SS詳細
二つの合鍵
登場人物一覧
春の陽気が差し込む離れの縁側で、龍成は笑顔を零した。
青年の掌の上には二つの鍵が乗せられている。
窓から差し込む陽光にその鍵を翳してみれば、紐で繋いだペンダントトップの意匠が煌めいた。
アイリスとリナリア。ボディと龍成の誕生花を象ったデザインだ。
この前二人で遊びに行った時に、アクセサリーショップで特別に注文したものが出来上がったのだ。
質の良いアクセサリーは見ているだけでも楽しい。それが親友とお揃いのものとなれば嬉しさも倍増する。
「龍成?」
「うお!?」
浮かれすぎてボディが居間に入って来たのにも気付かない程だ。
「何を見ていたんですか?」
「この前注文しただろ。ボディがここの鍵そのまま持ってるから、鈴とか付けようぜって言って」
鈴だけでは味気ないということで、龍成の行きつけのアクセサリーショップに寄ったのだ。
誕生花の意匠のペンダントトップに誕生石を嵌めてオリジナルのセレクトをしたもの。
「ああ、出来たんですね」
ローテーブルの上に置かれた二つの鍵。
アイリスがボディのもので、リナリアが龍成のもの。
「龍成……あの。この鍵、交換しませんか?」
「交換?」
「はい。貴方がこっちのアイリスの鍵を、私がこっちのリナリアの鍵を持ってる」
駄目でしょうかと問うボディの掌に『リナリアの鍵』を落す龍成。
「じゃあ、俺の鍵はお前が持ってて。お前の鍵は俺が持ってる。そっちの方が無くさねー気がするしな。それに、もうすぐお前の誕生日だろこれは俺からの誕生日プレゼントって事で」
「……はい」
リナリアの鍵をぎゅっと握り閉めるボディ――雛菊の頬が少し緩む。
龍成にはそれが嬉しそうな笑顔に見えた。
一つ屋根の下で何ヶ月も暮らして、傍で見ているからこそ分かる変化。
無表情なようでいて、ボディにはしっかりと内面の感情があると、龍成は知っている。
だから、思わず彼女の頬を指で撫でる。
もっと笑った顔が見たいと思ってしまうから。
「なあ、ボディ。お前の誕生日にはケーキ一緒に食おうな」
「はい。美味しい物は好きです」
こくりと頷くボディは、ふと視線を上げた。龍成の首筋に見知らぬ黒いタトゥーが見える。
また、別のデザインを入れたのだろうかと首を傾げれば、龍成も同じ方向に顔を倒した。
沢山の幸せと、少しの不安とが入り交じった不思議な感情。
これは、何だろうとボディは龍成とお揃いの鍵を握りしめた。
おまけSS『リナリアとアイリスの鍵』
アイテム名:リナリアの鍵
アイテム詳細:燈堂の離れの合鍵。紫水晶の周りにリナリアを象ったペンダントトップと小さな鈴が通してある。アイリスと対になる鍵で、本来は龍成のものだが交換した。龍成から大切なボディへの誕生日プレゼント。