PandoraPartyProject

SS詳細

There is always a next time.

登場人物一覧

イズル(p3x008599)
夜告鳥の幻影
H(p3x009524)
ダークナイツ


『さぁ始まりました秘書TV! 司会はこの私、ギョスり部名誉会長の鵜来巣 冥夜がやらせて戴きます。
 さっそく現場を生中継で繋ぎましょう。銀行を襲った強盗犯は依然、車で高速道路を逃走中です!』

「オラオラ、どきやがれー!」

 強盗犯が車窓から身を乗り出し、追手のパトカーへ発砲する。そんな中で果敢にも、暴走する車に立ちはだかる男がいた。
16万色に輝くゴキゲンな髪の屈強な男。彼の名はハファカ。元マフィアの左腕秘書である。

「オラァアーッ!!」

 彼はおもむろに近くに停めていた車をひっ掴んだ。そして力任せに強盗犯の車へと真正面からブン投げる!

「ヒェ!?」

 強盗犯がハンドルを切った。ドリフト音が辺りに響き、投擲された車を間一髪で避けきる。

『おぉーっと、ハファカ秘書が投げた車は掠りもしません!』
「うっせぇ気が散んだよクソ実況! ……あ?」

 ふとハファカが強盗犯の方に目を向ける。彼らは何やら呪文を唱え、辺りの瓦礫を集めはじめたようだった。やがて瓦礫は巨人の腕をかたち取り、ぐわっとハファカに振り下ろされた!

「待て待て待てうぉああーーッ!?」

 避けれない!
 諦めて両手で顔を覆うと同時に浮き上がる身体。巨大を縮こまらせたまま指の隙間からそっと様子を伺えばーー闇夜を纏った様な暗黒騎士の仮面が見えた。

「先走りすぎんなよ、プリンセス秘書」
『あぁーっと、ここでチームメイトのH秘書が颯爽と登場だー! しかもハファカ秘書をお姫様だっこで救出しています。
 これは薄い本が厚くなるーッ!』

 早く降ろせと目で訴えるハファカをスルーしたまま、寄ってきたカメラへ『ダークナイツ』H(p3x009524)は人差し指と中指を揃えて「Good night!」と合図した。中継を見ていた女性ファンの黄色い悲鳴があがり、失神者まで現れる。
「Hてめぇ、誰がプリンセス秘書だ!」
「アンタ以外に誰がいる? 事前の打ち合わせを無視してつっ走らなきゃ、今頃イズルがーー」

 ドォッ! と遠くで砂埃が上がったのは、お説教が始まってすぐの事。見れば強盗犯の車が宙に打ち上げられ、重力に引かれて逆さまに落下しているところだった。車体から這い出る強盗。その目の前に、白いブーツの美人がタトンと軽快な音を立てて舞い降りる。
 中継用のドローンが足元から顔へ、舐めまわすようにカメラを向けてくる中、

『バブリーにかましたまえ、キメ台詞』
「えっ」

 朝時からの通信に「そんなものあったっけ」と一瞬だけ顔を曇らせる『夜告鳥の幻影』イズル(p3x008599)だったが、依頼は依頼だ。現れたカンペにそのまま従う。

「魅惑のぺしぺし狂い咲き、美人秘書イズル華麗に参上! 悪事を働く悪い子さんは、夜告鳥が折檻しちゃうぞ♡」
『イズル秘書のキメ台詞がきまったーッ!』

 不殺の一撃でガクリと力尽きる強盗。中継が終わりカメラが引き上げるのを確認すると、イズルはインカムに手をあて朝時へ声をかけた。

「誰、あの台詞を考えたの」

 後に台詞を考案したイズルの相方はこう語っている。
――イズルさんの魅力をこれでもかと凝縮して意識高く仕上げました。ボイスピンナップサイズで!


「今日もバブリーな活躍だったな、さすが俺の秘書(Secretary)だ」
「なぁ、朝時さん。アンタが派手好きなのは分かる。けどな」

 あれを見ろとHは部屋の隅でビカビカ光るゲーミング頭を指さした。ハファカが体育座りでずびっと鼻をすすっている。

「俺はバブリー秘書軍団のお荷物だぁぁあ! うぅぅ……」
「言葉より先に手が出るハファカが、手より先に言葉出してギャン泣きしてる。こんなん続けてたら参っちまいそうだぜ?」
「彼に負荷がかかるのは承知の上だが、厳しくいくようメイルから頼まれてね」

 ことの始まりは数日前にさかのぼる。特異運座標との激しい戦いを経て、航海マフィア『オストリカ』は解体となった。
 ボスであるメイル・オストリカとその協力者である大富豪 鵜来巣・朝時は組織の末端にまで手をのばし、新しい職場を与えようと手を尽くした。
 多くの者が足を洗える幸福に飛びついたが、組織の中には新天地を望まない者もいた。ハファカ率いる左腕一派である。

「ボスが留学から帰ってきたらよぉ、会社を立ち上げんだろ? そん時もアンタの隣にいるのは俺だァ!」
「えっ、無理じゃない?」
「えっ」
「だって君はガサツだし、すぐ殴るし」

……なんて正論で返されてしまえば、単純なハファカが「秘書くらいできらぁっ!」と返してしまうのはごく自然な流れだったろう。
 事情を聞けば聞くほど絵に描いた様なオチでHは思わず頭を抱えた。喋りすぎて喉が疲れたなと朝時が椅子にもたれると、すぐにイズルがアガベシロップで甘くしたブラックコーヒーをお盆に乗せて持ってくる。『美味しく飲んでインスリンコントロール』……それが近年のバブリーなセレブの嗜みだとか。

「事情は分かったけど、私とHさんまで雇われたのは理由があるのかな?」
「いい着眼点だね、イズル。その理由は至ってシンプルだ」

 思えば急な招集だった。R.O.Oにいつも通りログインし、ステータスを確認したら何の前触れもなく『秘書』と書かれていたのだ。イズルは新手のバグかと勘繰り、Hに至ってはバッドステータスの類だと疑うほどに唐突な任命。肩書の出どころに気づいた二人が朝時のオフィスに駆けつけてみれば、仏頂面のハファカに連れられ開幕のような騒ぎである。
 果たしてその真意とは。イズルとH、そしてハファカの視線が朝時に集まり、彼はそっと唇を開いて――

「秘書は一人より三人いた方がバブリーな感じ出るだろう?」


「だああぁ! もうやってられっか――!!」

 ハファカはとうとう、掌にのせていたヒヨコ達を『せんべつまえ』の箱に戻してから椅子を立ち、床をごろごろしてキレ散らかした。
 小学生の駄々と変わらないキレ方にHは目眩を覚えながらも、『♂』の選別箱にヒヨコをそっと降ろしてイズルの方へ顔を向ける。

「なぁ、アレなんとかしてやれよ」
「私がかい?」
「『即時に相手の素性を見抜いて対応を変える訓練』って名目でヒヨコの選別を4時間やらされるのも気が滅入ったが、俺はこの後キメ台詞の特訓も控えてるんだ。
 朝時のスパルタ指導に耐える体力は残しておきたい……分かるだろ?」

 余談だがHのキメ台詞は、
『アンタの悪夢も今日限り。バブリーな風をこの身に受けて、黒き騎士は夜を駆る――仮面秘書Hのお出ましだ!』
……なんとこれもボイスピンナップサイズだ。社長は身内にも商魂たくましい。

「キミも後で労ってあげるよ」
「嗚呼、そいつはグッドニュースだぜ……バブリーにやる気出る」

 ヒヨコに埋もれてぐったりしたHに代わり、イズルはゆっくりとハファカの前へ歩いて行ってしゃがみ込んだ。

「近寄って来るんじゃねぇ! 何でもそつなくこなせるイズルなんかに、俺の気持ちが分かるかよ!」
「確かに私はハファカではないから、キミの気持ちをすぐには理解できない。けれど悩みがあるならそばに居て、聞いてあげる事は出来るよ」
「お前……」

 泣きすぎてちょっと真っ赤になった目元でハファカがイズルを見つめる。そんな彼にイズルはそっとスムージーを差し出した。

「一本いっとく?」
「滾ってきたぜえぇぇ!!」

 ぺかぺか頭を輝かせるハファカからヒヨコの目を守りつつ、Hは思う。
 バブリーにやばいぜ、この職場……と。

  • There is always a next time.完了
  • NM名芳董
  • 種別SS
  • 納品日2022年05月04日
  • ・イズル(p3x008599
    ・H(p3x009524
    ※ おまけSS『実はこっちが本編だった説ある』付き

おまけSS『実はこっちが本編だった説ある』

テレレレテッテテーテテーー♪
「やめて! ギョスり翼神竜の特殊能力で、仮面の暗黒秘書Hを焼き払われたら、
 闇の稟議を申請したハファカの精神まで燃え尽きてしまう!
 お願いだ、死なないでハファカ! キミが今ここで倒れたら、メイルさんや同郷のマフィア仲間はどうなってしまうんだい?
 ライフはまだ残ってる。ここを耐えれば、闇バブリー朝時に勝てるはずだ!
 次回、『ハファカ 死す』。バトルスタンバイ!」
「なぁこの脚本、俺死んでる」
「俺なんか扱いモンスターだぞ」

 社屋に作られた音響ルームは機材も待合室もバブリーだ。収録中のランプが消えてブースからイズルが出てくると、台本を持って控えていたHとハファカがげんなりしていた。
 それとは対照的に朝時は満足げだ。

「いいね、とてもバブリーだ。アニメが完成したら早速、街のお茶の間に届けるとしよう」
「朝時、ちょっといいか」

 Hが手を挙げ、なにかと喧嘩を売る事に発展しがちなハファカの代わりに確認する。
 ヒヨコの選別も説明されたところで意味が分からなかったが、このアニメ収録や先日の生放送も秘書となるために必要なのかと。

「いい質問だ。では逆にHへ問おう。社長にとって秘書は何か」
「社長にとっては、そりゃ……補佐役だろ?」
「真っ当な答えだが、私はそれ以上の期待をオマエ達に抱いている。
 社長にとって秘書はーー"顔"だよ」

 突然イズルの手を取りターンする朝時。反射的に腰へ手を回し社交ダンスの相手をはじめると、どこからともなく優雅なBGMが流れ出す。ハファカは展開についていけず、あんぐりと口を開けていたが、朝時は鮮やかなステップと共に話を続けた。

「俺には長年付き添ってくれた大切な秘書がいてね。もう彼女が俺の元で仕事をする事はないがーー」

 余談ではあるが、前任者のティアン秘書は崎守ナイトという社長の元で怪しい日本語を使いこなしバリバリ働いている。そこに悲劇はないので安心して欲しい。

「ひとりで社長室にこもりながら仕事をしていると、どうも煮詰まってしまう。
 だが社長たるもの常に余裕があるように見せなくては大きな仕事(big chance)はやってこない」
「つまり朝時さんが忙しい時でも、私たちの顔が売れてれいば朝時さんの代わりに交渉ごとがこなせる。だからまずは"顔"としての知名度を上げようって事なんだね?」
「その通り!」

 ビシリとキメポーズをしたところで、朝時の携帯が鳴った。新しい仕事だ。

「さぁ、今日も贅沢(luxury)な仕事(business)を始めようか」



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