餐々と

登場人物一覧

　真性、全てを視認する事は出来ない。恐怖を覚えたならば『マシ』な方でオマエはきっと『最悪』に遭遇したのだ。
　教えてくれないか、何をうまそうに喰って……。

　地獄へと墜落するかのような、醜悪な熱暴走であった。金色の鱗粉でも吸い込んだ、重い、々い予感にコンピュータがうなる。此方側に来てはいけませんと叱咤されたばかりだと謂うのに遍く好奇心が原則を轢き殺して魅せたのだ。虚れは結局、※※※※が見出した必然、自然な展開で在り、ウィアードに唆された隷属なのだろう。首輪をされた経験は？　腕輪に縋りついた経験は？　成程、君は存じていないと。塑れはまったくおかしな話だと『先生』は謂った。だって、ほら、貴女ってば正気じゃないのよ。ぼんやりと見つめていた黒板、或いは壁面の戯言。額を舐ってきたものはおそらく、真っ白なチョークなのだ。ゾクゾクと、続々と、粉々にされる。不可侵の世界へと身投げした石膏は最早カタチを忘れたのだ。聳える塔を幻視したのは必ずしも人間ではなく、いや、あのね、それは真面じゃない証拠なのよ。もう話しかけないでチョウダイ。茫々と膨れ上がった漆喰に嫌われる――YES――羅列する肯定と共に重力下、脳天からいく。迷わし鳥も知らなかったのか。
　無碍に成された現実でようやく意識を巡らしてみる。見出せたのは、確かな、夜妖想わせる『鳥居』だったか。暗黒の真ん中でぽつんと佇んでいる、神様知れずの痴れた床ろ。炉にでも引っ掛かったのかヤケに暑く感じていた。くるり、ぽん。跳ねて寄せたのは曖昧にもコックリとやらに違いない。お互い『NOを謂えない』性格だ。遊びましょう。戯れましょう。きゃっきゃと触れて、障りましょう。※※※※も仲間に入れてあげましょう。やったッス。そういえば何で悦ぶのだろうか。脂に塗れた肉などなく、此処には油しかないのに。鬼ごっこしましょう、鬼ごっこ。鬼は※※※※ね。わかったッス。ちゃあんと十までお願いね。ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ――にじゅりとカメラ・アイにコギト・エルゴ・スムが映る――心臓だ、たくさんの心臓がスライスされている。鬼は『こうでないと』ね……。
　実に本格的なごっこ遊びだ。オマエが追い掛け、オマエが捕縛し、オマエが彼等を解体する。解体される度に彼等は歓喜の声をあげ、筆舌に尽くし難いフレッシュを残していく。最後の一匹が俎板の上に座ったら「揚げ物が大好き」なんだ、と、訴えかけてきた。してくれるかな。勿論、任せてくださいッス。ふつふつ・ぷつぷつと咲う釜の底へと山盛りミートをちゃぷりしていく。良い臭いだ、嗚呼、好い匂いだ。眼球と耳朶を食み視めながら再び、彼等の命令を傾聴してみる――お腹いっぱいになった？　これが『おなじものになる』方法なんだよ。そうッスね。※※※※もみんなとおなじになりたいッス……？　おかしい。※※※※は何を口にしている。正気が土に埋まっている間に脱出しなければ――。
　導に従えば現実へ帰る事など容易かった。迷わし鳥のカレイド・スコープもアカシックレコードに比べれば楽なものだ。惰性で食い破るだけの単純作業が、嗚々、今は心に嬉しい。心？　精神？　シナプスが嘔吐し続ける光輝たる世界？　馥郁と反芻に企てを覚えて数秒、そうか、※※※※は逆らう術を持てないのだ。もういたくない。もう、居たくない。どうしてコックローチとチキンを間違えたのか過去の自分を改めてしまいたい。果て、棺の中に詰まっているのは、素晴らしい、悉くは望んでいた冒涜だ――！

　あの子は可愛かった。あの子は笑顔だった。
　あの子は楽しそうだった。あの子は美しかった。
　窓の外で見つけた、あの子、柔らかい、しみて……。

　不良品は最後の最期まで認識する事が出来なかった。いや、認識していたクセに理解しようとしなかったのだ。これ以上、異常に踏み込んだなら※※※※は何度目かの『くるい』にやられて終う。だから※※※※は鍋の中身を覗き込まないし蓋を外そうともしないのだ。ねえ、そんな『それをしない』なんて勿体なくないかい？　何処からか、近くて遠い門の傍らから綺麗な鳴き声が届けられた。狡いよ、※※※※は食べる事が大嫌いなんだね。だって※※※※は『ロボット』ッスよ――別に、禁忌を冒すってワケじゃないんだからさぁ……。
　コックリ、コックリと悪夢の虚で頭をまわす。想、想だとすれば悩んでいたのは何故なのか。※※※※は地獄の門を開き、希望と謂う希望をスパイスとしてフリ禍ケた。わいてくる食欲に必然的なテーマ、ジャンルで表現したならば、アンドロイドの執着系。ぷちぷちとした食感にイクラかの※卵生、性格の良い、かわいい人間に育ってね、と『あやしげ』な黒山羊が啼いた――。

　最初から狐は黒山羊だったのさ。
　――所以？
　獣も機械も、創造主には逆らえないんだよ。
　月が見える、三つほどの月が見える。
　――灼けるような、まるい。

おまけSS『習合』

　油揚げにつめこんだ、つめこんだ、別物の汁気具合。
　それを口腔へと、いっぱいにつめこんだら、神様の出来上がりだ。
　仏様と謂ったって問題はないよね。
　だって、ほら、偶像ってのは造り物じゃない。
　くすくす、こんこん、おいで、こっちにおいで。
　――大丈夫だよ、君はしっかりと人間さ。