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ビッグ祖母
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- 鹿王院 ミコトの関係者
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その日、イチカは朝から祖母の部屋を訪ねていた。
一緒に出かける約束をしていたのだが、時間になっても居間に顔を出さなかった為である。
正直なところ、意外であったのだ。
祖母は奔放なイメージが強いが、時間にルーズであるという認識はない。
むしろ、自分のほうがよほどその面が顕著であると言えよう。
そもそもが、今回の『お出かけ』の提案は祖母からである。正直なところ、いい歳をして『おばあちゃんとお出かけ』なんて気恥ずかしくはあるのだが、断ると拗ねてしまって、後々が面倒だ。
そういえば、このあたりは兄や父とも意見が異なるようで、両者が祖母と出かけることを嫌がっている素振りなど見たことがない。どちらも、感情を隠すのを得手としている部類ではあるが。
「お袋は例外だしな……」
母の本家好き、敷いては祖母好きは、実子のイチカから見ても異常である。祖母に付添を頼まれた日には、歓喜で極まることだろう。
まあ、祖母から母になにか誘いをかけているところなど見たことはないが。
そんなこんなで、祖母の部屋。障子戸であるため、ノックをするわけにもいかず、どうを声をかけたものかと思案する。障子には乱れ一つない。小さい頃、興味本位で穴を開けたら、あとで母からしこたま説教を食らったものだ。以来、イチカはこの、薄い紙だけの仕切りがどうにも苦手である。
仕方なく、声を出すことにした。微睡んでいたなら、申し訳ないが。
「ばーちゃん、起きてっかー?」
「おう、すまんの。慣れんもんでな。ちと準備に手こずっておるのじゃ。入ってきて良いぞ」
「化粧中かよ……」
女性のそれに時間がかかるのは理解していたつもりだが、どうにも、その場で盛大に溜息をついてしまう。
「ほどほどにしとけよなー。ばーちゃんがやったって、ガキが背伸びしてるようにしか見えねえんだしさあ」
祖母の容姿は、孫であるイチカよりも幼く見えるものだ。良く言えば童顔。悪く言えばロリフェイス。いや、どっちもどっちか。
「うっさいわ! ええから、はよ入ってこんか!!」
「へえへえ、そいじゃ、お邪魔しますよーっと」
「あーん、オトコノコを部屋に入れたのはじめてー」
「マジでその声やめて……」
そうして中に入り、イチカは信じられないものを見た。
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「うむ、孫よ、いらっしゃいじゃな」
入ってきた孫を出迎えてやると、そのかったるそうな表情がぴしりと固まった。
嗚呼、困惑している。なんとも、困惑している。それだけで、なんとも胸がすくような気持ちになれる。
「何をしておる。迎えに来たんじゃろう?」
「は? え……どちらさま?」
その言葉に、笑い転げたくなるのを必死で堪えたものだ。
「何言っとる。孫がだーい好きな、お婆ちゃんの顔を忘れたか?」
いいや、イチカの反応は正しい。今のこの顔は、今のこの姿は、イチカが認識しているそれとはまるで異なるものであるはずだ。
背は伸び、体つきは女らしくなり、顔立ちも大人びて。イチカの幼い妹にも間違えられていた普段とは違い、今やイチカの姉と言われても違和感がないほどに肉体が成長している。
無論、外見年齢が上がると、イチカの母にも見目は似てくるのだが、そこは表情や纏う気配が異なるもの。そうそう、間違えられることはないだろう。
それを感じ取ったイチカも、相手が誰かわからず混乱したのだ。
「え、嘘、ばーちゃん!!?」
素っ頓狂な声をあげる孫。それでどうにも耐えきれなくなって、畳の上で腹を抱えて笑ってしまった。
「ナイス、ナイスリアクションじゃぞ! その反応、期待通りじゃ!」
「え、うっそ。いや、たしかにお袋に似てっけど、声はばーちゃんだけど、なんで???????」
「ふっふっふーん。どうじゃぁ、儂もまだまだ捨てたもんじゃなかろう?」
「いや、その表現は微妙に間違ってる気がするけど……」
ひとしきり驚いたあと、げんなりした顔を見せるイチカ。こちらの言動を見て、理解と精神が合致したのだろう。思いの外すんなりと、目の前のそれが祖母であると認識できたようだ。
「今日は孫とのデートじゃからのう。お婆ちゃんは張り切ったのじゃ」
「でー、と……?」
「なんじゃ、若い男女がふたりで出かけたらデートじゃろが!」
「いや、ババアと孫だし。どっちかってーと……散歩?」
「散歩ちゃうわ! ええい、こんな美女と出かけるんじゃ! エスコートする甲斐性くらい見せんか!!」
「ほらお婆ちゃん、信号が青になりましたよ」
「違う! そういうの違う!! ほれ、あいあむ絶世の美女! ゆー、若くて色々持て余す男!」
「やめろ、ばーちゃんに持て余すとか言われる孫になりたくない!」
「やったあ、絶世の美女は肯定なんじゃな!!」
「ツッコミが追いついてねえんだよ!!!!」
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「で、なんで?」
「なにがじゃ?」
「いや、その体、どういうワケ?」
「えっ、イチカ君。お姉ちゃんの体に興味津々なの? もう、えっちなのは良くないよ!」
「おうぇええええ、げろげろげろ」
「ちょ、本気でえづかんでもええじゃろが!」
「待って、マジ、マジ無理……」
祖母に背中を擦ってもらって5分弱。ようやくショックから立ち直ったイチカは改めて問いただすことにした。
「だーから、なんでそんな大きくなってんの? ほら、もっとちんちくりんだったじゃん」
手を使って膝丈あたりの身長を示してやる。
「そんなちっちゃくなかったわ! ふ、ふん、イチカの勘違いじゃろ。儂、最初からこうじゃもん」
「こうじゃもんって表現初めて聞いたわ。いや、無理あるから。それで押し通すのは無理があるから」
さっき、サイズ変わって驚いてるのを喜んでいたろうに。
「ぐぬぅ……仕方ない。可愛い孫にだけは真実を伝えてやろう」
突然、その表情が真剣なものに変わる。その様子にただ事ではないと、イチカも気持ちを改めた。
「今日が何の日か知っとるか?」
「んー、エイプリルフールだろ」
「そうじゃな。どういう日じゃ?」
「そりゃ、嘘をついても良い、って言えば語弊があるよな。んー、軽い嘘でジョークを言うなら許される日?」
「うむ。認識の間違いはない。しかしなぜ、エイプリルフールだからそれが許されるのか。考えたことはあるかの? 儂がこうなっているのも、そこに起因する」
そこでイチカは考え込んだ。確かに、この日はそういう、一種のお祭りのようなものだとされているが、その起源を調べたことはない。
何かの聖人や事件が関わったという話もついぞ知らず。では、エイプリルフールとは一体なんなのか。
「うむ、実を言うとの、エイプリルフールとは、平行世界が交わる日なのじゃ」
「……は?」
「まあ聞け。素っ頓狂な話じゃが、世界というのは惑星のように巡り、その過程で世界近づいたり、離れたりする。それが互いに影響を及ぼすこともあるわけじゃが、中にはこの混沌に極めて近い、しかし何かが決定的にズレた世界もあるのじゃな」
そんな馬鹿な、と思いはしても、否定する要素はない。実際に、祖母自身、他の世界から混沌にやってきたのだから。
「そのような世界を平行世界と言うのじゃ。それが接触、混同と言っていい距離にまで近づく日。それがエイプリルフールなのじゃよ。故に、それはこの世界に。否、互いの世界に大きな影響。悪く言えば侵食を見せるわけじゃな」
それが、エイプリルフールに限って夢のような、摩訶不思議なことが起きる真実なのだという。2つの世界の情報が入り混じり、現実をその日だけ侵食する。日が変わり、世界の交わりが解ければ、忘れてしまうように。夢だと錯覚してしまうように。
「この接触を、溶ける。また、離れることを、解ける。と呼んでおる」
だから、祖母の体が急に大きくなったのも。色んな人があちこちでこの日だけはっちゃけるのも。サメが外宇宙から攻めてきてロボットに乗り込み戦ったりするのも、世界が『溶けた』せいであるのだ。
「じゃ、じゃあばーちゃんのその体も」
「うむ、本来交わらぬ平行世界では、儂の姿はこうなのじゃろう。儂は今、2人の儂が溶け合った存在というわけじゃな」
よって、目の間にいる祖母は祖母であって祖母ではない。血の繋がりがありながら赤の他人であり、その意識は祖母でも、その体はまるえ別の人間の―――
「な、なんでばーちゃんがそんなこと知ってんだよ?」
「うむ、それはな―――全部儂が考えたでっちあげだからじゃ」
「………………は?」
全部ウソでした。そんな発表に間の抜けた声を出してしまう。そんなイチカを見て、祖母は高笑いを始める。
「いーちかくーん。さっき自分で言ったじゃろうが。今日は何の日じゃ?」
「え、エイプリルフール……おい、今の全部そうかよ!!」
「あったりまえじゃ! こーんな荒唐無稽な話に根拠も真実もあるわけなかろうが! 世界の成り立ちとか知らんわ!」
「く、くぉぉおおっ。一回信じたじゃねえか!」
「純粋じゃのう。まだまだ可愛い孫よ。ほれ、お婆ちゃんが慰めてやるぞ。おー、よしよし」
「やめろ、撫でんな! くそっ、背が高くなって手が届くようになってやがる! あれ、ちょっと待て」
イチカはそこで疑問を持つ。では、これは一体なんなのだ。
「何しとる。早ういくぞ。出かけるために、儂を迎えに来たのじゃろ?」
そう言って、祖母は自室を出ていく。何事もなく外へと繰り出そうとする祖母を、イチカは必死で追いかけるハメになった。
「おい、ちょっと待て! じゃあその体は何なんだよ! なあ!!」
- ビッグ祖母完了
- GM名yakigote
- 種別SS
- 納品日2022年04月01日
- ・鹿王院 ミコト(p3p009843)
・鹿王院 ミコトの関係者