PandoraPartyProject

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人間の業は紅茶の後で

登場人物一覧

武器商人(p3p001107)
闇之雲
ニル=ヴァレンタイン(p3p007509)
夢想の魔王


 ――妾は妾の生き方に後悔などしておらぬ。

 多くの民が救済を願う時、一人の勇者が立ち上がるだろう。

 ――じゃが、じゃがのう……。

 しかし、では、その勇者が救済を願うのなら。一体誰が勇者の為に立ち上がってくれるのでしょうか。


 『称えよ!ロリ魔王様!』ニル=ヴァレンタイン(p3p007509)が存在していた元の世界の話をしよう。
「妾は魔王なるものじゃ。気高く、そして誰よりも強い」
「魔王とは、孤高の存在だと思っているけれど、違っていたようかナ?」
 『闇之雲』武器商人(p3p001107)はケラケラと笑いながら、湯気の立つ紅い茶を啜った。眼前の魔王は嬉しそうに、しかしどこか憂いのある悲しい表情を落としながら話を始めた。
「妾の世界は美しい世界じゃ。美しい景色、美しい海、美しい空――じゃが、どこの世界にも汚いものはあるのじゃな」
「汚いモノ?」
「また後でその話はしよう」
 ニルの世界で魔王とは、その世界において圧倒的な強者を指し示す言葉だ。
 とはいえ魔王にも代替わりがある。
 それは、魔王が子を成したときだ。
 代替わりすれば、更に高い能力を秘めた魔王が生まれ。
 元の魔王は、新しい魔王に文字通り受け継がれて干からびて絶えて死ぬのだという。その廻りは代々行われ、ニルの代までやってきた。
「つまり、キミは歴代最強の魔王というコトだね……ヒヒヒ」
 面白い――と武器商人は笑った。だって、その歴代最強の魔王が今眼前に存在しているのだ。それはつまり――。
 話を戻そう。
 つまり、ニルも例外なく、愛そうが愛しまいが、番の者と子を成せばその瞬間にニル自身の滅びの運命は決まるようなものなのだ。全くそれは、呪いと同等な程にしつこいもので払拭できる未来ではない。
「妾はこの世界に来た。じゃが……この世界でも、もし子を成せば――」
「それは……どうなるか判らないねェ。でも……もしかしたら混沌肯定に助けられるかもしれないねェ」

 そして、勇者も同時に存在する。
「混沌の世界にも沢山いるねーェ、勇者……という存在」
「うむ。きっとそやつらの世界にも魔王がいたと思うのじゃ。しかし妾の世界の勇者は、普通の勇者ではないのじゃ」
 ――勇者とは。
 何も、聖剣を引き抜き力を得て強者に立ち向かう者の事をさす言葉では無く。
 人の子から生まれ、特別な力を先天性的に宿した『突然変異体』のことをさすのだ。
 もし生き方を巧く選択していけば、現時点の魔王よりも強大な魔力を持って対抗できる手段と成りえる種。そういった可能性を秘めており、脆弱な人間の中では生まれながらに希望を託される存在だ。
「成程、つまり人間の別種」
「うむ……人間の別種と魔族――両方、力あるものなのじゃ」
 特に――この、魔族と人間が絶えない戦争を続けている中では、縋る人間ばかりだろう。
 故に、魔族は勇者という種を優先的に殺していった。
 中には勇敢に魔王に立ち向かい、魔王城まで魔王討伐にやってきた勇者もいたし、一方、勇者に生まれたのは偶然だし魔王の脅威にはならないよう育てるからなんとか見逃してくれーーと父母が頭を地面にこすりつけて生まれたばかりの勇者の命乞いをするのもあった。でも、それも脅威になる可能性があるから殺した。
「……殺すべきではない勇者も、殺すしかなかったのじゃ……嗚呼」
「……」
「じゃが、殺さねば妾が、魔族が、いつか、殺されてしまうかもしれないのじゃ……」
 全く戦争が終わらないのは、こういった世界の仕組みにもひとつ悪いところはあるのかもしれない。

「ならば、別の場所で壁でも作ってみるのはどうだったのカナ?」
「うむ、それがの……」
 人間と魔族は、今、距離が近すぎるのだ。
 本来、人間と魔族は海を隔てて、離れた場所でそれぞれの暮らしをしていた。
 大陸の大きさは人間のも魔族のも、ほぼ同等の面積であったが違ったのは生命の数だ。
 魔族の数は年数を重ねる度に、とてもじゃないが追いきれない程に増えていった。これでは同族同士で居場所と食料を求めて殺し合ってしまう。
 故に、魔族は人間の住む大地へと降り立った。
 魔族は住む場所を求めて人間の大陸へ渡った訳だが、人間側はそれを受け入れてくれることは無かったのだ。
 それは魔族という脅威に人間では何かあったときに立ち向かえないからか。
 それとも人間の傲慢さか。
「いやはや、しかし人間からしてみれば隣人にするには力が大きすぎるんだねェ」
「うむ……妾が何度、手を取ろうとしても、長い爪と牙がある生物の手を取る手はいつだって震えている。そんな事は、理解しているつもなのじゃが……。
 妾たちだって、好きで魔族に、力あって生まれる訳じゃないのじゃ」
「……」
「いや魔族に生まれたのが間違えたという事では無いのじゃ。対等じゃないにしろ、強者には強者なりの言い分があるのじゃ」
 今となっては真意は不明になってしまったが、土地と食料を求め、先代魔王は人間を排除することを選び、そこから戦争は始まったと言われている。

 ――さて、ではニルという存在はどうだろうか。
 代を重ねる度に強さを増すというのなら、現代の魔王こそが至高の存在。
 元の世界ではどんなものよりも強く、気高く、そして、尊い存在――魔族にとっては。
 だが反対を言えば、人間にとってニルほど憎い相手はいないとも言えよう。
「人間の目はいつだって敵意が籠っていた。いつだって、死ねばいいのに――と言われているようじゃった」
「先代の業や、呪いのようだ」
 現在の歴代最強の魔王など、戦争が終結していない現在では、一体なんの為の、誰の為の、最強だというのか。
 勿論、魔王として幾度と無く勇者という存在は屠ってきた。
 望まない戦闘なんて何度もしてきた。偶然にも息がある勇者に対しては、早く戦争を終わらせたい意志を吐露した事もある。その勇者はとても感銘し、真摯に聞いてくれていた。
「心優しい勇者であった。
 もし、出会い方が違えれば、もっと手を取り合って、そう、親友にだってなっていたかもしれぬ勇者であった」
「その子はどうしているんだい?」
「……もう」
 だが、時代は二人の考え方を軽く払拭してしまうのだ――今となってはあの勇者は異端者となり人間に屠られている。それが、ニルのいる世界の定めだ。
「あやつが、一体何をしたというのじゃ……。
 綺麗な世界であるのに、どうして心というものは汚いものばかりになってしまうのじゃろう」
 苛烈してしまった炎が止められないのと同じであり、暴走している世界を止めるのは、既に魔王ですらできないのだ。世界最強の個人が出来ないというのに、他のどういった存在が大それた事が可能だというのだ。
 まだ大陸を、領地を、生きる場所をかけて戦うならば終戦の目処は立っただろう。
 しかし、現在ではお互いにお互いを殺された憎しみが、終結を遠退けている結果になってしまった。
 どこかでその負の連鎖を断ち切らなければいけないのだが、その事に気づいているものでさえ、止める為の指先ひとつ動きやしないのだ。
「もう、妾の声で魔族を止める事もできなくなってしまったのじゃ。一体、なんのための魔王」
 まったく人も、魔族も、同様の意味で争いを終わらせられないのなら、隔てる種族の意味とは馬鹿らしくさえお目おてくるものだ。
 どちらかひとつだ。
 戦争を終わらせるには、魔王が死ぬか、魔王が統べる―――か。

「だが、魔王サマ……はこの世界に来た、ヒヒヒ、元の世界は大混乱だろうねーェ?」
「うむ……」
 けれど、そう。ニルはこの世界にやってきた。
 あの世界とは、遠い遠い世界だ。望んでもどうなっても、こんな上位の世界には誰一人登ってこれない。
 魔王がいなくなった元の世界が、一体どうなったかなんて知る術はない。
 だから、あえて元の世界なんて忘れてしまう事も選択肢のひとつだ。けれどニルはその小さな躰に後悔や悲しみ、そういった負の感情に押しつぶされそうになっていた。
「妾は妾の生き方に後悔などしておらぬ。じゃが、じゃがのう……。なあ、そちよ。妾は……間違っておるのじゃろうか?」
 袖で口元を隠した武器商人は、暫く考えてからゆっくりと口を開いた。
「それが、キミかい?」
 雁字搦めの鎖を纏ったようなニルの声だ。
「間違っているか、正しいかどうかの裁決は、今ではなく未来のニンゲンに委ねられる」
 泣きそうな、少女のようなニルに優しい声色を選択した――。
 武器商人というものは、何処かの誰かがつけた名前だ。本当はもっと名前を沢山持っているし、本当の名前はもっと別にあるのかもしれない。けれどそれはもう、武器商人にとっては流れてしまった世界の記憶のひとつ。
「今のニンゲンは、己が正しいと思う歴史の土台を作ることしかできない」
 そのように、武器商人はいくつもの世界を、数えるのを止めた年数だけ見つめてきた。時には歴史に手出しをしようとしたこともあっただろうし、時には誰かの運命を捻じ曲げてしまった事もあった気もする。
 その中で、ニルがいうような戦争を見てきた事もあった。縁や偶然も重なって、人間たちに武器を売る事もあった。その時の名残で武器商人と――最近よく呼ばれる事が多い。
「だが、これだけは言えるとも。"ニンゲンたちの手で始まった戦争は、ニンゲンたちの手で終わらせなければならない"」
 ニルの戦争も、武器商人にとってはまたひとつ本のページが増えた事と同じだ。
 在り来たりだけれど、どれも似たような意味が多いけれど、冷たくて悲しいよくある事。
 故に、武器商人にとってニルの世界を馬鹿にすることは無かったし、でもなかなか終わらせられない事もあるのだと告げた。
「どういう手段、結末になろうとね」
「妾は、一体どうすればいい――?」
「それはまず、」
 目の前の紅茶が冷めないうちに飲んで、ゆっくり考えるのが一興だ。
 時間は、いつまでもあるのだから

  • 人間の業は紅茶の後で完了
  • NM名
  • 種別SS
  • 難易度
  • 冒険終了日時2019年10月18日 22時20分
  • 登場人物2人

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