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タンナーイームの探し物
登場人物一覧
「ここが最後の扉ね」
「よし、行くぞっ」
観音開きの扉の前に鮮やかな二つの炎色が並び立つ。
松明を掲げた彼らが扉に手をかけると――……。
●
「はぁ~あ……」
どこか甘さを秘めた溜息が陰鬱な石室に反響した。
気怠げなその吐息は香気のように揺蕩うと、誰にも拾われることなく虚空へと消えていく。
「目ぼしい収穫はゼロ、と」
異世界からの来訪者にして紅蓮の魔女。ジュリエット・ラヴェニューをもってしても、毎回「当たり」の遺跡を引き当てられる訳ではないらしい。
白い頬に片手を添え、がらんどうの石室に焔色の一瞥を投げた。四方を均一にならした鏡面の如き部屋は確かに立派だが、そこに安置されているはずの『現物』が無ければ意味がない。規則正しく響かせていた硬質な靴音が止まれば、腰まで伸びた長い髪が名残惜し気に揺れた。
「まぁ仕方ないわ、こういったものは必ずしも成果が得られるとは限らないもの」
眠たげな瞳を伏せ、纏わりついた悪運を追い払うように掌を揺らすと、そう結論づける。
「ゴーレムの核に出来そうな魔石も落ちて無かったしなぁ~」
そう告げた少年の声に落胆の色はない。
石室を歩き回る琥珀の瞳は透き通った輝きを見せ、どこか楽し気な雰囲気すら漂わせていた。
柿渋色のコートをひるがえし、踊るようにブーツの踵を鳴らす。頭の後ろで両手を組んでターンをすれば篝火のような緋色の髪と結び布が旗のように大きく揺れた。
「此処まで来るのは大変だったけどさ。謎解き、結構楽しかったな!」
彼の名前はエドワード・S・アリゼ。
ギルド・ローレットの依頼を受け、このフェールラルムダンジョンの調査にやってきた冒険者の少年だ。
小粒だが純度の高い魔石が発見されるダンジョンだと聞いたエドワードは、ちょうどギルドへ顔を出していた気まぐれ魔女ことジュリエットに声をかけた。彼女がゴーレムの核を探していた事を覚えていたのだ。
こうして二人は蔦と滝のカーテンをくぐって遺跡へとたどり着いた。
「そうかしら。石碑に刻まれた謎々や言葉遊びだなんて時代遅れよ」
夢蛍の群れが揺蕩う、滝裏に入口が隠された地下ダンジョン。
ジュリエットの知恵がなければ半日での踏破は無理であっただろう。
敵の代わりに謎解きやギミックがどっさり仕掛けられたダンジョンは、いかにもエドワードが好みそうな場所であった。
どうりではしゃいでいた訳ねとジュリエットは内心で独りごちる。そんな魔女の横顔を、少年は無垢な瞳でじぃっと見上げていた。
「……何?」
「いや、さ」
エドワードは最近少し大人びてきた頬を苦笑気味に掻く。
「使えそうな魔石が見つからなかったら、ジュリエット、もっと怒るかと思ってた」
「はぁ」
ジュリエットは眠たげな瞳に呆れを滲ませたが、ゆっくりと猫のように微笑んで見せた。
「お望みならそうするけど」
「いやっ、いいよっ!!」
慌てて首を振ったエドワードの額に玉のような汗が浮かぶ。美人が綺麗に微笑むと迫力があるのだと、今日、彼は身をもって学んだ。
「そうねぇ。普段なら文句のひとつやふたつは出たかも知れないけど、元々気分転換で来ただけだし……」
今度はジュリエットがエドワードを凝視する番だった。
たまたまギルドに行く気分になって、たまたま知り合いの
此度の外出は散歩のようなものだ。昔の世界を思わせる遺跡を歩き回り、或る程度の冒険心も満たされた。
「それに」
つとジュリエットの視線が下がる。
「なかなか面白そうなものを見つけたじゃないの」
「あー、これか」
エドワードのてのひらにコロリと収まるほどの小さな鋼色の球体は、部屋に入って直ぐに転がっていたものだ。
「本当に、何だろうなー? 丸い形の……」
「小型の機械に見えなくもないわ」
最奥の部屋にそれ以上の収穫はなく、一度は空振りかと諦めたジュリエットだったが、自然界の造形から離れた球体から鉄帝と似た匂いを感じ取ったのだろうか。さほど落胆した様子は無い。
むしろかざしてみたり、温めてみたりと試行錯誤を繰り返すエドワードを楽しげに見守っていた。
「んー、機械とかはよくわかんねーんだよなー」
ジュリエットは立体パズルの要領で手を動かすエドワードを覗き込んだ。
「魔石の代わりに、そっちを調べてみるのも悪くは」「えいっ」
ピッ。
ないわね、と続けようとしたジュリエットの言葉を甲高い電子音が遮る。
「……待ちなさい。今、何を押したの」
「よく分かんねぇ。でも、ポチっとしたぜ!」
手ごたえあり、といわんばかりの凛々しいエドワードの表情を見たジュリエットは思わずこめかみを押さえた。
「ポチって、ねえ。勝手に弄って壊しでもしたらどうするのよ」
「わ、わっ、なんか付いたぞ!」
「こんなところに放置されてたのに、動くのそれ?」
鳥の声に似た電子音と蜂の羽音のような空気の排出音。
エドワードの掌からふわりと浮かび上がった鉄色の球体は、小さな点滅を繰り返す。様々な光が薄暗い石室に零れ落ちて星空のようだ。
「へぇー……これ全部がマハラルコード? いえ、どちらかと言うとゲマトリア数式に近いわね。このちっぽけな丸にどれだけのソースが刻まれているのかしら」
普段の気だるげな雰囲気はなりを潜め、今のジュリエットのはまるで舌なめずりする獣のようだ。
眠たげに緩められた瞳の中に紅蓮の炎を炯々と輝かせ、仄かな笑みを果実のような唇に浮かべている。
「でかしたわエドワード、もしかしたら当たりを引いてくれたかも」
「お、おう?」
エドワードにはジュリエットが唱える呪文の意味がさっぱり分からなかったが、この丸い物体が彼女の琴線に触れたということはよく分かった。
「――システム、オールグリーン。再起動マデ3カウント」
「わっ、何だ? すげえ風だ……っ」
「さぁお出ましね」
浮かんだ黒い球体を中心に光と風が収束する。
その強さにエドワードは顔を腕で覆い、ジュリエットは薄く笑ったまま瞬きすら忘れたように動かない。
時が、止まる。
白い蒸気を噴き出して、それは起動した。
「レボスケ、ふっかぁ~~つっ!!」
ファンファカファ~ンと暢気な笛の音が鳴り、紅白の紙吹雪が舞う。
エドワードは飛んできた紙片をつまんだ。摘まめるということは幻覚の類ではないらしい。
隣のジュリエットはといえば完全に冷めた顔をしていた。あれだけ輝いていた表情から一切の熱情が消えている。
「ジュリエットにも見えてるんだよな、アレ」
「そうね」
「罠や敵、ではないよな?」
「相手次第ね。今のところは」
宙に浮いた黒い球体。その正面と思わしき部分に白い光が顔の形に浮かび上がる。
雨音に似た雑音が流れた次の瞬間、球体がゴム毬のようにぽよよんと宙を飛び跳ねた。
「外部からの音声をかくにーんっ。そこにいるのは有機生命体だな~っ!?」
男とも女ともつかない、甲高いこどもの声が響き渡る。
丸いボディから伸びてきた二本のマジックアームの先にはUの字型の金属がついており、威嚇するようにカチカチと鳴らされている。
それを見たエドワードはパン屋のトングを思い出していた。トングよりも攻撃力は低そうだ。
「不法侵入者はオイラがやっつけてやる! くらえ、レボスケちょーっぷっ!!」
「……寝坊助ぇ? 変な名前だなあ」
「オイラは寝坊助じゃない! レ、ボ、ス、ケ!」
「あいたっ、なんだよもぉ〜」
てちてちと二の腕をつつかれながらも、エドワードはレボスケと名乗ったこの不思議な球体の攻撃を止めようとはしなかった。
「ていっ、ていっ。どうだ、まいったか!」
「ちょっと。そこのアンタ」
「むぎゅっ」
レボスケなる物体の凶行を止めたのは、真っすぐ伸ばされたジュリエットの白い腕だった。
「レボスケだか寝坊助だか知らないけど、起動した途端に攻撃するだなんて随分と良い度胸じゃない」
「な、なんだとぉ!? オイラに口答えするなんて生意気な」
アイアンクローで締め付けられた本体からギリギリと不穏な音が響き渡る。
「返事」
「ごめんなさい」
「分かれば良いわ」
指の圧から開放された途端にレボスケと名乗る球体はエドワードの背中に隠れ、肩口からそうっとジュリエットを見つめた。
「キケン!!」
「誰が危険よ」
「ひゃあ!?」
赤いランプがちかちかと明滅する。レボスケには生命活動、もしくは起動状態を保持する機能が設定されているようだ。
「そっかぁ。お前、レボスケっていうのか。オレはエドワード。で、こっちの不機嫌そーなのがジュリエットだ! よろしくっ」
「ご機嫌、エドワード。不機嫌、ジュリエット。うん覚えたぞ」
記録するようにレボスケは二人を順に見て繰り返した。
「オレたちは冒険者で、このダンジョンに魔石を探しに来たんだ。レボスケは、どうしてこんな所で転がってたんだ?」
「こんな所?」
「此処はダンジョンの最奥だぜ」
「ダンジョン……」
そう言われたレボスケは周囲の情報をスキャンするようにくるりとその場で一回転した。
「ここドコだ!? お、オイラの研究所じゃないぞ!!」
「違うのか?」
「ちがうっ」
不安定で弱々しい光を放ち始めたレボスケのをエドワードは優しく撫でてやる。
「ゆっくりで良いから、どうして此処に来たのか。思い出せそうか?」
「うう、わかんない……」
エドワードはレボスケに悟られないよう、目線でジュリエットに問いかけた。もしもレボスケが魔法生物や使役生物だったのならジュリエットの持つ知識が有用かもしれない。
エドワードからの訴えを正確に読み取ったジュリエットはこっそりと溜息を吐く。無機質なゴーレムや機械を相手にするならまだしも、こんな子供のような相手に何を分析すれば良いと言うのだろうか。
「会話の受け答え具合から見るに、それなりに高度な知能や作りをしてると思うわ」
ジュリエットはエドワード越しにレボスケを観察した。
「魔法生物やゴーレムの一種? 動力や駆動体系はどういう仕掛け?」
科学者に似た平坦な口調を保ちながらジュリエットは滑らかに続けていく。
「しっかり調べたいわね……バラしてもいいかしら」
問うてくる焔の瞳があまりにも真っすぐだったので、エドワードもレボスケも首を傾げた。
「バラす?」
「中身が気になって」
「きやああああ!?」
答えが出たレボスケはサイレンのような悲鳴を上げ、ツバメの如く石室内を飛び回った。
「だ、ダメダメ!! ジュリエット、解体なんて絶対ダメだからな!?」
「あ、ダメ? そう、残念」
蒼褪めたエドワードは慌ててレボスケを掌の中に隠す。二人が全力否定の構えを見せるとジュリエットはあっさりと引いた。
「どう。今の衝撃で少しは記録データが戻ってきたんじゃない」
「……あ」
「どうだ、レボスケ」
「お、思い出せそうかも!」
「さっすがジュリエット!」
子供二人がキラキラとした眼差しでジュリエットを見上げる。当の本人は余裕の笑みで尊敬の眼差しを受け止めた。
「ショック療法ってのは意外と応用が効くのよ」
「ってことは今の解体ってのは冗談だったんだなっ」
「本気だけど」
「いやあああああああ!!」
「落ち着けレボスケェー-!!」
●
「へぇ〜、じゃあレボスケは、世界中に散ったその……こあ、なんとかってのを」
「コアクリスタル!」
「うん、コアクリスタルを探して旅をしなきゃなんねーのか。大変だなあ……」
レボスケは世界中に散らばっているという自分の『コアクリスタル』とやらを探して旅をしていたらしい。
「元々コアクリスタルはオイラの一部だからな。存在は感知できたんだけど、どこにあるかまでは分からないんだ……」
ぱかりと開いたレボスケの身体の中には空白の台座が設置されている。周囲を取り囲む弱々しい魔力の光は、息を吹きかければ消えてしまいそうだ。
「世界中だなんて広すぎじゃない、お手上げね」
「うおおおおん」
「はいはい、一々ショックを受けない」
わざわざ地面に降りてきて転がるレボスケを見下ろしながらジュリエットは言った。
「そもそもアンタのコアクリスタルがどうして世界中に飛び散ってるのよ」
「それを聞きたいのはオイラのほうだ!」
ぷんすかと声に出しながらレボスケはマジックアームを振り回した。
「起きたらちいさくなってるし! コアクリスタルはないし! 誰もいないし、オイラ、すっごく困ったんだからな!」
「ちいさくなっていた……?」
知らない単語を聞いたと言わんばかりの顔でジュリエットは訝しんだ。
「ゴーレムや機械がマスター不在の状態で退化するなんて、よくある話じゃない」
「オイラにはよくある話じゃなかったのーっ!!」
コアクリスタルがあった頃のレボスケは、今よりも巨大で優秀だったと言うが、どこまで本当の話なのか。エドワードにもジュリエットにも分からない。
「それでコアクリスタルを探して、このダンジョンに来たんだな」
「うん。オイラもこのダンジョンを踏破して、扉を開けたんだ。それで……気が付いたらエドワードとジュリエットが目の前にいた」
「なあ。どう思う、ジュリエット」
ダンジョンの中で湯を沸かし、珈琲まで淹れた彼らはすっかりとくつろぎモードだ。
「最奥の扉は魔力を吸い取ることで開いたわ。残存魔力が少ない状態で扉を開け、稼働するだけの魔力が足りなくなった。それで休眠モードに入ったってところね」
「おお~」
揃って拍手する二人からジュリエットは目を逸らす。
「それで、レボスケ。おまえのコアクリスタルはあったのか?」
「もう近くに気配は感じない」
「じゃあ、先に来た誰かが持って行っちまったのかもなぁ」
残念そうにエドワードは言う。
「それで、レボスケのコアクリスタルってどういった見た目なんだ? 色とか形とか、分かるか」
「ふっふっふ、聞いて驚け! 何とオイラのコアクリスタルは――zg―で、mr―qqq――って……あれ?」
しかしながらレボスケが自分の『コアクリスタル』について詳細を語ろうとすると、奇妙な雑音が発生する。
「守秘コードにでも引っかかったんじゃない。もしくは開示情報にプロテクトがかかっているか」
「守秘こーど……?」
「ぷろてくと……?」
「エドワードはともかく、せめてアンタは知っておきなさいよ」
不思議そうに呟くエドワードとレボスケの前でジュリエットは頭を抱えた。
これだけ高精度の人格を与えておいて、このポンコツっぷりに設定するなど常人の神経では考えにくい仕様だ。
「コアクリスタルが存在しないせいで知性が下がっている? それともバグ?」
レボスケを作った存在は天才かそれとも紙一重の何とかのどちらかに違いない。
「だから言ったろ? ジュリエットは頼りになるって!」
「だ、だな! ちょっと怖いけど……ジュリエットはすげーっ」
「現状分かってるのは、レボスケのコアクリスタルはバラバラになってる、って事だけかぁ。な、ジュリエット! こいつのこと、オレたちも手伝ってやろうぜ!」
「コアクリスタル探しねぇ」
薄々エドワードがそう提案することを読んでいたのか、ジュリエットはさして驚く事もなくのんびりと返した。顰められた柳眉は今にも面倒くさいと言い出しそうだ。
「手伝うにしても、世界中アテもなく探すっていうの? そもそも他人にそんなことしてあげる義理ないし。手伝うならお人好しのアンタ一人で……」
「え~~っ、そんなこと言わずにさぁ~~! 頼むよ、ジュリエット」
「じゅりえっとぉ~~」
美人で気まぐれ、いい加減でエゴイスト。
そんなジュリエットも子供の、それもお気に入りの子供のおねだりには弱かった。しかも一人でも手に余るのに、今は更にもう一匹増えている。
見た事もないコアクリスタルの捜索を引き受けるなど面倒くさい上に厄介ごとの匂いが半端ないが、今この時点この瞬間では『断る』ほうが断然面倒くさい状況を引き連れてくるだろう。故に答えは打算の上にはじき出される。
「あぁ~~っ、もう。わかった、わかったわよ。この近辺だけなら引き受けるから」
「やったな、レボスケ」
「いえいっ」
ハイタッチをする一人と一体を普段と同じ、眠たげな視線で見守る。まったく、報酬もないのにどうしてこうなったのやら。
「ん? ジュリエットもやるか。ハイタッチ」
「仲間外れにされてさみしいんだな」
見守っているとエドワードが無邪気な笑顔を向けてくる。その傍らでふよふよと浮かぶレボスケも嬉しそうにマジックアームをわきわきとさせていた。
「遠慮しとく」
虫を払うような手つきでジュリエットは断った。
「そういえば、エドワードたちは魔石を取りに来たんだよな」
ふと思い出したようにレボスケが言った。
「そうだぜ。ジュリエットが使うゴーレムの核にしようと思って、二人で来たんだ」
「結果は見ての通りよ。アンタ以外、何もなし」
ふよふよと浮かんでいたレボスケが突如静止する。機械音が長々と響きレボスケの周囲に青い光が浮かび上がった。
「こっち、こっち」
「わわっ、ついてこいってことか?」
「もう! 今度は何よ」
マジックアームにつかまれ、マグカップを持ったままのエドワードがたたらを踏む。
「ん、どした、レボスケ?」
レボスケはこっちこっちと繰り返すばかりだ。飼い主を引きずる犬のように、一直線にある場所を目指して宙を進む。
ようやくレボスケが止まったのは部屋の中心部に位置する、何の変哲もない床石の上だった。
「この床が……なに?」
「あける、あける」
レボスケのマニュピレーターがうねうねと蠢く。片方はエドワードのコートをつかみ、もう片方のマジックアームが床をさした。
「わかった。開ければいいんだな?」
触れてみれば冷たい石床に僅かな窪みが存在していた。エドワードが指で押してみると、ぐらりと動き、床に僅かばかりの隙間ができる。
「あっ、この床開きそうだぜ!! よ~し」
ぺろりと唇を舌で湿らせるとエドワードは気合を入れた。
「よぉいしょー!!」
重たい音を立て床が開く。下には暗闇が広がっていた。
「……隠し床?」
魔力で周囲に灯火を編み出したジュリエットが近づけば、炎の光を反射して求めて止まない輝きがぬらりと光る。
「すげーっ!?」
エドワードが取り出した木箱の中には大小数多の魔石が輝いていた。何れも一見するだけで高純度の魔力を凝縮していると分かる透明感だ。
「これ、ぜんぶ魔石だろ。なんでわかったんだ……!?」
「ちょっと待ちなさい、その箱の中身は全部が魔石? アンタが感知したの?」
「ふっふーん。その通りっ」
二人分の驚きに、レボスケは上機嫌でくるりと回ってみせる。
「オイラには魔力探知の機能がそなわってるんだ。どんなに巧妙に隠されていたって、魔力を探知すればチョチョイのチョイさ!」
「まりょくたんち? よくわかんねーけど、レボスケは魔石とかを見つけるのがすげー得意なんだなっ」
「すごいだろー」
「ふふ、ふふふ……」
地底から届くが如き笑い声に、エドワードとレボスケはびくりと身体を震わせた。
「レボスケだったかしら、やるじゃない。そういった機能があるなら早く言いなさいよ全く」
「お、おう」
レボスケの定位置がエドワードの背中になりつつある。
「レボスケはとっても使えるんだぞ。だから……その」
「レボスケはコアクリスタル探しを手伝ってほしいみたいだぜ。ジュリエット、どーする?」
「どうするも何も」
ジュリエットの答えを既に悟った様子でエドワードは笑う。
「……しょうがないわね、ちょっとだけよ。気分がいい間は手伝ったげるわ」
「良かったな~、レボスケ。ジュリエットもコア探し、手伝ってくれるってよ」
魔女を仲間に引き入れて、鋼のゴーレムと少年の旅が始まろうとしている。
長い物語になるのか。それとも短い物語になるのか。
此処はまだ序章のお話。彼らの最初の物語。
おまけSS『フェールラルムダンジョン報告書』
・イメージ風景
屋久島
プリトヴィツェ湖群国立公園
・テーマ
紅蓮と緋色
無機物と有機物
泥と鋼
魔法と科学
可愛いと可愛いと可愛い
・フェールラルムダンジョン
侵入してきた探索者、冒険者の魔力を吸収するダンジョン。
吸収された魔力は罠やギミックの稼働に使われるが、余剰分の魔力は結晶化し
純度の高い魔石として何処かに集められているのではないかと噂されている。