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我儘の涙
登場人物一覧
夢を見た。
学校に行って、友達と駄弁って、遊んで、笑って、怒って、泣いて。
普通の高校生活。
龍成には覚えのない、有り得ない日々。
暁月も廻もクラスメイトで、馬鹿みたいにはしゃいでいて。
その中には雛菊姿のボディも居た。首の金属も胸の傷もない普通の人間。
真面目に授業を聞く横顔は綺麗だと、夢の中の龍成は思った。
手を繋いで通学路を歩く。
しっとりと湿度の籠もった掌を妙に意識してしまう。
滑らかな肌の奥に感じる体温は龍成よりあたたかい。
後ろから来る車に驚いて蹌踉けたボディの身体を抱き留めれば、とろりとした緑瞳に胸が締め付けられる。
きっと、夢の中では自分とボディは親友ではないのだろう。
ボディを見て湧き上がる感情は『恋』に相当するものだったから。
「やめろ……止めてくれ」
気付けばボディの身体を後ろから抱きしめていた。
彼女の手にはナイフが握られ、今にも胸を突いてしまいそうな勢いだったからだ。
何故、誰も居ない教室で、命を絶とうとしたのか。
大切な人に置いて行かれる焦りで――――目が覚めた。
「龍成? どうしました?」
心配そうに覗き込む雛菊姿のボディ。夢と違うのは首の金属と胸元の傷跡。
「……っ」
胸が掻きむしられる。幸せな夢とそれを失う怖さが一気に龍成の心に流れ込んだ。
「誕生日のお祝い何が良いかと聞きに来たのですが、うなされていたので起こしてしまいました」
龍成は寝転がった布団をぽんぽんと叩く。素直に布団の上に正座したボディの太ももに龍成は頭を置いた。
「何ですか?」
ボディは腰に抱きつく龍成の頭へ、ぐいと抵抗するように力を込める。
「……ごめん、ちょっと我儘聞いて」
押しのけようと頭に置いた手はその言葉でぴたりと止まった。
様子がおかしい龍成をじっと見つめるボディ。
ふと、太ももに零れ落ちる、あたたかな雫に気がつく。
「泣いているのですか。悪い夢でも見ましたか」
「あー、もうぐちゃぐちゃだ」
とても幸せで、悪い夢だった。この歳で夢を見て泣くなんて思ってもみなかった。
「お前と学校で幸せな日々を送ってた」
「それは悪い夢ですか?」
「でも、お前が死のうとしてて、置いて行かれるって思って……」
涙を堪えるような長い溜息が龍成から漏れる。
夢に乱され、縋るようにボディの腰に回した手に力を入れた。
「……ボディ、死ぬなよ」
その声は切なる願いが込められているようで。
それを無碍に振り払うことなんて出来なくて。
「私は、この屍機の身体も、死者も生者も、貴方のことも全て背負って、生きて行くと決めましたから」
何一つだって手放すものか。この身体に恥じぬ生を刻まねばならないのだから。
「だから、安心してください」
そう、優しい声色で。ボディは涙を落す親友の頭をそっと撫でた。