PandoraPartyProject

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孤独姫とふしぎなつぼ

登場人物一覧

デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)
共にあれ

 お姫様はずっとずっと孤独でありました。
 長く触れた者は例外なく壊れてしまうことから、お姫様を正しく認識するものは現われなくなったせいでした。

 お姫様はずっとずっと孤独でありました。
 誰にどんな命令をしても必ず服従しましたが、誰もお姫様の言葉を正しく認識してはくれなかったからでした。

 お姫様はずっとずっと孤独でありました。
 誰かを愛してしまっても、きっと相手を壊してしまうからでした。

 お姫様は気まぐれに島を独り占めしたり、船を沢山沈めたり、魚を沢山踊らせたり、渦を巻いて踊ったり、海を黒く染めたりと好きな遊びをしましたが、どれもすぐに飽きてしまいました。
 無限の自由が与えられたはずなのに、何も楽しくありませんでした。
 だからお姫様は何度も自分の作った楽園を破壊しては作り直し、破壊してはまた作りました。
 そうしていくつかの島や海を壊した後に、海のはずれに小さな島を持ちました。
 島の名前は、『リトルリトル』。





 リトルリトルはきわめて平和な島であった。
 海洋王国女王派と貴族派の小競り合いから遠く、魔物も少なく、土壌も豊かで魚も多い。都会の娯楽が入ってこないことを除けばなんの不自由なく暮らしていける。
 島に暮らす七十人ほどのごく少数の住民たちは時折近くの島と行き来する船と交易を行ないながら、生活の殆どを自給自足でまかなっていた。
 ある冬のことである。
 北からふく冷たい風にのって、一人の美女が現われた。
 水面を歩くように、もしくは踊るように進む姿を目撃した者は神の到来だと述べ、歌う声を聞いた者は新世界が始まったと述べ、深海のように黒い目で見つめられた者は自分が神に選ばれたと述べた。
 美女はすぐに姫と呼ばれるようになり、村の者たちは所有する全てのものを姫に捧げた。
 姫が踊れと述べれば踊り、伏せろと言えば土に鼻と額を埋めた。
 狂気と呼ぶに相応しい有様であった。
 異様な有様に疑問をもった者たちは島を出て、家族同然の暮らしをしていた島民が狂っていく様を見過ごせず姫にそれらをやめるよう陳情したが、姫はそれを聞き入れる様子すらなかった。
 姫にとって人間とは、物を運んでくる虫や雲や草と同じだったのだと、島を出る者は言った。

 姫が島を訪れてから二年。
 初めて島に子供が生まれた。
 姫が作れと述べ、住民たちが言われるままに作り産まれた赤子はディープシーの女の子だったという。
 そしてそれは、姫にとってこれまで幾度もやってきた遊びの一つであったとも、言われていた。
 赤子を産ませ、育てさせ、情がわいた後に殺させるというもので、姫はその中に垣間見える涙や困惑を鑑賞して、ごくごく僅かにだけ感情を動かして遊んでいた。
 産んだ女は出産の際に死に、父だと思われる集団はとっくに姫の遊びで死に朽ちていた。
 ゆえに赤子を育てる役目は、島の外からやってきた男に命じられることになった。

 男は自らを旅人と名乗り、本名や来歴を明かさなかった。
 しかし姫や島の住民に従順であり、同時にこの島の住民が既に個人の名前すらも必要なくなっていたがために、誰も気にとめることはなかった。
 もし誰かが、『彼だけが狂っていなかった』ことに気づいていたら、結末は違ったのかもしれない。

 生まれた娘が育ち、男に手を引かれ歩くようになった頃、姫はようやくそれを認識して『遊び』を始めた。
 幾度もやった遊びであったが、しかし今回だけは違ったようだ。
 男は『遊び』の当日、娘を捧げるふりをして隠し持っていた『ふしぎな壺』を使い、姫の力を封じ込めたのだった。
 力を吸い上げられた『姫だったもの』の肉体は枯葉のように朽ち、風にさらされただけで散っていった。
 姫の存在を喪った住民たちは今度こそ壊れきり、自害と殺し合いの両方を始めた。
 男は壺と娘だけを手に、島を逃げ出した。

 島の生活で衰弱しきった男に、島を出て逃げ切るだけの力はなかった。
 壺が誰かのてに渡らぬように、そして娘だけは生きていられるように……。
 壺は海へ投げて沈め、娘は通りかかった商人の船へと預け、男もまた壺と共に沈んでいった。




 それから数年。
 ディープシーの少女は商人のもとで育ち、自らをデイジー・リトルリトル・クラークと名乗り、教えられていないはずの言葉を話し、学んでいないはずの学問に通じ、天才とおだてられ、沢山ごほうびを貰うようになった。
 少女は今も、『預けられるその翌日からずっと持っていた』壺を、大事に抱えているという。

  • 孤独姫とふしぎなつぼ完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別SS
  • 納品日2019年10月24日
  • ・デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370

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