SS詳細
クソザコ教導
登場人物一覧
沈み行く暁の丘に、二人の金髪縦ロールお嬢様(?)が立っていた。
夕焼けに解けるようなワインレッドのドレスを纏った二人が、がしりと握手を交わす。
「流石ですわ、タント! それでこそわたくしのライバル!」
「いいえビューティー。あなたと一緒だからこそ、ですわ!」
きらりと光る二人の目。
――御天道・タント(p3p006204)
――ビューティフル・ビューティー(p3n000015)
二人の目の中に、お互いが大きく映り込んだ。
燃える太陽を背景に。
「いまこそ――わたくしに秘められし伝説のギャグキャラ特性レジェンドオブビューティフルパワータントエディション。略して『LOビューティフルタントパワー』免許皆伝ですわ!」
「ビューティー!」
「タント!」
互いの健闘を称えあい、強く抱擁を交わす。
なぜこんなことになったのか。っていうかレジェンドオブビューティフルパワータントエディションってなんなのか。だいたいなんでいつもこの二人はなにか終える旅に暁をバックにするのか。それを語るために、まずは一ヶ月ほど前まで遡ることとしよう。
●きらめけぼくらの日常風景
スズメちゃんの飛んでいく昼下がりの幻想王都。
ギルドからだーいぶ離れた通りの裏のもういっこ裏。普段あんまり人が通らないような細道沿いに、そのヘンテコアパートはあった。
「ビューティー、この続きありませんのー?」
「今読んでますわー」
サイケデリックな色彩と造形。何よりも象徴的な『住人がとびだします』と刻まれた巨大な大砲。ほかに住んでるひともいるだろうにクソザコアパートと命名されてしまったこの建物の二階西側の畳部屋。
開け放たれた窓に吊るされた小さなピンチハンガー越しに、あの二人はいた。
「もうすぐで読み終わりますから、そうしたら貸しますわね」
夏も終わろうという九月の陽気と、窓の外には空しか見えない数畳一間のアパート和室。そんな空気で完全に油断した薄着姿の二人は、ただ静かに漫画のページをめくる音をぱらりぱらりとならすのみ。
外から差し込む西日が、ハンガーにかけたワインレッドのドレスを照らす。
「まあ!? 瓜妖怪キューカンバーが死にましたわ! 重要なキャラクターの筈なのになぜ!? 次号へ続く!? ビューティー、いますぐ貸してくださいまし!」
「でもまだもう少し……アッ」
畳の上に乙女座りして漫画を読んでいたビューティーが消えた。
消えたというか、足下にいきなり空いた穴にストーンと落ちていった。
「ビューティー!?」
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
次の瞬間。アパートから突き出た大砲からビューティーが射出され、遠いローレットギルド酒場まで煙の放物線を描いて飛んでいった。
「ええ……」
これにはさすがのタント様もどん引き。もとい、なんで急に飛ばされていったのか分からず頭上にハテナマークを浮かべまくった。
「これが噂に聞くアパートキャノンですのね。射出風景を見るのは初めてかもしれませんわ」
なんでもこのキャノンを使うとギルドまで直通で出勤(?)できるらしく、ギルド側にある『クソザコクラウン』のボタンを押すと遠隔操作でいつでも射出する仕様になっているという。ボタン一つでどこからともなく召喚されるロボってきっとこういう気持ちなんだろうなあとうっすら思うタントであった。
「それにしても激しい射出でしたわね」
いくら体力モリモリタント様であってもこんだけ勢いよく遠くまで飛ばされたらとんでもないダメージを受けそうなもんである。まあでも? 『フライングタント様』を用いれば安全な着地とて容易に……。
「ハッ! ビューティーは飛べませんわ! いまごろギルドの屋根に突き刺さって……いけませんわ! 今すぐ手当しませんと! ビューティーッ! 今行きますわ!」
バッと立ち上がったタント様、と全く同時に玄関の引き戸がガラッとあいた。
「ただいまですわ」
「ってもう帰ってきましたわー!」
スッテーンとおでこから転倒するタント。
「あらどうしましたのタント。……あっ、もしかして漫画ですの? ごめんなさいね、わたくし持ったまま家を出てしまって」
はいどうぞと差し出された漫画。
すりむいたおでこをあげるタント。
無傷でぴんぴんしてるビューティー。
「ビューティー、あなたなんともありませんの?」
「の?」
二人、同時に首を傾げた。
そしてタントの脳内とおでこにかつての記憶がよぎっていく。
サイクロプスの目に刺さるビューティー。壁に刺さるビューティー。自爆するビューティー。どのビューティーも気づけば無傷でぴんぴんしていたし次の日にはなんにもなかったかのようにケロッとしていた。
おそろしきタフネス。
ライバルながら……いや、ライバルだからこそ見習うべきところがありますわね!
「あ、キューカンバーならこの巻でサイボーグに――」
「ビューーーーティーーーーーーー!!!!」
タントが両手をびたーんと伸ばして地面におでこをくっつけた。
「これはまさしく『土下でこ』。
かつて異世界の中国王朝にて国いっこちょーだいと頼み込んだ遣使が繰り出したという土下座土下寝焼土下座を上回る究極の姿勢。
潔さと美しさそして何よりも強烈なきらめきをもったこの姿勢から繰り出される懇願を人は決して断われないといいます」
押し入れの襖をがらっとあけて出てきた泥妖怪ドロパック(35歳独身ピザ配達員。ウーバーで副業中)が漫画を手に解説した。
「貴女の強さを、そのタフネスの秘密をわたくしにご教授くださいましーーーーーー!!!!」
くださいましー
くださいましー
くださいましー
こだまする声。
こうして、タントの修行は幕をあけた。
●レジェンドオブビューティフルパワーとは
「どんな怪我をおってもどんなに心えぐられても次の日にはケロッとしているというビューティフル・ビューティーが生き抜くために身につけた唯一にして無敵の処世術――それがレジェンドオブビューティフルパワーです。
彼女が壁に突き刺さろうとも自爆しようともなぜか眼鏡(仮面)ひとつ割れていないのはこの力によって発現したギャグキャラ特性によるもの。
おなじタフネスを身につけるなら同じ伝説の力を体得するほかありません」
奥義書を開きゆっくりと頷く泥妖怪ドロパックさん。
目の前には激しい川が流れていた。
「え、え、本当にこのまま行きますの? 本当に?」
「なんでわたくしも? わたくし必要ありますの?」
丸太にしがみついたタントとビューティーが、激流の中をもんのすごい振り回されながら流れていく。
「「あ、あ、あああああああごぼぼぼぼぼぼぼぼ」」
二重の意味で回転しながら流れていく丸太に自らを固定し、下手したら死ぬ(というかなぜ死なないのかわかんない)ような水流をなんとか制御しようと試みた。
「ごぼは! タント、このままでは共倒れですわ! なにか手を打ちまごぼぼぼぼ!」
「んま! しかしこんなに激しく動く丸太を制御なんてできませんわ! せめて水の上に頭を出し続ける方法があごぼぼぼぼぼ!」
「はっ、そうですわ!」
激流にあおられながらも片腕を伸ばすビューティー。
タントはハッと何かに気づき、同じように手を伸ばした。
がしりと手が握られ、更にそれを強固とするべくお互いの手首を握り合った。
「そう。一本ではただの丸太。しかし二本連結したならそれはカヌーとなる。
一人では人生という激流のなかでおぼれてしまうかもしれないが、手を取り合う二人がいるならその激流を乗りこなすこととて可能なのです」
水上を走りながら解説する泥妖怪ドロパック。
「なるほど……ビューティーの強さは誰かと分かち合うことで生まれているんですのね。フフ、勉強させられてしまいましたわね」
「タント……」
「いいんですのよ。むしろ清々しい気持ちですわ。でも今度はわたくしがビューティーに教える番ですからね。きっと」
「いえ、その……」
ちらり、と自らの進む先。川の下流側を見た。
川の先がなかった。
というか。
巨大な滝だった。
「「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」」
「たとえ人生の激流をのりこなしたとて回避できないトラブルも、ある」
身体を膨らませ浮遊する泥妖怪ドロパックであった。誰なんだろうこのひと。
その後も特訓は続いた。
高速回転するハムスター式車輪の中を延々と走らされたり、竹槍だらけの落とし穴に落ちかけたり、横スクロールめいたダンジョンをダッシュで駆け抜けたり、鉄アレイとちくわが飛んでくるなかでちくわだけキャッチしたり。そんな中盤から古風すぎてちょっとよくわからない特訓が続き、そしてついに……。
「これが、最後の試練ですのね……」
ぎゅっと拳を握りしめ、タントは自らの胸へと当てた。
当ててから、両手を学校机の上においた。
キーンコーンカーンコーン。
イギリス式チャイムが鳴る。
赤い学生ジャージを着たタントとビューティーが、30人くらいは収容できそうな木目タイルの学校教室にぽつーんと二人だけ座っていた。
「どういう試練ですの」
「わ、わかりませんわ」
とか言っているとガラガラ開く扉。
赤ジャージに三つ編み(?)した泥妖怪ドロパックさんが出席名簿を手に入ってきた。なんだこの教室赤ジャージしかいねえ。
「今から暫くー、二人には学校生活を体験してもらうんや。せやけどこのチャイムが鳴ってからもう一度鳴るまでは、一回もビビってはいけないんや」
「ビビっては……」
「いけない……」
タント(赤ジャージ)とビューティー(赤ジャージ)の表情がピシッとシリアスになった。
途端。教室に灯っていた照明の全てが消灯し、学校らしき校舎すべてが暗闇に包まれた。
否、タントのおでこだけがなんでかほのかにぼんやり光っていた。
「なるほど……わかりましたわ」
椅子を引いて立ち上がるタント。
「人生一寸先は闇。己の放つ光だけで人生を切り開き行くべき道を探せということで――」
「んきゃあああああ!?」
ずんがらがっしゃんと音をたて、ビューティーがすっころんだ……と思われる。
肉眼ではよく見えない暗闇の中で、地面をぺちぺち手探りしながら困惑する様子が、空気で伝わってきた。
「ビューティー」
「た、たんと? いますの!? どこですの!?」
「ここですわビューティー!」
声をたどり、お互いの手をつかみ合う二人。
「光は己のためならず。こうして誰かの手を引いていくために、わたくしの光はあるんですのね!」
「そういう話ですかしら」
「いきますわよビューティー!」
ぐいっと腕を引き、タントは教室からの脱出をはかろう……として。
突如として校舎ごと吹き飛んだ。
「「大がかりすぎですわーーーーーーーー!!」」
言うべきことを言いながら、二人は煙の放物線を描いて飛んでいった。
ずどんとアパートの壁に突き刺さる二人の金髪ドリルお嬢様。
しばらくぴーんと刺さっていた二人はじたばた足をうごかし、もごもご身をよじり、そしてやっとのことで離脱した。
「なんという爆発。これではさしものわたくしでも……ハッ!」
タントは自分の服のあちこちを叩き、取り出した鏡で己の顔を見た。
あちこち煤っぽい黒いのがついてはいるものの、髪の乱れすらないぺっかぺかのタント様がそこにはいた。
「こ、これは……!」
「流石ですわ、タント! それでこそわたくしのライバル!」
そしてもどる冒頭。
沈み行く暁をバックに、二人はお互いの手を握り、そしてたたえ合うべく抱擁を交わした。
「いまこそ――わたくしに秘められし伝説のギャグキャラ特性レジェンドオブビューティフルパワータントエディション。略して『LOビューティフルタントパワー(ぴったり15文字)』免許皆伝ですわ!」
「ビューティー!」
「タント!」
「こうして二人はお互いが一人では無いことを実感しライバルとしてさらなる高みに達したのでした。ですが二人に降りかかる苦難の人生はまだ道半ば。伝説の力を手に、これからも強く突き進んで頂きたいですね。二人とも本当にありがとうございました」
「「オーッホッホッホ! オーッホッホッホッホッホ!!」」
――第二部、完!