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【4月1日のおはなし】淡き光の白子猫
登場人物一覧
これは4月1日《エイプリルフール》のおはなし。
ある少年が混沌世界に召喚されなかったら、元の世界で起こっていたかもしれない事。
少年の名はわかりません。
異世界に召喚される事も、新しい名前を得る事も、なかったのですから。
●
僕は、とてもぼんやりしている。
猫さんのように寝転がって、ずっと寝てたのかもしれない。
起きて、と声が聞こえたような気がして。
ぼんやりとしたまま、目を覚ます。
……気が付けば、暖かな場所にいた。
ここがどこかわからない。
辺り一帯全てが、淡く白い柔らかい光に包まれていて、僕はその中にいるんだと分かった。
(…どうして、こうなったんだっけ)
どうやってここに来たのか、お父さんやお母さんや、……………達はどうしたのか。
考えようとしたけど……頭はとてもぼんやりしていて。思い出せない。
僕の姿も、思い出せない。
●
淡く白い柔らかい光に包まれたまま。
どうしたらいいか、どうしたいのかもわからないまま、ただぼんやりとしていて。
周囲に誰もいない、猫さんもいない……そう思った時に。
僕のなまえを、誰かが呼んだ。
振り返れば、そこには人がいる。
霧とかおばけみたいにぼんやりとした姿の……大きな男の人と、金の髪の女の人。
男の人は体が大きくて、女の人は穏やかそうで……
それぞれが、僕の頭を優しく撫でて、声をかけてくれた。
何て声をかけてくれたかは、聞こえてた。
それなのに、かけてくれた声の中身もおぼろげで。
謝っていた気もする。何か伝えようとしていた気もする。
聞こえていたのに、何って言ってくれたのか、わからない。
それでも2人は……ぼんやりした姿だったけど、穏やかに笑った。
微笑みを、僕に向けてくれていた。
淡い光が、つよくなった気がした。
男の人と女の人が、笑ったまま、光に包まれ……光に溶けるように、消えていく。
いやだ、いかないで……僕はそう言いたくて、声をかけようとして。
声を出したよ。『みゃあ』。
猫さんの声はするけれど、僕の声はしなくて。
男の人と女の人は、どんどん形を失っていって。
足元にぱたりと落ちる水滴。僕から落ちるよ、ぱたり、ぽたり。
……僕は悲しかった。なんでかはわからなくても、悲しかった。
●
僕はひとりになった。淡い光の中で、ひとり。
もしかしたらぼんやりした誰かがどこかにいるのかもしれなかったけど。
ひとりになった。みんないない。
そう思った。
僕は何をしたかったんだっけ。何を、思っていたんだっけ……。
ぼんやりした頭に浮かぶ事。
お父さん。お母さん。……………達。
一緒に来ていたのに。突然の事で、みんないなくなった。
みんな死んで、苦しい声が聞こえて、誰かを看取って。
みんなどこ、いやだいかないで。
……………が、……………が。どうやったらちがとまるの……
くるしまないで。なかないで。
みんなのきずをなおせれば。こころをいやせれば。
いやせれば。みんなを……癒したい。
(そうだ……僕は、皆を癒したかったんだ)
やっと、僕は僕がやりたかった事に気付いた。
ぼんやりした僕の姿に、気付いて……姿が、変わっていく。
小さくなって、小さくなって……まるで子猫さんみたい。
いや、違う……僕が子猫さんなんだ。
淡く白く輝く、ふわふわの白い子猫さん。
●
僕はきっと、ひとじゃなくなった。
ひとじゃなくなったから、できることがあると思った。
今なら、願いを叶えられるって……なんとなくわかった。
僕の願いは、やりたいことは、叶えてほしい事は……1つだけ。
(皆癒されますように)
そう思いながら、目をつぶり……『みゃあ』とひと鳴きして丸くなる。
ここに誰かがいるなら、撫でてくれるかな。
周囲を覆う淡い光が、広がっていく。
今ならこの光が何なのかがわかる。
僕の光。僕が……白い子猫さんが照らしている、癒す光。
きっと皆を癒してくれる。心も体も、痛みも、苦しみも……柔らかく包んで癒すから。
広がって、広がって、皆癒されますように。
●
ふわりふわりと光が広がり。
光が包む、癒されていく、せかいのどこかで。
「素晴らしい! これこそが世界を救う『けもの』の癒しだ!」
満足そうに笑う、笑わないほうが良かった、知らない男の人の声がした気がした……。
そして。
せかいは、皆は、癒されました。
僕も、きっと
癒され
おまけSS『かの世界、事態を知った誰かの言葉』
誰がそう呼んだだろう、少年が変じた『けもの』の姿を……淡く輝く『光の白子猫』と。
かの世界において、一部の人間が覚醒し変化するもの。
世界の改変すら可能となる権能を有する超存在、世界を変えればどこかに行ってしまう何か……獣に似た姿の、しかし違うそれら。
存在を知った一部の者は、それらの事を『けもの』と呼んだ。
少年……『光の白子猫』の権能は、全てを癒し浄化する光。
その思いは、皮肉にも、ある者の願いを叶えてしまった。
世界を浄化する『けもの』を作るべく、大規模人災を起こした者。
少年の家族を喪わせ、少年を超存在『けもの』に覚醒させた張本人。
……この事態の、黒幕。
奴の願いが叶った今。世界は浄化されるだろう。
止める術は、もうないのだ。
●
冬の日だったか、あるいは4月1日だったか。
もう日付がわからないが、最後に記す。
ひとつの世界が淡く白く優しい光に包まれて。
……世界の全ては、浄化される。
全てを癒して浄化する光。
最後に浄化されるのは、きっと……少年自身になるだろう。