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唐揚令嬢物語
登場人物一覧
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前回までのあらすじ。
田舎娘であったはずのカイトは、ひょんなことから自分が公爵家の血を継ぐ『唐揚げ姫』出会ったことを知る。そんな、あたしの油は安物だって思っていたのに! 貴族の務めとして王都の学園に通うことになったカイト。しかし入学初日に『たまご王子』に一目惚れされるからさあ大変。たまご王子を狙う他の鶏肉令嬢たちに嫌がらせを受ける波乱万丈な学園生活が始まったのだった説明終わり。
「態度を改めたほうが良いと、申し上げたはずですわ」
今日も今日とて、唐揚げ姫に絡んでくる鶏肉令嬢は跡を絶たない。今もまた、サラダチキン家の令嬢から難癖をつけられていた。
「あなたのような田舎育ち、たまご王子には相応しくありません。とっとと、辺境の村に帰ってはいかが?」
ばさり、と、添え物のレタスを広げて自分の顔を仰ぎながら言い放つサラダチキン。そんな事を一方的に言われても、カイトは困ってしまうばかりだ。
「そんな、あたしだって、急にこんなところに連れてこられて、右も左もわからないのに!」
「まあ、口答えをするだなんて! そんなお転婆にはこうよ!」
ぷしゅっと、何かを吹きかけられる。目に入り、その痛みで思わず瞼を閉じた。なんだ、なにをかけられたというのだ。
「まさか、毒!?」
痛みにのたうち回るカイト。
サラダチキンは勝ち誇った顔で言い放つ。
「ふふふ、確かに、あなたのような唐揚げ家には毒かもしれませんわ」
なんということだ。こやつ、人前で堂々と毒殺してきやがった。流石に衆人環視の前で暴力的な手段には訴えまいと油断していた。
「そう、それはレモン汁!!」
毒じゃなかった。よかった。いやよくない。まさか、まさか唐揚げに―――
「勝手にレモン汁をかけるだなんて!!!」
絶望を表すようなパイプオルガンのBGM。勝ち誇って高笑いをきめるサラダチキン。
「そうよ。これであなたは賛否両論! ピザに乗ったパイナップルのごとく、好き嫌いの分かれる料理に堕ちたのよ!」
この世界、万人受けしない味になることは堕落である。暗殺を隠語で『上等な料理にはちみつをかける』という。
「そんな、これではたまご王子に合わせる顔が……」
「そんなことはないさ、からあげ姫」
突如湧き上がる黄色い歓声。そこに現れたのは、入学初日にカイトに一目惚れをした、たまご王子その人だ。
白い肌。整った顔立ち。強いて似ている有名人をあげるとすれば、ハンプティ・ダンプティ。
全ての鶏肉令嬢のアイドルでもあるたまご王子は、泣き崩れるカイトの手をとった。
「君はレモン汁がかかっても美しい。それに、そんなに嫌なら、ほら」
そう言って、たまご王子は唐揚げの衣を剥がし始める。
「な、なにを!? いけません、人前でそんな!」
「気にすることはない。ほら、こうすれば、レモン汁のかかっていない、ただ火が通った鶏肉が顔を出す。きっと、溶き卵がよく似合うだろうさ」
「王子様……」
「聞いてくれ、唐揚げ姫。私は君と、幸せな親子丼を築いて行きたいんだ」
「まあ、嬉しい……!!」
まさかのプロポーズ。これにはサラダチキンもレタスを握りしめて悔しがるしかない。
しかし、以外にも、その顔は晴れやかだった。
「参りましたわ。私の完敗でしてよ」
そう言って、手を差し伸べてくるサラダチキン。
「あなたが羨ましかったのですわ。あなたは民衆に愛される唐揚げ。私は健康志向に生きるサラダチキン。醜い嫉妬から、嫌がらせをしたことをお詫びいたしますわ」
「そんな、あなたも脂肪分が少なくて素敵です」
「でもね、気をつけなさい。たまご王子を狙うのは私だけではなくてよ」
『そのとおりだ!!』
突如頭に響く声。
全員が聞こえているのか。あたりを見回すが、声の主はどこにもいない。
「この声はまさか、フライドチキン!」
「そんな、まさか直接脳内に!?」
『ふふ、フライドチキンください』
「なんてこと、巧妙に商標を回避してくるわ……!」
そこでカイトは気がついた。ひとり、いなくなっていることに。
「たまご王子……!?」
『気がついたか。そうだ、たまご王子は私が預かった。返してほしければ、自分の力でここまで来ることだな』
「そんな、コンビニ最強のフライドチキンに狙われるだなんて……!」
『ふふふ、王子。相変わらず美しい。今宵こそは、君をフレンチトーストにしてあげよう』
「そんな、させない! 待っていて王子様! あたしが必ず救い出して見せるから!!」
こうして、カイトは深夜のコンビニに繰り出すことになる。フライドチキンにたどり着くまでに、どのような困難が待ち受けているというのか。
続かない。