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SS詳細

日陰に咲く

登場人物一覧

月折・社(p3p010061)
紅椿
月折・社の関係者
→ イラスト

名前:月折・現(つくおり・うつつ)
種族:鬼人種ゼノポルタ
性別:男
年齢:25歳
一人称:俺
二人称:お前、呼び捨て(兄に対しても)
口調:だ、だな、だろう、~か?/(上司には)敬語
特徴:黒曜の角、冷静沈着、生真面目、泣き黒子
設定:
 古くから続く月折の家の分家の生まれ。本家に生まれた次期当主、社の従兄に当たる――が、実兄の鼎よりも社と年が近いにも関わらず接点が少ない。
 というのも、何かと要領の良い兄とは従弟の社と鼎の関係よりも親族――特に親しい親族りょうしんに比べられて育ったせいである。剣術、座学……何をしても兄と比べられた。そして兄の方が秀でていた。『この年頃の鼎だったら……』等といった言葉じゅそは聞き飽きる程に。
 見た目とてそうだ。兄の鼎と左右対照の二本の角は、兄ほど立派ではない。兄に追いつこうと鍛えた体も、兄のような筋肉に恵まれることはなかった。
 ――同じ腹から生まれたのに、何故こうも違うのか。
 その呪詛は肉親から齎されるよりも、己の内より湧き出て澱のように溜まることの方が多かった。
 そんな兄が居るというのに、更に好き好んで次期当主いとことも比べられよう等と思うはずもなく、現自身がそれとなく社の事を避けていた。社から話し掛けられれば話すが、自分からは滅多に話しかけない――くらいの距離感を保っている。

 そんな生まれだからだろうか。一族の多くの者等が所属する兵部省ではなく、現は刑部省けいさつに属している。
 兄と比べられるのは、うんざりだった。所属が違えば、比べられることもなければ顔を合わせる事もない。
 そんな思いから両親や兄にも知らせずに配属希望を出したのだが、現には少なからず不安があった。月折の一族の者たちは兵部勤めがだと周囲に思われていたからだ。それは八扇の上層部もよく知っているはずで、家に連絡がいく――或いは要望は通らないのではないか、と。
 しかし、あっさりと現の要望は通った。
 これは霞帝からの「此れよりは次の時代で或る」という月折の家に対する進言のお陰もあったのかもしれないが、面談を行った当時の――刑部卿就任前の鹿紫雲・白水は「人には向き不向きがある。活かせる場所で活かせ」と告げていた。

 一般の刑部省の者らしく勤めているが、実際は隠密めいた仕事をしている。
 その仕事柄、一族や家族――兄であろうと仕事内容を話すことはないが、現なりに今の生活を気に入っている。

おまけSS『適材適所』

「貴殿は月折の一族の者であったな」
 眼鏡がんきょうを嵌めた涼し気な眼差しが、現の生い立ちが記された調書の文字を追っていた。
 はいと短に応えてもその瞳は現に向けられることはなく、ひと通り読み終えるまで静かに時が流れる。さらりと白い髪を流す彼の人の名は、鹿紫雲・白水。月折の一族のように、古くから刑部省・兵部省に輩出してきた名門『雲の一族』の現当主であり、鬼人種でありながら刑部省の中でもそれなりの地位に居る者だ。
正道せいどうで無くとも良い、と私は思う」
「は、」
 何を、と思った。
 正道とは即ち、剣の道。一族にとっての誉れは、兵部省で兵として国に仕えることだ。そのために剣術を磨き、高めることこそが当然で――どれだけ研鑽を積んでもある程度から成長出来ないことが現には辛かった。
「貴殿は手先が器用だと聞いている。また、身のこなしも大したものだ、と」
 兄ほど筋肉に恵まれなかった現の体だが、それはもっと別のことに向いていると白水は口にした。
「貴殿に合いそうな席を用意しよう。身に馴染まぬと、釣り合いが取れぬと思えば辞めて良い」
 その際は口外だけはせぬようにと短に告げて。
「其れでも良いと言うのであれば、刑部のため――国のため、貴殿の力を活かしてはどうか」
 決して兄のような陽向で笑うような正道みちではない。
 日陰で咲き、そのことすらも他者に話してはならない。
 けれど、こんな俺でも国のために生きられるのなら――。
 現はただ真っ直ぐに白水を見て、静かにこうべを垂れたのだった。

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