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高嶺の彼は星を読む

登場人物一覧

セス・サーム(p3p010326)
星読み

●Profile
 慶織寿大学インタビュー企画協力者。というより無理やり取ってつけた。尾行した。

 学年:3年
 所属:天文学部 宇宙地球物理学科
 名前:セス・サーム

 セス・サームは慶織寿大学に所属する学生である。
 入学動機は特に語っている様子はなく、クールな生徒である。

 普段は穏やかで悠然としている優等生で、質のいい落語のような冗談には乗るが、弄りや絡みは素気無くあしらうようだ。
 好きなことには寝食を忘れて没頭するようで、大学に通っている間はセーブしているが、長期休暇になると読書や実験、天体観測に耽るようだ。
 その為休み明けは痩せ頬がこけている。
 無関心な物事には底無しに冷淡だが星に対する意欲は人一倍。勉強熱心ではあるがその熱意を組まれにくいために苦労しているであろう生徒の一人である。
 なお当記録ファイルは外部流出しないように徹底管理を必要とすることを念頭においておいてほしい。


 セスの朝は早く、沈みゆく星を見、空が白み始めた頃にもう一度眠る。そんな生活をしている。つまるところ二度寝だ。
 真夜中から明け方三時まで。空に藍が滲んでから白を零すまでは、夜風にあたりながらコーヒーを口に含み、移ろう星の軌跡をたどる。
「星読みをしていたら明け方近くになることがありまして、少し寝不足かもしれませんね」
 薄ら隈のついた目を擦りながら、友人だと自称する同学年の顔見知りに語る。
 ゼミや課題などで関わる必要最低限の人間としか交流を持たないために、未だ神秘のヴェールに包まれているセスの素顔と本性。知らないほうがきっと幸せだ。
 ある程度人とは語りつつも一線は踏み込ませるどころか触れさせもしない。そんな男がセスである。

 ただいまの季節は冬。バレンタインシーズンである。
 中性的ではあるもののやはり整った容姿をしているせいで何かと目立つ。不本意ながら、目立つ。
「あ、セスくんいた~」
「……?」
「はい、これ! いつもありがとう~」
「これは……?」
「言ったでしょ、いつもありがとうって! もぉ、あれだよ。日頃の感謝チョコみたいなかんじ!」
「なるほど。こちらこそありがとうございます、有り難く受け取らせていただきますね」
「ううん、気にしないで! それじゃあまた講義のときに!」
 化粧品特有の粉っぽい香り。貼り付けた笑顔は背を向けると同時に消え、きゃらきゃらと笑う彼女とその友人の声がやけにねっとりと耳に絡みつく。
 他人に興味はないけれど、媚びるような笑顔だけが思い出されて不愉快だ。
「おいセス、まぁたチョコ貰ってんのか?」
「去年よりチョコの量増えてない……?」
「俺なんかひとつだぞひとつ!!」
「俺なんて母さんからも貰えなかった、終わりだ!!」
「いいな、俺にひとつわけてくれよ」
 冗談交じりに呟いたであろう生徒のひとりに、セスは表情を変えずにチョコレートを差し出す。それは、先程女が渡したものだ。
「では貴方が食べてみますか? なんならまだありますし取ってきますが」
 自身の荷物を置いているロッカーのある方角を指差したセスに、思わず首を横に振って否定する。
「マジかよ」
「や、それはいい。貰っとけよ」
「チョコレートが大好きというわけではありませんので、喜んで食べてくれる人の方が良いと思ったのですけどね」
「そういうガツガツしてないとこが良いのかね〜?」
「さぁな! 俺たちにぁわかんねー世界だろうさ」
「ま、セスがいいなら見えねえとこでつつくとしようぜ。『オテツダイ』だ!」
「えぇ、ありがたくいただきましょう」
 用意しておいたチョコレートと水筒を取り出して、セスはあたかも貰ったチョコレートのひとつであるかのように市販のチョコレートを口に含んだ。


 人付き合いは疲れる。
 バレンタインなんか来なければいいのに。
(なぜ私がわざわざ紙袋を用意しなくてはいけないのか……)
 紙袋からも溢れてしまったので結局ロッカーに紙袋2つ分のチョコを置いてきた。
 面倒ではあるがまた持ち帰る必要がある。ため息しかこぼれない。
 紙袋の中からチョコレートを取り出して、中身を確認する。
(……さて、確認はできた。もうこれは要らない)
 箱や袋を開けてはチョコレートを捨てる。その作業の繰り返し。一袋終わりある程度メモをとったところで、一旦夕食づくりに取り掛かる。
 忙しない日常をさらにかき乱されるのは不愉快だが、やはり致し方あるまい。
 ある程度の人付き合いは必要だし、そうでなくとも、無闇矢鱈と拒絶していては面倒なことになりかねないからだ。
(さて、今日の夕飯は何にしようかな……)
 甘ったるいチョコレートの匂いも、添えられた手紙もしったことではない。
 向けられたいくつもの感情よりも、セスにとっては星を読みゆるやかな時を過ごすほうが大事で、優先するべきことで、捨てがたいライフワークのひとつだから。

  • 高嶺の彼は星を読む完了
  • NM名
  • 種別SS
  • 納品日2022年04月01日
  • ・セス・サーム(p3p010326

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