PandoraPartyProject

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imperfect

登場人物一覧

津久見・弥恵(p3p005208)
薔薇の舞踏

 青年──Uは陽の光をたっぷりと浴びながらT街を歩いている。今日はとても暖かい。紺色の外套が陽気な風に踊る。美しい外套。だが、これが誰のものだったのか青年はもう、
「あ」
 ふと、青年の肩に痛みが走った。
「は? いって!? おい、止まれよ、あんた。言うことあんだろ?」
 大男が怒鳴っている。青年は大男にぶつかってしまったようだ。
「うん……ぶつかったのは私だね」
「私だね? は?」
 大男は困惑し、同時に苛立っている。ただ、男は優しいのだろう。青年に危害を加えるつもりはないようだった。青年は目を細めた。色とりどりの目玉が青年達を見つめている。青年は少年に手を振った。途端に少年はぎょっとし、好奇心に溺れた目を恥ずかしそうに伏せ、僅かに後ずさった。
「おいおい、聞いてんのか?」
 男は不快だったのだろう、青年の顔をねめつける。
「……うん。ごめんね、わざとじゃないんだよ」
 青年は困ったように笑い、間の抜けた声を大袈裟に開いた口からゆっくりと吐き出す。大男は青年の尖った歯と唇から蛇のように顔を出した舌にびっくりしながらフンと鼻を鳴らした。
「そんなの解ってんだよ。つーか、最初から謝れよ! ああ、めちゃくちゃ不愉快だわ……くそ……」
 大男は唸り、足早に去っていった。青年は目を細めた。無数の目玉は人混みに消え、もうどこにもいない。
「そうだね……ありがとう。次はちゃんと謝るよ」
 青年は呟いた。夜と違う出会いが白日にはあった。青年は頷き、大男と反対の方向に歩いていく。今日の目的は一つだった。花屋の軽いガラス戸を開ければ、ちりんと奇麗な音が鳴った。ガラス戸に鳥の形をしたベルが取り付けられている。そして、その音に呼ばれ、若い女が現れる。
「いらっしゃいませ」
 優しい声。青年は「真っ赤な薔薇を六本ください」と微笑する。

 それから、青年は真っ赤な花束を抱え、小さな宿屋に泊まる。部屋は簡素で清潔だった。柔らかなベッド。木製の机に青年は花束を置く。部屋を満たす、特別な花の香り。青年は花束を一瞥し、ベッドに横たわり、月夜を待った。そのお陰だろうか。静かな夜が訪れる。青年は花束を抱え、部屋を出ていく。廊下を歩き、別の部屋の扉を四回、乱暴に叩いた。
「そこにいるんだろう? 私は君を探してた」
 青年は笑った。
「……あの、ごめんなさい。貴方は誰ですか?」
 見知らぬ女が出てきた。感じる困惑と強い緊張感。大人しそうな女に見える。
「う~ん、誰って……そうだね、観客の一人かな。まあ、今日から君は殺人は出来なくなるけど」
 青年が笑った瞬間、筒口が向けられる。金色の小型拳銃。奇麗だと思った。
「あんた、ローレット・イレギュラーズか。はっ、薔薇! このためにわざわざ買ってきたの?」
 女が冷たい目で吐き捨てるように笑った。青年は女の部屋を眺める。明かりのついた部屋、女の私物が机に置かれ、熱いコーヒーが紙コップに注がれていた。
「ううん、不正解。わたしも、。でも、薔薇は君の為……それは嘘じゃないよ」
「は?」
 女は驚き、青年を見つめる。
「遅い……」
 青年は花束をつまらなそうに女に投げつけた。
「何を……え、お前は誰だ!?」
 花束を避け、女は目を見開いた。青年はくすりと笑った。突然、現れたもう一つの気配に女が気が付いたのだ。
「おや、バレてしまいましたか。津久見・弥恵といいます。以後、お見知りおきを!」
 津久見・弥恵(p3p005208)が窓の傍に凛と立っている。弥恵は窓から侵入したのだろう。青年は震え、弥恵にひらひらと手を振った。
「……はい? ど、どうして貴方が此処に!?」
 弥恵は目を丸くしている。
「依頼があったんだろう? T街で連続殺人事件があるって。だからね、この女の傍で待っていた」
「そ、そうですか……──んッ!?」
 弥恵がバク転し、女の銃弾を避け、パッと身構える。弥恵の髪が翠に輝く。
「私を無視するな!!」
 女の怒号に青年は微笑する。そうだ。無視はいけない。硝煙が窓の外に流れていく。
「……」
 青年はただ、眺めていた。
「死ね!」
 女は腕を突き出し、弥恵の額に銃口を向け続ける。青年は左耳に触れる。弥恵に刻まれた傷がどうしてだろう、痒くて仕方なかった。
「ち、ちょっと!? 一発くらい当たりなさいよ!!」
 女は汗を異様に流し、目を見開いている。
「え? そ、それは無理ですね! はぁっ!」
 弥恵が叫んでいる。
「あたしに近づかないで!」
「撃つのを止めてくだされば勿論!」
「それは無理! 馬鹿じゃないの!」
「なら、私もです!」
 銃弾を的確に避け続けている弥恵。その様子はしなやかで、曲芸的で青年は溜息をついた。エロティックなショーを永遠に見せられているかのようだった。部屋の奥には、花束だったものが見えた。
「はああっ!」
 弥恵が穴だらけのベッドを踏み付け、一気に女に接近し、女の銃を蹴り飛ばした。女は痛みに顔をしかめながら拳銃を拾おうともがいた。
「させません! このまま、静かにしてもらいますよ!」
 弥恵は拳銃を慣れた手つきで拾い上げ、持っていた縄で女をあっという間に拘束し、青年を見た。
「次は貴方です」
「知ってるよ……」
 青年は外套を揺らし、笑った。当たり前だ。わざわざ、逢いに来たのだ殺しにきたのだ。青年は弥恵に飛び掛かり、弥恵の腕を掴んだ。そのまま、床に叩きつける。
「甘いッ! その攻撃は当たりません!」
 弥恵は青年の手からするりと抜け出し、華麗なステップを踏みながら、青年の頬を真っすぐ打った。体重を乗せた渾身のストレート。奇麗な技だと思った。
「うっあ……」
 青年の鼻から血が勢いよく吹き出る。強い衝撃に脳が激しく揺れ、意識が遠のいた瞬間、青年の胸部に重い一撃が入っていた。今度は左足だ。弥恵の左足が容赦なく、青年の胸を打ったのだ。青年は壁に激突し、口から血を撒き散らした。
「どうです? 私の攻撃は?」
 弥恵はやはり強い。でも、。青年は近づいてきた弥恵を双眸に映し、真っ赤な唾を飲み込んだ。心臓が興奮で脈打つ。
「ふふ、いい……」
「それは良かったです……もう、動かないでください。動いた瞬間、もう一度、攻撃します!」
 弥恵の額から汗が静かに落ちていく。
「それは怖い」
「ええ……そうでしょうね……」
 重い空気。青年は喉を鳴らした。弥恵は青年を強張った顔で見下ろしている。ああ、とても良い顔をしている。だから──終わりは嫌だった。青年は思いっ切り笑った。弥恵を驚かす為だけに笑ったのだ。
「え……何故、笑って……?」
 弥恵の動揺と同時に投擲するナイフ。瞬く間に女が絶叫する。
「なっ!?」
 弥恵は驚く。ナイフが女の太ももに突き刺さり、太ももが真っ赤に染まりだす。
「あっ、ああああ!? ナイフ、ナイフがぁっ!? 血、血がぁ!」
 青ざめ、泣き叫ぶ女。
「さて、どちらが大切?」
 青年は問うた。
「くっ、貴方は後回しです!」
 弥恵は唇を噛み、女の元に急いだ。
「そうだろうね……」
 青年は弥恵の背を見つめ、顔を強張らせる。そう、弥恵は無防備だった。弥恵は
「……」
 青年が逃げることを、逃げるために女を狙ったことを、弥恵は理解しているのだと思った。
「くそったれが……」
 青年は宿屋から離れ、左耳を尖った爪でがりがりと掻きむしり、濡れたかさぶたを口に含んだ。無性に苛立ってどうしようもなかった。

  • imperfect完了
  • GM名青砥文佳
  • 種別SS
  • 納品日2022年06月05日
  • ・津久見・弥恵(p3p005208
    ※ おまけSS『美味しいカレー』付き

おまけSS『美味しいカレー』

「さぁさぁ、美味しいカレーだよ、お嬢さん! テイクアウトにお一ついかがですかい?」
「美味しそうな匂いがしたと思ったら、此処だったのですね。では一つ、お願いできますか?」
「ありがとうございますッ! 何色にしましょうか?」
「へ? 色とはなんです?」
「アタシのカレーは真っ青と真緑がございます、お嬢さん!」
「ふぇ? 真っ青と真緑、です?」
「ええ! ほうら、ご覧なさいな! 良い色でしょう?」
「!! す、凄い色なんですけど!? えっ? ええ!?」
「そうでしょう、そうでしょう!」
「あの、ほ、褒めてるわけじゃ……」
「へ? 真っ青はラピスラズリの星味で、真緑はエメラルドの森の強い輝き味なんです!」
「そ、そうなのですね。あ、えと……そ、その……お、美味しそうなので両方く、ください!!」

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