PandoraPartyProject

SS詳細

とりさん

登場人物一覧

タイム(p3x007854)
希望の穿光
Uwe(p3x008868)
( ᐛ )

 正体不明の獣に追われている、鵺の声に惑わされたのだと貴方は笑った。
 柳だとわかるまでは恐ろしいのだ、途轍もなく、怖ろしいのだ。

 伝承――見慣れているだろう景色の中で、数多のデータが蔓延り、のたくっている。まるで何者かの到来に期待し、震えているかのようにも思えた。街道に溜め込まれている人・人・人の群れ。悉くはNPCで在り、されど生きている事をオマエは知っているのだ。触れ、揺らせば心臓が音を漏らす。くるりと戯れてみたならば、成程、ロップイヤーの大はしゃぎ。呑み込まれたかの如くに大通りを外れていく。どうしてこんなにも楽しいのだろうか。今日は誰ともログインしていないのに? ロクな待ち合わせも待ち呆けもなく淡々、タタタと時計の針の真似事。そんなに騒がしいと正気を疑われるんじゃないだろうか。右へと左へと混沌めいて旋回する、森羅万象の化身らしく――そろそろ飛び跳ねたって良いじゃない。良くも悪くも世界はフレンドリーだ、イマジナリーな心地も感じて在るなら本物だろう。ふわり、何処からか流れてきた羽毛の柔らかさ。頭上でぽすんと笑った。
 気配を覚えたのは『人の貌が疎らになってから』だった。はらりと地面に落ちた真っ白を踏んづけ粘つくような想いを振り払う。ぶんぶんと軽く現実においてきた脳味噌を整え、改めての遊戯とする。そう、全ては楽しいクエストのようなものだ。このリアリティに名前を与えるならば『いじわる』に違いない。画面を本物だと勘違いして手を伸ばし、叩いてきた神様の文句垂れなのだ。そうと決まれば視線を投げて誰かさんとご対面としよう。隅っこから飛び出してきたなんとも奇妙な生物、かわいいじゃない? 言の葉で表現するのは難しいだろうか。簡潔に、子供の落書きとしか考えられない、ふわっとした輪郭。それはおそらく『とり』だった。魂を抜き取るような、夜よりも夜らしい、塗り潰しの住民。
 これくらいなら大丈夫、だって、ただの愛らしいとりさんなのよ。オマエの周囲をぐるりと廻り仮名・とりさんがバサバサと訴える。これは『一緒に来てほしい』の合図か。この出会いに感謝して『灯台へと向かう羽虫』の如く彼方側へのトリップとやらも喜ばしい。今は困ってないのだから、マニュアル、現実にそって動く事なんてないのだ。それじゃあよろしくね、とりさん。がばりと唐突に拓かれた未知のエリア、手を繋いで、引っ張られるように抜ければ――綺麗な底シれなさだった。痴れた獣が棲むような……。
 果てのないキャット・ウォークとでも描写すべきだろう。高く々く聳えるような虚空に『手足』が届いた。此処はいったい『どのような』場所なのかな。言の葉を紡いだところで動物が相手だ、必ずしも返答があるとは思えない。そう、風船だ。たくさんの空気を詰め込まれた玩具じみて『わたし』がぷかぷかと浮いていく。どこが終着点なのか、最早わからなくなってきた。それがなんだか面白くて、まだ平気。あれ? さっきまで『ひとつ』だった筈だ。どうして『ふたつ』になっている。たらりと滲んだ嫌な予感。いや、これは浮遊感が若干の不快感を孕んだ程度だ。悉くは問題なく、遍くはわたしを中心に出来上がっている。ふわふわとした設定が毒とも薬とも化け、ひどい幻覚を晒してきたのだろう。じゃあ『みっつ』に増えるのも当たり前なんだよね。首を傾ければ『よっつ』同時に逆方向。ああ、ああ、流石におかしいと『判断して』しまった――青々と瞳転した所為だ、囀る、々る。
 デフォルメされた獣にめちゃくちゃされた、もみくちゃへのカウントダウンに与太が紛れ込む。ジェット・コースターを彷彿とさせる、筆舌に尽くし難い逃走経路の後ろ側で『たくさん』の『とり』が遭った。なんで。何が、いったいぜんたい。どうなっている。後頭部に柔らかなものがむにょんむにょんと激突してくる。はやく、この状況を打破しなければ、突破しなければ、逃げなければ、何が『起きているのか』も把握出来やしない。ループしている『わけのわからない』道路を走る々る、どうやったら『まく』事が可能なのか――不意に浮かんだ妙案、ROOだからこそ成せる荒業。デスカウント覚悟の飛び降りから『リスポーン』は如何だろうか。では、先ず、何で『死のうか』と目の玉をまわす。ぐるぐる、ぐるる、ぐりん、ぐりん――生きたまま食べられるよりはマシだと虚空へ身投げした。
 ひしゃげた果実のようなおぞましさを引き摺りリスポーン地点で身体をのばす。これで悪夢からは脱出出来た事だろう。そう言えば今日はあの店で半額セールをやっていた。闇市めいた差はないがきっと良心的な代物を掴める筈だ。意気揚々と四肢に力を入れ――見た事のある、捻じれのような道を歩む。いや、そんな、この『天地がひっくり返る』気持ちは――ああ、とりさん! たくさんのとりさん! だれか助けて!!! お伽噺のプリンセスは絶対的に『このような』感情に囚われているのだろう。救いの手を求めたところでプリンスの接吻は赦されていない。夜の霧に擁された悲鳴は、最早、NPCにも届かない。
 30cm程度の距離がおそろしくておそろしくて仕方がない。邪気の無い子供に襲われたありんこの気持ちがよくわかった。ばさばさばさ、と視界が殺されて、次第に何もかもが昏迷に満ちてしまう。まだ、まだよ。リスポーン地点は『あそこ』以外にも存在した筈だ。ゲームはひどく難しいがどこぞのEXよりも喧しくはない。墜落死がいけなかったのだ。もっと『死を自覚しなければ』ダメなのだろう。手元を確かめてみればセリとナズナとホトケノザ。そう、いっぱいいるなら此方も同じではないか。僕たち雑草ムシャムシャくん! 咽喉に詰まれば窒息死さ!!! 四の五の言ってる場合じゃない、取り囲まれて気が狂いそうなら別の狂気に縋ったって良いじゃない――もさもさした苦味が口腔に広がってエデンには数多のタンポポ。わぁい、綿毛。わたし綿毛に包まれたいわ。デスカウントの前に映ったのは赫々とした一輪、くわえた真っ白ぺらぺら……。
 ――あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!?
 ――なんで! また! ここからなのよ!!!?
 セーブ・データに細工でもされたのか『たくさんのとりさん』がオマエの脳天をぐるぐる旋回している。愈々眼球をつつかれたのか塞いでも阻んでも拒んでも『ふぬけた』世界だ。こうなったらわたし自身も空へ天へ、いっそ宙へと往ってしまえば好いのだろう。リアルでもリアルじゃなくても叫んでやれ――こんなはずじゃなかったのに。おうちにかえして。どうしてこうなっちゃうの※さん!? 今関係ない人の名前が出た気がするけどきっと気の所為、これは何もかも正気じゃない数多の仕業なのだ。初めましてガバガバ・インターネット・リテラシー、幸運にも目と鼻の先には……。
 無間地獄、いや、阿鼻地獄からのサヨナラに安堵のため息。当初の目的だった炎上ソフト・クリームをぺろりとする。ひんやりとした甘さが錯乱していた脳味噌に心地良いだろうか。腰を下ろして足をぱたぱたやり燦々とした背景を眺める――つん。かろやかな予感に冷汗がダラダラ。もう見たくもない、見てはいけないと知りながら抗う事など出来ない最悪。傍らに目をやると――とける意識、地面を濡らしたソフト・クリームとお友達。

 タイムさん。ちょっとタイムさん?
 しっかりして――。

  • とりさん完了
  • NM名にゃあら
  • 種別SS
  • 納品日2022年06月27日
  • ・タイム(p3x007854
    ・Uwe(p3x008868
    ※ おまけSS『さんざん』付き

おまけSS『さんざん』

「もう! 最初に言ってくれればよかったのに!」
 とりさん――Uwe、つまり、トカさんだとわかったのは正気に戻ってからだった。
 ばさばさと追いかけてきたのは『タイムさん』だとわかったからだと謂う。
 わんわんと涙ながらに訴えつつ、タイムはぽかぽかととりみたいなものを小突いていた。
 頬をぷんと膨らませぎゃーぎゃー叫ぶ姿は年頃の少女を思わせるだろう。
 兎も角、あらぬ誤解もほどけた事だしソフト・クリームの買い直しとしよう。
「トカさんの奢りですからね! そうじゃないと許しませんよ!」
 なりきりって難しい。オマエは改めて『そう』思った。

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