SS詳細
藪蛇 蓮華。或いは、狂々発止の狂騒曲…。
登場人物一覧
- 藪蛇 華魂の関係者
→ イラスト
名前:藪蛇 蓮華
種族:人間種
性別:女性
年齢:10代後半
一人称:私
二人称:君、~さん、クソ親父
口調:~です、~ます、~ですわ
特徴:血色が悪い。痩身。父親嫌い。呪具塗れ。
設定:
藪蛇 華魂 (p3p009350)の実の娘。
彼女は父・華魂の異常性をもっとも近くで、もっとも長く見続けた人間の1人である。例えば、彼女の記憶に残る一番古い父の顔と、今の父の顔はまったく異なるものだ。その肌の色や、指の長さ、爪の形に至るまで全てだ。
華魂は優秀な人間の遺体から部品を切り離し、自身の身体に移植している。幼いころはそういうものと思っていたが、ある日、華魂が亡くなった母の顔を剥いで自分の顔面と張り替えたのを見た時、その異常性に気が付いた。
その日、連華は父がまるで“人の形をした化け物”のように思えて嘔吐した。以来、彼女は父のことを死ぬほど嫌悪するようになった。
死者の体を斬り刻み、ましてやそれを自分に移植するなどという行為が“普通”であるはずが無いのだ。しかし、父はどうやら自分の異常性を自覚していないようで、優秀な遺体を仕入れる度にこう問うのだ。
「蓮華。この指はお前によく似合うと思うのですが、付け替えませんか?」
そういって差し出された、白くて細い指は亡き母のそれによく似ていた。
母も、そして自分も父に深く愛されていることを蓮華はよく理解している。その方向性は歪なものだが……。
父より供される食糧に蓮華はあまり手を付けない。それゆえか、彼女は年齢の割に身体は細く、血色も悪い。華魂はそんな蓮華を心配し、彼女の栄養補給のために多くの薬剤を調合し、彼女の身の安全のために数多の呪具を身に付けさせた。
おかげで蓮華は、外見はともかく身体的には健康そのもの……むしろ、同年代の女性はおろか男性と比べても格段に強靭でさえある。
問題があるとすれば、父より持たされた呪具の類を蓮華の意思で手放すことは出来ないことか。父が仕事でいない時でもその存在を感じられて、果てしなく不愉快なのである。
おまけに父の意思で自由に戦場に呼び出されるときたものだ。華魂曰く「社会見学」とのことだが、実の娘を戦場へと呼び出す親がどこにいるのだ。
悲しいことにその異常者が実父である。どうしようもない。
いつか蓮華は家を出ていくことを決めている。
だが、それは今ではない。
彼女は家を出る前に、華魂を殺めて母を供養すると心に決めているからだ。
おまけSS『井ノ中ノ骨ナリ。或いは、私の大事なお友達…。』
曇った空が嫌いだった。
どんよりとした空の色は、父を想起させるから。
晴れた日が嫌いだった。
降り注ぐ陽光は青白い肌に痛みを与える。
光1つも無いような、暗い夜は居心地がいい。虫の鳴き声、川のせせらぎ、風の音。
耳を澄ませて、目を閉じれば、優しかった母の声が思い出される。
それと同時に脳裏に過る、薄く微笑む父の顔。
「う……ぉえっ」
逆流した胃液を吐き出して、連華は肩を抱きしめた。
暗い森の中、古い井戸に背を預け蓮華は静かに微睡んでいた。
眠れば母を夢に見る。
それは幸福な時間だが、目を覚ました後の気分が最悪に一等近いものとなるのだ。そこに母と同じ顔をした華魂の顔など見れば、吐き気を堪えることは叶わない。
「気分が悪いの?」
震える肩に手を触れて、若い女の声がした。
彼女の名も、顔も知らない。
けれど、彼女は友人だ。
眠れぬ夜、井戸の傍で震えているとこうして慰めてくれる蓮華の大切な友人だ。
彼女と蓮華が出会ってから、今日で何年の時が過ぎたか。
確か、父の異常性に気付いた翌日……蓮華と彼女は出会ったのではなかったか。
彼女はいつの間にか隣にいて、連華の話を聞いてくれた。
蓮華の言葉に耳を澄ませ、悩みに寄り添い、時には助言を与えてくれた。
華魂さんは貴女を愛しているわ。
でも、その在り方は間違っている。
あの人の性根は人の道を外れている。
でも、誰もあの人を止められないわ。
もしも、あの人を止められる者がいるとすれば、それはきっと蓮華ちゃんだけ。
そんな風に彼女は言った。
蓮華はそれを今でもしっかり覚えている。
「今日は冷えるよ? お家に戻った方がいいんじゃない?」
「……嫌ですわ。今、クソ親父が鼻歌混じりに腑分けをしてる」
帰りたくない。
その言葉を聞いた友人が、仕方ないなという風に肩を竦めた気配がした。
暫くの間、2人は肩を寄せ合って、夜の帳に包まれていた。
やがて、落ち着いたのか蓮華はゆっくり立ち上がる。
「気を付けて帰ってね」
「えぇ。ありがとう……ところで、ねぇ、まだお名前を教えてはくれませんの?」
なんて。
何気ない問いかけに、友人はきっと笑ったのだろう。
「いつかね。いつか、私の願いが叶った暁には」
その時はお名前を教えてあげる。
そう言って、友人の気配は消え去った。
ぽちゃん、と。
井戸の底に、何かの落ちる音がした。
家に帰れば父がいる。
臓腑と血と腐肉と薬物の臭いを纏い、何かを地面に埋めている。
その頬には血の汚れ。
慈しむような笑みを浮かべて、蓮華に「お帰り」と言った。
それから、華魂は視線を下へ。
蓮華に持たせた式符の呪具をじぃと見やって、肩を竦める。
「ンッフフ。井の中の骨はしつこいですな」
なんて。
愉しそうに呟いた。