PandoraPartyProject

SS詳細

IFルート 新進気鋭のプリマドンナ

登場人物一覧

ヴィリス(p3p009671)
黒靴のバレリーヌ

 今日は久しぶりにオフの休日。ここ最近は稽古と舞台で忙しく碌に休みも取れなかった。
 ようやくこの国以外にも踊り子としての知名度も上がってきたところ。ここが頑張り時なので仕方がない。踊るのは昔から大好きなので辛くはない。
「折角のお休みなんだし、外に出ないと勿体ないわよね!」
 ベッドから跳ね起きて、寝間着を放り出して洗面所へ向かう。顔を洗って髪を整えればいつも通りの自分の顔。欠かさず手入れをしている傷一つない顔も大事な商売道具の一つである。
「さぁ、今日も一日張り切っていくわ!」
 動きやすいドレスに身を包み、靴を履いたら準備は完了。もう10年近く住んでいる慣れ親しんだアパルトメントの扉を開けて外に出た。朝食もまだ食べてはいないが休みなのだし外で食べるのも悪くはない。

「お、我らがプリマじゃねぇか! 昨日の舞台観たぜ!」
「ふふ、ありがとう! 私はいつも通り素敵だったでしょう?」
 外に出れば皆既に働き始め、街は活気づいていた。屋台のおじさんに声を掛けられ同時に放り投げられる真っ赤な林檎。両手でしっかり掴み取るとふんわりと爽やかな匂いがする。
「俺からのプレゼントってやつだ。次も期待してるぜ?」
 貰い物を無下にはできない。袖で軽く林檎を拭いて一口齧れば酸味と甘味が口の中いっぱいに広がった。相変わらずおじさんの店の果物はとっても美味しい。これでまた明日からの稽古を頑張る気力も湧いてくる。
「任せて頂戴。私は最高のプリマになるんだから」


 気がつけば孤児として生活していた。親の顔など覚えてはいない。そう珍しい話でもなくごくごくありふれた悲劇。
 10にも満たない子どもが一人で生きていくには少々厳しい世界ではあったが運よく面倒を見てくれる師匠センセイに出会えたのが最初の幸運だったのだろう。1年ほど共に過ごして踊りの基礎と独りでの生き方を教わった。
 師匠がいなくなってからは踊りで小金を稼ぎ、少しばかりの仕事をしながら一人楽しく生きていた。踊りという楽しみを知った少女の人生はどこまでも幸福で光に満ちていた。
 そこから数年経ち少女の踊りが今のパトロンでもあるとある貴族の目に留まり、衣食住と劇場という新しい踊るための場所をもらった。努力を重ね、踊りを続け、なにも持たない孤児だった少女も今や劇場の看板踊り子。

 それがリリアーヌという名の少女の半生だった。


 おじさんに別れとお礼を告げて次にやって来たのは噴水沿いのカフェ。途中で買った新聞に目を通しながら珈琲を啜る。
「ふーん、また特異運命座標イレギュラーズが活躍しているのね」
 新聞の見出しは先日の特異運命座標たちの戦い。数年前に現れた彼ら、その名前を聞かぬ日はほとんどない。と言っても少女自身は特に関わりがなく知り合いが世話になった程度の認識。それどころか自分の舞台の話題を勇者パレードに持っていかれ一時期逆恨みすらしていた。
「この国の事件を解決してくれるのはありがたいけれどそれはそれ! 私の気持ちはまた別なのよ!」
 つい昔のことを思い出し新聞を破り捨てそうになるがクロスワードをまだやっていないことを思い出し踏みとどまる。
 そうして怒りの矛先はちょうどやって来たケーキへと向けられた。日頃はスタイル維持のために控えているお菓子だがたまの休みにそんなことは気にしていられない。とはいえ元から小食なので一つが限界ではあるのだが。

「あ、あの! り、リリアーヌさんですよね!?」
「ええ、そうだけれど……貴女は私のファンかしら?」
 ケーキとの格闘を続ける少女の元へ現れたのはファンらしき少女。変装もしてはいないし、この辺りに住んでいることも周知の事実なのでこうしてファンと出くわすことも珍しくはない。というよりも本人がサービス精神旺盛なだけなのだが。
「は、はい! えっと……わたしずっとリリアーヌさんの踊りを見てて……凄いなって思ってて……さ、サインください!!!」
「お安い御用よ。どこに書けばいいかしら?」
 休みの日であっても少女がプリマであることは変わらない。求められればいつだってどこだって少女は光り輝くプリマドンナになるのだから。
「い、一生大事にします!」
「そうなさい。しばらくしたらもっとずっと価値が出るモノだもの」

 ファンの少女を見送ってやや冷めた珈琲を飲み干すと代金をテーブルに置いて少女は席を立つ。
「……まだちょっと時間はあるわよね」
 時計の針はもう少しで12時を指すところ。お昼にはまだ少し早い。目の前にはおあつらえ向きの噴水と広場。
 なんの音楽もないそこに降り立つと少女は一人踊りだす。働く皆の声や物音。それだけあれば十分だった。

 初めて踊ったこの場所で新進気鋭のプリマドンナが自由に踊る。楽しそうに幸せそうに大地を踏みしめて。


  • IFルート 新進気鋭のプリマドンナ完了
  • NM名灰色幽霊
  • 種別SS
  • 納品日2022年04月01日
  • ・ヴィリス(p3p009671
    ※ おまけSS『tips 新進気鋭のプリマドンナ』付き

おまけSS『tips 新進気鋭のプリマドンナ』

 本来であれば別の貴族に誘拐、監禁されるのだがパトロンになってくれる者が早期に見つかった場合このルートに分岐する。
 このルートでは特異運命座標に選ばれず、監禁も行われないため毒物の過剰摂取もなく肉体的な損傷もない。つまりヴィリスという亡霊が生まれることはない。

 これはリリアーヌという少女が自身の足で進み続ける物語である。

PAGETOPPAGEBOTTOM