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SS詳細

ニルトキのおいしい日和 Vol.1『練達、粉もん』

登場人物一覧

トキノエ(p3p009181)
恨み辛みも肴にかえて
ニル(p3p009185)
願い紡ぎ

●食い倒れの街
「お仕事お疲れさまでした、トキノエ様」
「ああ、ニルもな」
 練達で仕事を終えたトキノエ(p3p009181)とニル(p3p009185)のふたりは、今、再現性東京内にある『大阪街』にいた。
 今日の仕事は順調で、大きな怪我や疲労を抱えること無く終えられた。偶然同じ依頼を受けて現場で顔を合わせたふたりは、元より『飲み友』という間柄。他の仲間達と別れても、何の気なしに自然に足は同じ方角へと向けられる。
 このまま少し歩きながら、互いの近況を軽く話し合いながら解散……の形でもよいのだが――。
(やべえ……なんか……腹減った……)
 生物は動けば腹が減る。正直今にも腹が鳴りそうなくらいに腹が減っているトキノエの片腕は自然と腹を守るように抱えていた。
 解散してひとりで何か食べるか。
 いや、しかし。せっかく隣に飲み友がいるのだ。飯と酒を楽しめたら最上だ。
「なあ、ニル」
「はい、なんでしょう?」
 頭上から掛けられた言葉に、ニルが顔を上げる。
 なんだか声が改まっているように聞こえたものだから、銀色の瞳は不思議そうに煌めいた。
「この後ヒマか? ちょっと飯食ってから帰らねえか?」
「はい。ニルもおなかが空いています」
 気付けば繁華街に入り込み、何処からか美味しそうな香りが漂ってくる。これはきっと、ソースの香りだ。瞳を閉ざしてスンと香りを吸い込めば「これは『おいしい』の香りです」とニルが口にし、「余計に腹が減るな」とトキノエが笑った。
「ニル、食べたいものはあるか?」
「ええっと……」
 きょろ、と辺りを見渡す。
 香りの元は雑居ビルの一階にある持ち帰り専門のたこ焼き屋だろうか。
「あの丸いのと……あれ、は食べたことがあります。ニルはトキノエ様がおいしいと思うものを食べたいです」
「俺が美味しいと思うもの? 俺は何でも美味いと思っちまうからなぁ」
 ニルがあれと指差した動く巨大なカニを見上げながら、顎に指を掛ける。カニは豊穣でも食べられている。……あんなに大きいかは別として。
「俺はここいらには詳しくねえから、適当な店でもいいか?」
「はい!」
 そうしてふたりは、香りだけを頼りに適当な店――お好み焼き屋へと入店したのだった。

 トキノエには馴染みのある、所謂和風と呼ばれる内装の店内には、いくつもの机が並んでいた。
 普段使う机と違う点は、机の殆どを黒い鉄板が占めていることだろう。ふたりが座布団に座ると店員が机の側面をカチリと音を立てて操作し、鉄板が熱を持ったのが解った。
「お好み焼きというのは、様々な具材があるようですね」
 品書きを広げてふたりで覗き込むと、ブタやらイカやら海鮮から始まり、揚げ玉、こんにゃく、ネギ、紅生姜、チーズ、キムチ、餅、カニカマ、コーン、麺、ベーコン、長ネギ、明太子、イカ天、ちくわ、アボカド、トマト、油揚げ、納豆……e.t.c.……とにかく沢山のトッピングが書かれていた。
「知っている物も少しあるが、こうも種類があると悩むな……」
 名前を見てもよくわからないものの方が多いが、豊穣にあるからと解るものもある。
 とりあえず、『おすすめ!』と書かれている『スペシャル海鮮焼き』というのを頼めば間違いないだろうか。ホタテやイカやエビが入っていて美味しそうだ。
「トキノエ様、トキノエ様」
「どうした、ニル?」
「ばくだんが売っています」
「爆弾……って、発破するあれか?」
「いえ、食べ物のようです」
 見て下さいとニルが指差すところに、写真も乗っていた。
 狐色の、丸い食べ物だ。
「……さっきの、たこ焼き、ってえのと同じじゃねえのか?」
「一個でお腹いっぱい、と書かれています。大きいのでしょうか? ニルはこれも気になります」
 注文してみても良いですか?
 窺う視線に、トキノエは静かに顎を引く。
 知らない街の知らない食べ物は、外つ国に訪れた時の楽しみのひとつだ。
「じゃあ、そのばくだん焼きってえのと、このスペシャル海鮮焼きにするか」
「はい! ニルはとても楽しみです」
「後は……酒は日本酒でいいか?」
 ニルがはいと微笑めば、店員を呼んで。
「お好み焼きはご自分で焼かれますか?」
「いや、作法がわからねえ。焼いてくれるか?」
「畏まりました」
 酒の注文時に指をふたつ立てると、チラリとニルへと視線が行く。けれど「成人済み」の魔法の言葉をトキノエが唱えれば、童顔なのだなと店員がすぐにふたつのお猪口と酒瓶を持ってきてくれた。
 改めて今日の仕事を労って乾杯をし、お通しを摘みながらチビチビやりながら互いの近況報告をしあっていれば、時間はあっという間に過ぎていく。
「お待たせしました。仕上げはこちらでさせて頂きますね」
 大きな銀色の平たいものコテに良い香りの何かを載せた店員がやってきて、ふたりの前の鉄板にそれを置く。素早くどろりとした黒っぽい茶のタレ刷毛で塗られ、鉄板に落ちたタレがじゅうじゅうと鳴きながら良い香りを辺りに充満させる。
「青のりと鰹節、マヨネーズはお掛けしてもよろしいでしょうか?」
「ああ、頼む」
 問うということは好みや別の理由から掛けない人もいるが、掛けるのが定番なのだろう。顎を引いたトキノエに応じて、店員は素早く仕上げた。
「ニルは知っています。たこ焼きでも踊っていました」
 踊る鰹節が楽しそうですねとニルが笑う。
 黒くて平たい円形で、青のりやマヨネーズで飾られ、鰹節が踊る『お好み焼き』は、不思議だが美味しそうにトキノエには思えた。
「お待たせしました、こちらがばくだん焼きです」
 カットもしてくれている店員の後ろから、違う店員がを持ってきた。
「……何か生えていますね」
「生えているな」
 にゅっと生えて、にゅるんと巻いて、吸盤がついている。タコだ。
 お好みでおかけ下さいと店員が置いていくのは、醤油、カレー粉、ソース、マヨネーズ、一味、削り節……。沢山の調味料が少量ずつ。
「少しずつ楽しむのが正解でしょうか?」
「だろうな。まあ、食べてみるか」
「はい! いただきましょう!」
 互いに目の前の――トキノエはお好み焼き、ニルはばくだん焼きへと箸を伸ばす。トキノエの喉が、ごくりと鳴る。貧乏舌ゆえに何でも美味しく頂ける自信はあるが、未知の食べ物とのファーストコンタクトは少なからず緊張するものだ。
 材料がよくわからないが狐色の生地のそれを箸で割り、ほかりと湯気を上げるのを持ち上げ、口へと運ぶ。シャキシャキとした食感はキャベツだろうか。甘じょっぱいソースをマヨネーズがまろやかにし、いくつもの材料の味が口内を満たした。
「お、意外と……いやうめえなこれ!」
 パッと表情を明るくしたトキノエに、ニルもはいと頷いて。
「トキノエ様と食べるごはん、ニルはとってもとってもおいしいです!」
 にっこり笑ったニルが、見て下さいと割ったばくだん焼きの中身を見せる。
 熱々のトロトロとしたクリーム色のチーズが、様々な具材とマリアージュしている。
「ニルも食べてみな」
「トキノエ様もどうぞ」
 小皿にお好み焼きとばくだん焼きを交互に載せては、ふたりは箸を動かした。
「……酒も合うな」
「おいしい、ですね」
 ニルには味は解らないけれど、トキノエとの食事はいつだって『おいしい』。
「お好み焼き、もうひとつ頼んでおくか? 『全載せ』ってえのを試してみようぜ」
「たのしみですね」
 きっとそれも、おいしいのだろう。

  • ニルトキのおいしい日和 Vol.1『練達、粉もん』完了
  • GM名壱花
  • 種別SS
  • 納品日2022年04月09日
  • ・トキノエ(p3p009181
    ・ニル(p3p009185

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