PandoraPartyProject

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アルカナ/マギカ

登場人物一覧

イリス・フォン・エーテルライトの関係者
→ イラスト
イリス・フォン・エーテルライト(p3p005207)
魔法少女魂


 活動の頻度を問わず、現在のローレットに在籍しながら『魔法少女』として知られる人物は彼女の知る限り、約40名前後である。
 その内、まだ見ない魔法少女の存在を含めれば推定で80名前後となる。
 そこへ幻想並び混沌各地に潜伏(?)している数を含めれば、まさか100を下ることは無いだろう。
 ……そうだとしても、思う事はただ一つ。
「それでも少ないのですよね……表に出て来ている魔法少女が」
 指先でデザートフォークを弄ぶ。
「幻想で活躍している魔法少女はローレット内でもイリス以外に十数人くらい。
 最近は魔種とも戦ってる子がいるらしいけれど、求めているのは無名さんなんですよね」
 ショコラロールケーキだった一欠片を口へ運ぶ。
 取材進捗と同じく、甘さの中にあるほろ苦さが少女の舌と心を複雑ながらも癒してくれる。
 フォークを置いた彼女はテーブルに突っ伏して。暫し唸りながら、わさわさと亜麻色の髪と共にリボンを揺らすのだった。

 王都のとある大通り沿いのカフェを出た少女は、ポーチから出した手帳を見下ろしながら「んー」と首を捻った。
(混沌で活動を始めて暫く……もっと情報が集まると思ったのですが。
 認識の寛容さは関係ないんでしょうね、少しずつ読者は増えてもあまり情報収集が捗らないのを見ると……新刊、どうしましょうね)
 うなだれる少女を慰める者はいない。
 この時――彼女が編集・執筆を手掛けているプロモーションブックの新刊に載せる記事が足りていなかった。
 幻想の隠れた魔法道具店の看板娘特集から始まり、魔法少女事情から現況に至るまで伝え、あらゆる魔法少女を混沌の人々に知って貰う事が目的の本誌だ。何事も数は必要なのである。
(……このままではいけない、スランプになりますよこれは!)
 突如吹き荒れる疾風。
「たしか先月投書で来た魔法少女の目撃情報があったはず……ん、ありました!
 引き出しは多いに限りますねぇ。もう少し温存しておきたかったのですが……仕方ないっ」
 一歩雑踏から退いて身を低くした少女はその身に風を纏って、その場から飛翔する。
 彼女はアルマ・ステリカ。
 魔法少女による魔法少女の為の魔法少女ブック『魔法少女魂』の執筆者である。


 思い起こせば一年以上前。
 アルマの友人にして魔法少女を、イリス・フォン・エーテルライト(p3p005207)がローレットで活動を始める際に頭を下げて来たのが始まりだった。
 共に旅をして来た仲である。
 寡黙だが、こうして何か情熱を垣間見せる事は稀ではあるが知っていた。
 アルマは一体どうしたのかと訊ねたものだったが。その答えが『魔法少女に関しては自分よりもアルマの方が頼りになるからだ』などと褒め殺されては、拒否する考えなどとても浮かばなかった。

(もう一年経ってると思うと早いですね)
 王都を抜けた郊外の森林地帯、そのすぐ傍にある霧がかった町を見つけたアルマは降りて行く。
 懐かしい記憶を掘り起こしながら彼女は手帳を取り出す。
 現地に到着したその時から、すでに彼女の取材は始まっているのだ。
「確かに晴天ですがこの気温で霧はおかしいですね、これは当たりかも」
 魔力を通したペンで考察を手帳へ書き込みながら辺りを見回す。
 田舎というにはある程度の露店や活気がある様子の町。しかし王都の雑踏に比べれば華美に欠け、路地裏の深さが浅い分治安も相応に悪そうな印象だった。
(でも、それがいいんですよね)
 ふふん。と少女は笑う。
 以前に彼女が出版した『魔法少女魂』にはこんな記事がある。

――【魔法少女の中には数多の属性が存在しますが、中でも大きく分類できるポイントがあります♪】
――【それは、アイドル型と路地裏型。陰と陽に分かれたタイプです(Excellent】
――【アイドル型は皆様もご存知のヒーロー的存在を表しており、何ら隠す事なく魔法少女として活動できる方を指しています。
  しかし路地裏型はこの反対。人には決して知られず、ひっそりと活動し個々の魔法少女としての使命を果たそうとするのです】
――【彼女、彼等の性質は大きく知名度に関わると同時に遭遇率にも直結します。前者はあなたも顔が思い浮かぶ魔法少女かも知れませんが、後者はそうそう頭に出て来ないでしょう】
――【でも特徴を捉えてしまえばあっさり出会えるかもしれません!
  路地裏型の魔法少女はその性格、背景事情から姿を隠そうとするあまりに自然と『自分に都合のいい環境』を作ってしまいがちだからだからです】

(例えば、変身した姿を誰かに見られない様に霧を生み出したりですね。
 このパターンだと主に恋人がいたり……最悪の展開だと悪人系魔法少女が潜伏してる場合ですが)
 さすがにそんな魔法少女はいないだろう。アルマは頭を振った。
 徐々に足早となりながら町の奥へ向かう彼女。
 深まる霧の中で周辺住民の「またか……」と言う声が聴こえて来る。どうやらこの異常気象はこの町では日常的なモノらしい。
(地面の湿り気は……発生から数分ですかね。これは良いタイミングで来れました)
 幸先が良いと微笑むアルマは霧の向こうへと足を動かす。こうなってくると足が速くなるのが彼女だ。
 半ば直感的に、迷いなく見知らぬ土地を闊歩して普通なら近付かない様な路地裏を覗き込むのである。
 狭い町の裏側を駆け巡り、その翡翠色の瞳にピンクのフリルを映すべく探索する姿はまさしくローレット内外で密かに『魔法少女専・情報屋』と呼ばれている(本人は知る由も無い)彼女らしい。
「あ、霧が晴れてきましたね。急がないと、っとと」
 ふとした拍子に視界が晴れて来た事に気付いて更に踏み込もうとした時。
 角を曲がった先に立っていた背の高いシルエットにぽすん、とぶつかった。
「これはすみませんでした。でも今は急いでいるのでこれで……貴女、その格好は……!」
「ひやぁあぁあああっ!? ご、ごめんなさい! あのえっと、怪しい者じゃないんです!」
「――ええ、貴女は怪しい者なんかじゃありませんとも。
 私の『眼』は誤魔化せませんよ! 何を隠そうとも私の目は全てを暴き曝け出す! 貴女はずばり……魔法少女ですね? それもクラス含め何もかも!」
 アルマの翡翠色の瞳が淡く輝く。
 彼女の能力(ギフト)。それは全てにおいて魔法少女探索能力に特化したアルマだけの効果を持つ。
 つまり目にすれば分かるのだ、相手が魔法少女か否かを。
「な、なんでそこまで……」
「キラキラしたオーラが見えてますよ、ふふふ。そちらで何をしてきた所なんですか? もしや悪漢共が積み上がっているとか?」
「えぇっと、それはぁ……」
 もじもじと答えるピンクのフリルが特徴的なドレスを纏う美女(少女ではないが勿論魔法少女である)。
 瞬時に悟ったアルマが指を鳴らした。
「いま、路地裏の外を見ましたね? ははーん、さてはあちらに恋人がいるけど変身したり戦ってる所を見せまいと霧を出してましたね。
 ということはやはり暴漢を蹴散らしてきた所ですか」
「うぅっ!? ……暴漢というか……はい、そうです」
「さすが! あ、申し遅れました。私はアルマ・ステリカと申します、こういった物を出版していまして。
 ちょっとお話を聞かせていただけますか」
「魔法少女魂……? 何だか聞き覚えが……でも、ちょっと今は……」
「ではお待たせしている恋人さんの所へ向かいましょう! 歩きながらで構わないのでお聞かせください!」
 差し出された名刺を見て首を傾げている白桃色の髪の魔法少女、その手を引いて路地裏の外へ向かうアルマ。
「だ、だめです! まだ着替えてないから……その、彼を困らせるわけには」
「駄目でしたか」
 強引に押せる相手だと思いきや、どうやら事情アリな様子。
 アルマは手帳へ『未だに魔法少女である自分を受け入れて貰ってない系魔法少女』と書き込むのだった。


 流れで町外れの渓谷の屋敷へと連れて来られたアルマは魔女御用達だという秘湯に浸かっていた。
「はぁ……こんな如何にも記事にしやすい『魔女の渓谷』なんて場所で、秘湯に巡り合えるなんて」
 元魔女・『魔法少女ヒルシュ』の話を思い出しながら手帳にペンを走らせる。
 のんびりと露天風呂に浸かりながらの一仕事。
(でもなんだか……こうしてると色々と考えちゃうなあ。
 イリスにもっと魔法少女に関する依頼を斡旋してあげたり、もっと魔法少女の良さを広く説きたいのに。
 私はちゃんとあの子の役に立ててるんでしょうか……?)
 自身の瞳と同じ翡翠色の湯。
 水面に映る自分を見つめながら少女は「ほう」と息を吐いた。
(それに……仕事、とはいえ。魔法少女の事ばかり考えている私って……いえ、いやいや、別に不満があるわけではないですが……)
 湯気の中で少女は疲れを癒すと同時に、内に抱いていた思いがすこしだけ溢れる。
 それは誰かを責めるとか、悩みとも違っていて。
(あの子は自分の目標を見つけてるのに、私は……あれ?)
 考えても仕方ない事ばかり。思考の空回り。
 そんな時、身体が軽くなった様にどことなく魔力が満ちる感覚を覚えたアルマは水面を再び見下ろした。
「……これは記録しておきましょう。飲んでみますか……うーん、でもせめて許可は必要かも」
「あのー、そろそろ入浴されて結構経ちますが大丈夫ですか?」
「あら? そんなに経ちましたか」
 不意に響いて来たのは、アルマを屋敷へと招いたヒルシュの声。
 さすがに長居し過ぎたかと湯から上がったアルマは岩陰からおずおずと出て来た彼女を見つけた。
「実は私さっき妹に聞いたんです、アルマさんが出している『魔法少女魂』の事を」
 その手に持っていたのは、他でもないアルマが見た事のある一冊の本だった。
「妹さんがいらしたんですか? あ……その本!」
 すぐに水気を拭き取り着替える。
 そうしてリボンを結びながらヒルシュへと詰め寄ったアルマは、直球かつ簡潔に問う。
「ご感想は!」
「あっ、えっと……私この手の本はあまり読まないし……実は魔法少女になったのも結構最近で、だからこう、はっきりと答えられないんですが……ただ」
 既刊の『魔法少女魂』を手にアルマと目を合わせた彼女は小さく頷いた。
「こういう事が広まったら、魔女だった私達でも沢山の人に受け入れられて……大切な人にもっと理解してもらえるかなって、
 そう思ったら――嬉しいです。もっと堂々と町で変身とかしてみたいですし……」
「――! それなら貴女のお話を聞かせて下さい! ここで聞いたお話を是非『魔法少女魂』に、多くの人とまだ見ぬ魔法少女達に知って貰う為に!」
 この時、アルマは湧き上がって来た胸の高鳴りに。そして心の昂りに気付いた。
「では早速ですが貴方にとっての魔法少女とは?」
「はい……私にとって魔法少女とは……」
 魔法少女の事ばかり考えている、それの何が悪いのか。
 友人の頼みから始まった魔法少女探しの生活、仕事。まだまだ伝聞の浅い世界に老若男女あらゆる魔法少女を広める事の何が悪いものか。
 これはきっと、自分と。そして『魔法少女』達にしか出来ない事だ。

「魔法少女……それは。
 可愛い女の子にして愛を知る存在、そして魔法に頼らず拳で語る者。
 それこそが、私がかつて特異運命座標の方々に教わった、私にとっての魔法少女魂です――!!」
「なるほど愛を知り拳で……え?」
 がっつり。
 それはもう取り返しのつかないレベルで影響を受けた、どこかで聞いたフレーズと思想が入り混じった信条だった。


「――新刊おまたせ、イリス」
 渓谷の屋敷での取材を終えて数日後。
 街角で友人イリスと待ち合わせたアルマは出来立ての新刊『魔法少女魂・壱弐』を手渡した。
 イリスは事の顛末を「ふむ」と聞き終えて中身を開いた。
「……そうか、私の魔法少女魂を受け継いだか。次に会う時が楽しみだ」
「えっ?」
 落ち着いた様子なのは変わらない。
 だが『渓谷の姉妹達』という頁を目にしたイリスの目には、いつもと違う雰囲気があった。
「今回もありがとう、アルマ」
「……」
 ふ、とアルマは微笑んだ。

「やっぱり貴方が吹き込んだんですねあの姉妹に……!」
 アルマは思い出す。
 魔法少女魂には収録しなかったが、『渓谷の姉妹達』が全員筋肉魔術を収め物理で殴るようになっていた事を。
「ああ、あの姉妹には魔法少女の魂があったゆえにな」
 イリスは強く頷いた。

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