PandoraPartyProject

SS詳細

今日のバグは明日の不具合

登場人物一覧

シャドウウォーカー(p3x000366)
不可視の狩人
シャドウウォーカーの関係者
→ イラスト

 如何に完璧に再現しても、発生するものはしてしまう。
 潰せども潰せども、1個見かけりゃ複数あると思え……と言われるもので。
 まさに、今日のバグは明日の不具合。さっさと潰してエリアを開放しよう。

 これはアクションゲーム「サイコウォーズ」を再現した結果、大量発生したバグ事件の一端のお話。
 わらわらうじゃうじゃ、バグと不具合と、あとなんかその辺りのモンスターを適度に倒すシャドウウォーカーとギャラクシーインベーダーの戦いの一幕。


●突然ですが不具合です
「う……わぁ……」
「すっごい……え、これ、本当に再現したもの?」

 目の前に広がる光景に、シャドウウォーカーとギャラクシーインベーダーが驚き混じりの感動の声を上げていた。
 2人の元となったゲーム「サイコウォーズ」のバトルフィールドの1つ、学園エリア。そこが完全にR.O.O.内で忠実に再現されており、2人は本物と見間違うほどの精巧さに逐一感激していた。

 学生達を導く形で道に沿うように、綺麗に並べ揃えられたいくつもの桜の木。
 学園のシンボルとも言える、始業と終業を告げる鐘を鳴らすための時計台。
 運動場も広く、全校生徒が並ぶほどの大きさを誇っている。

 これだけ完全な再現をするにはリソースも膨大な量が必要になるだろう。
 だが、R.O.O.の技術力は最高に完璧なのでその辺は全く心配はいらず、ただただ楽しめと言わんばかりに学園エリアは存在していた。

「凄いよね、外見の再現率だけでも完成度高くない?」
「うーん、すごい。わかる」

 2人がしみじみとしながら学園エリア周囲を歩いていると、NPCのセリフがちらほら見える。
 登校中の学生に始まり、見回りの教師や掃除をしている用務員などなど、彼らは背景として描かれるだけではなくちゃんとしたNPCとして存在しているようだ。

「あ、ほら、あそこの校門にいる先生NPC。いつも朝が背景だと立ってるあの人」
「あー、いたわね。本当に何もないモブだけど、セリフだけはあるから覚えてるわよ」
「用務員のNPCも毎回ゴミ掃除してるけど、意外と雑魚敵に囲まれても生き残るぐらい強いんだよね」
「そうそう。ヤバいの出た時とかはヘイトをそっちに向けたりもされてたわねぇ」

 和気藹々とした様子で学園エリアを進む2人。懐かしさもあれば、苦労話もあるそんな学園エリアだが、現在起こっている事件のせいで大変なことになっている……というのが今回2人が受けたクエスト。
 その名も「繝舌げ縺ァ繧ケ」。クエスト名さえもバグっててよくわからないが、新たに誕生した学園エリアに発生したバグだけを倒してくれ、という内容だった。

 ただ、バグだけを倒してくれと言われたのは良いが、シャドウウォーカーもギャラクシーインベーダーも頭を悩ませていた。
 何故なら、学園エリアはほぼ全てと言っていいほどにバグが蔓延していて、どこから手を付けたら良いのかわからないのだ。

「どこから行けばいいんだろうね?」
「うーん、まあ潰せるところから潰して、少しずつ解放していけばいいんじゃない?」
「それもそうか」

 ギャラクシーインベーダーの言葉に納得したシャドウウォーカーは早速とツインダガーを構え、突き進む。
 同じようにギャラクシーインベーダーもレーザーガンを構えて、シャドウウォーカーを追いかけながら学園エリアを突き進んでいった。


●突然ですがバグモンスターです
 ――学園エリア、校門付近にて。

「うわ、わわ!?」

 校門付近には学生達の道を指し示すかのようにたくさんの桜の木が植えられている。
 これまでの卒業生が植えたとか、学校記念日だとかで植えられたものが様々あるのだが、今やそれらもバグってモンスター化していた。
 土の中から這いずり出た桜の木は根っこを足として器用に動かし、まるで虫が這うような動きで前へと進む。あとはバグっていないNPCや討伐に来ているPC達をなぎ倒せば勝ちだと言わんばかりに、腕とも呼べる枝をぶん回していた。

 このままではバグ桜の影響が学園エリアを中心に広がり、他の場所まで侵食されてしまうかもしれない。
 どうしてもそうなることを避けたいシャドウウォーカーとギャラクシーインベーダーは武器を片手に、バグ桜の群れへと突っ込んだ。

「それっ!」

 ギャラクシーインベーダーのレーザーガンは桜の根っこを的確に撃ち抜き、その場に足止め。直後に装填したレーザー数発で幹を貫いて、バグ桜を黙らせてゆく。
 1本、2本と倒されていく桜の木。倒すことでバグが沈静化するようで、消滅とともに元の場所へと戻っていくのが伺えた。

 だが桜の木は彼女が止めた木だけではない。
 広大な学園エリアの中には学園を埋め尽くすほどの桜の木が存在しており、それらは全部バグ桜となって校門へと集まりつつあった。
 このバグ状態を直しに来たシャドウウォーカーとギャラクシーインベーダー、その2人を倒すために。

「ちょっ、ちょ、なんでこんなにー!?」
「もしかしたら全部の桜の木が集まってるのかも……ねっ!!」

 シャドウウォーカーもツインダガーを駆使して桜の木の幹に傷をつけ、少しずつ桜の木へダメージを蓄積させていく。
 刃渡りの長さもあって相性の悪い相手ではあるが、身軽に動ける分桜の木には彼女の攻撃だけが当たっているため、シャドウウォーカー自身のHPは減っていない。
 ギャラクシーインベーダーのレーザーガンによって足止めもしてくれるためか、ツインダガーの切っ先が桜の木を抉るのは容易かった。

 べちんべちんと地面を叩き、駄々っ子のような動きでシャドウウォーカーとギャラクシーインベーダーの動きを阻害してくるバグ桜。
 突然意志を持ち、走ることが出来るようになったバグ桜にとって今回の件は学園内で色々と楽しめるはずだったのに、シャドウウォーカーの一撃でまさに「身を削る」思いをしていた。

「そっちに行ったから気をつけて」
「りょーかい!」

 可憐に、軽やかに。
 バグ桜達を倒した衝撃で飛び散る花びらが舞う中で、2人の戦士が空を舞う。
 その光景はいろんなNPC達にも見えているようで、このエリアの救世主だとか、彼女達を応援する声援等いろいろな声が彼女達に届けられていた。


●突然ですがバグった挙動発生です
「な、何体ぐらい出た……?」
「多分、50はいた……の、かな? 多分……」

 バグ桜の群れを討伐し終え、なんとか学園の外観を守ることに成功したシャドウウォーカーとギャラクシーインベーダー。
 凄惨な現場……というほどではないが、校門付近に飛び散っている桜の花びらの山がその場所で起こった出来事を思い起こさせる。

「あと何処のバグを直せばいいんだろう。……ワタシの体力、持つかな」
「まだまだバグはたくさんあるみたい。だってほら、クエスト受注の欄」
「……うひゃあ……」

 シャドウウォーカーに促されて、ギャラクシーインベーダーが受注したクエストを確認するための一覧表を見てみれば……今回受けたクエストは敵モブの撃破欄が多い。
 先程のバグ桜討伐は既に終わっているためチェック済みのマークが付いているが、それ以外にもバグった銀次郎像の討伐だったり、時計塔の悪魔(仮)の討伐だったり、バグった教師陣の討伐も含まれているようだ。

 この学園エリアはとても広い。
 回り方を考えないとタイムロスが生じて時間切れにもなってしまう可能性があるため、2人は校舎を先に終わらせて時計塔を最後に終わらせようという話で締結させた。

「なんか時計塔って大ボスいそうだし、時計塔の悪魔(仮)ってのが気になるし……」
「そうね、その方が良さそう。時計塔は学園エリアの端にあるし、距離的には校舎内が優先になるわね」
「それじゃあ、一気に進もう」

 校門をくぐり抜けたシャドウウォーカーとギャラクシーインベーダーはまず、校舎内に存在するバグった教師陣を倒すことにした。
 その間に学生達の自転車や教師達の自動車等が敵モブとして存在するようになっていたが、これらは撃破数には含まれていないので、道を阻むモノだけを討伐して軽くあしらっておいた。


 校舎内のバグ教師陣討伐、広場付近の銀次郎像討伐。
 それらを済ませたシャドウウォーカーとギャラクシーインベーダーは時計塔へと走る。

「それにしてもバグった挙動が多いよね。ついてきてる?」
「大丈夫、そっちの場所はスキルで探知済みよ! 先走りすぎないでね!」

 バグ挙動のせいかNPCの立ち位置だったり敵モブの立ち位置だったりが入れ替わる様子が見て取れる。
 出来るだけ2人はお互いの位置を把握しつつ時計塔を目指していくが、時計塔に近づけば近づくほどに風が強くなってきた。
 まさに近づくなと言わんばかりに吹き荒れる風。しかしそのおかげで、最後のボスらしき存在がいると理解は出来ていた。

 もうすぐ時計塔というところで、ふとギャラクシーインベーダーは違和感を感じ取った。
 スキル・ワイドレーダーによる感知は特に何にも反応はなく、また時計塔本体に違和感があるというわけではない。
 むしろ、時計塔の周辺にスキルでは感知できない何かの力が働いているような……そんな気がしてならなかったのだ。

「どうしたの?」
「ちょっと、変な感じがしたのよ。一旦進むのはやめたほうが――」

 やめたほうが良さそうだ、と声をかけたその瞬間、2人の周囲を一陣の風が吹きすさぶ。
 木の葉や砂と共にシャドウウォーカーとギャラクシーインベーダーの身体も浮きそうになるほどの強い風は、やがて向きを変えて地面から空へと向けられる。

 突如向きの変わった風に慌ててしまった2人。
 何が起こっているのか周囲を確認したくても、砂と木の葉とその他ゴミが上空に巻き上げられるせいで、視覚情報がそれらで埋め尽くされてしまう。

「何だこの風ーー!?」
「わっ、ちょっ、痛い痛い!? 砂とかが当たるー!!」

 普段であればそれらの一撃を受けたところで大きな痛手は負うことはない。
 だが、ここはバグったエリアで、バグってる挙動が発生中。そんな場所で起こした風は2人の衣服をずたずたに引き裂くまでのダメージを負わせていた。

「あっ、ちょっ、ダメダメダメ!」
「ああーー!! 私の服がとんでもないことに!!」

 小さな切り傷は服を引き裂き、やがて大きな穴となって……艷やかで麗しい身体を露出してゆく。
 ちょっとえっちな状態になり始めた2人のために、そっとR.O.O.側からモザイクが提供される。それぐらい、現在とてもたいへんなことになっていた……。


●こんにちは! バグったボスです!
「な、なんとか修復出来た……の、かな?」

 ボロボロにされた衣服が元通りになるまでHP回復を続け、時計塔に到着するまでになんとかえっちな展開を防いだ2人。
 残されたクエストの撃破欄は時計塔の悪魔(仮)だけなので、丁寧に丁寧に、破れた衣服を修復してからボス戦に望むこととなった。

 時計塔は校舎と同程度の高さの建築物。内部は簡単に入ることが出来、登ることで絶景を眺めることが出来るスポットとしてゲーム内では有名だった。
 しかし今やバグった時計塔から見える光景といったらエラーウィンドウの弾幕ぐらい。話とは程遠い光景が映し出されていた。

「さぁて、この塔の何処かにボスがいるのよね?」
「そうだね。頂上にいるのが筋だろうし、急いで登っていこう。スキルの準備は?」
「もちろん、準備OK。一気に行くよ!」

 ギャラクシーインベーダーのスキル・ワイドレーダーが再び発動。何処に隠れていようとも、確実に捉える事が出来るこのスキルで時計塔の悪魔(仮)を探し出す。

 頂上で待ち構えていた悪魔(仮)は時計を持った異形となっており、時を操ることで己の姿を隠しながらバグの発生と増殖を促し、学園エリアを支配していたようだ。
 だが姿を隠す力はギャラクシーインベーダーのワイドレーダーによって捕捉され、問答無用でシャドウウォーカーのツインダガーの一撃を食らった。

「結構、HP多そうだね」
「うまく立ち回らないと逆にやられそうね。近距離で一気に片付けましょう!」

 ギャラクシーインベーダーは瞬時に装備を入れ替え、プラネットボムを併用したレーザーブレードによる近接攻撃型へと変化し、悪魔(仮)へと斬りかかる。
 足元にぽろぽろとボムを落としては、近づいてきた悪魔(仮)を爆破して斬りつけるという簡単お手軽なコンボを叩き込む。

 一方でシャドウウォーカーはスキル・エレキダガーを使い、悪魔(仮)に対して高圧電流を流して動きを止めていく。
 ギャラクシーインベーダーのプラネットボムは起爆に少々時間がかかる上にダメージ量が心もとないため、しっかりとダメージを与えられるように悪魔(仮)の防御抵抗を削りに削りまくった。

「うん、効いてるね。あとは何度か攻撃を叩き込めばいける」
「オッケー! 自分のHPには気をつけてね!」

 繰り返される爆撃と斬撃の嵐。
 一見すれば『時計塔ぶっ壊れない?』と思われる連続攻撃は悪魔(仮)が身動きする暇を与えない。
 しかしボス敵の意地があるのか、悪魔(仮)はダメージを受け続ける中で持っていた時計の針をくるくると回し始める。

 すると、一瞬のうちに悪魔(仮)の受けていたダメージが無くなる。
 否、無くなるというよりは、時を巻き戻されたという方が正しいだろう。

「そ、そんなのアリ!?」
「むむむ……。それなら、時を巻き戻すより早く、攻撃を与えよう」
「それしかないよねぇ。いいよ、どうせボムは無限だしね!」

 ギャラクシーインベーダーの無限に溢れるボムと、シャドウウォーカーの高圧電流。
 両者を駆使して悪魔(仮)の時を、無理矢理に進めていく……。


●やってみたいよね、やっぱり。

 ――Quest Clear!
 ――『学園エリア』が開放されました。

「お、終わった……」

 時計塔の悪魔(仮)を何とか倒したシャドウウォーカーとギャラクシーインベーダー。ボス敵というだけあって時間はかかったが、なんとか倒すことに成功。
 その証拠に、先程までエラーウィンドウで埋め尽くされていた時計塔の外が開放され、美しい学園エリアを見下ろすことが出来るようになっていた。

「これで一件落着だし……一旦、時計塔から降りようか」
「そうね。この光景を眺めていたい気もするけど……」

 ゆっくりともと来た道を歩き、地上へと下りていく2人。
 まだ雑魚敵は残されていたが……バグの原因を潰していったおかげか、可愛らしい形の弱い敵だけが時計塔の中を歩いていた。

 やがて地上に下りた時、2人の前に広がるのはバグのない学園エリアの光景。
 自転車も自動車も桜の木も銀次郎像も敵として出て来ない、教師と生徒が織りなす日常の一コマが再現されていた。

 2人の中には大きな達成感が残されている。
 この学園エリアを救出することが出来たという、大きな達成感が。

「……でも……」

 ちらりと、ギャラクシーインベーダーの視線がシャドウウォーカーへと移る。
 達成感とはまた別で、彼女の中には別の感情がゆっくりと表面へと出てこようとしている。

 再現されたサイコウォーズというゲームにある『学園エリア』。
 シャドウウォーカーもギャラクシーインベーダーも、元はと言えばそのゲーム出身のキャラクターでこの学園エリアで戦ったこともあった。

 ――ゲームで見た状況を完璧に再現できる場所が、今、揃っている。
 思わずギャラクシーインベーダーの喉がごくりと鳴った。

「ね、シャドウウォーカー」
「何?」
「せっかくだからさ、2人きりで1回やろっか!」

 ニコニコとした表情を崩さぬままに、ギャラクシーインベーダーはレーザーガンの銃口をシャドウウォーカーに向ける。
 この制圧クエストが終わったら、是非ともやりたかったんだ! と言わんばかりのキラキラした瞳で。

 一方でシャドウウォーカーは少々驚いていた。
 クエストが終わったらそのまま学園エリアを見て回るつもりでいたから、唐突に提案されるとは思っていなかった。
 でもそれもそれで、思い出として残せるのならいいのかなと考えを改めたシャドウウォーカー。ツインダガーの切っ先をギャラクシーインベーダーに向けると、同じように微笑み返して答えた。

「……面白いね。受けて立つよ」
「やったー!」
「でも普通に戦っても面白くないし、負けた方がアイスを奢るということで」
「うへっ!? ……俄然やる気が出てきたぞぅ!」

 負けたほうがアイスを奢るという条件付きのサイコウォーズの再現バトルは、お互いの同意を得たその瞬間に始まった。

 レーザーガンの銃弾が四方八方を飛び交い、ツインダガーの切っ先が相手の懐を切り裂いて。
 ばらまかれた爆弾が視界いっぱいの爆発を生み出したかと思えば、いつの間にか高圧電流が身体を支配している。

 伸るか反るかの大勝負、その勝敗については……ここでは語られることはない。
 ただ、2人は満足するまでに戦っていたという。

おまけSS『なお最後の勝負の一コマ』

 学園エリアで戦うシャドウウォーカーとギャラクシーインベーダーの2人。
 その戦いは激しさを増し、辺りのNPC達も避難したり応援したりと忙しいのだが……。

「なあ、なんであの2人、一定ダメージ受けたら服が破れているんだ??」
「さあ……? なんか勝手に破れてるよな……」
「あ、一応下はスク水なんだ。よかった」

 2人が持っているスキル・アーマーブレイクのことを知らないNPC達は皆揃って、2人の服の破け方について議論していた。
 あれをしたら破ける、これをしたら破ける、爆発に巻き込まれるだけではダメ、刃出来るだけでもダメ……などなど。
 HPが一定の数値になると服が大破するスキルというのはなかなかに珍しく、見物人が少しずつ増えていった。

 ……なおその後、爆風と高圧電流に巻き込まれたのでNPC達は皆、蜘蛛の子散らすように逃げていきましたとさ。

PAGETOPPAGEBOTTOM