PandoraPartyProject

SS詳細

お姉ちゃん達と一緒に

登場人物一覧

エリザベート・ヴラド・ウングレアーヌ(p3p000711)
永劫の愛
ユーリエ・シュトラールの関係者
→ イラスト
ユーリエ・シュトラール(p3p001160)
優愛の吸血種


 無辜なる混沌に飛ばされてから2年間。
 ウェーブの掛かった茶色の髪の少女、エミーリエ・シュトラールは狂気渦巻く終焉・ラストラストに捕らえられていた。
 魔種達や破滅主義者の旅人で構成された国家と呼べぬ場所。
 そこで、彼女が魔種達に捕らわれていたのは、ギフトによるところが大きい。
 ギフト『幸運の記憶』。
 これは、対象が実際に経験した不幸な記憶を、幸運だった時間の記憶に変更させるというもの。
 エミーリエはギフトによって、魔種達に魔種であることを幸せと思うよう暗示をかけるよう強いられていたという。
 いくら旅人で狂気の影響を受けないとはいえ、周囲にそんなものが満たされた世界での生活は相当な心労だったのは間違いない。

 だが、最近になってとある魔種の独断行動もあり、終焉から深緑のとある集落へと連れ出されたエミーリエ。
 エミーリエの姉である、茶色のロングを左後方だけリボンで一房留めた『愛の吸血鬼』ユーリエ・シュトラール(p3p001160)はなかなか彼女を助け出すことができず、しばらくやきもきした日々を過ごしていた。
 それでも、一連の依頼によって魔種を討伐し、エミーリエを保護したユーリエは、自らの家へと彼女を連れていった。
 それからというもの、ストレスやプレッシャーから解放されたエミーリエは元々身体が弱かったこともあり、しばらく寝込んでしまっていた。
 その間、ユーリエと頭と腰からコウモリの翼を生やす『愛欲の吸血鬼』エリザベート・ヴラド・ウングレアーヌ(p3p000711)は時折、彼女の様子を窺う。
 朝も、昼も、夜も。
 ほとんど寝たきりのエミーリエの今後について、2人はずっと話し合う。
 ただ、そもそも、ユーリエはえりちゃんこと、エリザベートのことをエミーリエへと紹介すらもできていない。
 また、自身が吸血鬼となったことも……。
(吸血鬼になった私を、エミーリエは嫌ったりしないかな……)
 人外となってしまった自分を、エミーリエは受け入れてくれるだろうか。
 そう思い悩む愛しいユーリエのことを、エリザベートは見守るのである。


 数日して、エミーリエも体調が良くなり、ベッドで身を起こすことができるようになる。
「具合はどう?」
「うん、大分調子がいいよ、ユーリエお姉ちゃん」
 笑顔を浮かべる妹へと、ユーリエは口を開いて。
「……あのね、エミーリエ。話があるの」
「うん」
 何かを察したエミーリエが頷いて返事を返すと、ユーリエは部屋へとエリザベートを呼ぶ。
「彼女は、えりちゃん……エリザベート・ヴラド・ウングレアーヌ」
「よろしくお願いしますね」
 ユーリエの紹介を受け、エリザベートはお嬢様らしく丁寧に挨拶する。
 物憂げな態度は変わらぬものの、これから起こる出来事もあり、真剣な表情をしていた。
 対して、ぺこりと頭を下げるエミーリエ。
 まだ距離間がつかめずにいたようだが、誰とでも仲良くなる彼女のこと。すぐにエリザベートとも打ち解けるだろうとユーリエは考える。
「彼女は……えりちゃんは、吸血鬼なの」
 頭と腰にある2対の蝙蝠の翼。
 それが『自分達』とは違う存在なのだとエミーリエは自覚する。
 別に、数々の魔種や異形の旅人はエミーリエだって終焉の地で目にしているので、吸血鬼に驚くことはない。
 問題は、姉が打ち明けた次の言葉。
「そして、私の恋人よ」
「そう……なんだ」
 エリザベートもしっかりと頷いたことを受け、2人が本当のことを言っているのだとエミーリエも察する。
 元居た世界、姉妹で恋の話をしたことはあった。
 その時、姉が誰かと付き合っているという話が上がった記憶はない。
 それだけに、エミーリエはこの混沌の地で姉に恋人ができていたことを驚いたようだ。

 次に、ユーリエは妹を恋人へと紹介する。
「いつも話してたよね。妹のエミーリエ・シュトラールだよ」
「よろしくね」
 姉の紹介を受け、明るく挨拶するエミーリエ。
 すでに、少しずつ距離感をつかんできているあたり、やはり彼女は人付き合いがうまいのだろう。
 ユーリエから常々話は聞いていたエリザベートは、エミーリエに想像通りといった印象を抱いていた。
 それでも、エリザベートは興味津々にエミーリエの顔をじっと覗き込む。
 髪、瞳、顔立ち。ちょっとした仕草。それらは全て……。
「ユーリエに似ていますね」
 微笑を浮かべるエリザベートの一言に、ユーリエ、エミーリエ姉妹は顔を見合わせる。
 元居た世界で、すでに両親を亡くしていた2人。
 シュトラール姉妹はそれぞれ、姉と妹だけが唯一、血の繋がった肉親であるのだと、エリザベートの言葉で実感していた。

 その後、ユーリエはエミーリエへと、この混沌に召喚されてから今まで、何をしていたかを語り聞かせていく。
 幻想の町外れで、アイテムギルド「Re:Artifact」という名前のお店を開いた事。
 ローレットの一員として各地を巡り、様々な依頼をこなしていた事。
 ――そして。
「実はね。私も吸血になって、人間をやめていたんだよ」
 そこで、ユーリエは吸血鬼化する。
 茶色の髪は毛先が徐々に赤くなる銀色へと変色していき、腰にはエリザベートと同じ蝙蝠の羽が生えていた。
「その姿って……」
 深緑で魔種に捕まっていた時に出会った女性のものだと、エミーリエはすぐ思い至る。
 また、エミーリエはエリザベートと違う存在であるのが『自分達』ではなく、『自分』だけであることを察した。
「……でも」
 そこで、ユーリエは一言付け足す。
「姉であり、妹である事は揺らがないよ」
「……うん」
 別に、エミーリエはユーリエが危惧していたように、吸血鬼になった姉に恐れを抱いたりしたわけではない。
 ただ、エミーリエはどことなくぽっかりと心の中に穴があいたような、寂しさを感じてしまって。
 姉が自分の知らない間に、遠くに行ってしまったという実感を抱いてしまっていたのだ。
(2年……やっぱり、長かったな……)
 魔種に捕まっていた2年間はあまりに長く、人を変化させるのに十分な時間。
 そう感じたエミーリエは、虚無感のようなものを覚えてしまうのである。


 ユーリエがそこまで話したところで、エリザベートが改めて進み出る。
「ここで、エミーリエちゃんに提案があるの」
 そこはすでに、ユーリエも了承済みのこと。彼女達は頷き合ってから、ユーリエに選択を促す。
 ――人間として、私たちと一緒に暮らすか。
 ――それとも、吸血鬼になって、姉と同じになるか。
 吸血鬼であるエリザベートなら、エミーリエにも姉と同じ力を与えることができる。
「…………」
 エミーリエは、エリザベートの提案に最後まで耳を傾ける。
 吸血鬼になれば、人間をやめることとなってしまう。
 ただ、元々の身体能力は向上し、これまでの様に病気に悩むことはなくなる。
「つまり、病弱な体とは別れを告げ、全く別の人生を歩むことになるの」
 とはいえ、いいことばかりでもない。
 体の成長も止まってしまう為、身長やお胸は現状で止まってしまうというデメリットもあるのだ。
 一方で、年を取ることはなくなり、ずーっとお姉ちゃん達と一緒になれるとエリザベートは吸血鬼化について丁寧に説明する。
「エミーリエちゃんはどうしたいですか?」
 改めて、そう問いかけるエリザベート。
 ――そんなの、とっくに決まっている。
 エミーリエは迷いなく、二つ返事で答える。
「私を……、お姉ちゃんと同じ吸血鬼にしてください」
「本当によろしいのですね?」
 そんな彼女に、ユーリエが問い返す。
「えっと……」
 小さくこくりと頷いたエミーリエは少しだけその後の言葉を言いよどみ、ちょっとだけもじもじしながら言葉を続ける。
「あの寝ている時。ユーリエお姉ちゃんとエリさんの夜の営み……こほん、声が聞こえてきちゃったので」
「き、聞こえてたの……!?」
 妹に自分達の行為が知られていたことにユーリエは驚き、顔を赤くしてしまう。
「あらあら」
「だから、私も実は吸血鬼に興味があったり……?」
 エリザベートはそんな微笑ましいエミーリエの頭を優しく撫でる。やはり姉妹だなと思いながら。
 そして、その決意を改めて首肯で確認し、エリザベートはそっと彼女の首筋に……。
 もう、普通の人間に戻れない。
 でも……。
 寝たきりの生活とは無縁になれるし、外を走り回ることだってできる。
 いっぱい笑って、はしゃいで。普通の女の子として遊ぶことができる。
 煩わしさしかない病弱な体と決別できることも嬉しくはあるが、エミーリエにとっては何よりも、大好きなお姉ちゃんと一緒の存在になれることがこの上なく嬉しい。
 ――お姉ちゃんと一緒。それだけで私は……。

 エリザベートがゆっくりとエミーリエから離れる。
 吸血鬼となったエミーリエは姉と同じく銀色の髪となり、毛先も2人と同じようにほのかに赤く染まる。
 無事、彼女を吸血鬼にする儀式が終了したのだった。


 先に指摘されていた通り元気になったエミーリエは、外で駆け回ることができるようになった。
 彼女はこれまで動くことができなかった分を取り返すかのように、活発に混沌という世界を少しずつ見て回っている。
「世界って、こんなに煌めいて見えるんだ」
 ベッドの上、病室の窓から見えていた絵画にも思えるような、いつも同じ光景とは違う。
 全てが自分の思わぬように動く。それがとても刺激的で、エミーリエにとっては何もかもが楽しい。
 元居た世界をもう見ることはできないけれど、その分、この無辜なる混沌の世界を自分の瞳に映し出すことができる。
 ありのままの世界はあまりにも鮮やかでとても眩しく、思わず腕で視界を遮ってしまう。
「世界が眩しく見えるのは、吸血鬼になったせいかのかな」
 それでもかまわない。だって、吸血鬼にならなかったら、こうした世界を見る事すらできなかったのだから。
 そんな世界に刺激を受けるエミーリエに、ユーリエとエリザベートは目を細めるのである。

 そして……。
 血の繋がりを持った3人は、その日から一緒のベッドで眠って。
 3人で身を寄せ合い、互いのぬくもりを感じ合う。
「おいで、エミーリエ」
「うん……、ユーリエおねえちゃん」
 ユーリエはエリザベートから教わったそれを、今度は妹へと教えてあげる。
「どう、エミーリエ」
「気持ちいい……」
 肌と肌を重ねる感触がこんなに心地の良いものなんて。
 それを今度は直に知るエミーリエ。
「それじゃ、今度は私が……」
「あ、うん、くすぐったいよ。エリお姉ちゃん」
「これからたくさん教えてあげますね」
 すっかり、エミーリエとエリザベートの距離も縮まって。
 彼女は大切な姉の恋人であるエリザベートもまた、姉と呼ぶようになっていた。
「2人とも、ずるい。こんな気持ちいいこと、2人だけでしてたなんて」
「これからは、エミーリエも一緒だよ」
「ふふ、もっと楽しみましょう」
 ユーリエとエリザベートがまた、エミーリエを求める。
 それは、とても満たされた幸せな時間。
 もう彼女達が離れることはない。

 目覚めるのだって、3人一緒だ。
「……おはよう。ユーリエお姉ちゃん、エリお姉ちゃん」
「おはよう、エミーリエちゃん」
 吸血鬼は朝が弱い。
 元来、吸血鬼であるエリザベートはもちろんのこと、同じ吸血鬼になったエミーリエもまた、元気に見えてボーっとしているように見えた。
 そして、ユーリエも虚ろな視線で2人を見上げて。
「おはよう、ユーリエ」
「……うん、おはよう」
 まだ、眠たい様子だが、2人が起きているならとユーリエも身を起こして目をこする。
 何でもない日常だけど、笑って平和に過ごすことができる。
 この日常は、何年も何十年も何百年もその先もずっと続いていく。
 不幸な記憶はこれから全て、幸せに塗り替えていくのだ。
 そこに、エミーリエがギフトを使う必要なんてない。
 だって、こんなにも、3人は幸せなのだから。
(この幸せな時間を、3人で一緒に守っていこう)
 えりちゃんとエミーリエと、私で。
 少しずつはっきりとしてきた頭で、ユーリエは心に決める。
 「「「ふわああぁぁ……」」」
 そこで、3人一緒に欠伸をしてしまい、誰からともなく笑い合う。
 今はまだ、吸血鬼には早すぎる時間。
 微笑み合う3人はまたベッドの上に横になり、再び身を寄せ合って瞳を閉じる。
 ……もう少しだけ、おやすみなさい。

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