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残夏
登場人物一覧
●嫌いなもの
神様へのお祈りが嫌いだ。
一応シスターみたいな格好をして、一応そんな真似事をして。
そんな風に考えるのは大概罰当たりだと思ったものだが、嫌いなものは仕方ない。
取り分け懺悔が大嫌いだ。
済んだ事を後悔して誰かに許しを乞うなんて馬鹿げている。
そういう時は何時だって――自分を一番許せないのは自分に決まっている。
自分自身を追いかける影法師に気付かない振りをして、
「……だからさぁ」
コルネリア=フライフォーゲル (p3p009315)の口元は奇妙な位に歪んでいた。
「アタシは誰にも許しは乞わない事にしてるんだわ」
「……っ……!」
「命乞いをするアンタをこれから撃ち殺すのも、次々現れるバカを同じように『掃除』するのも同じ。
血塗れの
……でもね、どうしたってアタシはアタシなんだわ。アタシは他の何かに理由を預けたりしない」
路地裏に追い詰めた男を見下ろす目は冷たく、まるでゴミか何かを見るようである。
コルネリア=フライフォーゲルは間違いなく善人では無い……少なくとも自身ではそう思っている。
神への厚い信仰心も無ければ、無条件の善性等最初から期待してすらいない。
しかし――
(……ああ、やっぱりアタシには分かんないんだわ。『アンタ』が何を見ていたのか。どうして『ああ』だったのか)
――コルネリアは己を救い、養育した『母』への感情を捨て切れない。
己自身を『ロクデナシ』と称しながらも、知らぬ間に彼女の道を追ってきた。
己が掛けられた情けを、愛を贖うかのように。
(そういや、初めて人を殺したのも夏だったっけ。
うんざりする位暑い日で、あの日は流石に飯が食えなかったわ。
何度も、何度も吐いて。無理矢理にバーボンを流し込んでさ、気付いたらひっくり返って……カエルみたいに寝てたわ)
思い出したくもない光景ばかり、鮮烈に脳裏にこびりついている。
泣きつきたくなるあの胸も、優しい笑顔も、時に厳しかった声色さえ――記憶の隅で色褪せて、モノトーンの海に沈んでしまうのに。
どうしてか、返り血の熱さばかりは忘れられない。鉄分を強く含んだ異臭に慣れない。『どれだけ殺しても、コルネリアは影法師に囚われたままだった』。
(だから、神ってヤツは嫌いなのよ。連中が人間が期待する程出来た奴等なら――)
――人はこんな風に出来ちゃいないわ。
不出来なばかりで、不遇なばかりで……
馬鹿馬鹿しい位に自業自得で愛しい、こんな日々とはオサラバだろうよ。
「で、遺言は? アタシは一応シスターなんでな。神への懺悔位は聞いてやるよ。
出来るだけ手短にな。後の予定が詰まってる」
懺悔が嫌いなシスターが仕事で懺悔を求めるなんて、とコルネリアの唇は歪む。
『後で顔を出す予定のローレット』での出来事は、友人達は自分の事をどう見るのだろうと自嘲した。
嗚呼、きっと彼等は自身を友人として扱ってくれるのだろう。
皮の下で、肉の下で、五臓の中でドロドロと渦巻く汚いものなんて知らずに、笑顔を向けてくれるのだろうけど。
「……」
重石のような後悔を抱えながら、情だか負い目だか分からないものにばかり縛られて――不自由な女はトリガーに指をかけた。
理不尽を壊したいのか、何かを救いたいのか、それとも救われたいのか分からないままに。
「……あ、あんたの事情は知らねぇが見逃してく――」
「――遺言つったろ」
ダン、と。
素っ気無く呆気無く銃弾が男の眉間をくり抜いた。
子供を専門に狙う誘拐犯、男は奴隷商――そして更にはその後ろ盾となる有力貴族に繋がっているらしいと聞いた。
(クライアントが本当の事言ってるかは知らないけど)
コルネリアは実に見事に鼻が利く。
故にこれは悪徳の街に『生きていてはいけない男』が一人死んだだけである。
懐から煙草を取り出し、大きく紫煙を吐き出したコルネリアは今日の仕事を終えただけだ。
「……
特異運命座標とは全く違う仕事風景は、コルネリアをよく知る者からは信じ難い姿だったかも知れない。
そこに人好きのするシスターは無い。
居るのは、不器用な女が一人だけ。
善良足り得ぬ己を嘆き。
絶望を撃ち抜く為に戦い。
血濡れた手と背負った罪に一人で傷付く一人の女だけだけど。
(――懺悔なんてしねぇよ。絶対に。
この罪は――アタシ以外の誰にも触らせない)
――赦させは、しない。
「ガキに林檎買っていこ」
今も胸の中に蟠る残夏の匂いをコルネリアは今日も振り払った。
コルネリア=フライフォーゲルは酷く脆い。
しかし、やせ我慢を忘れる程、弱い女では有り得ない――
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- 残夏完了
- GM名YAMIDEITEI
- 種別SS
- 納品日2022年06月03日
- ・コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)