PandoraPartyProject

SS詳細

神がかりな日

登場人物一覧

クランベル・リーン(p3p001350)
悪戯なメイド
秋田 瑞穂(p3p005420)
田の神
ソア(p3p007025)
無尽虎爪

●俺らが村に神様さ来ただ

 鉄帝という国は、その大部分が気候の厳しい大陸北部に位置している。土地は痩せ、気温は低く、霜や雪の被害は免れない。
 それでも、そこに人は生きている。実りの少ない大地であろうと、種を蒔き、家畜を飼い、日々の糧を得ようとしている。
 そんな、鉄帝ではよくある村の一つ。そこは今日は麦蒔きの日であった。
 日が顔を出してすぐに村人たちは作業の準備を終えて畑に繰り出す。毎年変わらない光景。
 だが、今日ばかりはいつもどおりと言えない出来事が、一つ。
 その時のことを、いかな言葉で言い表し、しかしそれでも語り尽くせないと村人たちは語るが、一つだけ。彼らが共通して述べることにして曰く、”その日、神と出会った”と。

「ふーはっはっはっは!寂れた農村に神の手助け!瑞穂様の参上じゃー!」
「瑞穂ちゃん、村人さんたちの目の前で寂れたとか言っちゃうのどうかと思うよ」
「自分に様付けするのもどうかと思う」
「せっかく人がテンション上げてるときに冷静に突っ込んでくるのやめぃ!?」

 そんでもって、次いで多く語られるとこに曰く、”ちょっと可哀想な子が来たなと思った”と。

●瑞穂様のスーパー信者獲得キャンペーン
 さて、神様御一行様もとい、 『田の神』秋田 瑞穂(p3p005420)、 『トラージャーハンター』ソア(p3p007025) 、 『忘失の過去』クランベル・リーン(p3p001350)のなかよしフレンズ三人娘が何故この村にやってきたのか。話は数日前に遡る。

 ほわんほわんほわんみずみず~(回想に入る音)

『ねぇ、今の音なに?』
『何を言うておるんじゃソアは』
『何も聞こえなかったよー?』
『いやほら。ほわんほわんなんちゃらって』
『そんなことより!じゃ』
『そんなことって……』
『どうしたの、瑞穂ちゃん?』
『信者とか、欲しい……欲しくないかの?』
『わたしは別にほしくないかなー』
『ボクも別に』
『さよか。わしは欲しいのじゃ』
『うん、まぁこの流れで瑞穂もいらないって言い出したら困ったけども』
『つーわけでな?こう、ここいらで信者をガッ、と集めたいなーと思ったわけじゃ』
『思っちゃったんだー』
『それは良いけど、信者とかそんな簡単に集めれれるものなのか?』
『くっくっく、我に秘策あり、じゃ!』

 以上、回想終わり。
 その後瑞穂の指示で旅準備を整えると、三人仲良く鉄帝のこの村まで訪れたというわけだ。
 場面は戻り、三人娘と村人たちの邂逅シーン。その出会いの奇跡に動く感情(ほぼ困惑)を隠せない村人たちを前に、瑞穂たちはマイペースに会話を続けている。

「ねぇ、やっぱりあの時変な音してたって!」
「なんじゃ、まだ言っとったのか。というか、何故このタイミングで蒸し返した」
「いや、言うなら今かなって気がして」
「何いっとんじゃ」
「んー、変なソアちゃんだね?」
「へ、変だったか?」

 クランベルに言われがーんってなるソア。無邪気っぽく言われるほうがショックな言葉ってありますよね。

「そんなことより、じゃ」
「そんなことって!」
「見ればまさに麦蒔きを始めるときと見た!ベストタイミング、というやつじゃ!どぉれ、そこな村人たちよ、麦を蒔く前にわしを一拝みするが良い。さすればこれから1年の豊作は約束されたも同然じゃ!なぜなら!何を隠そうわしは豊穣の神であるからしてな!」

 ばーん!みたいな効果音を伴いながら、瑞穂は村人たちに向けて高らかに告げる。
 それを聞いた村人たちはざわざわし始めた。ざわざわ。

「くっくっく、わしの力に恐れおののいているようじゃのー」
「そうかなぁ?」
「というか、こないだ言ってた秘策ってそれのことだったんだなー」
「おん?言っとらんかったか?」
「「聞いてない」」

 ちなみに、瑞穂の秘策、豊穣の御利益で農村の進行をゲットだぜ作戦について、ソアとクランベルは旅路の途中で聴く事になっていたのだが、ちょっとした旅行気分になっていた三人娘はきゃいきゃいとガールズなトークで盛り上がったりゲームに興じたりなどしていたため、すっかり忘れられていた。
 誰が悪いというわけでもない、強いて言うなら旅という非日常の空気が彼女たちにそうさせてしまったのだろう。

「まぁとにかくじゃ。わしの御利益があれば豊作は確実。信者のハートもパツイチじゃて」
「うまくいくもんかなぁ?」
「でも確かに瑞穂ちゃんの御利益、すごいもんねー」
「じゃろう、じゃろう!此処でもわしの力をな、どーんとな!」

 そんなこんな、盛り上がっている三人娘たちのもとに一人の男が近づいてくる。がっしりした体躯に日焼けした肌。神には白髪が混じり始めているが、老いの一切感じられないしっかりした足取りはまだまだ働き盛りであることを伺わせる。おそらくは、彼が麦蒔きに駆り出されている人員たちのリーダー的な立ち位置で、代表として話をしにやってきたのだろう。

「なぁ……」
「お、なんじゃなんじゃ?お主が第一信者かの?今なら大特価さーびす中でな、拝観料は無料で良いぞ。まぁ麦蒔きが終わったらわしへの信心の顕れとして社をな。まぁまぁ、どーんとでっかいの、なんて贅沢は言わんぞ。こういうのは気持ちが大事じゃからな、こじんまりしててもきちんと手入れしてくれれば満足じゃ。しかしやはりわしとしては朱塗りの鳥居は……」
「いやめっちゃ喋るな!?じゃなくてな、あー、まぁ。なんだ」
「うむ!!!」
「焼き菓子やるから遊ぶなら向こうでな、お嬢ちゃん」
「なんでじゃーーーー!?!!?」

 そう告げた男の目は優しくもどこか生ぬるかったという。

●信頼というのはこの世で最も価値のある宝らしいです
「理由を述べるのじゃ」
「理由と言われても……」
「今しがたの対応の理由をじゃ!神ぞ?わし、豊穣の神ぞ?!」

 その男は困っていた。何が困るかと言えば秋、冬に備えて麦を蒔かなければならないのに、いざ畑に来てみれば、なんか見知らぬ少女三人組が和気あいあいを歓談していた。かと思えばこちらを見るなり自分を崇めろやら、神であるとかのたまう。
 それらを勘案して、対応の理由を述べろと言われば。

「正直関わりたくないので遠くに行っていて欲しかった」
「ド正直かお主!?」

 ぎゃーわー騒いでいる瑞穂。実際のところ、真正面から自分は神だから信仰しろと言ってハイそうですかと信者になってくれる人間は、居ないとは言わないが極端に珍しい部類だろう。信者になると言う側の人間も詐欺師の可能性があるから注意しよう。この世の仕組みは実在する神に厳しいのだ。
 閑話休題。開幕からブースト入ったハイテンションに真正面からカウンターで返されて頭に血が上っている瑞穂はとても冷静な判断ができる状態ではないだろう。このままでは村の隅っこで膝を抱えて焼き菓子齧った後リターンホームすることになるのは免れない。
 しかし、こんなとき彼女には助け舟を出してくれる頼もしい仲間がいる。そう、何よりも固い絆で結ばれたフレンズが。

「まぁまぁ、瑞穂ちゃん。ちょっと落ち着こうよー」
「む、クランベル。しかしのー、この男がのー」
「落ち着けってー。信者になってもらいに来たのに喧嘩腰でどうすんだよ」
「む、むむ……」

 そう言われてしまえば、ひとまず大人しくなるしか無い瑞穂である。怒涛の如き言葉が止んで、村人の男も心なしホッとした顔だ。

「うむ、話はまとまったようだな。では、俺は仕事があるから」

 男はそう言ってスタスタとその場を去る。

「待って待ってー、お話だけでも聞いてくれないかな?」
「そうだぜ、言い方は胡散臭いのお手本って感じだったけどこ瑞穂の豊穣の御利益は本物だからな」

 去れなかった、胡散臭いとはなんだとぶーたれる瑞穂はさておいて、こっちの二人はストッパーなのだろうと思っていたが、どうやらこの二人も向こう側だったようだ。
 男は天を仰ぐ。この世に神は居ないのか。居たわ。目の前に。自称だけど。
 どうやら神は頼れそうにない。ならば男は自分で目の前の現実に対応せねばならぬと、意を決して少女たちに向き直る。

「あー、そういう遊びに夢中になるのは、うん、君たちくらいの年齢ならよくあることだろう。俺の息子も漆黒竜王の生まれ変わりらしいしな。だけどな、うん。遊ぶのは良いが、人の迷惑になるようなことはな……」
「やばい、優しい目でガチの説教もらうと心が痛い」
「な、何も悪いことしてないはずなのにごめんなさいしないといけないきもちになってくるね……」
「えぇい、何を怯んでいるのじゃ!!!」

 二人が劣勢になっていると見て今度は瑞穂が加勢。なぜならみんなはフレンズだから。一人はみんなのために、みんなは一人のために。

「むぅ、また君か」
「瑞穂ちゃん、話がややこしくなるから」
「そうだぜ、ちょっと待っててくれ」
「あっれぇ?!何故に四面楚歌!?」

 相手は3人なので三面楚歌か。急なフレンズの裏切りに瑞穂はおののくが、このくらいで怯むくらいならこんなところまで信者を作りに来ては居ない。目指せ信者(フレンズ)100万人。

「えぇい、とにかくじゃ!このまま言い合っていても平行線、日が暮れてしまうわ!!」
「あぁ、それは困る。だから、君たちは……」
「どこにも行かん。これがこちらの譲れない一線じゃ。しかし、このまま無為に時間を消費するのも本意ではない」
「では、どうすると?」
「証拠じゃ。証拠を見せてやろう。わしが神であるという証拠をな。そうすればお主たちも聴く気になるじゃろう?」
「そう、だな・いや……そうか?……しかし、証拠というのは?」
「くっくっく。蒔いてやろうというのじゃ!このわしが、手ずからに麦をなぁ!!!!!」

●労働とは尊いものです
「仕事を手伝ってくれるなら、最初に言ってくれればいいのにな」
「ボクもそう思う」
「私もー」
「んー?なにか言ったかの?」

 さて、麦蒔きである。読んで字の如く、麦を畑に蒔く作業、要するに種まきだ。なにも難しいことではない。なにせ、麦は強い植物だ。適当に蒔いただけでも、芽を出し、育つ。しかしながら、種籾の量は有限で、畑の範囲は広大だ。ここに効率よく麦を蒔くのは、それなりにコツが必要だ。
 その点、瑞穂は見事であった。

「ふはははは、見るが良い!これがわしの力じゃー!」

 そんな笑い声だかを上げて畑の合間を駆け巡り、肩に掛けた袋に手を突っ込んではばっさばっさと麦を蒔く。どう見ても適当なのに、瑞穂が走った後には測ったように均等に麦が蒔かれているのだ。

「あながち神っていうのも嘘じゃないのかもしれんな」
「そこで納得するんだね」
「実際神業だしな。神業って言えば、あっちもだが」
「あー、ソアちゃんもすごいよねー」

 そう言いながら視線を別のところに向ければ、ソアがいくつもの農具を抱えて歩いているところだった。

「おーい、これはこっちにおいておけば良いのか?」
「おぉ、全部そっちに並べといてくれ!いやぁ、すげぇなぁ嬢ちゃん。村一番の大男よりもよっぽど力持ちだぜ」
「あはは、このくらい軽いもんだぜ!」

 虎の精霊であるソアは、常人の何杯もの腕力を持ち、そしてとても人懐こい。その性質から、いつの間にやら力仕事の中心となっていたようだ。

「ふたりともすごいなぁ」
「嬢ちゃん、クランベルだったか。あんたは普通だったもんなぁ」
「むぅ」

 クランベルはソアのような力はない。むしろ非力な部類である。瑞穂のように農作業に精通しているわけでもない。
 他の村人と同じように、ごく普通と言える範囲で手伝いをしていたのであった。

「まぁ出来る範囲でやるのが一番さ。っと、そろそろ休憩の時間だな。みんなの分の弁当を運んできてくれないか。数が多くて悪いんだが」
「わかった、それなら得意だよ!」

 そう言ってクランベルは村の女衆が飯炊きをしているというところへと掛けていった。男は、弁当を運ぶのに得意も何もあるのかと首を傾げながらも、作業中のものに向かって休憩の時間だと知らせる。

「弁当運ぶのに時間かかるだろうからその間に手とか洗っとけよ」
「お弁当持ってきたよ!!」
「早いな!?」

 背後から聞こえたクランベルの声に流石に冗談だろうと振り向いた男は目を見開く。
 クランベルの言葉通り、全員分の弁当が運び終わっているではないか。

「これ、本当に一人で運んだのか?」
「もちろん。言ったでしょ、得意だって!」
「はぁ、やっぱ嬢ちゃんも神様の友達なんだなぁ」

●宴もたけなわ
「わっはっはっは!どうじゃ、わかったかわしの凄さが!」
「あぁ、マジで凄かったな!」
「お前さん、一流の農家だったんだな!」
「神じゃい!!!」

「誰だよ、瑞穂にお酒飲ませたの」
「酒なんて用意してないが」
「でもどう見ても酔っ払ってるよね?」
「雰囲気酔ってやつか?」

 さておき、瑞穂を筆頭に三人娘は作業を通して村人たちとかなり打ち解けていた。なんだかんだ、三人娘はみんあ人の役に立とうと頑張っていたこともある。

「ふっふっふ。こうまでなれば、もはやわしを信仰することに否はあるまい!祈りを捧げるのじゃー!」
「あはは、神様に乾杯だー!」
「乾杯ー!!」

 ごっごっごっごっごっご。ぷはー。

「「「麦茶だこれ!!!!」」」
「最初から麦茶だろうが」

さて、此処は鉄帝である。何を今更と言うかもしれないが。テンションの上がって鉄帝人がやることは、大体決まっている。どういうことかと言えば。

「よーし、力比べすんぞー!!!地面に円を描け、そこから投げ出されたら負けだぞ!!」
「「よっしゃぁーーー!!!」」

 まぁこういうことだ。

「おい、お前ら。やりすぎんなよ。午後の作業に響く」
「「わかってらい!」」
「ほんとかね……」
「言いつつ、止めないんじゃな」
「まぁ、野暮だろ」
「ふふん、そういうものか。しかし、良いのう、あれはまるきり相撲じゃ。神前奉納ってやつじゃの」
「みんなー、がんばれー!」

 唐突に始まった相撲大会。瑞穂とクランベルは応援モードだ。
 だが一人、うずうすとしている娘が居た。誰かって言えば、ソアだ。

「よーし、ボクも混ざってくる!!」
「あ、おい」
「ボクを倒せるものはいるかー!?」
「あーぁ、マジで突っ込んでいったよ」
「ふむ、なんかまずかったかの?」
「まずいってことはないが……」

 即席の土俵を眺める。さっきまでは一対一で尋常な勝負をしていたのだが、ソアが乱入した途端数人が入り乱れる混戦と化していた。なお大半はソアにぶん投げられている。

「一人勝ちだろ、あの娘の」
「はっはっは、ソアは強いからのー」
「笑ってる場合かよ」
「彼奴等も笑っておるぞ?」
「まぁ……それならいいが」

 その日の出来事は、その村にとって忘れられない一日であった。
 それを記念して、村では後日、伝説の50人抜きを達成した虎の神像が祀られた社が作られたという……。

「思ってたのと違うんじゃが!!???」

 ちゃんと瑞穂の信者にカウントされたそうです。

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