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魔法騎士セララ 第四巻『セララとキセキな魔法少女』

登場人物一覧

セララ(p3p000273)
魔法騎士
セララの関係者
→ イラスト
セララの関係者
→ イラスト

「優勝は――魔法騎士セララさんです!」
「やったー!」
 飛び上がるセララ。
 十二色の聖石が輝きを帯びて飛び上がり、セララへと集まってい――こうとした、その時。
「油断大敵」
 ぴんと立ったラビットイヤー。翻る黒いエプロンドレス。
 フリルの光が闇と呪いを振りまいて、大きな鎌に横乗りした魔法少女が現われた。
 アイドルライブにただ一人棄権した十二番目の魔法少女――クルシェの姿であった。
 掲げた黒い手袋が蜘蛛の巣型の魔方陣を生み、セララに吸収される筈だった聖石をキャッチして奪い去ってしまう。
「そんな! ずるい!」
「優勝したのはセララちゃんよ!」
「卑怯です!」
「あら、私には最高の褒め言葉ね。だって私は……『悪の魔法少女』クルシェなのだから!!」
 フィンガースナップで武道館の天井が消え、無数の黒い流星が降り注ぐ。
 魔法少女たちが迎撃しようと、そして聖石を取り返そうとクルシェに襲いかかるが、鎌を振ったそれだけで魔法少女たちは吹き飛ばされてしまった。
「そ、そんな……」
 あまりの魔力差に愕然とする魔法少女たち。
 クルシェはといえば前髪を退屈そうに指でつまんでくりくりとやりながら、虚空をぼんやり見つめている。
「あーあ、退屈だわ。魔法少女って聖石がなくなったこの程度なのかしら」
「調子に乗って……行くわよセララ!」
「うん、ミストちゃん!」
 二人同時に飛び立つセララとミストルティン。
 『いつものリアクション』が無いことに気づいて横顔を見ると、ミストルティンは深刻に張り詰めた表情をしているのがわかった。
「全力で行くわよ! フェニックスカードを出して!」
「う、うん! インストール、フェニックス!」
 呼び出した聖剣ラグナロクを掴み取り、真っ赤なスーパー魔法少女ルックに変身するセララ。
 掲げたセララの剣にミストルティンのバラの鞭が巻き付き巨大な魔法の刀身へと変化させていく。
 繰り出される必殺の巨大魔法剣。
 聖石10個分のダークデリバリービルロボを真っ二つに破壊できた剣がクルシェへ迫る。
 が、しかし。
「ふあーあ……」
 クルシェはあくびをしながら手を翳し、剣をぱしりと受け止めてしまった。
 そのまま、薄い飴細工を握るようにぱきぱきとヒビを広げ、粉々に砕いてしまう。
 驚きの表情で凍ったまま、空振るように空中でつんのめるセララとミストルティン。
 そんな二人の喉に、ぴたりと巨大な鎌の刃が当てられた。
 と同時に黒い糸が絡みつき、二人をびしりと硬直させる。
「このままじゃ、つまらないわね……あ、そうだ!」
 セララたちを観客席へ放り投げ、ふわふわと浮かんでいくクルシェ。
 空間を鎌で切りつけると、満月型のゲートが発生した。
「いいことを思いついたわ。明日のニュースを楽しみにしてなさい! アハハ!」
 月のゲートの中へ飛び込み、笑い声だけを残して消えていくクルシェ。
 魔法少女たちは完全な敗北を刻みつけられたまま、天井が消えた武道館の空を眺めることしかできなかった。

『緊急ニュースが入りました。本日未明、陸上自衛隊に配備された全ての装備および弾薬がウサギのぬいぐるみに変わるという事件が――』
『アメリカ大統領は声明を発表し、現在全ての軍隊とテロリストは戦う力を失ったと――』
『ご覧ください。秋葉原上空に巨大な城が建設されています。驚くべきことに空中に浮遊したこの城は――』
 翌朝。世界は混乱に堕ちていた。
 秋葉原上空に突如として現われた漆黒の西洋城。時を同じくして世界中から武器という武器が奪われウサギのぬいぐるみに変換されるという事件が頻発していた。
『これも魔法少女の仕業なのでしょうか。昨晩魔法少女総選挙の現場に現われた悪の魔法少女クルシェの行方を探るべく――』
 秋葉原電気街巨大オーロラビジョン。
 ついさきほどまでニュース映像が流れていた画面にノイズが走り、全く別の映像へとすり替わった。
 それだけではない。
 展示されているテレビにうつる全ての地上派チャンネル。ケーブルテレビ。インターネット動画投稿サイト。その他様々な映像配信サービスのことごとくが、全く同じ映像に統一されたのだ。
「おはよう。全人類のみんな? 待望の『悪の魔法少女』クルシェよ」
 赤い玉座に腰掛け、わざと気だるそうに顎肘をついてぱたぱたと手を振って見せるクルシェ。
「ここがどこだか分かる? そう、今秋葉原上空に浮遊してるステキなお城。名付けて空中要塞『クルシェキャッスル』。
 さっきまでこの城や兵器を喪った国々のニュースでもちきりだったでしょう? 可哀想だから、私から直々に教えてあげるわ」
 くいくいと指で手招きをすると、カメラがクルシェへと寄った。
 身を乗り出し、カメラレンズを掴むクルシェ。
「今から一時間ごとに皆の大切なものを少しずつ奪っていくわ。
 二十四時間も経った頃には世界征服が完了する仕組み。どう? 素敵でしょ」
 パチン、とクルシェが指を鳴らす。
 すると電気街のアニメショップからアニメDVDが消え、すべて『悪の魔法少女クルシェ』のDVDに変換されてしまった。
 キャラグッズショップでは全ての商品がクルシェのラミネートカードに変換され、カーショップでは全ての車がクルシェの描かれたウサミミカーに変換していく。
「止めたかったら私を倒すことね。もっとも、兵器を奪われた皆には手を出せないと思うけど。
 私を止めに来られるのは……?」

「魔法少女だけ」
 オーロラビジョンを見上げていたセララが、ぎゅっと胸のリボンを握りしめた。
「せ、せららちゃん! これ!」
 泣き顔で駆け寄ってくるみちよちゃん。
 どうしたのかと翳したスマホを覗き込んでみると、『せららちゃんフォルダ』の中身が全部クルシェの顔写真に変換されていた。
「ど、どどどどうしよう……! せららちゃん! バックアップファイルまでやられてるの! どうして!?」
「ばかね。魔法の前でバックアップもセキュリティもなにもないわよ」
 声に振り返ると、既に変身を終えたミストルティンが腕組みをして立っている。
「これが十二聖石を手に入れた魔法少女の力よ。おそらくクルシェは何も願いを叶えないまま、力だけを行使しているのね。けど本当に願い事を実行されたらこの比じゃないわ。きっと本当に世界中が……」
 ミストルティンの表情が険しくなった。
 手には地元愛知から駆けつけたであろう親衛隊たちの応援Tシャツが握られていたが、無残にも汚く引き裂かれていた。
「こんなことされて黙ってみてるわけないわよね、セララ……」
「……う、うん」
 怒りや憎しみの籠もったミストルティンの視線に、セララは半歩引いて頷いた。
「せららちゃん……」
「大丈夫だよ、みちよちゃん。全部元通りにしてもらうから」
 セララはポケットから魔法騎士のカードを取り出すと、助走をつけて飛び上がった。
「――インストール! マジックナイト!」

 飛び上がってみればよくわかる。
 秋葉原を覆ってしまうほどの巨大な空中要塞は、どこから攻め込めばいいのか分からないくらいに頑丈で、そして威圧的だった。
 しかしただ一箇所だけ、『ここからお入りください』『ウェルカム』とネオンサインの光ったゲートが開いていた。
「みて、あそこから入れそう!」
「あからさますぎてかえって怪しいけど……」
 ミストルティンが訝かしんでいると、要塞のゲートから翼のはえたウサギの軍団が飛び出し襲いかかってきた。
 歯をカミソリのように鋭くしたウサギの群れが凶悪に吠えた――その瞬間。
 吹き荒れた突風が発生。ウサギたちを巻き込み次々に墜落させていくではないか。
 榊と神楽鈴を握って、セララたちを庇うように立ち塞がる魔法少女たち。
 セララへと振り返ると、こっくりと頷いた。
「空中戦でもう遅れはとりません。ここは任せてお二人は中へ」
「で、でも――」
「いくわよ!」
 セララの腕を引き、ミストルティンが城へと突撃を仕掛けていく。
 ゲートを抜け、あからさまに設置された巨大なブロック塀を薔薇の魔法で突き破る。
 途中で襲いかかるウサギモンスターを魔法の剣と鞭で破壊していく二人。
 だが、そんな二人でも容易に突破できない障害が現われた。
「ラビー!」
 巨大なウサミミゴーレムが地面を突き破って現われ、ミストルティンとセララを掴み取ったのだ。
「こいつ……聖石の力で動いてる!」
 あまりのパワーに抜け出すことも難しい。
「どうしよう。手持ちのカードでなんとか……」
 セララがカードを選ぼうとした、その時。
 ミストルティンの放った長く鋭いバラの鞭が巨大ウサミミゴーレムの腕を切断した。
 セララを掴んだ腕だけを、である。
「きゃふ! ミストちゃん、一緒に!」
「馬鹿ね。必殺技をそう何度も打てるわけないでしょ……」
 ゴーレムに掴まれながら、ミストルティンはセララを見下ろした。
「早く、行きなさ――」
 壁に叩き付けられるミストルティン。壁を盛大に破壊し、崩れていく岩の建材。
 セララはぐっと奥歯を噛むと、きびすを返して走り出した。

 やがてたどり着く玉座の間。
 かしずく下僕ウサギたちにあがめられるかのように、クルシェは玉座に座っていた。
「こんなことやめてクルシェちゃん! 世界中が大混乱だよ! みんな、みんな……」
 セララの脳裏に、アニメショップの店員たちやみちよちゃんの悲しむ顔がよぎった。
「みんな笑顔になれないよ。こんなのがクルシェちゃんの望んだことなの?」
「当然じゃない。私は悪の魔法少女。悲しませて落ち込ませて、憎まれて恨まれて、襲いかかる全てを薙ぎ払う。それでこそ『悪』のロマンだわ」
 ほう、と恍惚の笑みを浮かべるクルシェ。
「あなただって、空を飛んで魔法を使って、みんなにスゴイスゴイって、カワイイって、アリガトウって言われたかったんでしょう? 魔法少女に憧れたのよね?
 私も一緒。私も『悪』に憧れたの!」
 笑顔で解き放つ闇の魔法が、セララを一瞬で飲み込んだ。
 咄嗟に繰り出したフェニックスモードもたちまち破壊され、セララは壁に叩き付けられた。
 もう手はないのか。
 終わってしまうのか。
 うつ伏せに倒れ、しかし、手を突いて立ち上がろうとした……その時である。
『『セララ!』』
 10枚のカードが光り輝き、セララの元へと集まった。
 色鮮やかな光に包まれていくセララ。
『あなたのおかげで笑顔になれたわ』『素敵なアイドルライブでした』『お祭りの日のこと、忘れてないですよ』『また一緒にあそぼ、セララ!』
 魔法少女たちの声だ。
 そんな中に。
「ミスト……ちゃん?」
『ミストルティン! 略さないでって言ったでしょ!』
 行きなさい。今だけ、力を貸してあげる。
 光は一枚のカードとなり、セララの手へと収まった。
「それは――」
「託された希望をこの一撃に! ――アルティメットセララスペシャル! フルインストール!」
 城を突き抜け、天空へと飛び上がるセララ。
 白い魔法少女服から光の翼を広げ、黒い翼を広げたクルシェとぶつかり合った。
 光と闇が交差し、膨らみ、爆発していく。
「そんな、嘘よ。全ての聖石の力を込めてるのに……」
「負けないよ。だってこの力は」
 セララが、笑顔で剣を繰り出した。
「魔法少女の力だもん!」

 崩れゆく城。
 秋葉原シティビルの屋上に立つセララの手には、十二聖石が集まっていた。
「残念だけど……私の負けよ。好きな願いを言えばいいわ」
 変身を解除して柵に寄りかかるクルシェ。
 セララは。
「――」
 石に願い事を込めた

 ――魔法騎士セララOPテーマ『ドキドキの魔法』とスタッフクレジットと共にお楽しみください。

 ウサギやクルシェに変換されてしまったものが、全て元通りになった。
 みちよやミストルティンたちはそれぞれ学校に通い、いつも通りの授業を受けている。
 スマホを開き、ため息をつくみちよ。
「セララちゃん……あれからどこにいっちゃったんだろ……」
「さあ」
 ミストルティンは小さく笑って、そして空を見た。
「きっとまた、どこかで誰かを笑顔にしてるわよ」

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