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SALIGIA

登場人物一覧

ルブラット・メルクライン(p3p009557)
61分目の針

●TAKE……
「最近の映画館フードって凄いんだよ。タピオカもある」
「たぴおか」
「そう。イモから生成したデンプン質の塊」
「揚げ芋があるのなら、たぴおかがあっても不思議ではない」
「それもそうか」
「何やってるのよ、アンタたち」
 あきれ果てたマーレボルジェの声に白黒の二人が同時に振り返る。
 ルブラット・メルクラインと映画蒐集家はキッチンワゴンの上を同時に指さした。
「今から映画鑑賞だ」
「剥製ちゃんも一緒にどう」
「何がどうしてこうなった。いや、待て」
 理解できない情報を脳や頭蓋へ揉みこむようにマーレボルジェは薄い瞼を閉じる。
「前にもこんなことが無かったかしら?」
「ふむ、大丈夫かね」
 ぐりぐりと眉間を揉み解すマーレボルジェにルブラットは淡々と声をかける。
「ちなみに私は初めての映画鑑賞である心算だ。既視感など微塵も感じていない」
「わざわざそう言うって事は既視感覚えてんじゃない!?」
「ふふふ、シェルドレイクの形態形成場仮説というやつだね!!」
「何だ、それは」
「別次元にいる別の自分が起こした影響が多重世界に存在する他の自分にまで波及するってことよ」
「ふむ、奇妙な考え方だ。だが面白い」
「哲学をモチーフにすると映画ってなぜかエロとグロと前衛芸術になるの。あれ何でだろう」
「自分で振った話の腰を、凄い勢いで折っていったわね……」

●第二回戦
「サメや動物を出した時点で無条件でA級になると僕は思う。たとえタイトルが『サボテンシャーク』だとしても」
「その辺りの精神性については視聴済み個体の検証数が少なく分析出来ないためコメントは差し控えさせて頂く」
「あのサメとサボテンの合成模型、加工が甘いわ」

「恐竜と怪獣については迂闊に語ってはいけないと思うんだ」
「何の話だ?」
「宗教戦争の話ね」

「この巨大な竜が実在するのなら私の街などすぐに消え去ってしまいそうだ」
「竜ほしいー」
「竜超欲しいー」
「実在するのか? 竜は」

「映画マラソンの休憩中にホットアイマスクするのって最高にテンション上がる無駄な贅沢だよね」
「そうね。無駄ね。テンションは上がらないわ」
「良い香りがするのは気に入った」
「そしてルブラットは本当にアイマスクをしているのか否かも分からないわ」

「今までの物を見るに殺人鬼の毒殺ものが少ないように感じる」
「そうかな?」
「病原菌一強の風潮を何とか払拭したい」
「毒って見た目が地味だから無理なんじゃない」
「そんなことはない。地味でもしっかりと仕事をこなす。死にざまも中々惨いのだから殺人事件向きの凶器だ」
「そうね呪いとか言って毒殺していくのは良いわ」
「毒と呪いは違う。同類として取り扱うのは間違っている」
「すごい力説」
「そうねごめんなさい」
「まさかの謝罪」
「ちなみに水銀を取り扱った殺人の映画は……あるのか。そうか、多いのか。そうかそうか」
「水を得た魚のように生き生きしている……」
「自分以外の水銀推しを見つけたのよ? 喜ぶに決まってるじゃない」


●嫌な映画を見た時(映画蒐集家視点)
「許し給え、赦し給え」
 暗黒時代の生き残りが、白い手で許しを乞うている。
 頭蓋骨に似た長い嘴の面が幽かに震え、墨絵のような幽玄な世界で祈る姿の何と美しい事か。
嚠喨りゅうりょうなる喇叭が吹き鳴らされる日には嗚呼、喜んで地獄に堕ちようとも」
 この不可思議な初児は畏れの方向性が狂っている。
 罰せられることを望んでいるのに己の罪業を五月の薔薇のように愛でている。
「だが背徳の魂に嚢の膿が溜まっていようとも、信仰だけはこの手から奪わないでくれ」
 神を冒涜するだけで、否定するだけでほら。こんなに怯えてしまって。
 何と無垢で愚かな生き物だろう。
 蒼白き亡霊のように生界を彷徨い、踏み躙られた鶫のために墓を作り、同じ腕で死を施している。
 自覚有りの矛盾。制御外の双極。現代社会に齎された古典主義。
 ゆえにルブラット・メルクラインは他者にとってルビンの壺だ。
 白と黒で現した灰色。
 神はこの者に均整さを与えなかったのだろうか。
 恐らくは与えたのだろう。
 世界はこの者に忍耐を与えなかったのだろうか。
 恐らくは与えたのだろう。
 誰かがそれに罅を入れた。そして誰かが徹底的に壊した。
 何と羨ましい事だ、何と妬ましい事だ。

  • SALIGIA完了
  • NM名駒米
  • 種別SS
  • 納品日2022年05月29日
  • ・ルブラット・メルクライン(p3p009557
    ※ おまけSS『九姉妹伝承に纏わる推論』付き

おまけSS『九姉妹伝承に纏わる推論』

 九姉妹伝承ナインシスターズ・ナイトメアとはコバルトレクトに存在する九人の女神に纏わる神話体系である。
 彼女達は九人ではなく三つの側面を持つ女神であったとも、姉妹ではなく九人の魔女仲間であったとも言われている。
 ただ共通しているのは「コバルトレクト各地に同時期に同類の神話」が発生したという事実である。
 征服者の信仰が土着信仰を取り込んだとも、あるいは九人の女神が本当に世界各地を渡り歩いたとも考えられる。
 どちらにせよ三女神である場合は「運命神」としての側面を強く持ち、九女神である場合は「芸術神」としての側面を持つ事が多い。
 多神教とは唯一神と真逆のベクトルで存在していると思われがちであるが、実際は歴史上のどこかの段階で二つの宗教は和解し教義が融和されたのでは無いだろうか。その証拠に唯一神は三位一体で永遠性を表現し、九姉妹は三相一体で表現される。
 また現在の倫理観や宗教観と照らし合わせると儀式や信仰が非人道的であったためしばしば『ナイトメア』の呼称が付け加えられる。

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