PandoraPartyProject

SS詳細

羊と狼

登場人物一覧

ディルク・レイス・エッフェンベルグ(p3n000071)
赤犬
エルス・ティーネ(p3p007325)
祝福(グリュック)

●『赤犬』の扉
 ラサ傭兵商会連合――
 その名が示す通りかの勢力は世界最大の傭兵集団であり、商会連合である。
 自由を尊び、完全なアライアンスを示さずに風のように混沌をかける――難しい舵取りと言えばギルド・ローレットも同じだが、特異運命座標及びそれに味方するギルド条約という特殊な背景、盾を持たぬラサの立場を確固たるものに維持し続けているのはかの国の武力であり、政治力であるのは明確だ。
 そのラサの中でも指折りの――もっと言ってしまえば一番の――実力者、事実上の首魁と目されているのが傭兵団『赤犬の群れ』を率いる赤毛の傭兵ディルク・レイス・エッフェンベルグである。
 若い頃から伝説的冒険者として勇名を馳せた彼はローレットとも縁が深く、他ならぬローレットのギルドマスター、レオン・ドナーツ・バルトロメイと長きに渡る相棒関係にあったのは有名な話である。
 ラサの現況は彼の手腕による所も大きく、それが故に彼は雁字搦めに忙しい人間でもある。
 何時も余裕風を吹かせ、軽口は留まる所を知らない。
 全くそれを見せない性格ではあるのだが、だからといって現実が変わる訳では無い。
「……だ、だからっ……」
 だから、この日。
『氷結』Erstine・Winstein(p3p007325)が赤犬の群れの門を――ディルクの邸宅の門を叩いたのは必然と言えただろう。

 ――今日も忙しそう……ディルク様……

 何時も自信に満ち溢れた彼は精力的なバイタリティの塊だ。

 ――でも、少し疲れていらっしゃるような……

 気のせいかも知れなかったが『何時も彼を見ていた』Erstineは些細な変化も気にかかった。

 ――最近、お休みになられていないような。酒場でもお姿を見かけないし……

 ザントマン事件で心労も募っているかも知れない。
 余程の事が無ければ必ず飲みに出る彼の姿が見えないのは幽かに不安だった。
 とは言え、Erstineは酒を呑んだりはしないのだが、それでもだ。果実水でもその場に居たい。

 ――何か傍で助けになれればいいのに……
   でも……メンバーでもない自分に何が出来るかしら……?

 結論から言えば何も出来ない。
 ラサの民にも、誰が相手でも弱気を見せるような相手ではないのだ。
『赤犬』の中での彼は知れないが、万が一頼られる事があったとしても、まずはそこになるだろう。
 だから、この日。
 Erstineは決死の覚悟でここに来た。

 ――何時でも遊びに来なよ。歓迎するから――

 ディルクの軽口を軽口と理解しながら、理解していると必死に自分に言い聞かせ。
 敢えて真に受けて、本当に彼の扉を叩いたのだ。
「だから、私は――その、あの! ……その、えっと……!」
「おいおい、何そんなに固くなってるんだよ。アンタは」
 挙動不審がいよいよ極まるErstineをディルクは楽しそうに眺めていた。
 彼の部屋に彼と共に控えているのは『赤犬の群れ』のメンバー達だ。
 何れも屈強な――如何にも強そうな連中がErstineに注目しているのも彼女を硬直させる理由にもなっているのだろうが。
「ディルク様……今日もお忙しそう、ですね……
 え? そわそわ? 不自然? うぅ……私そんなにわかりやすいでしょうか……
 ……えっと、です、ね……」
「御頭、『また』悪い遊びで引っかけたりしたんですかい」
「ひ、ひっか……!?」
「こんなお嬢ちゃんに悪いお人だぜ」
 げらげらと笑い出した周囲にErstineは目を白黒とさせていた。
『尊敬する』――あくまで本人はそう言っている――ディルクにあらぬ疑いが、それも自身如きが理由でかけられる事は何とも言えず彼女には『困る』事であり、その流れを必死で否定しようとしてはいるのだが……
(もうこの時点で呆れられてる気がするけれど……う、うう、死にたい……)
 場の空気と何より愉快そうなディルクの視線が自身に注がれている事がそれを一気に難しく変えていた。
「ぁ、あの! ……その、えっと……」
「落ち着けって、とって食いやしねぇから。
 ……てめぇらもいちいち茶々入れんなよ。俺の客だぞ?」
 Erstineを宥めながら周囲に苦笑するディルクは根気良く彼女の話を引きだした。
 紆余曲折、上手く行かない――何ともたどたどしい会話はそれからも数分続き、それでも彼女は覚悟を決める。
「難しい言葉は飛んだので単刀直入に……
 わ、わたし……あ、赤犬の群れに入りたいです……!
 と、ぉ、お思いまして……ええ!」
 言葉の後半は見事な位に裏返っていた。
 極度の緊張とディルクのきょとんとした顔、言葉を受けてゲラゲラと笑い出した周囲にErstineの白い貌に朱色が差した。
「おいおい、冗談だろう?」
 掛けられる言葉は当然の事と知っている。
「俺達は子守の趣味は無いぜ」
 分かっていた。『赤犬』に入れる力なんて無い事は。
「冗談は辞めてくれよ。それとも何かい? お嬢ちゃんは『女らしい仕事』でも出来るのかい?」
 下卑た冗談は軽侮であり、いよいよ顔を赤くしたErstineは俯いて唇を噛むばかり――

 ――ドン、と。


 不意に鈍い音がした。
「俺はな、同じ事を言わされるのが嫌ぇなんだよ」
 面を上げたErstineが視線をやれば、壁にはナイフが刺さっていた。
 最後の言葉を口にした男の鼻先を掠めて壁に突き刺さったナイフは視線すらやらずにディルクが投擲したものだ。
 彼は赤くなったり青くなったり忙しいErstineより一時たりともその視線を外していない。
「お嬢ちゃんは俺の客だって言ったよな」
 蒼褪めたメンバー達は無言で頷き、部屋の中は嘘のように静まり返る。
「成る程ね。『赤犬』に入りたいと」
「は、はい……っ! 先程の皆様の言葉も、私の力不足故です。甘んじて受け入れます……
 ですが、どうしても、その、尊敬するディルク様の力になりたいと……
 う、ひ、引っかけれたとかそういう事ではなく! 敬愛する、ラサの――」
「――分かってるよ。でもな、お嬢ちゃん。
 実際、そいつ等の言った事も案外間違っちゃいないのさ。
 俺の戦い方は、ついてこれねぇ奴の面倒を見るに向いてない。そういう流儀なのさ。
『赤犬』に居るならその流儀に一致しなきゃいけねぇ。アンタには……無理じゃなくてもまだ早い」
「……っ!?」
 予想通りの言葉にErstineは咄嗟に言葉を返せない。
 ディルクの伝説は知れている。彼はラサで最も危険な男である。
 言葉は優しく選ばれているが、要は足手まといは要らない、という事になろう。
 ならば、当然赤犬の牙は――彼の戦いは防御を知らない。『喰い殺すのみに特化しているのだから』。
「……」
「それにな」
 無言のErstineにディルクは苦笑して続けた。
「俺の勘違いかも知れねぇが――アンタは俺を……
 いや、いいや。それは置いといて、これはこっちの問題でもある」
「それは、どういう……?」
 聞き捨てならない台詞を聞いた気もするが敢えて考えずErstineは問い返す。
「俺は、テメェを慕う女に怪我なんてさせたかないのさ。それが一番」
「し、した……!?」
「間違ってる?」
 ディルク・レイス・エッフェンベルグは見ての通り最悪の男。
 Erstineは声を張る。
「ま、間違ってはいません。そ、それから……その、諦めませんから!」
「ああ、そうしてくれ。精々期待して待ってるから」
 見ての通り――最も危険な男だった。

  • 羊と狼完了
  • GM名YAMIDEITEI
  • 種別SS
  • 納品日2019年10月04日
  • ・ディルク・レイス・エッフェンベルグ(p3n000071
    ・エルス・ティーネ(p3p007325

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