PandoraPartyProject

SS詳細

冬のある日

登場人物一覧

透垣 政宗(p3p000156)
有色透明
津久見・弥恵(p3p005208)
薔薇の舞踏

 街路樹の雪を風がさらう。人々は寒空で怪獣のように息を吐く。ふと、楽しげな声が風に纏う。見つめれば、ウルフカットの初老の男と、赤色のショートヘアーの青年が腕を組んで歩いている。
「一年ってあっという間だね」
 青年が笑う。
「うん、そうだね」
 初老の男が幸せそうに目を細め、人の波に消えていった。

 華やかな声がターコイズのように聞こえる。津久見・弥恵(p3p005208)と透垣 政宗 (p3p000156)がマフラーを揺らし、にこにこと歩いている。二人はショッピングを楽しんでいるようだ。
「弥恵ちゃん。そういえば、この前出た新作のカフェモカって飲んだ?」
 手袋を擦りあわせ、手を温める政宗。
「ええ。勿論、飲みましたよ! 政宗君が教えてくれたその日に並んじゃいました!」
「ふふ、そうなんだね。カシスの風味がいいよね。僕も昨日、また、飲みに行っちゃったもん」
 内緒話をするように政宗がにっこり笑うと、弥恵は途端に目を丸くする。
「え~! いいなー、次は私も誘ってください!」
「うん! あっ、弥恵ちゃんとだったら隣にあるリヒトのケーキ屋さんにも寄ろうかな」
 すっとマフラーを巻き直し、政宗は弥恵を見つめる。
「よいですね! リヒトのケーキ、すんごく美味しいんですよね。特にピスタチオのタルトが!」
「そうそう、僕もピスタチオのタルト、よく頼んじゃう! でも、他のケーキも美味しそうなんだよねー!」
 美しいケーキを思い浮かべる。リヒトのケーキは繊細で上品な味がする。
「分かります、分かります! リヒトのケーキなら毎日でも食べれます! しかも、かなり、こだわってますよね。ケーキは上から下に切って、お食べくださいって必ず言われますもん」
「うん、僕も初めて言われた時は驚いたもん」
「ですよね!! あっ、そうですよ! 何種類も頼んじゃって二人でわけあいましょう! そうしたら、沢山食べれますから!」
「いいね。弥恵ちゃん、天才だね!」
「えへへ。あ、政宗君、見てください! あのワンちゃん可愛い!」
 漆黒に濡れた瞳を大きく開きながら、弥恵は政宗の肩に触れる。
「え? どこどこ?」
 政宗が楽しそうに目を細める。友達同士の会話はいつもこんな風に会話がコロコロ変わる。そして、いつだって楽しくて時間が足りなくなってしまうのだ。
「ほら、あそこですよ」と弥恵は笑う。
「えー? あ、いた! ようやく見つけた! あのボルゾイの子だよね?」
 柔らかな体毛、長い四肢は力強い。
「そうです。凛としながら時折、撫でてもらおうと鼻先を飼い主さんに……わっわっ、可愛いー!」
「そうだね。じゃれてて可愛いね」
 政宗はボルゾイを見つめ、恋人を無意識に想う。
「政宗君」
「え、なに?」
「今、誰のこと考えてました?」
 悪戯っぽい笑み。政宗は顔を熱くし、ふいと顔を背ける。
「べ、別にー! 誰のことも考えてないよ!」
 そう言いながらも政宗はどうして分かったんだろうと不思議がる。顔に出ていたのかな。政宗はちらちらと弥恵を見つめる。
「ふふふ。お二人はいつも、どう過ごしているのですか?」
 弥恵は微笑む。
「え? どうって……ええと……た、たまにご飯作りに行ったりお泊まりしたり、普通かな……」
「ご飯! いいなぁ、好きなものを作ってあげるんですか?」
「うん、そうだね……一応、前もって……練習したりして……美味しいって……言われたいし……美味しいものを食べさせてあげたいから……」
 無意識に小声になる政宗。
「きゃーー!! 素敵ー! 政宗君! にやにやが止まりません! はー、政宗君、愛が深いですね……いいなぁ!」
 楽しそうな弥恵。友人の恋愛話は大好きだ。もっと聞きたいと弥恵は質問を重ねる。
「お泊まりの時は一緒にお風呂に入ったりするんですか?」
「え、まぁ……」
 照れる政宗。興奮する弥恵。
「きゃーーー!!! あわわ!! 一緒に洗いっこしながら、どきどきし過ぎてのぼせたり、へっちなハプニングがあったりするんですよね! きっと! うわー!!! 楽しそうで羨ましいです!」
 大声に数人が振り返る。慌てる政宗。
「ちょ、弥恵ちゃん、興奮し過ぎじゃない? へっちハプニングって……弥恵ちゃんじゃないんだから……」
 政宗は恥ずかしそうに言い、ちょっとだけ考える。へっちなハプニング? いや、正直、起きてほしい。そうしたら、もっと──
「で、お姫様だっこで寝室に運ばれて……あ、政宗君、今、裸ですからね?」
「え、そうなの?」
 ハッとする。妄想の世界に浸るところだった。政宗はウキウキしている弥恵を見つめた。至極、饒舌かつ早口だ。
「ええ! そして、ベッドに寝かされるわけですよ。政宗君はのぼせて具合が悪いながら、どうなっちゃうんだろうって思うのですが……あ、どうなると思います?」
「あ、ここで聞いちゃうんだ。ええと……そのまま相手をぎゅっとして一緒に寝ちゃう?」
 言いながら、身体が熱くなる。マフラーも手袋も要らないくらいだ。
「ノンノン。それも最高ですが……まずは政宗君を置いて部屋を出ていってしまうんです。でも、すぐにお水を持ってきてくれて、飲ませてくれるんですよ!」
 嬉しそうに弥恵が叫んだ。
「おっ! 所謂、王道のやつだね。口移しかな?」
 弥恵の妄想に慣れてくる政宗。
「ええ」
 憧れなのだろうか。弥恵はうっとりとした表情を浮かべている。ふふと笑う政宗。誰を思い浮かべているのだろう。政宗は息を吐く。思えば、フードエリアから武器ストリートに続く道を歩いている。話に夢中になっていたようだ。人々は武器を眺め、商人と交渉したり談笑している。政宗は目を細める。一瞬でこの空間が好きになる。
「楽しそうですね」
 弥恵もそう思ったのだろう。すっと目を細め、呟く。仲が良い友達に起きるシンクロ。政宗は嬉しくてふふと笑ってしまう。
「うん。そういえばさ、弥恵ちゃんは恋人はいないの?」
 政宗は思ったことを口にする。
「なっ!? い、いませんよ!?」
 不意打ちだったのだろうか。弥恵は顔を真っ赤にさせつつ、媚薬の人を思い浮かべる。
「えー? そうなの? 弥恵ちゃん可愛いけど浮いた話聞かないなぁって……あ、もしかして僕に隠してる?」
「え! いえ……か、隠してるわけじゃ……本当にいないんですってば!」
「ふぅん? じゃあ、好きな人はいるんだね」
 政宗が悪戯っぽい笑みを浮かべる。弥恵の表情は解りやすい。
「え? い、いませんよ!?」
 目を見張り、弥恵は政宗を見る。その顔はどんどん赤くなっていく。
「えー、絶対いるよね? ねっねっ、どんな人? 僕が知ってる人?」
「あうあう……あっ、あれ可愛い……」
 弥恵は話を変えようとセール品と書かれたワゴンを何となく指差す。ちらりとキュートな星が見えた。政宗は目を丸くする。
「え? 可愛いけど……これ、星形の鞭だよ? 弥恵ちゃん、そういうの好きなの?」
「は、まさかっ!?」
 弥恵の動揺っぷりにくすくすと笑ってしまう。本当に可愛いなぁと思う。きっと、好きな人の前でも驚いたり恥ずかしがったり喜んだりするんだろうね。もし、その人が弥恵の気持ちに気が付いていたとしたらきっと、からかいたくて仕方なくなっちゃうのかなと政宗は思う。
「本当、弥恵ちゃんは表情豊かでいいよね」
 沢山の表情を弥恵は贈ってくれる。
「そ、そうですか……」
「うん、素敵だよ」
 政宗は笑い、何かに気がついたように弥恵の腕を引く。立ち止まる弥恵。どきりとする。目の前を足早に過ぎていく男。白色の帽子を目深に被り、真新しい杖を振り回しながら歩いている。
「危ないね」
 男の背をきつく睨み付ける政宗。そこに先ほどまでの笑みはない。
「はい、びっくりしちゃいました。政宗君、ありがとうございます。政宗君がいなかったらぶつかっていました」
「うん、怪我がなくて良かったよ」
 にこりと笑う政宗。いつもの表情に戻っている。
「なぁなぁ、そこのお二人さん!」
 突然、声を掛けられる。
「え?」
 声を揃わせ振り返ると、褐色の美しい女がエメラルドのような瞳をこちらに向けている。なんだろう、政宗と弥恵はきょとんとする。
「アクセサリーは要らない? 今ならなんと、イニシャルも入れられるよ! 友達同士でも恋人同士でも、贈り物にもオススメしてるんだけどさ。ほら、例えばこういうのとかあたしのオススメよ!」
 女は手招きをする。
「え、いいな。弥恵ちゃん、ちょっと見よう?」
 目を輝かせる政宗。
「はい!」
 足早に歩き、ピンクシルバーのネックレスを仲良く覗き込む。ハートの中にイニシャルが入っている。
『H』
 漆黒。政宗が目を細め、息を吐く。
「綺麗……それにスタイリッシュ……」
「ええ。性別に関係なく、使えそうなデザインで大人な雰囲気……至極、素敵ですね」
 弥恵は微笑む。
「そうそう、ユニセックスなの。最高でしょ? あ、こういうのもあるわよ?」
 女は嬉しそうに小箱を開ける。そこには、沢山のリングが煌めく。
「わっ、綺麗ー! こっちもいいね!」
 政宗がにこやかな笑みを浮かべる。
「でしょ? これ、イニシャルリングなの。ね、貴女は何を見たい?」
 女は弥恵をじっと見つめる。
「え、え、そんなこと、突然言われても……」
 紅潮する。何とも可愛らしい、女と政宗はくすくす笑う。
「ね? 弥恵ちゃん、好きなアルファベットとかないの?」
「あ、そうですね……Fとか……」
 その顔は上気している。
「ふふ、Fね」
 女は箱からゴールドリングを取り出す。
「ピカピカだね。弥恵ちゃん、試しに付けてみたら?」
「え、あ、大丈夫!!」
 政宗の言葉に弥恵はぶんぶんと顔を左右に振る。これ以上、此処にいたら妄想で茹で上がってしまう。
「そっか。じゃあ、今度はアイスでも食べる? 僕、甘い物が食べたくなってきた」
 政宗はスマートに弥恵を誘う。頷く弥恵。
「アイスなら、キューブアイスがフードエリアの二階にあるよ。とっても美味しいんだ! 好きなアイスを二つ選べるしね」
 女がにっと笑う。

 キューブアイスは人だかりができている。ただ、アイスだからだろうか、行列はすぐに減っていく。
「弥恵ちゃんは何にするの?」
「私はキウイのアイスと黒色のバニラを頼みます」
「え、いいな! 金と黒の色合いがゴージャスだね!」
「えへへ。自カプで遊んでみようと」
 嬉しそうに笑う弥恵。
「え~、なにそれ! 楽しそう! なら、僕もそうする! 黒ゴマとあれ、黒ゴマ? あっ、珈琲もあるね」
「黒と黒、良いですね」
「うん! 黒だけど色がわずかに違うし、これにしようかな!」
 そして、暖かな空間でアイスを食べる。
「あ、これ美味しい! 政宗君、一口いります?」
「うん、ありがとう! あ~、本当だね、キウイが甘くて美味しい! バニラもいいね。はい、弥恵ちゃんもどうぞ」
「わ、ありがとうございます。うんっ! 珈琲はさっぱりで黒ゴマは濃厚で美味しい! あー、幸せ~!」
 にこにこする弥恵と政宗。
「あ、あの!」
「え?」
 きょとんとする。突然、弥恵が大きな声を出した。
「弥恵ちゃん? どうしたの?」
「話題は変わるのですが……政宗君達はその……ど、どこまで……すす……んで……」
 恥ずかしそうに弥恵は政宗を見つめる。
「あ、ええと」
 ぼっと赤くなる政宗。困ったように髪を耳にかけ、息を吐く。その仕草は誰もが見惚れるくらいに甘い。弥恵は思う、政宗の恋人もこんな風に彼に見惚れているのだろうか。
「あのね、内緒なんだけどね……キスから全く発展しない!! 僕だって男なんだし……遠慮しないでもう少しこう、強引にでも迫られてみたい……」
 大きなため息を一つ。
「ぁぁ、わかるなぁ、私もこう押し倒されて手を掴んでキスとか、壁ドン床ド……はっ!」
 慌てて口を押さえる弥恵。
「あ~、それいい~!! 泣いちゃうくらい、全身にキスされたりね……」
「政宗君、それ、最高ですよ! 私も痛いくらいがちょうどいいのでしょう?って言われてみたい……」
「うっわ……いいね。恋人の余裕の無い表情とか、滴る汗とか、暗がりに浮かぶ互いのシルエットとか……」
「は~……いいですね! 欲望のままに求められたり……」
「ねっ! 我慢しないでこう、がばっと……!」
「あ~、ですよね!」
「うん、求められると安心するよね!」
「ええ、解ります! 解ります!」
 政宗と弥恵は頷き、顔を真っ赤にしながら互いの願望を口にする。

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