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ある日の黒鉄 リリィのお話
登場人物一覧
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此処は鉄帝の酒場。
其処に、顔に一文字の傷がついた小柄な女が一人、酒を飲んでいた
彼女の名前は「黒鉄 リリィ」
見た目こそカオスシードだが、強固な機械骨格を有している歴としたオールドワンである。
彼女の容姿は整っており、その所作もまた美しく。
酒を飲む姿も絵になるほどに…故に、それに騙されて声をかける奴も居たりする。
例えば、そう―――彼女と同じ酒場の中で酒を飲んでいた、このラド・バウの腕利き闘士達たち、とか。
(「おい、お前らあの姉ちゃん視てみろよ!すげぇ美人だぞ!」)
(「んぐッ!?お前なぁ~!人が酒飲んでる時に背中叩くとかやめろよな!……うぉまじだわ、めっちゃ綺麗な女じゃん……!」)
(「飲むときの仕草も良いっすよね…グッとくるっす……!」)
(「傷が有るのもいっそ良いぐらいだしなぁ!」)
赤ら顔の男ども、人間種〈カオスシード〉の四人組が、小声で顔を近づけ、席の離れた場所で飲むリリィの事で語りあう。
酔っぱらってるからなおの事、話は弾むし気分も上がる。上がった勢いでナンパをしよう、なんて事も考えた。
彼女が注いだ酒を一杯飲みおえたのを見計らって、店を去る前にと闘士たちは彼女の居る席へと近づいて。
「よお~、姉ちゃんっ! 今晩どうよ? 俺たちが楽しませてやるぜ、ははは!!」
酔っぱらってた闘士たちの一人が、尻を撫でつつ、セクハラ紛いのナンパを仕掛ける。
当然、これは虎の尾を踏む行為だ、しかも闘志達は踏んだことに気づいていない。
……リリィが、ピキッと青筋が立てたというのに。
「……へえ。アンタら如きに、アタシが満足させられるってんだな?」
席を立ちリリィは、酒場の出口へ歩き始める。
リリィが乗り気になったと思った闘志達は、ノコノコと付いていく。
着いた場所は酒場付近にある路地裏、薄暗く、人目に付きづらい場所だ。
そしてついて来た闘士の一人が、リリィに近づき手を伸ばそうと―――
「へへ、じゃ早速はじm―――ギャ"ッ!?」
―――その伸ばした手首をリリィは掴み、引っ張られる感覚を感じる間もなく流れるように地面に叩きつけた!
「「「!?」」」
その衝撃はすさまじく、闘士は肺の空気は全て吐き出し、体の骨が軋むような音が響くと共に意識を落とす。
思わず、残った三人の闘士たちは呆ける。
そんな闘士を見ながらリリィは告げる。
「おいおいどうした―――アタシを、満足させてくれるんだろ?」
こうして、戦闘…否、蹂躙が始まった。
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「この……調子に乗りやがって……ッ!!」
まず、一人の闘士がリリィに迫り殴りつけようと駆ける。
「……ッ!」
リリィはその迫る拳を、受け流すように自身の手で逸らしながら懐に一気に入り、闘士の顎付近へ手を押し出すように「ヅヅ!?」……ぶつけるッ!!
闘士は苦悶の声を上げると同時に、背中から地面に強烈に叩きつけられる。
リリィの攻撃や後頭部を地面に勢いよくぶつかったのも合わさり、また一人、倒れ伏す。
そして残った二人は、一人じゃ不利と考え。
「オラァァ――ッ!!」「行くっすッ!!!」
一人は上段蹴り、一人はその逆方向から中段突きをしようと迫る。
だがリリィは焦らず、突きを打とうとする闘士の間合いへ急接近、当然蹴りは当たらない。
中段の突きを放つ闘士の手首を難なく掴み、引っ張り、態勢を崩す。
その隙を当然逃さず、首元へ手刀を叩きつけるかのように、闘士を地面へ「ゴァ…ッ!?」叩き、つける!
当然、闘士は受け身も取れず気を失う。
叩きつけた直後、リリィはすぐさま方向転換。
残りの”蹴りを放ちおえた直後”の闘士へ急接近。
体勢が安定してない闘士の胴体目掛けて、タックルのように体を「グェッ!?」ぶつ、ける!
オールドワン特有の頑強さも相まってその威力は絶大、闘士は激痛と共に意識を手放す。
……こうして、五体満足に路地裏に立つのは、リリィ、ただ一人となった。
「なんだいなんだい、口ほどにもないじゃないかアンタら。まだ全っ然満足してないんだけどなぁアタシゃあ!?」
―――この中の闘士達は知る由も無かったが…もし彼女を知ってる者が居たならこう言ったことだろう。
『彼女は黒鉄 リリィ。
誰が呼んだか【鬼神衆】、そのうちの一人だ。
奴らを信奉する戦士達も少なくねぇ、―――なにせ、奴らの実力はあの【魔種】を打倒し得るほどなんだからな!』
……実際、この事を知る者が一人でもいれば、たとえ酔っていようとナンパなんてしなかっただろう。
むしろ生きてるだけ、この闘士たちは運が良かった…いや、こうして生死不明の重体になっているのだから、良くはないのだろう。
「ったく、飲み直しだよくそったれめ」
最後に、近くで倒れる闘士の頭を、ついでとばかりに蹴っ飛ばす。
何やら闘士の悲痛な声が漏れたが、そんな事は意にも介さず一切気にせず、リリィは酒場へ戻っていくのであった……。