PandoraPartyProject

SS詳細

人助け~夕方はケーキを添えて~

登場人物一覧

チェル=ヴィオン=アストリティア(p3p005094)
カードは全てを告げる
エステット=ロン=リリエンナ(p3p008270)
高邁のツバサ


 それはなんてことない一日のこと。
 チェルとエステットは出掛ける約束をしたので、今日の快晴を喜んでいた、本当になんてことない一日の始まりのことだった。
「……?」
「どうしたんデス。何かありましたカ?」
 ぱたっと足を止めたチェルにエステットは首を傾げる。せっっかく目一杯おしゃれをしてきたのだ、今日はいっぱい楽しもうと思っていたのだけれど。けれどチェルの商売道具たる人助けセンサーは今日に限ってやけに仕事をしたがる。それならば普段働いてくれたのならばいいものを!
(…………ええい、仕方ありませんわ!)
 ちょっとくらい渋ってしまったって仕方ない。特異運命座標イレギュラーズたるもの多忙の混沌生活、お休みは貴重なのだ。多分。
 お買い物をして甘いものを沢山食べよう……とかなんとか夢想していたけれど、ええい仕方ないと踏ん切りをつけてエステットの手を握り、チェルは語った。
「ごめんなさいエステットさん、今日のお出かけ無しにしても?」
「ええ?! ここで集合までしたのにデス?」
 戸惑うエステットに向けて大きく首を横に振って。
「いいえ……その、感じるんです」
「何を?」
「困った人がいる予感を……」
「ああ、成る程。でしたらば、お供しますヨ」
「いえ、わたくしがおせっかいをしに行くだけですし、もしかしたら助けなんて受け取ってもらえないかもしれませんわ」
「でしたらばなおさらニ。もしフラれたら、今度こそわらわと遊んでくれるデショウ?」
「……もう、おひとが悪いですわね」
「ふふ。わらわはお調子ものデスからネ」
「そうでしたわね。でしたら、もしだめでしたら、こんどこそお出掛けを致しましょうか」
「どちらに転んでもわらわにとっては嬉しいノネ」
 屈託なく笑ったエステットに、チェルも微笑み返したのだった。

 さておき本題、困りびとを探す。なんだかこちらの気配がする、と指し示したのはお世辞にも安全だとは言い切れなさそうな路地裏。だけれどもエステットがずかずかと踏み込んでいくものだから、その背中を置いていかれぬようにとついていく。
「怖かったノネ。でもこのエステットにお任せデス」
「いいえ、暗かったので明かりがあったほうが良いかと思って」
「強がらなくてもいいのに」
「まさか、ご冗談を!」
 ちゅう、とネズミの鳴く声がした気がしたがまぁきっと気のせいだ。チェルだって普段は薄暗がりの路地近くで占いを行っているときもある。そんなに怯える必要はないのだ。
 そうして二人が足を進めると、小さな少年が泣いているのを見つける。よくよく見れば怪我もしている。傷は、まだ新しい。
「ど、どうしたのですか?」
「こんなところは暗いノネ。何か無くしたのデス?」
「だ、だれ?」
「わたくしたちは悪いものではありませんわ。何か困り事があるのかとおもって……」
 穏やかな声色に安堵したのだろう、少年は顔を上げてより一層涙を流し始める。
「おおよしよし。泣くのはおよしヨ。お姉さんたちがどんなことでも何でもぱぱっと解決してあげるノネ」
 どんなことでも何でも、ぱぱっと、とはいかない。ので思わずエステットを凝視してしまうが、てへ、と舌を出して見せられれば唸るしか無い。どうせ実現してしまえば嘘にはならないのだから、まぁ問題はないだろう。
「ほんとに、なんでも……?」
「勿論です。ローレットの特異運命座標イレギュラーズたるもの、嘘はつきませんわ」
「……おねえちゃん」
「おねえちゃん?」

「おねえちゃんが、知らないおじさんに連れてかれちゃったんだ!! おねがい、たすけて!!」

 少年はそう叫ぶなり涙を大粒にこぼし泣き出してしまった。
 けれどそう頼まれたなら断るわけにはいかない。というより、断るつもりもない。
「もちろんですわ。あなたはわたくしと共に。どちらにその『おじさん』が行ったか教えてくださる?」
「じゃあわらわは空から捜索してみますネ。おじさんかおねえちゃんの特徴が教えて貰えると嬉しいんだケド」
「……おじさんっ、は、う、おっきな、からだで。おねえちゃんは、ぼくと、おなじ目と髪のいろ、してる……」
「うん、おっけい」
「じゃあはじめましょうか。見つけましたら大きな声でわたくしを呼んでくださいまし」
「そっちもネ。それじゃあまた後で」
「ええ!」
 翼が大きく空を打った。
 少年の身体を治療するチェルに、少年は問いかける。
「どうして、たすけてくれるの?」
「だって、あなた困っているでしょう?」
「……でも、ぼく、おれいなんてできるおかねは……」
「大丈夫。おねえさんたち、とっても強いですし……困り事なんてひとつもありませんのよ。いえ、あるかもしれませんけど……あなたの困りごとに比べたら大したものじゃあありません」
 傷口を持っていたペットボトルの水で洗って、絆創膏を貼って。服についた埃をはらって。
「ほら、もう大丈夫。さ、探しに行きましょうか」
「……うん」
 頷いた少年にほほえみ返し、チェルもまた走り出した。
 一方で先に敵を探していたエステット。人の足が翼に敵うはずはなく、少年のさしていたであろう大人はすぐに見つかる。少女が大きな声を出していたのもさいわいして、エステットは声を張り上げた。

「見つけた!!」

 その声はチェルの鼓膜を揺らす。
「さ、行きますよ!!」
「う。うん!」
 エステットが指し示した方へと向かえば男が少女を引きずっているところ。
「な、なんだお前らは!」
「おねえちゃん!!」
「来ちゃだめ!!」
 叫んだ少女を肉壁に、男は後ろへと走り出す。
「オイタが過ぎるんじゃないデスノ」
「こらーっ!! 待ちなさい!!」
 エステットが巻き起こした旋風に、チェルが投げたタロットカードが巻き込まれてするどい風となり、全てが男へと飛んでいく。
 流星のように空中を走ったタロットは、男の服だけを突き刺して壁へと拘束した。
「観念なさい!」
「さて、治安局へ連れていくのがいいデスネ」
 男を捕まえたチェルとエステット。時間は既にお昼を過ぎており、子供たちを親元へと連れて行き男を治安局へと引き渡した頃にはすっかりと夕方になっていた。
「ごめんなさい、お出かけだったのに……」
「ううん、今日は街をかけっこして楽しかったノネ。服を買ったり美味しいものを食べるだけがお出かけじゃないし、また遊べばいいのデス」
 へらりと笑ってみせたエステットにチェルは大きく頷いた。
「でもやっぱり少しだけお茶にしませんこと? わたくし、少し歩き疲れましたわ」
「うん、賛成なノネ」
「美味しいケーキのお店を調べておきましたの。ご褒美にいかが?」
「おお、早速向かいたいデス」
「ふふ、よかった!」
 店が締まる前にと走ってカフェに向かえば、美味しいケーキが二人を迎える。口に広がる甘いクリームの味はなめらかで柔らかく。
 良いことをした後に食べるケーキは幸せそのもの。
 そんな今日が、緩やかに終わっていったのだった。

  • 人助け~夕方はケーキを添えて~完了
  • NM名
  • 種別SS
  • 納品日2022年08月13日
  • ・チェル=ヴィオン=アストリティア(p3p005094
    ・エステット=ロン=リリエンナ(p3p008270

PAGETOPPAGEBOTTOM