SS詳細
君と帰る場所を探して
登場人物一覧
●
「おはようございます。エドワード・S・アリゼ様にエア様、それにコト様ですね?」
ログハウスの店舗に入ると、カウンターの裏から丸っこいヤマネの獣種が現れた。
コトは自分と同じ大きさの相手が珍しいのか、嬉しそうにピャーイと鳴いてエドワードの頭から飛び降りた……ところを流れるようにエアに捕獲される。
「この度はナナカマド不動産をご利用いただき、誠にありがとうございます。担当のモリソンです」
「よろしくお願いしますね、モリソンさん」
「それで早速なんだけどさ。前からお願いしてた新拠点の話、良い物件あったかなーって」
エアとエドワードの前でモリソンは丁寧に膝を折り、両手をついて頭を床につけた。
「死んで詫びます」
「ええ!?」
「ピャ!?」
「死んだらダメですよ?」
「我々はぁっ……何の成果もっ……ぐすっ、えられませ」「わーっ!? すとっぷストップー!!」
出会いがしらに土下座をかまされた一行は慌てたようにモリソンを抱え起こした。
エドワードとエアは自分たちの活動拠点を探している。
もちろんワイバーンの雛であるコトも一緒だ。
そのため二人と一匹はそれぞれの意見を出し合い、楽しくも過ごしやすい拠点にするべく様々な物件を吟味している最中である。
その物件探しを任せている不動産屋の一つが、この『ナナカマド不動産』であった。
「死んじゃうなんて簡単に言ってはダメですよ。冗談でも、言えば悲しむ人がいるんですから」
「はい……」
割とガチめの説教をエアから受けながらモリソンは来客用ソファの上で肩を落とした。
「もしかしてさ、良い場所が見つからなかったのか?」
「いえ、あるにはあったのですが」
優しくエドワードに諭されるとモリソンは言いにくそうにヒゲをムズムズさせる。
「深緑の件で……燃えまして……」
「あぁ……」
「それは……」
「確認出来ませんけど、多分、燃えてます……」
蚊の鳴く声で囁いたモリソンに、エドワードもエアも同情の声をあげた。
「時勢的なもんは、しょうがねえよなぁ」
「そうですよね」
しかし燃え尽きた風体のモリソンの目には光も希望も戻らない。
「そ、そうだ!! 他の候補はないのかっ?」
「そうですよっ、混沌には素敵な場所はいっぱいあるはずですっ」
これ以上モリソンの思考が負の方向へ舵をきらぬよう、矢継ぎ早にエドワードとエアが質問をする。
「あっ!!」
モリソンの目に力が戻ってくる。
エドワードもエアも、コトですらもやれやれと胸を撫でおろした。
何とも心臓に悪い会社である。
●
「まずは覇竜の物件ですね。この国は今イレギュラーズが大ブームということで、素敵な土壁と洞窟のお家をご用意してくれるということでした。コト様の生まれた環境にも近く、広い土地も確保しやすいことから亜竜やモンスターには住みやすい環境と言えるでしょう」
「土壁と洞窟のお家?」
「山ごと洞窟をくりぬき喫茶と居住区域に分けた物件です。なんと地底や空からの攻撃にも迎撃可能」
「ちょっと待ってくれ」
エドワードは手をあげ静止をかけた。
「あのさ、オレの聞き違いかもしれないけど。今迎撃って言ったか?」
「はい、何せ覇竜ですので。少し村を離れたら日常茶飯事サバイバル」
「う~ん」
「ぴゃ~」
腕を組んでエドワードは唸った。
確かに素敵な家だが、皆で仲良く安心して暮らせる拠点を作りたいのに毎日襲撃される物件を購入しても良いのだろうか?
「ちなみに現地の女性へインタビューしたところ『イレギュラーズの経営するカフェ。アタシなら間違いなく毎日通いやすね。アタシの知ってるイレギュラーズの御方たちの話になるんですが、飯が激烈に美味んすよ』と仰っていました。なので開店すれば大繁盛間違いなし」
「いや、カフェの運営は検討中なんだ」
「あらら、そうでしたか」
難しい顔をしたままエドワードは頷いた。
「よしっ、じゃあ次の物件について教えてくれ」
●
「次は海洋ですね。こちらの物件は何と、建物だけではなく島が丸ごとついてくるお買い得物件!」
「海洋の島かぁ。うん、いいかもな」
先日海洋に遊びにいったエドワードはその時に見た光景を思い出していた。
青と太陽が輝き、夜になると一面の星空が広がる漣の世界はエアやコトにもぜひ見せたい光景だ。
「白い砂浜に青い海、とってもトロピカルで素敵ですねっ」
「ピャッピャッ」
エアも興味津々といった様子でパンフレットをめくっている。
「静寂の青といえば今海洋でもっともホットなスポット。カムイグラとの交易が盛んになっているとも聞きますから、これからドンドン発展していくでしょう。冒険や開拓者魂が燃える方にもおススメの物件となります」
「そうなんだ。なぁ、拠点がどんな建物か見られたりってするのか?」
「できますよ。カタログの、このページですね」
「これは……っ」
パンフレットを見ていたエアが驚きで言葉を失った。
「クラシック系の内装をご希望ということでしたので」
「確かにクラシックだ、けど」
骸骨に似た霧に包まれた洋館は控えめに言って廃墟。率直に言って呪われた屋敷であった。
しかし思いこみは禁物だとエドワードもエアも気を取り直す。もしかしたら掃除してないだけのトマト祭り会場かもしれない。
「此方は元々死霊術師のお屋敷でして、今でもたま〜にゾンビやゴーストが出……おや、お二人とも顔色が悪いようですが?」
「お、オレは大丈夫だぜ」
「わ、わたしもです」
気のせいじゃなかった。見たまんまだった。
ぐっと堪えるように腹筋に力をこめたエドワードとエアは力のこもった瞳を見開いた。
「では次の物件をお願いします!!」
●
「はい。最後は幻想の物件になります。少し人里離れた森になるのですが、近くにお花畑や湖畔もあって自然が豊かな良い場所ですよ。交通量もあるので道も綺麗ですし、メフ・メフィートまで馬車で半日という距離も強みですね」
一階は赤煉瓦を積み上げて造られた喫茶店風の建物。
まるで小人の家の入口のような愛らしい扉を開けると大きな柱時計に煉瓦の暖炉、それからクルミ材のカウンターが目に飛び込んでくる。
光沢のある珈琲色のテーブルセットはカウンターや扉と同じ木材を使っているのか、室内を落ち着きのある空間にしていた。
二階は漆喰の白壁に囲まれ、窓からは燦々と太陽の光が差し込んでいる。
窓辺に花籠を飾れば、さぞかし映えるだろう。
「元々は貴族の若いご夫婦が道楽で
「客間が多いのは、そのためなんですね」
「ええ。街の喧騒から離れ、友達を呼んで湖や森を散策して美味しい食事をとる。そんな場所をお求めだったようです。庭も広くてキッチンガーデンやバーベキューガーデン、果樹園もありますよ。今は大自然に飲み込まれてますが、少し手入れしたら使えるでしょう」
エドワードもエアも、固唾を飲んで続きの言葉を待った。
今までの流れからいくと、この物件にもオチがつくのだろう。
「……ッ」
「……っ」
「ピャラッ」
「以上で、物件の紹介は終わります」
「え?」
「本当ですか?」
多大な疑問を含んだ問いかけが、交互に二人から飛び出した。
「はい。それで、どうでしょう。気にいった物件はありましたか?」
そう言ってモリソンは爽やかにカタログのページを閉じた。
おまけSS『ナナカマド不動産カタログ』
No.1 深緑の拠点
大きな木を組み合わせて造ったダブテイルログハウス
テーブルが切り株とか、梁に薬草やドライフラワーを吊るす自然一体型
大草原の小さな家(小さくはない)のイメージでした
No.2 覇竜の拠点
カッパドキアの洞窟ホテル
自然の地形を生かした天然要塞
ギリシア風アンティークな内装と床のモザイクタイルが素敵です
No.3 海洋の拠点
南国の島国に佇むオペラな劇場……もとい洋館
外部との連絡がつかなくなり船は壊され
高確率で巨大な密室になる場所をイメージしましたが
海洋(トロピカル)が原型にあるので実際はもっと穏やかです
No.4 幻想の拠点
森の中のオーベルジュ
吟遊詩人がフィドル弾きにやってくるイメージです
クラシックなインテリアと聞いて真っ先に思いついた拠点案が此方
仲間たちがわ~っと集まったり、外に牧場や草原があったり
お洒落で可愛くてレトロな雰囲気を目指しています