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しとしと降れば
しとしと降れば
登場人物一覧
雨水は分厚い雲から振ってくる雨が好きだ。
自身が水の精霊であるというのは大きな要因だけれど。
それ以上に好きなものがある。
――パタパタ、ポタポタ。
ニルが持っている傘を打つ、雨の音が好きなのだ。
「ひゃわ!?」
つるつつとした石の上を歩いていたニルが足を滑らせる。
雨水は咄嗟に水のヴェールを作り上げ、少年が転んで怪我をしないよう支えた。
「あ、ありがとうございます! クッションみたいなのです」
傘を横に傾けて立ち上がるニルが濡れないよう、クラゲのような形の水を頭上に広げた雨水。
「わあ、すごい。いろんな形になるのですね?」
「そうだね。僕は水の精霊だから、自由に形を変えられるよ」
少年姿の雨水から水が溢れて、やがて大きな塊となる。
ぐにゃりと波打った水の塊は、今度は青年の姿を取った。
「こうして、大人の姿にもなれるんだ。こっちの方がニルを高い高いできそうだね」
ニルの身体を持ち上げた雨水は肩車をして歩き出す。
――パタパタ、ポタポタ。
二人の耳に聞こえてくる雨の音。ニルと過ごすゆったりとした時間が雨水はとても気に入っているのだった。