PandoraPartyProject

SS詳細

同じ部屋、違う2人

登場人物一覧

星影 昼顔(p3p009259)
陽の宝物
星影 昼顔の関係者
→ イラスト

 ──オイオイ、ここ2人用の部屋だぞ?
 部屋に入った瞬間、本当にこの部屋が2人用の部屋なのかってのを疑った。
 部屋中……いや、廊下から玄関からPCのモニターやら萌えキャラ(?)ってやつのフィギュアやらで埋め尽くされてて正直ドン引きしてる。
 この部屋に住んでるやつ、どんな奴なんだよ……と思ったら目の前で震えてやがる。
「……あ、あの、どちら様……?!」
「どちら様も何も……今日から俺ここに入ることになってんだが」
「あ、あ、えぇ?」
 ──ガンッ!!
 オッといけねぇ。イラついて壁蹴っちまった。
「……とにかく、だ。今日からここに入るって決まってんだ。早く片付けろや」
「あっ、はい……。拙者は星影昼顔。えっと……」
「流司で良い」
 何だこいつ……。
 とりあえずよく分からねぇ奴とルームメイトになったもんだと思ったけどよ、まぁ、部屋がそこしかない以上仕方ねぇ。
「ところで、一つ聞きたいことがあるんだけど」
 そんなビビりながら俺の顔をみて今度は何だよ。
「流司氏は、その……何で、血塗れ、なの?」
 あぁ、そういうことか。そりゃそういう顔もするよな。俺としてはそんなの日常茶飯事だし、気にも留めてなかった。
「喧嘩。ちょっとその辺のやつとな」
 俺のその答えだけ聞くと昼顔はへ、へぇ……とだけ言ってこの日は深くツッコんでこなかった。
 そりゃそうだ。俺からしたら趣味みたいなもんだけど赤の他人から見たら深く聞くような内容でもないんだろう。

 それから、毎日少しずつだが部屋もとい共有スペースを片付けてて気づいたことがある。
 昼顔がいわゆるオタクっていう人種のは分かった。それこそ、所狭しとそういうグッズで埋め尽くされてるからな。
 ただ……コイツ、生活習慣が不健康そのものなんだわ。冷蔵庫の中身はエナジードリンクとちょっとしたゼリー飲料で占められてるし、夜遅くまで起きてぶつぶつ言いながら何かやってるし。
 言ってしまえば昼夜逆転。
「拙者は、電子の海に生きておりますから」
 んなこと言ってたが、だからと言ってこの生活態度は良くねぇわ。本当に何してんだよ。
 オタク趣味は全く理解できねぇけど、とりあえず昼顔が何してんのかは覗いていても良いか。
 こそッとドアを開けて薄暗い部屋を見る。ヘッドフォンを付けた昼顔は俺に気づく様子はない。
 部屋の隅のデジタル時計を見てみたら、午前1時35分を表示している。
 大きくため息を一つついて、俺の気配を全く感じていないであろう昼顔の背後から肩をがっしりつかんだ。
「よぉ昼顔ォ……」
「うわぁっ!!!」
 案の定めちゃくちゃビビりやがった。
「良い子じゃなくても流石に寝る時間だぜ?」
「りゅ、流司氏……? というか、今日もケガして帰ってきて……また喧嘩? 身体によくないよ……」
「あぁん? 夜更かししてエナドリやゼリーしか食わねえ不健康な生活習慣のお前に言われたかねぇよ」
 そう、俺が怪我をするのは勝手だが……昼顔、お前に関しては蹴ったら折れそうだし何より弱そうなんだよ。
「とりあえずお前は野菜も食え。あと肉も。そして今すぐ寝ろ」
「え、でも今やってるゲームのイベントが」
「うるせぇ、とっとと寝ないとぶっ殺すぞ」
 壁をこぶしで殴って脅すと、ひっ、と昼顔の小さい悲鳴が聞こえた。
 あまりやりすぎるのも違うからなと、俺は俺で昼顔の隣の部屋にある自室のベットに寝転がった。
「──今日もケガして帰ってきて……また喧嘩? 身体によくないよ……」
 昼顔の言葉を思い出す。俺にとっては生きがいなんだよ。黙ってろ。
 そんな感じで、昼顔の生活習慣を正そうと脅すなり何なりを続けて2週間くらい経ったか。
 ──ちょっとデカめの喧嘩を派手にやりあった。
 少し前に俺にボコられた奴らが4~5人まとめてかかってきて。いや、俺からしたらいつものこと楽しいから良いんだがな。
 ただ、いかんせん人数が多すぎた。追い返せたのは良いが流石に後ろから角材で頭を殴られたときは真っ二つに割れるかと思ったし、何よりも血が出すぎだ。
 ふらふらになりながらどうにか部屋へとたどり着いた。
「……流司氏っ?! またこんな酷い怪我して……!」
 ──おいおい、いつものことだろ心配すんなって。
 そう言おうとした瞬間、まるでいきなり停電が起きたみたいに視界が真っ暗になって、俺の意識は途切れた。

 ──夢を、見た。俺がまだガキもガキだったの頃の思い出したくもない記憶。
「流司、あなたも一流の音楽家になるのよ? ほら、今日もピアノのレッスンでしょ?」
 あぁ、クソババア……俺はもうやりたくねぇんだよ。
「こら流司、合唱コンクールなんていう「お遊び」でピアノを弾こうとしていたらしいな? 凡人どもと同じ空気で演奏しても上達するわけがないだろう。さぁ、こっちへ来い!」
 クソ親父……そうやって俺がやりたかったことをお前はいくつ奪ってきた?
「xxx家の子として音楽家になってもらわないと、お父さんもお母さんも困るのよ」
「兄さんや姉さんと同じようにお前も練達で一番大きなホールで演奏を」
 ──やめてくれ。
「また喧嘩してきて……どこで育て方を間違えたのかしら」
「お前はどうしてこうも『出来ない』んだ?」

「うるせぇよ!!!」

 夢の中での親への口答え叫びで、目が覚めた。
 ベッドのそばの窓からは、日の光が差し込んできている。
 不思議なことに、殴られたはずの頭の痛みはある程度引いてやがる。
 まだ少し痛む全身をゆっくり起こすと、部屋の隅で静かに昼顔が立っていた。
「目が覚めたみたいでよかったよ。かなり酷い怪我だったから、かなり心配にはなったけど」
 怒るわけでもいつものようにビビるわけでもなく、昼顔は柔らかな表情でこっちを見ている。
「……お前が、手当てしたのか」
 俺の問いに、昼顔は答えなかった。沈黙は肯定と同じとするなら、きっとそういうことなんだろう。どういう方法で治してんのかは知らねぇけど。
 昼顔はゆっくりとこっちに近づいてきて、空気の換気をと部屋の窓を開けた。
「怪我はとても酷いものだったけど、その……流司氏の手、すごく綺麗だよね。なんていうか、手だけは怪我をしないようにしてる、みたいな」
 思わず俺は自分の両手を見た。
 親の期待に応えるのが嫌になって始めた喧嘩生きがいで音楽家への道を断とうとしても、無意識のうちに手だけは守ろうとしていたらしい。これも親からかけられた「出来損ない」という名の呪いなのかもしれない。
 ──それでも。
「ひとまず流司氏の怪我、大事にならなくてよかったよ……。喧嘩してくるのは止めることはできないかもしれないけど、僕にとってはやっぱり心配だからね」
 そういって微笑んだ昼顔の方から暖かくて優しい風が吹いてくる。
「……お前の心配は分かった。ただ、お前だって、そのクソみてぇな生活習慣はどうにかしろよ? じゃねぇとぶっ殺すからな?」
 このわけの分からねぇ弱そうな奴がルームメイトってのも、悪くないなと思った。
 ──仕方ねぇ。怪我にだけは気を付けてやるか。
 全く自分と毛色の違う人間を前に、面白くなって思わず笑いが零れた。

PAGETOPPAGEBOTTOM