SS詳細
はじめてを奪われてしまった話
登場人物一覧
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「……あら、いい依頼が」
恐るべきオイルワームが大量出現。
討伐を急ぎ願いたい。
報奨として――。
そのような張り紙を見かけたスザンナは、小さく笑う。
この程度の魔物であれば、造作もなく倒せるだろうという大きな自信が彼女を包みこむ。
オイルワームの討伐。ただそれだけを行うだけで名声と報酬が手に入るのだから。
……だが、この時。
彼女は知らなかったのだ。
『はじめて』を奪われることなんて――。
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ギルドの一角。そこでスザンナ・ウィンストンは初めての仕事を請け負うこととなった。
初めての仕事は討伐依頼にしたい。そう願って今回の『オイルワーム討伐』の張り紙を剥がし、受付嬢へと持っていって椅子に座る。
「では、今回の依頼についての説明をしますね」
「ええ、よろしくお願いします」
依頼を受ける前に受付嬢から説明を受けているスザンナ。
ギルドでは依頼が渡される前の事前説明のようなものがあり、討伐する敵の種類や特性等、戦闘に必要な情報が全て受け渡されるのが通例である。
だが……スザンナは現在、自分の実力は低級の魔物程度なら余裕で倒せるといった余裕に満ち溢れているためほとんど話を聞いていない。むしろ、説明を終えて早く討伐させてほしいとさえ思うほどにソワソワしていた。
今回ギルドへ持ち込まれた仕事は地上に出てきたオイルワームの駆除。および、土壌汚染範囲と作物被害の調査。とは言え冒険者であるスザンナにはオイルワームの駆除をメインにしてもらいたいとのこと。
というのも土壌汚染範囲と作物被害の調査はまた特別な知識を有したメンバーが必要になってくるため、今回に限っては土壌汚染等の調査をスザンナが行う必要はなく、調査に関してはギルド側で別途使者を手配してくれるのだそうだ。
「なるほど、なるほど……」
ふむふむ、と頷くスザンナ。ほとんど話は聞いていないのだが、相槌さえ打っておけば話が早く終わると思っての反応。未だに脳内は、オイルワームの討伐後を考えていたりもする。
そんな彼女の様子から受付嬢はしっかりと聞いてくれていると勘違いを起こしており、続けてオイルワームの習性について伝え始めた。
普段は地中深くで静かに暮らすオイルワームだが、この時期だけは繁殖時に必要な大量の栄養の補給のために地上へと姿を見せる。
地上へ出る際に地割れを起こして地表を思いっきり荒らし、移動時に分泌される体液は作物に多大な影響が出てしまい、更には土の性質が変化するなどの土壌汚染を引き起こしたりする地上災害に発展するため、早い段階で倒さなくてはならない。
また、繁殖期故に必ず2匹同時に現れることが確認されている。繁殖を邪魔されることを1番に嫌うため、縄張りに近づいてきたものは全て丸呑みにしてしまうそうだ。
「ふむふむ……」
「ですから、1匹を倒したとしても絶対に油断しないでください。周囲に隠れていたりするという報告もありますので」
「大丈夫、その辺りは冒険者として常識ですからね」
スザンナの返答に大丈夫そうだと考えた受付嬢は、続けてオイルワームの強さについて語る。
繁殖期で気が荒立っているとは言え、オイルワームそのものはさほど強くはない。
農家にとっては諸々の被害のおかげで最悪な害獣ではあるが、経験の浅い冒険者にとっては討伐のしやすさから討伐依頼の練習目標ともなっている。
また、悪臭や粘液による悪環境に慣れるための依頼としてオススメされる場合がある。今まで綺麗な場所で戦ってきた冒険者にとっては、劣悪すぎる練習場所かもしれないが。
「悪臭は本当に、気分が悪くなるかもしれませんが……」
「その程度なら我慢してしまえば大丈夫でしょうね。難しそうなら、鼻に詰め物とかしますし」
「その辺りを怠る人も多くて、たまに帰ってきちゃう方もいらっしゃいますからねぇ」
小さく笑った受付嬢。これまでにオイルワームの依頼は何件も来ており、その都度失敗してしまう冒険者もちらほらいるという。
そんな話に対して、スザンナの満ち溢れた自信はどんどんどんどん膨れ上がっていった。
オイルワームの習性とか、戦いに関しての注意点だとか、受付嬢から色んな注意をされているにも関わらず、勝手に『楽勝だ』と決めつけて。
初心者に倒しやすい、あるいは練習場所と評される程度の目標であれば、低級の魔物を余裕で倒せる自分は苦もなく倒すことが出来るだろうと余裕そうな表情を浮かべていた。
やがて説明が終わる。長い解説タイムが終わったため、スザンナは軽く背伸びをして立ち上がる。
「説明は以上になりますが、質問などは?」
「大丈夫、ありません。それではすぐに向かいますね」
「えっ。あ、あの、お一人で向かわれるんですか?」
「? ええ、それがなにか?」
きょとんとした表情で受付嬢に答えを返したスザンナ。早く討伐しにいきたいという欲が強すぎるせいでオイルワームの話をほとんど聞いていなかった故に、本来ならば複数人で討伐する必要があるところを1人で向かうと言い切った。
受付嬢はなんとか止めようとするのだが、スザンナは言って聞かない。今の自分の実力であればオイルワーム程度なら1人で十分だし、何より急がなければ土壌汚染が広がってしまうため食糧問題にも発展してしまうと。
「そ、それはそうですが……」
「ですから、わたくしだけで十分。チームを組む時間がもったいないですしね」
「いえ、しかし……」
受付嬢が何度も何度も止めようとスザンナに声をかけても、スザンナは止まる気配がなく。彼女は地図を片手にギルドを出て、準備を整えた後に現場へと向かうのだった。
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「被害があったのはこのあたりね……」
現場に出向いたスザンナは辺りを見回し、被害状況を確認する。
巨大な生物が這いずり回った跡があちこちに見受けられるため、この場所がすぐにオイルワームの被害場所だというのはよくわかる。だがその肝心なオイルワームの存在は見つからないため、近くの村へと向かって聞き込みを行うことに。
聞き込みの結果、ここ数日で地上から出てきたとのこと。村の外れにある森で地中から地上に出たらしいが、森の土地はやせ細っていたために急遽村へ通りてきた可能性が高く、村の畑を根城にされるかもしれないとのこと。
もし村の畑がオイルワームの根城になってしまうとその粘液で畑の作物が全滅することはもちろんのこと、井戸の水や川が汚染されてしまって到底人が住めるような場所ではなくなる。もともと人口が少ないとは言え、自分の住んでいた土地から離れることは嫌だと村人は呟いた。
「大丈夫、わたくしがなんとかしてみせます。ですから、安心してお任せくださいな!」
「おお……有り難い……!」
「頼む、あのでっかいミミズ野郎をぶっ倒してくれ!!」
村人たちからの称賛の言葉や激励の言葉を受け取ったスザンナは、更に自信をつける。自分が来ることで人々の安心と安全を守ることが出来るのだと思うと、形容しがたい悦びが身体に駆け巡ってゆく。
ここまで来たのなら失敗は許されない。スザンナの思考はみるみる内にオイルワームへの対処、立ち回り等の思考へと切り替わってゆく。
再び被害の酷い村の近辺へと近づいたスザンナ。辺りの汚染状況を見るに、この場所はただの通りすがりに通っただけの道に過ぎないようで、粘液の濃いくぼみが真っ直ぐに発生地である森へと続いているのが見受けられる。
ここにはいないのだと判断したスザンナは、這いずり回った形跡を辿って発生地へと足を踏み入れることにした。
近辺ではさほど気にならなかった粘液による悪臭だが、発生地に辿り着いた途端一気に鼻の奥と頭の中をぐるぐる刺激してくる。ここまで酷いものなのかと手で覆い隠し、匂いに慣れるまでゆっくりと呼吸を続けた。
しかし、時間とオイルワームは彼女を待ちやしない。
思わず気絶したくなるほどの悪臭が周囲に溢れかえると、スザンナは本能的に一歩足を引いた。
「っ……! 出てきましたね……!」
ずるり、ずるりと巨体を引きずって現れた1匹のオイルワーム。名前のとおりにぬらぬらテカテカと光り、劣化した油のような匂いを纏った粘液が身体を包み込む。その粘液がだらだらと地上に流れ落ちて大地を汚しながら進むさまは、まさに農家の人から見れば害獣といえるだろう。
しかしオイルワームはスザンナの居場所を探るような動作ではなく、辺りを見渡す程度にしか頭を動かしていない。どうやら普段から地中深くに根城を構えているために目を持っておらず、光を吸収して物体を把握する力が無いようだ。
これを好機と見たスザンナは粘液の匂いに慣れるまで周囲の木々で身を隠しつつ、オイルワームの様子を伺う。
オイルワーム自身は地上には餌を求めて来ているのか、辺りの木々を身体で揺らしながら進んでいる。食べられるモノ、食べられないモノに関しては頭を近づけて確認しており、匂いか何かで分けているようだ。
「あれは……何をしているのでしょうか。ともかく、早く倒さなくては……!」
周囲の木々を盾にしながら徐々にオイルワームへと近づくスザンナ。それまで何事もなく木々をなぎ倒して進んでいたオイルワームだったが、ふと、スザンナが近づく度に聞こえる木の葉の擦れ音を聞いて辺りをキョロキョロと探す仕草をしていた。
オイルワームは目がなく、物体を視認することが出来ない。
そのため音や匂い等を別の器官を用いて物体を把握する能力がある、という話を受付嬢から受け取っているのだが……スザンナはその話を慢心から聞いていないため、彼らが何をしているのかさえ理解が追いついていない。
そのせいか、スザンナはオイルワームの攻撃範囲内に入り込んでしまう。オイルワームは鋭敏な聴覚でいち早く彼女の位置を特定し、大きくぬめった身体をぶんぶんと振り回してスザンナごと周りの地形を破壊していった。
「くっ……! しかし、ついていけない速度という程でもなさそうですね!」
オイルワームはすばしっこく動いているスザンナの音を的確に感じ取って攻撃を続けているのだが、残念ながらその巨体が仇となってスザンナを捉えきれていない。
大きくうごめくミミズのような動きでは特定出来たスザンナの位置へ移動するまでにスザンナの位置が変わっているため、ぐねりぐねりと何度も身体をねじるような動きをしていた。
その合間に、足元を滑らせつつも的確にオイルワームの身体に魔弾を打ち込んでゆくスザンナ。
辺りに散らばる粘液で少々足を取られたりはしていたが、音を大きく出して位置を特定されないために魔弾を発射して撹乱し、オイルワームに備わっている情報伝達器官を一気に潰す。
そうしていくつか魔弾を発射したことで特定した情報――オイルワームは魔力の流れを察知する機能まではない、という情報を獲得してからのスザンナは、それはもう自信たっぷりに攻撃を続けた。
「さあ、まだまだですよ! この土地を荒らした報いを受けていただきます!」
頭から尻尾にかけての連続した魔弾の連射はオイルワームにも何が起こっているのかわからぬまま、音と気配だけでは察知できない魔力の流れに従ってぶよぶよの肉にどんどん痛みが与えられてゆく。
最初は粘液のせいで魔弾さえも弾かれてしまったが、集中的に狙うことで粘液を身体から弾き飛ばせば肉が露呈することに気づき、一気に連続射撃を行ってオイルワームの身体を次々に抉り取っていった。
辺りに散らばった粘液で足元がぬるぬると滑りながらの攻撃だったが、なんとかオイルワームを倒すほどのダメージは与えられていたようだ。
「ふう。これで大丈夫でしょうか……」
ボコボコにヘコんだ身体を横たわらせたオイルワームの前で、スザンナは一息ついた。オイルワームの討伐もなんてことはない、1人でも簡単に済ませられるじゃないかと安心しきっている様子だ。
ちょっと一休みと言うように辺りで横たわる枯れ木に腰を下ろし、ふう、と張り詰めていた緊張を解きほぐす。
「それにしても、チームを組んだほうがいいなんて言われる理由がよくわかりませんね。こんなにも簡単なのに」
「まあ、初心者の方がチームを組むなら、こういった簡単な仕事を受け取ってチーム戦に慣れるのがよろしいのでしょうけれど……」
オイルワームの討伐はチームで組むことが推奨されている、とは受付嬢の言葉。なぜそのようになっているのかの説明もしっかりとされているのだが、スザンナは……もちろん、慢心から聞いていない。1人で出来るもん、と言って聞かなかったのだから。
……だから、彼女は気づいていなかった。
自分の背後に差し迫っていた、もう1つの影に。
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「……あら?」
ふと気づいたときにはスザンナの視界は真っ暗になっており、周囲を見渡しても何も見えない闇へと閉ざされていた。
おかしい、まだ辺りは昼間だったはず。そう考えたスザンナは素早く水中でも使える魔法のカンテラを取り出そうと道具袋を探ろうとするのだが、先程の戦闘で浴びた体液とはまた違った液体が身体を包み込んでしまって上手く袋を開けられない。
「くっ……滑って、開けられない……!」
先程の戦闘では出来るだけ粘液を避けていたが、この暗闇の中では問答無用で何かの液体がスザンナに降り注いでしまうため、彼女の手がヌルヌルと滑ってしまって上手く袋を開けられない。
しばらく格闘して、ようやく袋を開けて魔法のカンテラを付けることが出来るようになったときには……彼女は辺りの状況に絶句してしまった。
「何、なにっ……!? なんなの、これ……!」
突如訪れた光が一つも差し込まない暗闇の中……というのは、最初の感想。
オイルワームが身体に纏っていた粘液とはまた別の、異質な悪臭を放つ粘液。
ザラザラとした肉っぽい壁や床に加えて、いくつもの色味の違う硬い棘のようなものが薄っすらと見える。
そして最後に気づいたのは、自分の重力がおかしくなっているということ。
此処までの情報を元に、スザンナはようやく気づいた。
――もう1匹に飲み込まれてしまった! と。
「くっ、うう……!」
ここで、受付嬢からの説明を思い出してみよう。
今回のオイルワームは『繁殖のために』地上に姿を表している。そのため、オイルワームは必ず『2匹同時に』姿を表すため、片割れを倒したからと言って油断してはならない。
食料を集める側と、繁殖のための土地を作る側で分かれての共同作業を行っている。
地上ではどんな敵がいるかわからないため、常に情報を伝達しあって餌を探している。
土地の情報を集める側と、外敵がいないかを確認する側に分かれての食料収集を行っている。
土地の切り崩しを共同作業で行っており、範囲を広げるため相方より遠くにいる。
様々なオイルワームに関する情報があるが、真実は定かではない。だが2匹必ず現れるのは確定しており、片割れが倒されるなどをすると残った片割れが繁殖の邪魔であると判断して、外敵を丸呑みにしてしまう習性がある。
1体だけを相手にしていると必ずもう片割れによって飲み込まれ、悲惨な目に合うのでくれぐれも注意するように――。
そう、まさにスザンナは特に重要な部分を聞き逃してしまっていた。
頑なに受付嬢がチームを組んだほうが言っていたのはこのことだったのかと今になって気づいても、それはもう後の祭り。
オイルワームはスザンナの声に反応すると、早速、と言わんばかりに身体を揺らし始めた。
「ちょっ、本当に、見えてないんですか!? 服を破くの、的確すぎて……!」
ぐるんぐるんとスザンナの身体が宙に浮いては、硬い棘に服が引っかかって破かれてゆく。どうやらオイルワームは口の中のスザンナを弄ぶために、わざと舌で縛り付けたりしないで口の中を泳がせているようだ。
本来であれば人間の歯に該当するような部分が服に引っかかって破かれるのだが、何故だか服だけを破くのが妙に上手い。肉体には一切傷をつけないその動きは、小慣れた動きでスザンナを翻弄していた。
「こ、の……!」
魔弾を思いっきり当ててやろうと魔力を手に集めようとしたが、全身に付着した粘液のせいか魔力のまとまりが上手くいかないままに魔弾は消失してしまう。
どうやらオイルワームの口内粘液は口に含んだ邪魔者が口の中で暴れないようにと、魔力を集めづらくする特性があるようだ。魔術師等の武器を持たない相手にもしっかりとした対策が練られている。
このままでは本当にまずい。
そう思ったスザンナはどうにか外を目指して歩くが、粘液のせいで前に進みづらく、更にはどちらから出ればいいのかわからないという状況に陥っている。
右も左も肉に覆われ、歯のような硬い棘のせいでまともに先へ進めない。そんな過酷な状況下で突如伸びてきた細長い肉がスザンナに触れ、思わずびくりと身体を跳ねた。
「は、ひゃ!? ちょっと、何処触ってるんですかぁ!」
ザラザラとした肉――人間の舌に該当する部分が、スザンナの肌を少し撫でる。魔物の肉と人間の肉が粘液を間に挟めて触れ合うその瞬間、ぬるん、とした奇妙な感覚だけがスザンナの肌に残される。
人間の身体の何処が鋭敏なのかなんて、オイルワームは全く知らない……はず。
だからこそスザンナの肌は何度も何度も舌のような肉によって撫でられて、くすぐったい感覚へと陥っていった。
「くっ……屈辱ですよ、こんなのぉ……!!」
辱めを受けて顔を真っ赤に染めるスザンナ。幸いなのはオイルワームの粘液にえっちな雰囲気になるような成分が入ってなかったことだろうか。
ただ、見ている側からするとそのような状況にも見えてしまうのは、オイルワームが的確にスザンナの肌を舐めるように舌の肉を滑らせているからなのかもしれない。
「ひゃっ!? ちょ、ちょっと!? そんなにとげとげしてるのは……!」
続けてオイルワームは口の中で飴を転がすように、舌先でスザンナを持ち上げてはごろりごろりと転がす。時折歯に当たる部分の硬い棘に近づけたかと思うと、肉が割けたり傷ついたりしない程度に押し付けてその感触を楽しんでいる。
目が見えないからこそ、硬い棘にもオイルワームの感触があるということなのだろう。スザンナという人間の肉をぷにぷにと棘でつつくのが楽しいらしく、何度も何度も優しく押し付けて感触を楽しんでいた。
「くふっ、あは、ちょっと、あの、くすぐったい!」
押さえつけられて苦しいはずなのに、棘が突き刺さる感覚が気味悪いはずなのに、辺りの悪臭で気分が悪くなっているというのに、スザンナは笑っている。
恐怖などではなく、純粋に硬い棘に押し付けられる際に絶妙にくすぐりポイントが刺激されてしまっているだけ。
服は全部破り捨てられ、喉の奥へと捨てられたため今現在のスザンナはほぼ全裸に等しい。胸や腕を守っている金属製の装飾類は剥がされなかったが、布製のものは全て剥ぎ取られているためスザンナの身を守るものは殆ど無い。
どうにか服の破片を少しでも取り返そうとしても、喉の奥へと進まないように舌の根のような肉が盛り上がって壁のように阻み、スザンナの行動範囲を狭めている。口の中で人間を楽しもうというオイルワームの魂胆がスザンナの目前でしっかりと繰り広げられていた。
「ひぁ!?」
まだまだ楽しむつもりなのか、長い舌がぐるぐるとスザンナに巻き付いてきた。触手のように細長い舌で縛り付け、彼女の肉という肉の部分を器用に舌先だけで触ってゆく。
ちろり、ちろりと細かく肌を撫でる感覚。今までとはまた違ったくすぐり方法でスザンナの肌を撫でてはやめてを繰り返し、舌に巻き付いたスザンナの反応を楽しんでいた。
「こ、こんな……こんなの、って……」
もう限界だ。そう叫びたくてもオイルワームには届かないし、何より音の区別がついているのかどうかさえわからないオイルワームが人間の言語を理解しているのか怪しいところ。
ぐるぐる巻きの状態から開放されても、体力がほとんど無くなってしまって立つことが出来ず、逃げる事も出来ないため、スザンナは開放されたままの状態で肉の上に転がっていた。
そうして、反応が無くなったスザンナをもう一度舌先がつんつんとつつく。人間の体力を確認する様子でつんつん、つんつんと足先から頭にかけてゆっくりとつつかれて……。
「ひ……っ!?」
人間の身体の中でも最も敏感な部分、特に女性が1番感じてしまうその部分に舌先が触れたその瞬間、思わずスザンナは今までに出たことのない声を上げた。
ゾワゾワとした感覚とはまた違う、何か、奥からこみ上げてくるような絶妙な感覚がスザンナの全身を、そして脳の中をくすぐってくる。
まだ、生きてる反応がある。
それに気づいたオイルワームは先程の反応を試したくて、何度も何度も舌先でつついていた。
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「は、ぁ……」
どれだけ叫んで、どれだけ喘いで、どれだけ肌を弄られてしまっただろうか。
飲み込まれてからどのぐらいの時間が経ったのか、それすらもわからないほどに弄ばれているスザンナ。もうこのまま、喉の奥に入り込んで消化器官へと入ってしまっても文句は言えない。
ちゃんと慢心せず、話を聞いていればよかった。
それを何度も何度も頭の中で繰り返すほどに弄ばれてしまったせいか、もはや呼吸もままならなくなっていた。
ところがオイルワームは遊ぶだけ遊んだ後、スザンナを口から吐き出して森の中へと放置した。粘液――オイルワームの唾液まみれとなっている彼女の身体は、服だけが無惨にも破り捨てられ肌がほとんど露出している。
「……?」
ずるずると大きな身体を引きずって、がぶりと片割れの身体を噛んで引きずってゆくオイルワーム。やることは全て終えたと言わんばかりの撤退に対してスザンナは首を傾げていた。
というのも、オイルワームはそもそも草食。畑の作物や森に自生する果物などを食べて生きていくため、肉を食べることは一切ない。
繁殖の邪魔をする相手を口の中に含んでごろごろと転がしては痛手を負わせることはあるが、肉や骨などは胃の中でうまく消化できず、特に生きている場合はずっと胃の中で暴れられて逆に傷つけられてしまう可能性がある。
そのため飲み込んでしまうよりは口の中で適当に遊んで痛めつけ、二度と手出しされないように注意することを何処かで学んだようだ。今回のスザンナのように慢心した初心者冒険者が服をひん剥かれて唾液でベタベタにして放り出すなんてことはよくあるらしい。
「う、ううぅぅ……!」
慢心からの失態に顔を赤くするスザンナ。こんな恥ずかしい姿にされたこともそうだが、何より出来ると思って意気揚々と進んだ結果がこうなってしまったために、余計に恥ずかしくなったようだ。
しかし、このままでは終われない。そう考えたスザンナは、曝け出された肌を大きな木の葉で包んでその場を離脱し、鍛錬を積んでもう一度挑もうと誓いを立てた。
……なお、この件に関して特にギルドからのお咎めはなかった。むしろ、よくあることだと片付けられる。
オイルワームは数日後、別の討伐メンバーが組まれてきちんと討伐されたので、安心して欲しいという連絡も得た。
土壌汚染の被害は少々広かったが、先行してスザンナが1匹を倒していたのもあってそれ以上の被害はなかったという。
村人たちからもスザンナから音沙汰がなかったため心配の声が上がっていたようだが、彼女が無事であることは他のギルド員から伝えられたため、感謝の言葉を又聞きする程度になっていた。
ちなみにこの件でのスザンナの報酬は……1匹は倒せたので、雀の涙ほどしかもらえなかったそうな。
こうしてスザンナ・ウィンストンの『はじめての仕事』は失敗となり、そのはじめてをオイルワームに奪われた。
この話が語り継がれるかどうかは……スザンナ次第。
おまけSS『はじめてを奪った相手のこと』
「……そういえば、あのオイルワーム……」
ふと、スザンナは部屋の隅でごろりと転がって、オイルワームに襲われたときの事を思い出す。
悪臭がひどく、待機を余儀なくされた彼女の脳裏に浮かんだのは、自分が丸呑みにされてしまったときのこと。
既に討伐が終わったのは終わったのだが、どうにも気がかりな点があった。
それは……丸呑みにしてきたオイルワームが、妙に慣れた舌捌きだったこと。
本来なら人間の敏感な部分なんて、討伐されやすいオイルワームが知っているはずがない。
もしかしてあの個体だけは討伐されずに長く生き延びていたのではないか?
そして幾人もの人々を丸呑みにしていたから、敏感な部分を知っていたのではないか?
様々な妄想がスザンナの中で繰り広げられる。
「じゃないと、あんな……あんな場所を触るなんて……!!」
また恥ずかしさがこみ上げてきたスザンナ。
はじめての討伐を失敗として奪われ、更には別のはじめてを奪われてしまって彼女の脳内は爆発寸前となっていったのだった。