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さぁ、祈りましょう
登場人物一覧
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『未だ遅くない英雄譚』バク=エルナンデス(p3p009253)は今日も神に祈りを捧げる。
ここは
「さぁ皆様、お祈りの時間ですよ」
彼女の一日はこの一声から始まる。
彼女が信仰するものは祖霊信仰によく似たもので、彼女の他にも素晴らしく尊べき祖先を信仰する為にこの教会を訪れる者は多い。
路頭に迷ってしまっていても先祖だけは感謝し尊ぶべき対象である。先祖が居なえれば自分という存在は皆無である。この世界での神の教えとはそういうものなのだという。
「バク様ー!」
「バク様〜!」
「おやおや」
教会内は走ることは厳禁である。だが子供たちにどれだけ注意したとしても理解してもらうにはもう少し時間が必要なようだ。
「バク様! ボクね、お祈りに来たんだ! エラい?」
「ボ、ボクだってお祈りに来たんだよ! エラいでしょ?!」
「おやおやそうなんですね」
うーんと迷った様子を見せるバクに子供たちはアレ? と不安そうな表情を見せて。バクは子供たちの表情を見てニコリと微笑んだ。
「そうですねぇ……走らなければ、完璧だったかもしれません」
「えー!!」
「そんなー!!」
「だって教会の入口にある注意書きに書いてありますから、ね?」
戯けたように笑うバクにしゅんと落ち込む子供たち。
「うぐぐ……バク様に早く会いたくてつい走っちゃった……ごめんなさい」
「うう……ボクもバク様に会いたかったの、ごめんなさい!」
「そうだったのですか……なるほど」
バクは考え込むような仕草を見せて子供たちと同じ目線に立ち片目を閉じて笑う。
「じゃあ今日はさーびす致しましょう、この後に祈りを捧げれば神様もきっと許して下さることでしょう」
「本当!?」
「祈る祈るー!!」
祈りに対してやや軽めのノリのような気がしなくもないが、信仰とは自分から始めた方がより深みに行けるだろうから、とバクはそう考えた。
「それでは両手を合わせ、一緒に唱えましょう」
「はーい!」
「はい!」
子供たちは真剣な様子で神に祈りを捧げる。そっと手を合わせる子もいれば、まるで願掛けでもしてるかのように強く手を合わせる子もおり、祈り方は人それぞれ十人十色あるなとバクは染み染み思っていた。この安寧たる日常は先祖が我ら後世のために築かれた軌跡である。故に先祖は素晴らしき神であり尊ぶべき存在なのだ。
──また別の日。
この教会には祈りにやってくる子供たちも居るが、親がこの教会の前で置いてく等された孤児が何人か存在する。
「バク様、おはようございます!」
「おやおはよう。よく眠れましたか?」
「そ、それが……」
孤児たちも子供、そして素直な子が多い。
「おや、悪夢でも見たのですか?」
「っ……はい」
「仕方ないですねぇ……ほら、こちらへ」
バクが両手を広げ孤児を受け止める。
「バク様は温かいです……」
「そうでしょう? 温かいのは現実です、悪夢はきっと神様が祓ってくれるでしょう」
そんなバクの言葉に孤児はバクの方へ顔を上げて不安そうな表情を浮かべた。
「で、でもバク様? 私みたいなパパやママがわからないヤツでも神様はいるの?」
それは孤児にとって最もな不安だった。
父親、或いは母親に捨てられた彼らにとって存在するかも怪しい存在。これだから捨てる親は後から罰が当たるべきだと思える。が、それはさて置くとしてだ。
「生ある者全てに先祖たる神は居ます。誰かはわからなくてもちゃんと存在しますよ、あなたという存在は先祖なくしては存在しないのです。ですから安心して祈りを捧げましょう」
「バク様っ!」
先祖が死に絶えていたのならばその時点で今の自分は存在しないことになる。だから神が存在しないということはあり得ないのだ。そんなバクのその言葉を聞いた孤児は思い切り彼女に抱きついた。
「私、今日も祈りを捧げます! きっと神様に届くように……!」
「いい心がけです」
パッと笑顔を咲かせた孤児の頭をバクはサラサラと優しく撫でる。
教会の入口に捨てられていたこの赤子を見た時はどうなることかとヒヤヒヤしたのは昨日のことのように覚えている。未だに両親は迎えに来ないが、ここの孤児は皆迎えが来た試しがないため諦めても居るが。
「さて食事に致しましょう、あなたは他の子供達を起こしてきてくれますか?」
「はい!」
元気よく返事をした少女は急いで孤児たちで共有している寝室へと向かった。だから走るのは禁止だと何度も言っているのに。
「はぁ……」
軽めにため息を付いたバクは朝、窓を開けた先から爽やかな風がするりと入り込む。
「また良き日となりますように……」
バクの祈りの日常はこれからも尽きることはないだろう。
──それは平穏な素晴らしき世界のお話である。