PandoraPartyProject

SS詳細

金波と月虹の島

登場人物一覧

ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
Lumière Stellaire
エドワード・S・アリゼ(p3p009403)
太陽の少年

●Welcome to My Island!!

「青い空! 白い雲!」
 波間には陽光が煌めき蒼穹の地平を照らしている。
 舳先にはためく炎旗の髪が、どこまでも明るい潮風を胸いっぱいに吸い込んだ。

「海だーーーーーーー!!」

 半身を海へと突き出したエドワード・S・アリゼの歓声が大海原へと響く。
 彼の背後には運命の輪――によく似た木製の総舵輪が針路を定めていた。
「今日は晴れて良かったです」
 操舵手は希望水晶パライバトルマリンの瞳に快活さを秘めた、白いワンピース姿の淑女だ。
 此処はネオ・フロンティア海洋王国。
 温暖な気候と風光明媚な観光地の多いこの国はイレギュラーズ達の保養地としても人気のスポットだ。
 勿論、この国の出身であるイレギュラーズもいれば恩賞として領地を与えられたイレギュラーズもいる。
「ココロ、今日は海洋に連れてきてくれてありがとなっ。誰かに案内してもらうのって、すげー新鮮だぜ!」
「どういたしまして!」
 ココロ=Bliss=Solitudeは長らく空白地帯であった絶望の青に海洋の旗を立てていた者の一人だ。
 海洋での名声も高く、絶望の青が静寂の青と名を変えてからは実力から周辺の島々から頼りにされている。
 偶然エドワードが海洋に行きたがっていることを知った彼女は自ら案内を申し出たのだ。
 燦々と輝くエドワードの声を聞けば心が澄み渡るようだと無垢な微笑みを深くする。
 黄金色の豊かな髪を彩る海扇の髪留めが、春の陽射しを浴びて桜色に輝いた。

「青い空! 白い雲! エメラルドの海!!」

 操舵輪を操りながら本日は快晴なりと空を仰げば、青い世界に心地良い涼風が吹き渡った。
 今日は素敵な事が起こりそう。そんな予感がする。
 ココロの指が羅針盤のように十二時の方角を刻んだ。
「さぁっ、そろそろ前方に見えはじめる頃ですよ!!」
 エドワードにもそろそろ見える頃だろう。
 洋上に浮かんだ、小さく煌めく真珠の色が。
「島だーーーーーー!!」

 白波をかき分け進む船は速度を落とすと、持ち主に似た可憐な仕草でその身を桟橋へと滑りこませた。
 手早く係留用ロープを投げるとココロは楽し気な踵で木板をノックしながら桟橋の上へと降りる。 
「はい、ここがわたしが借り受けてる島、『プカプカ島』っていいます!」
「すげーっ!!」
 弾むような足取りのココロに続いてエドワードもまた、同じような足取りで陸地へ降り立つ。
 その目は舞踏会のシャンデリアよりも眩く輝き、そわそわという効果音が聞こえてきそうだ。
「プカプカ島かぁ! いい名前だなーっ」
 翡翠色の海はどこまでも透き通り、波打ち際ではヤドカリや貝が白妙の砂と戯れている。
 低木の葉は珍しい乳白色に茂り、海辺に涼し気な木陰を落としていた。
 率直なエドワードの感想に、ココロははにかむように笑ってみせた。
 誰だって大切な宝物を褒められるのは嬉しい物だ。
 珊瑚色に染まった頬を隠すように、白い指が海へと向いた。
「あの、遠くに見えるのが『コン=モスカ島』と言いまして、あの島の周辺から静寂の青に入っていくんですよ。今は新しい航路の中継地点になっているので、たくさんの人が入ってきているんです」
「ふーん、あれがよく聞く静寂の青かぁ。なんつーか、こう。平和で、穏やかで。見てるだけで泳ぎたくなる海だよなっ」
 そう言うエドワードは既に水着姿だ。黒地のボードショーツの上から白いフード付きのパーカーを羽織っている。
 ココロもワンピースの下は泳ぎやすい、ディープシー用の服を既に準備していた。
 二人とも島に到着して荷物を置いたら、すぐに海で一泳ぎするつもりだったからだ。
「リッツパークの近くと比べると水温は低くなりますが、この辺りは年中暖かいのですよ。以前は大きな戦いがありましたが、今はこんなにも穏やかな波です」
 二人並んで海に突き出た白い桟橋を歩く。
 石で出来た階段を下りれば、すぐに砂浜に降りる事ができた。
 遮蔽物が何も無い見晴らしの良い海原は遠くの島々まではっきりと見える。
 エドワードはぷかぷか島の近くに浮かぶ、いくつかの島の名前と、最近あった――ちょっとした出来事を知った。
 海を見つめるココロの横顔は柔らかく色褪せた痛みを懐かしむようでもある。しかしエドワードへと振り返った瞬間、薄らと漂っていたセピア色の郷愁は白昼夢のようにさっぱりと消えていた。
「なので、今日はめいっぱい楽しんでいってくださいね!!」
「おうっ!! 海洋を楽しみまくるぞー-っ」
 エドワードが両手を天に突き出した時だった。
「おっ、やけに賑やかだと思ったら領主さまじゃねェか」
 日に焼けた赤銅色の肌に色褪せたバンダナ。積み荷を降ろし終わった船乗りたちが、ぞろぞろと琥珀瓶を片手に浜辺を歩いていた。その赤ら顔を見れば、瓶の中身が何なのかは明白だ。
「皆さん、お疲れ様です」
 領民に向かって、ココロは声をかけた。
 今日の荷はどうでしたか。脱水症状を起こした人はいませんでしたか。
 怪我をした人や体調が悪いがいたら、遠慮せず診療所に来てくださいね。
 世間話がてらに上手く酔っ払いたちから作業の進捗状況や健康状態を聞きだしているココロの領主としての見事な手腕にエドワードは舌をまく。そしてふと、全員が持っている琥珀色の瓶へと視線を移した。
「なぁ、おっちゃんたちは何を飲んでるんだ?」
「あァ、これは白ヤシ酒だ。ヤシの花から採った樹液で作るのさ」
「島のあちこちに生えてる白い木はもう見たか? あの木の周りを探しゃあ、上等なヤシの木が見つかるんだよ。とは言っても、坊主に酒の味はまだ早えけどな」
 豪快な酒焼け声が一斉にガラガラ笑う。
「飲み過ぎに気をつけてくださいね」
 仕事終わりの一杯をとがめるほどココロは狭量な領主ではない。
 けれども健康を預かる者としてたしなめるように言えば、分かってらァと何時もの空返事が返ってきた。
「また星の海を渡って診療所の世話にはなりたかねェからな!!」
「星の海?」
「おっ、坊主は星の海に興味があるのか?」
「ああ! すっげー気になるぜっ」
「止めとけ、止めとけ」
 船乗り仲間の一人が呆れたようにエドワードに耳打ちをした。
「星の海っていうのはこいつお得意のホラ話さ。聞くだけ無駄だぜ」
「あれは今日みてぇな凪の海のことだ……」
「やべっ、はじまった」
 しかし既に遅かった。
 自分の世界に浸った船乗りの語りが始まり、エドワードは興味を持ってしまう。
「俺はうっかり舳先で足を滑らせちまった。夜の海は濃紺を溶かしたかのような冷たさでな。仲間も、俺が海に落ちたとは気づかなかった。船はあっという間に夜の闇に消え、俺は一人、海のど真ん中に取り残された。泳ぎ疲れて、もうダメかと思ったその時……」
「『とつぜん海面が星空になったかと思うと、大量の魚の群れに浜辺まで押し流された。呆然として海を振り返ると、そこには山ほどもある巨大な生き物の影が見えた』だろ」
「もう耳にタコができちまったよ」
「一番の見せ場を取るんじゃねぇ!!」
 地団太を踏む船乗りを手慣れた様子で他の船乗りたちが諫めていく。
「引き止めてすまなかったな、お二人さん。コイツはオレらが面倒見るからよ。ゆっくり観光を楽しんでくれや」
 これもまた普段通りの流れというやつなのだろう。
「良い一日を、領主サマ。坊主もこの島を楽しんでくれよ」
「もうしっかり楽しんでるぜっ」
「がははっ、そいつは重畳だ」
「皆さんも飲みすぎには気をつけてくださいね」
「約束はできねぇな」
「努力はしてみる」
 騒がしい船乗りたちに別れを告げるとココロとエドワードは再び並んで砂浜を歩きはじめた。
 もちろん話題は今しがた聞いた『光る海』の話である。
「なぁなぁ、ココロ。本当に海が星空みてぇになることって本当にあるのか?」
「そうですね」
 海を知る者。海に住む者としての知識を総動員して、ココロは『星の海』の心当たりをさがした。
「春になって海面温度が高くなると『チルカ』っていうプランクトンが集まって活動をはじめるんですよ。チルカが集まる海は、昼は薄紅色、夜は青の燐光色に染まるんです。先ほどの船乗りさんは、もしかしたらチルカの集まっている場所に落ちてしまったのかもしれませんね」
「へぇ~~」
 感心したようにエドワードは唸った。
「まだまだオレの知らない不思議な地域や生き物っていっぱい居るんだなぁ。なぁ、ココロ。もっとこの辺りの海のこと教えてくれよ!」
「ええ、任せてください!」
 胸を叩きながらココロはきりりと引き締まった表情をとる。
「この辺りの海はわたしの庭のようなものですからね。さっ、それでは、はりきって説明を続けますよー!! そんでもって向こうに見えるのが……」
「ん?」
 ココロの説明を聞きながらエドワードは視界の隅に異常な動きを捉えた。
 象牙色の浜辺に水飛沫が慌ただしくあがっている。それは徐々に、波打ち際へと近づいているように見えた。
「あー-っ!?」
「えっ? なんですか?」
 エドワードの大声に合わせてココロはすぐにエドワードの見る方角へと視線を向けた。
 甲高い笛の音に似た叫び声は子が親に助けを呼ぶ声だ。
「イルカが網に絡まってるぜ!? すぐ助けてやらねーと……っ」
「切れた漁網が引っかかってしまったんですね。そうですね、助けてあげましょうっ」
 エドワードとココロは同時に走り始めた。
「キュー-ッ!?」
 ざばざばと浅瀬をかきわけエドワードが近づいていくと、イルカは怯えたようにいっそう動きを大きくした。
「お前、大丈夫だったかー? 怖がらなくていいんだぞー」
「もうちょっとの辛抱ですから、じっとしていて下さいね」
「キ、キュ~……?」
 イルカというものは意外と表情豊かな生き物だとエドワードは思った。
 しょんぼりとした悲しい鳴き声に、壊れた網が巻き付いた純白の身体。
 うなだれ涙で潤んだ瞳は、瞬きするたびチカチカと紫や赤の光を発するようだった。
「ちょっと触るけど、心配すんなよ。それに、ここにいるココロはお医者さんなんだぜ。ケガしてても、すぐに治してくれるからなー」
「医者とは言っても、まだ見習いのようなものですけれどね」
 イルカが二人の言葉を解してるのか定かではない。
 けれども優しく話しかけ続けていると、危害は加えられないと理解したのか。暴れていた動きが次第に大人しくなっていく。
「よしっ、こっちは外れたぜ……んん?」
「よいしょっと、こっちも外れましたよ。良かった。大きなケガはありませんね。きっと網で遊んでいたら絡まってパニックになっちゃったんですよ。あとは水深のあるところまで押してあげれば……どうしました、エドワードさん?」
「お前、キレーな目だなー」
 エドワードは改めて目の前のイルカを見た。
 白いイルカもまた、エドワードをじっと見つめ返している。
 真珠色の艶やかな肌は、ぷかぷか島の美しい砂浜によく映える。
 滄海の瞳は茜色に染まったかと思うと、太陽の光の加減によっては檸檬や新緑の色にも変化した。
 大人しくなったイルカの全体像を把握してみると、美しいだけではなく、種類を判別だけのヒントが揃っている。
 そんな気がしたエドワードは記憶を捻り出すように首を大きく90度に傾げた。イルカも真似をして頭をこてんと傾ける。
「この見た目を知っているような……うーん、最近どこかで読んだとか?」
「そうなんですか?」
「もしかしてこいつ、『虹色イルカ』?」
「キュイ」
 ――真珠のように滑らかな肌艶、宝石のように輝く虹彩。
 水色の海原に虹を描く姿は三日月のように美しい。
「うん、やっぱそーだっ」
 興奮した様子でエドワードは拳をにぎった。
「虹色イルカに会えるなんてラッキーだぜ! なっ、ココロ! もっと近くに寄って見てみろよ」
 怯えさせないように、ココロはそうっと屈みこむと虹色イルカと目を合わせた。
「こんにちは。もう網で遊んだりしたらダメですからね」
「キュ~?」
「わぁ。すごい、この虹のような……」
 ココロもすぐに、この生き物の美しさに目を奪われた。
 一見すれば白いイルカにしか見えないが、澄んだ瞳の中に煌めくオーロラの彩色を見てしまえば、あっという間に惹きつけられてしまう。虹色イルカには不思議な言い伝えがあるが、それも当然のように思われた。
「ええ、虹色イルカ、わたしも初めてみました。海洋では幸運の女神の使い、とか言われていて」
「ピ? ピュリリリリリ~」
 ココロの声に重ねるように虹色イルカは鳴いた。先ほどの助けを求める声とは明らかに違う、ピッコロの笛に似た美しい囀り声だ。
「わ、綺麗な鳴き声。かわいい~~!」
「あ! 仲間が集まってきた!」
 アクアマリンの沖合に幾つもの白波が見えはじめる。そこから覗く背ビレや遊泳する影は、どれも目が覚めるほどの白さだ。
「おーーいっ! お前等の仲間はここだぞー」
 エドワードは大きく手を振った。
「ピュリリリリッ」
「ピュルルルルッ」
「ピュー!」
 立派な体躯の白イルカが二頭、盛大な飛沫をあげて近づいて来る。
「あの凄ェスピードで突っ込んでくるの、お前のとーちゃんとかーちゃんかな? ココロ、あの二匹まで浜辺に乗り上げちまったら大変だし、こいつをもうちょっと深い場所まで連れて行ってやろーぜ」
「そうですね。こっちにおいでー。ヒレを動かして、そうそう。いちにっ、いちにっ」
「きゅっ、きゅっ」
 こうして別の虹色イルカと比べてみると、網に引っかかっていた虹色イルカは他のイルカよりもひと回り以上小さい個体といえた。
 恐らく子供なのだろう。痺れていたヒレを動かせるようになると一目散に親イルカの元へと泳いでいく。
 再会を喜ぶように三匹が円を描いてまわっていると、他の一団も追いついたようだ。ピィ、ピュイッと嬉しげな鳴き声が波間のあちこちから聞こえてきた。
 イルカの一団が奏でる喜びの鳴き声はフルートの重奏のように穏やかにココロとエドワードを包みこんだ。その鳴き声から伝わってくるのは喜びや嬉しさといった感情だ。
「良かったぁ、無事に合流できたね」
 誰ともなしに、心底安堵した声でココロが告げた。長い髪が海水に浸かり、腰のあたりでゆらゆらと黄金色に揺れている。
 それはエドワードも同じことだった。すっかりとびしょ濡れだ。
「下に水着を着てて助かったぜ……ん? どうしたー?」
「ピュイ、ピュ」
 数匹の虹色イルカが輝きながら二人の元へ近づいてきた。
 まるで着いてきてよと言わんばかりにクルクル回ったり、ヒレを動かしたりして二人の周りから離れようとしない。
「なんかこいつら、どっかに案内してくれるみてーだ。ちょっと二人で行ってみるか?」
「うん、イルカさん達の案内についていきましょう」
 二人は履いていた靴を砂浜に置くと、虹色イルカに誘われるままエメラルドグリーンの海へと飛び込んだ。

●環星海の燐光
「い、いがいと、とおくまで、泳ぐんだな……っ」
「あ、泳ぎ疲れましたか?」
 歩くように速度を落とすとココロはエドワードの横に並んだ。
「わたし達ディープシーは歩くより泳ぐ方が楽なんですけどね」
 ココロがディープシーである事実は分かっていたことだが、エドワードは改めてディープシーという種族が人とはまったく違う特性を持っているのだと理解した。
「はい、肩に手を回してつかまってください」
「わ、悪ィ」
「いえいえ、お役に立てて嬉しいです。それじゃあ行きますよっ」
「え、行くって、うわっ速ェ!?」
 浮力に身を任せ、虹色イルカの群れが生み出す潮の流れに乗ってココロは遊泳する速度を上げた。横を並走するイルカたちが二人と戯れるように飛び跳ねる。フルートやホルンによく似た鳴き声に連れられてやってきたのは、矢車菊よりも深く蒼く冷たい海。
 ココロには心地のよい水温だがエドワードの小さな身体にはどうだろうか。
 そろりと案ずるように覗き込めば、興奮の宿った琥珀が海面を見つめていた。
「……な、なんかすげーとこに来たな。変わった色の海だ……」
「そうですね。寒くないですか、エドワードさん」
「ん。大丈夫だぜっ」
 溌溂と言うエドワードだったが、普段から白い顔色が紙のようになっていた。
「このまま待ってればいーのか?」
 人が海に長時間浸かるのは、随分と体力を消耗するのだとココロは知っている。エドワードを低体温症などにはさせないつもりだが、万が一ということもある。
 何か見せたいものがあるようだってエドワードさんは言ってましたけど……。
 問いかけるように虹色イルカを見つめるが、白亜のイルカたちは不思議な微笑みを湛えて海面に顔を出し、ぷかぷかと浮くだけだった。
 次第に夕陽が水平の彼方へと沈み、藤と珊瑚色に染まった空が紺海の色に侵っていく。
 エドワードはその光景をじっと見ていた。
「水平線がきらきらして、光ってるみてーだ……」
 白く、青く。
 宙から降ってきた数多の星々が太陽の残り火を抱き、海の中で輝いている。
「すげー……、明るい青だ。星空の中にでもいるみてーな……ん?」
 最初に違和感を覚えたのはエドワードだった。
 何度も瞬きを繰り返し、念入りに目をこする。
「どうしました、エドワードさん」
「これ、ほんとに光ってね!?」
「えっ!? あれ? 海の色が?!」
 いやまさか、そんな、と。
 ココロも目をこすってエドワードと同じ動きを繰り返す。
「すごい……光ってる!」
 青光の中で動けば揺れた波紋が燐光を宿す。
「わあーーっ、見てみろよ、ココロ!」
 顔を上げ、エドワードの指さす先を追ったココロは思わず一瞬、言葉を失った。

 紺碧の星空に浮かぶ三日月。
 天地、鏡面の世界に星の海が広がる蒼く幽玄な色。
 波飛沫をあげて星虹を宿したイルカが白銀の流星を幾筋も描いていく。
 春風に乗って聞こえる甘く柔らかな歌声は、のびやかに潮騒に溶けて消えた。

「……めっちゃ綺麗だ………」
 エドワードはほろりと言葉を零した。
 それはココロも同じだった。
「すてき……」
 光る海に虹色イルカ。
 文字だけでは知ることの出来ない、言葉では表現しつくせない、知識だけでは想像もつかない。この光景に出くわすとは、そんな幸運であり経験である。
 視界に映る夢のような光景を永遠に留める術はないが、いつまでも鮮やかな記憶として思い出という形にすることはできる。
 ココロは肩を抱いたエドワードをそっと見た。
 紺碧の星海に泳ぐ虹色イルカに目を奪われる彼。
 早くなった鼓動に気がつく様子はない。
 本当に、夢のようなひと時だった。
 視界いっぱいに映した私の災厄を退ける太陽石ピエール・ドゥ・ソレイユ
 その瞳の輝きもこの海に負けないくらい素敵ですよ、だなんて。

「恥ずかしくて言えませんけどね」
「なっ、ココロ! 海洋って、良いとこだなっ。オレ、ここの良いところ、もっともっと知りたくなっちゃったぜ。ココロの案内、途中で中断されちまったし。なぁっ、明日もさ、一緒に回らね?」
「え? はいっ?」
 エドワードから声をかけられるとは予想外だったのだろう。ココロは目をぱちくりとさせ、あわあわと言葉を上ずらせた。
「やっぱ、領主業とかで忙しいか?」
 ココロの言葉を待つようにエドワードは優しく首を傾げた。
「いいえっ」
 胸に手を当てゆっくり息を吸い込めば、いつも通りのココロが帰ってくる。
「もちろん大丈夫ですよ。明日も楽しみましょう!」
「ホントか!? やったぜ!!」
 明日も楽しい一日になるぞ、とエドワードは夜空の海に想いを馳せた。
 眩く光る海。幸せをもたらす虹のイルカ。それから頼もしい仲間。
「おっ、見ろよ。ココロ。白い鯨だぜ。虹色イルカの友達かな? でっけーなぁ」
「え、エドワードさんっ、あの方はですねっ!?」
 海洋を巡る二人の不思議な冒険は、今はじまったばかりだ。

  • 金波と月虹の島完了
  • NM名駒米
  • 種別SS
  • 納品日2022年05月07日
  • ・ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323
    ・エドワード・S・アリゼ(p3p009403
    ※ おまけSS『プカプカ島観光ガイド』付き

おまけSS『プカプカ島観光ガイド』

・テーマ
幸せ!! バケーション!! 綺麗な景色!!

・イメージ曲
『宝島』『星に願いを』

・ぷかぷか島イメージ
モルディブ
絹のような白砂
はっきりした海の境界
春の蒼穹と満天の星空
アクアマリンの昼の海と矢車菊の夜の海
ネオンブルーの星の海

・虹色イルカのイメージ
スナメリ/フルート/彩雲

南国の小さな島…穏やかな幸せ
白いイルカ…幸福の運び手
虹…虹と言えば神話における神様の橋。
ということで周辺海域では長生きで有名なお爺ちゃん白鯨。

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