PandoraPartyProject

SS詳細

犬か? 猫か?

登場人物一覧

ディルク・レイス・エッフェンベルグ(p3n000071)
赤犬
リノ・ガルシア(p3p000675)
宵歩

●ネフェルストの夢
 混沌世界の砂漠地帯、その中心に位置するオアシス――
 旧く高名な吟遊詩人が『夢の都』とも称したネフェレストは非常に美しい街である。
 ラサ傭兵商会連合の本拠地としても知られるネフェレストは物流の要衝であり、文化の交差点でもある。異国情緒と活気に満ち溢れた都は、ラサが比較的政治的平穏を保っている事も手伝って栄華を極めていると言える。
 さて、そんな街だから――煌びやかさが特筆するべきなのも頷ける所だろう。
 表通りには酒場や料理店が並び、店内からは楽しげな――そして些かやかましい――酔客の声が漏れている。
 表通りはそれでも『治安の為』と上層が決めた幾つかの取り決めが体面上生きてはいるが、一歩路地を裏に進めば、これまた『別の意味で煌びやかな世界』が広がっているのは特筆する必要もあるまい。
 ネフェレストは夢の都。
 幾多の運命の交差する街。
 誰もそれを疑わず、一夜の夢も、常夜の願いも否定されまい。
 ラサは傭兵と商人の統べる場所。悪徳も欲得も、多少の暴力もスパイスだ。
 だからと言う訳ではないのだが――
「実はハジメマシテ、ではないのだけれど――」
 ――『宵歩』リノ・ガルシア(p3p000675)が足音も立てずに、酒場の一角で木のカップを傾ける赤髪の男に歩み寄ったのは、女の余りにも出来た所作と共に完全にこの街の夜の風景、日常に溶け込んでいると言えた。
「――リノ・ガルシア。覚えていてくれたかしら?」
 怜悧な美貌の隅、赤いルージュの口元に蠱惑色の笑みを乗せ。
 まるでからかうような調子で語るリノは、男の対面の席に座る。
 彼は――喧騒の中でも周りから一段『浮いて』いた。それが周囲からの畏れなのか、彼がそれを望んだかなのかは知れなかったが、何れにせよ彼女の度胸が十分なのは敢えて言うまでもないだろう。
「は。馬鹿にするなよ」
 男――このラサの首魁の一人ともされるディルク・レイス・エッフェンベルグはそんなリノの言葉を鼻で笑った。
「いい女は一度見たら忘れない性質でね。あれだろう、レオンの所の女。二年くらい前に同じこの街であったっけ?」
「あらあら。お上手ね。
 これでも連合に所属する傭兵一族のひとりよ。『今夜は偶然でも赤犬サマにお会いできるなんて光栄だわ』」
「そりゃ、御機嫌な偶然もあったモンだぜ」
「うふふ。砂漠の神様の感謝かしら。
 で、本題。相席しても良い? 一度アナタとお酒を飲んでみたかったの」
「断る理由はねぇな。アンタがどれだけ危ない女でも、ね」
「あら、酷い」
「甲斐性って思いなよ。『俺は俺が望む限りは相手を選ばない性質でね』」
 ディルクは対面に座ったリノを笑みを含んで一瞥した。
 手を上げて酒場のマスターに「同じものを」と声を掛ける。
『酒場で偶然に出会った男女、それも顔を見知った程度の仲ではあるのだが』。
「ギルドマスターに聞いていた通りね。あっちの彼の話も気にはなるけど――」
「――レオンよりいい男が目の前に居るんだぜ。今日はこっちにしときなよ」
「あらあら! でも、そうね。
 そりゃあ、良い男だもの。国中の女が放っておかないんでしょうね」
 ……この二人の場合、双方が余りにも手慣れ過ぎていた。
 何の澱みも無く宵の歓談は始まって、距離感はまるでそんな風でも無い。
 最初は対面に座って始まった俄かの飲み会も、立ち位置を変えていた。
 気付けばソファの隣を自分の位置と滑り込んだリノは相当なペースでカップを開けるディルクの杯を空にしないよう、それは見事な手管を見せていた。
「いいね、結構やるじゃん?」
「いいえ、これでも精一杯。そちら、とても強いみたいだから――」
 付き合う彼女も酒豪だが、酔いに潤んだ瞳は半分は本当でもう半分は作為的な代物だ。
「――やァん、ほら。飲み過ぎたみたい。歩くのが怖いわ、手を貸してくださる?」
「良く言うぜ。だが、ぼちぼち潮時か?」
「そうね。春の終わりでも夜は冷えるわ、人肌が恋しくなるくらいには」
 リノのこの言葉は耳元で囁く酒の香りの吐息である。
 強い魅惑は砂漠の酒よりも強い酩酊で、大抵の男をその気にさせる軽い毒。
「いいね。長い夜をこんな場所で終わるのも退屈だし――」
 ディルクの言葉を耳に挟んだ酒場のマスターが「こんな場所で悪かったな!」とやり返した。
「相変わらずモテるねぇ」と周囲が苦笑い交じりに軽口を叩けばディルクは当然のような顔で「まぁな」とだけ返す。当然ながら相手はと言えば何とも言えない顔で絶句する他は無い。
(あらあら、徹頭徹尾――本当に見事な位、絵になるのね……)
 何時かギルドマスター――彼の相棒だったというレオンに話を聞いた事があった。
 彼自身もリノに言わせれば相当な伊達男なのだが、その彼をしてディルクは。
(頭に来る位モテる、だっけ。
 ま、この程度で他ならぬ赤犬(かれ)が篭絡できるとは露ほども思っていないけれど――)
 自分の魅力に自信が無い訳ではないが、名にしおう赤犬は、ラサの男はそう単純では無いのだ。
(――でも、それでも。肌の一つも合わせれば、解る事もありそうなものじゃない?)
 しなやかなこの女豹にとって常に情報は武器である。
『個人的興味も手伝って、赤犬の人となり、趣味嗜好を知るのは悪くない』。
 ディルクがまず口にした『危ない女』はリノの場合決して間違いでは無い。やぶからぼうにそう呼んだ彼も大概だが、本質を突き付けられても艶然と笑んだリノも同じくである。
 両者の本質は近く――『彼女が危ない女だとしたら、彼は輪をかけて危険な男』に違いない。
「しかし、いい性格してるね、このお嬢さんは」
「名前で呼んでは下さらないの?」
「それは『この後』で決める事にしよう。ああ、一応確認だけしておくが――」
 しなだれかかるリノを当然の顔でリードするディルクは言う。
「――『本題』の他も。当然、俺はお眼鏡に叶ってるんだろう?
 それで大分、そうだな。この先のやり方が変わる。答えはどっちでも構わんがね。
『どうせいいようにしか解釈しないから』」
「――アハ!」
 冗句めいたディルクにリノは今夜一番の破顔を見せた。
 気に入って貰えればいいコネになる、この稼業、上客との繋がりは何より重要だ。
 しかし、しかし。なかなかどうして――
(今夜はまるで、趣味と実益を兼ねてるじゃない)
 ――酔いの所為かは知れないが、『女心』が苦笑する。
「――じゃ、行くとするかい。お嬢さん」
 不敵な顔で手を差し出した赤犬は全く嫌味な位のいい男……

  • 犬か? 猫か?完了
  • GM名YAMIDEITEI
  • 種別SS
  • 納品日2019年10月04日
  • ・リノ・ガルシア(p3p000675
    ・ディルク・レイス・エッフェンベルグ(p3n000071

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