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苺日和
登場人物一覧
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朝起きて、『円環の導手』巡理 リイン(p3p000831)は目を擦りながら洗面台に立つ。瞳が半分だけ開いたまま、頬を軽く2、3回叩いてから眠気を覚ました。
「よし!」
今日も1日が始まる。リインは歯を磨いてから顔を洗った。顔についた雫を丁寧に拭き取っている時に、『魂の牧童』巡離 リンネ(p3p000412)がふらふらとトイレに歩いていくのが見えた。どうやら、彼女も起きたらしい。
時刻は午前7時。彼女にしては、起きる時間は早かった。感心だとリインは頷いてから、台所へと向かった。
その頃、リンネはトイレを後にしてから洗面台に立っていた。リインとはワンテンポ遅い形で、彼女と同じ行動を取っていた。歯を磨いてから、顔を洗う。あ、まだ寝巻きの状態だ。そそくさと自分の部屋へと戻ってから、いつもの洋服に着替えたのである。
その時に、リインが料理をしているのか、朝食の香りがしてくる。
「リンネ、出来たよ!」
「早いじゃーん!」
リインは着替えたばかりのリンネの手を引いて、ダイニングへと連れて行った。テーブルの上にはハムエッグに味噌汁などなど、朝食らしい朝食が並べられていた。
「あれ、これ失敗した感じ!?」
「バレたか。フライパンから目玉焼きを取った時に黄身が潰れちゃってね」
リンネの指摘に、リインはぺろっと舌を出して微笑んだ。
それから2人は仲良く向き合うようにして、椅子に座った。いただきます、と声が重なりつつ、それから2人は朝食を取るのであった。
「ねえねえリンネ、幻想の街にね、新しいケーキ屋さんが出来たんだってー!」
「マジ? それは食べに行かないとじゃん!!」
「そうなの! 今日は暇だし、一緒にどうかな? リンネ、どうせ暇でしょ??」
「どうせは余計だー! ま、いいよ、興味あるしねー!」
という事で、今日の予定は決まった。
2人で幻想の街へ行き、新しいケーキ屋さんへ遊びにいくのだ。2人は死神であるのだが、まだまだ少女らしい会話に華を咲かせていた。
「でもその前に」
リインは朝食を食べ終わったばかりのリンネに身体をぶつけた。
鈍い音がしてリンネの身体が軽く吹き飛び、ソファの上に突撃する。打った頭をさすっていたリンネの上に、リインが抱きつくようにして飛び乗って来たのだ。
「どーん! ちょっとくらいごろごろしてから準備しよーよー!」
「た、食べたばかりだから苦しいってーの! ぐふっ」
「まあまあ! はい、ごろんごろん♪」
「もー……」
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太陽がまだまだ高い位置にある。
朝食を取ってから、少し休憩を挟むようにしばらくソファの上で戯れていた。故の、もう昼時。
「リインが二度寝するから、もう昼時じゃん! しかも、もう腹減ったし!!」
「ごーめーんー、奢るから、ね!?」
「言ったな?!」
準備をしてから、幻想の街並みを歩いているリンネとリイン。
対照的なカラーの2人は、街を歩くと絵になるようだ。
やって来たのは件のケーキ屋さん。どうやら人気なようで、既に出入り口から人の列が出来上がっている。
「あっちゃー……ちっと来るのが遅かったかなー? リインが寝ちゃうから!」
「にゃにおう! まーまー、並んでる間に更にお腹が減ったらきっと美味しくなるかも、だしー!」
「んまー、イイけど」
リインとリンネは暫くその列に並んで、自分達の番が来るまで世間話をして待った。
やがてお店の出入り口まで、列は進んだ。店員からメニューを渡されつつ、ベンチに横並びで座りながら2人はメニューの中身を精査していた。
「むむっ、ケーキのお店かと思いきや、ランチが割と充実しているんだね!!」
「リンネは食べるの? なら私も食べようかなあ……、あっ、タピオカジュースもあるよ?」
「なぬ! これは噂のタピるといつやつかー! リインが今時系女子に!」
「そりゃー、興味あるよっ! 大きいサイズを頼んで一緒に飲む?」
「よしきた! あえて一つ頼んでコスパは最強ってところだね!」
「そゆことっ」
鈴鳴る声で笑いながら、やっと店内へと倒された2人なのであった。
まだまだ残暑の屋外に比べたら、店内は快適な気温に設定されており、ベタつく肌も少しずつ乾かされていくようだ。
店内はまさに女性向けジャンルと言わんばかりにファンシーな空間であり、窓辺には小さな人形が飾られていたり、壁は白で統一されているが、ドライフラワーがシャワーのように垂れているインテリアが所々に飾られており、ふわりとフローラルな香りがしていた。
「いかにもな店じゃん!!」
リンネがくすぐったそうに感想を述べるの、リインは小さくふふりと笑った。
「確かに、ちょーっとリンネには合わない空間、かも?!」
「今時の女子よりも、私は私の道を行くのだよ。リインはなんか、この空間にバッチリ合ってるって感じだなー!」
「にゃにおう! 褒められたと受け止める」
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やがて2人の前にはパスタとケーキが並ぶ。盛り付けも華やかなもので、料理を見て楽しむとはこういう事なのか、と2人は目を見合わせて頷いた。
「大丈夫、リンネ? カトラリーの使い方わかる?」
「それくらい分かるわ!!」
2人はタラコの入ったピンクのパスタを食べ始める。パスタは高く盛られており、円を書くようにして青紫蘇がトッピングされ、パスタの真ん中には海苔が乗っていた。これを崩すのは勿体ないなあ……とリインは、どこからフォークを入れようか迷っていたのだが、性格の違う真正面のリンネはフォークを豪快にパスタの中へ突っ込み食べ始めていた。
「リンネ、家ではそう食べていいけどさっ」
「食べ物は食べたいように食べる、これ鉄則」
「あはは、リンネが楽しいならそれでよし」
リンネは普段は雑なところを見かける時が多いようだが、それでもリインの水が入ったコップが空になると店員を呼んで注いでもらうなど、細かい気遣いが見え隠れしていた。
そんなリンネだからこそ、リインは安心して彼女の隣に居られるともいえよう。たっぷり注がれた水の入ったコップを、両手で持ったリインはにこりと笑った。
「リンネ、いつもありがとっ」
「ん? ああ、はいはい」
しれっと、サバサバしているリンネだが、その小麦色の頬が少しだけ朱の色を帯びていた。
やがてメインのケーキへとフォークの先が動いていく。
リンネは青空のような色を乗せたブルーベリーのムースケーキを。
リインはお花畑のように賑やかな、フルーツが盛り盛りと乗っているフルーツケーキを頼んでいた。色の方向性は異なるが、どちらもフルーツ系統なのは一致している。
「久しぶりにこういうのを食べる気がするなー! リインの少し分けて欲しいなー、なーんて思ったり」
「言われなくてもあげるよー!」
2人は同時にそれぞれのケーキを口へと運んだ。口の中から溢れる酸っぱくて、それでいて生クリームのほんのりとした優しい甘さが重なった。
リインは落ちそうな頬を抑えながら幸せな笑顔を浮かべていた、それをみてリンネもたまにはこういうのも良いなと安寧に身を委ねていた。
「また連れてきてね、リンネ!」
「はいはいっと。隙あり!! リインが最後に食べようと残している苺は貰った!!」
「え!? ちょっ、リンネーーーばかっ!!」
リンネの戯れにリインが慌てて、つい力の入った拳をテーブルに叩きつける。すると店内が地震が起きたかのように揺れ、テーブルがわずかに陥没したとかなんとか。