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恋に焦がれすぎて……
登場人物一覧
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無造作な黒髪、眠たげな瞳の上から眼鏡をかけ、モブ顔といった容姿の青年、『探索者』浅木 礼久 (p3p002524)。
彼はいわゆる陰キャと言われる人種である。
なんだかんだと混沌の地に召喚されてきた礼久が今、執心しているのは、とある女性のこと。
きっかけは、彼女、『海賊淑女』オリヴィア・ミラン(p3n000011)との街角での出会いだった。
初めて話したその時から、礼久は彼女に惚れてしまった。
オリヴィアは豪快さを顕現させたような性格で、ぐいぐいと引っ張ってくれるような姉御肌の女性。
その反面、海種の彼女が人魚と姿となった姿は神秘的ですらある。
そこからもっと仲良くなりたいと、礼久は折を見てオリヴィアへと手紙を書いている。
さらに、闇市の商品も覗いて、彼女に似合うと感じた品を手に取って贈る程の熱の入れようである。
それほどまでに、オリヴィアに執心している礼久だが……。
ある日、気づけばいつの間にか、礼久はオリヴィアらしき女性と共に街中で楽しい一時を過ごしていた。
「さて、どこにいこうか」
オリヴィアらしき……この際、オリヴィアと認識するが、彼女は今日も眩しい笑顔を礼久へと向けてくれる。
正直、礼久としては、オリヴィアと一緒であればどこに行っても構わない。
例え、どの国にいても。いっそ、海の中であっても、礼久にとっては幸せだし、素敵な一時を過ごすごとができる自信がある。
ただ、オリヴィアが傍にいると認識するだけで、胸の鼓動は高まってしまう。
シャイネン・ナハトの時もそうだった。
あの時も彼女と一緒に眩い装飾に彩られた街を一緒に歩いて、プレゼントを交換し合って……。
今なお、礼久の中では何物にも代えがたい程大切で、幸せな想い出だ。
「ふふ、何呆けているんだい」
白い歯を見せて笑う彼女のその顔を見るだけで、また幸せな気持ちが込み上げてくるが、礼久はなんとか口を動かして。
「い、いえ、大丈夫です」
「ほら、ぼさっとしてんじゃないよ!」
答えになってない返事に、彼女は礼久の背を軽くポンと押す。
そして、オリヴィアは礼久へと手を差し出す。
少し日に焼けている肌は、海洋の地や海で多数の修羅場をくぐっているからなのだろうが、それでも女性らしさを感じる手に礼久は自らの手を重ねる。
その瞬間、オリヴィアがギュッと握り返してくれたことに、礼久はびくりと身を震わせた。
そんな初々しい彼に、オリヴィアが切れ長の目を細めて。
「さあ、どこに行こうか」
改めて、オリヴィアが問いかける。
その手の感触、ぬくもりを感じる礼久。
感情を刺激されて、体が火照っていくのを感じる。
「ああ、もう、じれったいな」
ぐいっとオリヴィアは礼久を引っ張って。
「ちょっとばかし、楽しいことに付き合ってみないかい?」
オリヴィアが大好きなのは、勝負事にお酒。
おそらく、勝負事は多人数と賭けか実戦形式の模擬戦。お酒なら酒場などへと向かうことになるのだろう。
だが、礼久はそれが嫌だと感じて。
今は彼女を独占したい。そんな気持ちが高まり、今度は彼の方からその手を握り返す。
「い、いえ、俺は別の場所に行きたいです」
まだ、慣れていないのか、オリヴィアの前では丁寧語が抜けない礼久。
「お、俺に家に来てみませんか……?」
彼女に対して、自分でも思いもしない言葉が口をついて出てしまう。
そんな一言にオリヴィアはにっと笑って。
「ああ、今日は積極的だな」
家に誘う礼久が何をするのか、オリヴィアも興味津々な様子。
元の世界の経験もあり、礼久は自宅で楽しむ方法をいくらでも思いつく。
それがオリヴィアにとって楽しい事かどうかは分からないが、自分の楽しいと思う事を伝えられたなら。そして、一緒に楽しむことができたなら、礼久にとってそれ以上、喜ばしいことはない。
だが、オリヴィアは別の想像や期待をしていたようにも見えて。
「礼久が家で何をしてくれるか、楽しみだ」
どくどくと鼓動が高まる。
そのまま、礼久は目の前が真っ白になって……。
「……はっ!」
そこで、礼久は気づいて目を覚ます。
いつもと変わらぬ自室。窓の外から差し込む光で彼は目を覚まし、現状を把握する。
どうやら、自身のギフトの影響もあって、夢を見ていたらしい。
――ギフト「万華鏡の夢世界〈カレイドスコープ〉」。
夢の世界を自由に生み出すことのできる礼久の能力だ。
先程、登場していたオリヴィアも、礼久が思い描いた彼女の姿。いわば、礼久の理想と言っても間違いはないだろう。
オリヴィアに恋焦がれすぎて、夢にまで影響を。
「俺は夢とはいえ、オリヴィアになんてことを……」
果たして、それは本当に自分のギフトのせいなのか。
はたまた、自らの欲望のせいなのか。
夢の内容を思い出した礼久は甘すぎるその内容に顔を真っ赤にし、布団の上で思いっきり暴れ回るほどに発狂してしまうのだった。