の城は灯りが必要最低限になっちまうから巡回役は灯りを持ってめちゃくちゃ暗い廊下を進まなきゃならない。実質、肝試しみたいなもんさ。でも巡回役の仕事って2人1組で行うもんだからAもサボることはできない。渋々、相方と灯りを1つずつ持って巡回を始めたんだ。
 A達は城の端からスタートして、特定のルートを通ってまた城の端に戻ってくる。途中で会った他の巡回役と鉢合わせしたら灯りでお互いの顔を確認して、また巡回に戻る。基本は朝までこれの繰り返しだ。最初のうちは順調に巡回していた。その日は城でも特に変わったことは無かったし、同じ夜勤に就いてた同僚も仲が良い奴ばっかりだったからかなり気が楽だったらしい。でも城の中を2周して、3周目の巡回をしていた時に傍に居た相方がこう言ったんだ。

「こっちだぞ」

 その時のAは、自分が巡回ルートを間違えたと思った。というのも城の中は広いし暗いし、侵入者対策とかで廊下の外観が似た作りになっているもんだから、ちょっと油断すると別の道に間違えて入っちまうそうだ。その防止も兼ねて2人1組で行動するんだと。だからAは素直に相方の声と灯りを目印に城の廊下を歩き出した。だがな、そこからおかしくなってきた。

「こっちだぞ」
「こっちだぞ」
「こっちだぞ」

 だんだんと相方がそう言う回数が増えてきた。Aが記憶している順路と明らかに違うのに、「違うんじゃないか?」と言っても構わず灯りは声の方へ行く。組んでる衛兵同士で離れちゃ大変だから、Aは慌てて灯りを追いかけるんだ。そんな中でも途中で同僚の衛兵に会うから、Aは灯りを掲げて同僚の顔を確認する。その顔も見覚えのない顔になっているんだよ。3周目になる前に鉢合わせした同僚達は仲が良い奴らばかりだったし、仮にそうじゃなくても警備上の問題から衛兵はお互いの顔はちゃんとわかる程度には交流している。でも、そいつらは衛兵の制服をきちんと着ているのにAには誰かわからなかったんだ。Aもいよいよこれはヤバい、と思って元の道を引き返して振り向かずに走った。

「こっちだぞ」
「こっちだぞ」
「こっちだぞ」
「こっちだぞ」
「こっちこっちこっちこっちこっちこっちこっちこっちこここここちちちこここちちちちちちちちちちちちちちちこここここここここここここここここここここ」

 もうAは生きた心地がしなかった。走ってるのに相方の声がぴったり後ろから、まるで耳元で言ってるように聞こえてくるんだ。しかもその声も妙に引き伸ばされたり割れたりで壊れた蓄音機が出す音みたいになっていく。その時はもう周りを確認している余裕なんて全く無くて、自分が元来た道をちゃんと走れているのか、それともデタラメに道を走っているのかわからなかった。
 息も体力も切れた頃、Aはようやく立ち止まって自分がいる場所を確認するために後ろを振り向いたんだ。──振り向いちまった。

「こ っ ち だ ぞ」

 ……そこからはもう、Aには記憶が無くなっちまったんだと。最後に見たのは手足の関節がめちゃくちゃで、顔面を粘土みたいにぐちゃぐちゃに捏ねくり回しただったらしい。
 気がついたらAは床に転がってて同僚に揺さぶられていた。その時には朝になっていて、Aは廊下の隅でひっくり返っているところを見つかったらしい。その後、Aと夜勤をしていた筈の相方に文句を言いに行ったんだ。……いや、文句と言いつつ期待してた。あれは相方のタチの悪い悪戯だったんだってよ。でもその相方は首を傾げてこう言ったんだ。

「何言ってるんだ? こっちだぞ、なんて言う暇なんてなかったよ。ちょっと目を離した隙にお前がどっかに消えたんだろうが」

 それ以来、Aは夜勤の際は同僚の手を掴んでないと巡回に行けなくなっちまったらしい……Aは、



「……」

 フーガは背にだらりと冷や汗の流れる心地がする。クウハのした怪談の主人公はフーガと立場が似ており、クウハの語り口と相まって自然と自分の身に置き換えて話を想像していた。最初こそ共感する部分が多くて聞き入っていたものの、話が進むにつれその想像力が仇となって鮮やかな情景が浮かんでしまい、最後はまるで自身が体験した出来事であるかのように震えてしまっていた。

「おいおい、フーガ! どうしたんだよ? まさかビビっちまったのか? 衛兵の名が泣いてるゼェ!」 
「……っ、いや? 別にビビッてねーが?」

 大嘘である。ニヤニヤしている目の前の友人に対して恐怖を悟られたくない、格好悪いところを見せたくない一心で取り繕った笑顔を返すが、その虚勢は硝子よりも脆い。

──ガサガサガサッ!!!

「ヒャァ!?」

 フーガの傍にあった背の低い茂みが揺れ、彼の身体が冗談抜きで10cmほど跳び上がってその勢いでテントに飛び込む。クウハは『あー、タヌキでもいたか』と呑気なものだったが、テントから聞こえてきたフーガの声には最早、完全に泣きが入ってしまっていた。

「ちょ、無理無理無理、無理。なんか居た!? なんか居たぁ!! クウハ! なんか居たんだって!!!」
「あーあーあー……こりゃダメだ。大の大人の癖して仕方ねェなァ……」

 結局、クウハは夜明けまでフーガの背をさすったり話に付き合ってやったりすることになった。このネタでフーガは暫くクウハに揶揄われることになるのだが、それはまた別の話。

  • 枯れ尾花では済まない完了
  • NM名和了
  • 種別SS
  • 納品日2022年08月15日
  • ・フーガ・リリオ(p3p010595
    ・クウハ(p3p010695

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