PandoraPartyProject

SS詳細

暴食と鮮血の輪舞

登場人物一覧

カレン=エマ=コンスタンティナ(p3p001996)
妖艶なる半妖
アイリス・アニェラ・クラリッサ(p3p002159)
傍らへ共に


 さらさらと――揺れて身体を擦りつけ合う葉たちの合間から、光が漏れ。
 その木漏れ日に、森の地面は照らされている。
 木々の合間を縫って駆け抜ける風が花々を揺らし、だが――おかしいことに。此処、周囲一帯は動物の声も、虫たちの鳴き声も聞こえなかった。
 皆、とある者たちの殺気……いや、闘気に驚いて身を隠しているに違いない。
 駆け抜ける風を起こしたのは、自然現象では無いのだ。
 それは『年中腹ペコ少女』アイリス・アニェラ・クラリッサ(p3p002159)が土を蹴り、躰を低い体勢で俊敏に動かすことによって発生している、ある意味人工的な風だ。
 花弁が舞う森の中を駆け抜ける彼女は、絵になるようであったが――彼女を追尾して切りかかってくる鮮血の刃を見れば、そうのうのうとした穏やかな雰囲気が、一気に地へと堕ちるものだろう。
 『妖艶なる半妖』カレン=エマ=コンスタンティナ(p3p001996)が、右手を手前へと差し出し、その人差し指から一滴の血が地面へと堕ちる。
 土に吸い込まれて森の養分と成り、消えていくはずの赤黒い雫は。今、自律したように、その形を変えて針の形状を模した。
 蝋燭の火を消す要領でカレンが吐息を吐けば、針は拳銃から放たれた弾丸のように飛び出す。その射的の目的地はアイリスだ。
 カレンに対して背中を向けて走っていた彼女だが、90度の角度、つまり直角に横へ曲がり、木々の合間へと身を隠す。そうすれば、射線をまっすぐに飛んでいく血の弾丸は、いとも容易く森の何処かへと消えていくのだ。今頃元の血に戻り、木の葉でも赤く染めているに違いない――。

 ――二人は、詰まる所模擬選を行っている。時は戻り、数十分前の話になるが――

「今日はありがとうね〜。弱い方だけど是非楽しもうね〜」
 太陽のように明るい笑顔のアイリスが、カレンのまわりをくるくると回りながら挨拶をした。
「こちらこそありがとうのぅ。うむ、是非楽しむとするかのぅ」
 その姿をじっと見つめながら微動しないカレン。
 どうやら二人は、何かしらの理由や、きっかけがあって模擬戦をするに至ったのだ。その経緯は置いておき、二人の戦闘パターンは全くといって接点がない。
 神秘攻撃を主軸とするカレンに対して、アイリスは物理型で俊敏性が高い。
 一体どんな追いかけっこが発生するのか、二人は模擬戦を行う手前から心を躍らせていた。それこそ、いい刺激が必ず待っているものと知っていて。
「あ、おいしそ」
 偶にアイリスがその腹を空かせて、森の木々の実や、葉を齧り出すのにカレンは「こいつは大物に違いないのぅ」なんて考えたりしつつ――。

 ――そして時は戻る。
 賽は投げられ戦闘が開始してから早くも20秒が経ったところだろう。
 まだお互いに、大して傷を負っておらず。相手の出方をくみ取り、探り合い、次の一手を計算し始めているところだ。
 模擬戦の場所が、この森を指定出来たのはアイリスにとって良いことであったと言えよう。
 何故なら機動力を活かした彼女であるからこそ、カレンの攻撃を欺くかのように木々から木々へ身を隠すことが可能であるからだ。
 ふふりと余裕そうな笑みを浮かべたアイリス。だがその時、その”前提”は軽く覆されてしまった。
 アイリスが殺気を感じて思わず頭を下げ、低い姿勢を取った瞬間。
 アイリスの頭部があった元の位置から上が、真っ二つの横にスライスされて、木が轟音をあげて倒れたのだ。
「すばしっこいのぅ、捉えるのが難しそうだのぅ」
 アイリスからして遠距離の立ち位置に立っているカレンは、後頭部を掻きながら不服そうな表情をしていた。どうやら『隠れられてしまうならば、木ごと切る』という方向に転嫁したようだ。
 思わずアイリスの頬から、汗がたらり……と流れた。
 確かに戦闘とは、その時の状況次第で形を変えるものだ。敵が障害物を使ってくるのならば、その障害物こそ狩ればいい。成程、獣のようだが的外れな考えではない。その強引性を押し通せる威力を、カレンが秘めているからこその形であると言えよう。
「無茶苦茶だな~!」
 しかしアイリスは笑う。
 今は、常日頃感じている空腹よりも、どうしたらカレンの魔術を食い破れるか――そちらの食欲のほうが大いに増しているのだから。
 模擬戦と言えど、本気でやらねば意味が無い――いや相手に失礼だろうしね! と。アイリスは自分の唇を舐めてから、再び足を動かすのであった。

 一方。
 カレンは己の血を武器として使う事が多い。
 使い過ぎて貧血を起こしてしまうことは――今日は無い(と思う)が、しかし……あの機動力、あまり飛び道具的に血を操っていたら豆鉄砲よりも無駄に血を消費してしまいそうだ。
 確かにカレンは、自身の体力と精神力を回転させることができるが、現在は混沌肯定の重しに乗っかられてしまっているから、充填も再生も微量であり、長期戦には向かない。
 もしそうやって『血という弾丸の数』を減らしに来て、スキルを撃てなくする作戦を向こうが強いているのだとしたら――それは、こちらが方法を変えなければいけない分岐点であると言えよう。
 だが何も血を操るだけが、ヴァンパイアとして君臨するカレンの技ではない。
 少々方法を変えよう。
 カレンは土を巻き上げて走り出す――。
 今まで足を動かすことよりも、魔術をくみ上げるほうが多かったカレンだ。これにはアイリスも警戒する。
 木々の枝を乗り継いで、カレンへと一撃を与える隙を伺いながら、同時にアイリスはカレンが一体何をしてくるのか一挙手一投足を観察し始める。
 すると、カレンとアイリスが射線で結ばれたときであった。
 カレンの指が滑らかに――そう、それこそ、手招きするかのように、誘惑するかのように、動いた刹那。
「……あれ?」
 アイリスが途端に身体のだるさを覚え、そして枝から足を滑らせて落ちた。着地は上手くいき、猫のような要領で起き上がったのだが……何故だ、何故、こんなにも身体が軋むようなのか!
 それはカレンの技だ。
 相手の生命力を、糸でも引くかのように引っこ抜いて己の力へと変える。
 アイリスがぶつけらた痛みと、ほぼ同じくらいの量の生命力がカレンの身体を癒すのだ――回復手段を持たないアイリスとしては、カレンのこの技こそが最大の敵ともいえるだろう。
 口から零れるように、荒い息を吐くアイリスは、余裕そうな笑みを浮かべたカレンを見つめた。
 なるほど、これが吸血鬼。
 物語の中だけの存在かと思えたそれは、実際に相対すればこんなにも厄介な魔物であったとは。いや、混沌肯定が施されている身であるはずでも、こんなにも力を秘めているのだ。本当のカレンの潜在能力が、元の世界ではどれほどであったのか考えると――少しおぞましい感じもする。
「神秘攻撃ってこんなに厄介なんだね〜」
「まだまだ手は隠しておるぞ。序盤で終わってしまうのは、勿体ないのぅ」
「いやいやっ、これしきで倒れるアイリスちゃんじゃないぞっ!」
 そうして二人はまた、攻撃をぶつけ合うのであった。


 ブースターをフル稼働して走るアイリス。
 その攻撃方法は体術が中心となる訳だが、カレンの視界に入ったら狩られるならば視界に映らない速度で移動を始めていく。森の木々が矢のように視界の端で飛んでいった。
 それと同時にカレンの死角を取るのが先決だ。
 花々を揺らし、風を纏い、アイリスはカレンの背後から回し蹴りを行う。
 己が魔術をくみ上げていたカレンはその接近に気づき――振り返るつかの間。襲撃を被弾してしまい身体が折曲がりながら、木に背中から衝突した。木は揺れ、実や葉を落とす音が響く中だがアイリスは止まらない。
 更に木へと、カレンの身体を押し付けるように繰り出した、アイリスの右ストレート。しかしそれは腕をクロスさせたカレンに止められてしまう。カレンは感じていた、アイリスの拳の威力を。防御をしたというのに、腕が痛むのだ。
「見えんスピードで来られると面倒じゃの」
「その割には、段々追い付かれているから、たまったもんじゃないよ~!」
 即座にアイリスは距離を取り、跳躍。
 枝に足を乗せて止まることなく、その身をうっそうとした葉のなかへと隠していく。
 しかしカレンもここで足を止め切ることは無く。己の手首を噛み千切ったカレンは、そこから巨大な血の大鎌を取り出した。
 嗚呼嗚呼、どうにもこうにも、ままならない。
 やっぱり最初からこの木々が、森が、邪魔で仕方ないのだ。
 ならば。
「周りの木々が邪魔だのぅ、なら全部薙ぎ払うかのぅ」
 朱黒く、そして何より細く弧を描く鎌はまるで三日月のようである。
 その不気味な三日月を、自身の腕のように横にス……っと持ち上げたカレンは――そして、その鎌を瞬で横に凪ぐ。
 鎌がスライドするとき、音は無かった。
 ただ一瞬、静寂が落ちた。
 スローモーションで撮影したように、上と下にぱっくりと割れて浮き上がった木々という結果だけが残った。
 そして刹那。
 時が再び正しく動き出したように、一斉に木々は倒れて轟音を出していく。周囲の鳥たちは一斉に寝床から羽ばたいて何処かに消え、虫たちも一斉に逃げていった。
 そんな仲、緊急回避して頭を抑えていたアイリスだけが、伐採された木々の中央で慌てて立ち上がる。
「わ、わ、遮蔽物ごとは反則だよ〜」
「うむ。よく見えるのぅ」
「此処、私の模擬戦場だからーっ!!」
 急接近。
 息をつく暇はなかった。
 カレンが、即座にアイリスの近接位置まで瞬歩の要領で近づいた。
 思わず驚いて身体を揺らしたアイリスだが、焦った表情をすぐさま真剣なものへとすり替える。
 カレンの大鎌が形を変えていく――一瞬液体ようにとろんと弾けたそれは、今度は魔剣が如く鋭い刃となりアイリスの胴部を狙った。
 後方に飛び、剣風を身に受けてからアイリスは横に回転しつつカレンの横脇腹を打つ。
 思わず飛ばした蹴りではあったが、上手くカウンターが決まり、クリティカルヒットしていた。くの字に曲がったカレンの身体は何度かバウンドしてから、重力のままに地面へと横たわる。
 休む暇は、アイリスは与えようとはしない。
 トドメの踵落としであると、柔軟性を活かして空高くあげたアイリスの右脚が落ちてくる――カレンは横に転がりながらそれを回避したが、アイリスの踵が地面を穿ったとき、そこの地面が踵の着地点を中央にして陥没した。
「それで穿たれたら内臓と骨がイくのぅ」
「でも回避されちゃった~!」
 てへ、と舌を出したアイリス。
 あくまでこの模擬戦は交流戦。真剣勝負であれど、少女のそんな笑みに思わずカレンも息を零して笑った。

 模擬戦の開始から大分時間が経っている。
 お互いに息は荒くなり始め、決定打を穿てぬままに後半戦へと突入していた。
 既に、互いの手数は曝け出した――となれば、ここから先は精神力の世界だ。
 既に限界近くまで駆使した身体は、所々悲鳴を上げ始めて軋んでいるが、それはある意味勲章だ。
 その痛みさえ、楽しみの一環。
 己が強敵相手に耐えられているという証であり、更に強くなっているという証でもある。故に二人はいつまでもt直しそうに戦っている。
「私が買ったら、今日の晩御飯奢ってねっ!」
「それは妾の金銭が根こそぎ持っていかれる、という事かのう?」
 走り出したアイリスを追いかけるようにカレンも走り出す。平行線を引くように、眼前の障害物を避けながらお互い見合いつつ直線を奔った。
 ここぞ、という所で一層大きな木の影に隠れたアイリス。
 カレンが再び手に持ったのは、あの異様な魔のような大鎌だ。
 血液を凝固して作った割には、凶悪性の権化のような鎌を再び横に振って。巨木が、樵の要領で倒れていく。
 しかし――、そこにアイリスの姿は無かった。
 カレンの眉がぴくりと動き、その時にはアイリスはカレンの死角へと回り込んでいたのだ。
 アイリスのラッシュが始まった。
 カレンの背中を蹴りで放ち、アイリスの存在に気づいたカレンが後方へ回転してから防御の姿勢を取る。しかしアイリスの攻撃の連打は止まることを知らない。
 腕、足、踵、膝、肘、人体で可能な攻撃方法の全てを、これでもかと言わんばかりにカレンへと繰り出すのだ。カレンが止められる攻撃もあったが、防御しきれない打撃はそのままボディへと入ってしまう。
 押され始めたカレンだが、しかし負けじと強引に。カレンは、アイリスの攻撃をあえて受けて、身体にぶつかったばかりの彼女の腕を掴んで止めたのだ。
「捕まえたのじゃ」
「ありゃ?」
 アイリスは、これまでヒット&アウェイの形で攻撃をしかけてきた。
 だがこうしてマークしてしまえばどうだろうか。
「逃がさぬぞ」
「困った困った~」
 カレンの血液は鎌から形を変え、鞭へと。
 アイリスの柔らかな身体をとぐろ巻くように捕らえた棘の鞭は、容赦なく彼女の身体を傷つけた。
 服が鞭の傷跡を色濃く残すように敗れ、そこから肌色が覗く。それを隠すこともせずにアイリスは蹴りを放ち、それに怯んだカレンの鞭から跳躍、空中を軽々と回転しながら離脱する。
 着地したとき、そこにカレンの姿は無かった。
 見失った――? この私が?
 瞳を細くしたアイリスだが、少し瞳を閉じてみた。葉が擦れる音、花々が揺れる音、そして風の音。
「そこかな〜?」
 その時、アイリスの直上から剣の切っ先をしたにむけて急降下してきたカレンが居た。
 アイリスは上を向いて、ニ、と笑う。その笑みに、してやられたとカレンは苦い笑みを浮かべた。
 カレンの剣の一閃が。アイリスの利き足の弧が。――ぶつかる。
「っと、勘が鋭いのぅ?」
 鈍い音がした後、二人は弾かれて距離を取った。
「まね! 鍛えてるからね~」
「ふふ、そうじゃのう……っと」
 その時カレンが腰を地面へとつけた。アイリスはぱちぱちと瞳を開閉させながら、どうしたのだろうと頭をこてんと横に倒した。
「持病の貧血が……」
「え、ええ~!? 血の使い過ぎだよ~!」
 慌ててアイリスはカレンへと駆け寄った。と、その時。
 駆け寄ったアイリスの首に、血で構成した小型のナイフがひんやりと当てられた。
「ず、ずるいー!」
「ふふふ、騙し合いも一興じゃて」
「にゃにおう!」
 最も、二人は既に限界を迎えていた。一度身体を休めてしまえば、もう起き上がることは難しい。
 二人は隣で、草の絨毯に身を任せるように倒れた。
「今日はありがとうね~、とっても楽しかった!」
「うむ、こちらも色々と勉強になったのじゃ」
「倒された木々、どうしようかなー」
「うっ」
 一部、この森林は伐採されてぽっかりとした空間が出来上がっている。
 その現実から目を離すように、カレンは一度咳払いをしていた。
 降り注いでいた木漏れ日が、どこか茜色を帯び始めている。もう時刻は、夕刻に差し掛かろうとしていた――。

  • 暴食と鮮血の輪舞完了
  • NM名
  • 種別SS
  • 納品日2019年09月28日
  • ・カレン=エマ=コンスタンティナ(p3p001996
    ・アイリス・アニェラ・クラリッサ(p3p002159

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