SS詳細
海獣騎兵アザラシ 〜reloaded〜
登場人物一覧
●劇場内では、アデプト・フォン、撮影できる機械類の使用は御遠慮くださるようお願い申し上げます。
ザワつく会場内、並ぶ座席は後方になるほど段差によって高くなっている。
ある者はポップコーン、またある者はジュースが入った大きな紙コップを持って席に着く。
やがて照明が落ち、暗くなると同時にそれまでの喧騒が途端に無くなるだろう。
皆の眼前に見えるモニターからチリチリと音が鳴れば、部屋の両脇に設置されているスピーカーから迫力ある音が流れ、ほどなくして暗くて何も映してなかったスクリーンが光り輝き部屋内を照らす。
いよいよ始まるのだ。創作にして虚構。人の心を躍らせる物語が、子供の頃に抱いていた勇気と冒険心が、今甦る。
今回は一部の先行上映会なだけなのだが。
●劇場内で煎餅をバリバリ食べるのはよせ。
「"stop! ビデオでの撮影はだめですよ!(警告)"」
「"劇場版ヌスット魔物〜カマキリと行方不明のオス〜" 劇場特典でコミック0.75巻が付いてくる! 皆来てくれよな!」
「同時上映、マグロの叩き。大好評上映中!」
●映画本編が始まる前の宣伝動画、嫌いじゃない。
「本当に行かなきゃならんのアンタ……」
「あぁ、この戦いだけはオイラが行かなきゃならねぇんだ……止めねぇでくれ」
村娘が止めるもアザラシのワモンはゆっくりと首を振り扉に手をかける、どうやって開いてるのかわからないがなんか扉が開いた。
「ワモーーーン!!! ワモォォォン!!」
ワモンの背中に娘の声が浴びせかかる。ずっと、家から離れても、ずっと。ワモンが見えなくなっても。
「……モーン……ワモーン……ン……」
ちょっと長いですね。
場面が変わり、物々しい司令部の様な部屋の中。軍服を身に着けた男とワモンの二人が話している。
因みにワモンはセーラキャップのみだ。
「いいのか、村に幼馴染を残しているんだろう? この戦いに向かえば貴様とて無事には……」
軍帽のつばを指で押さえ、目深に被れば吐き出されるのはかつて共に戦場を駆けた友への気遣い。
「言ったろ? オイラが行かなきゃ誰がやるんだ。海の平和と象徴を護る大事な役目をよ」
「すまない……」
呟かれたのは一言、だが込められた感情には役目を全うせんとする彼への尊敬、大きな背中への憧憬、そして僅かな……嫉妬の心。
男の革靴にワモンがペちっとヒレを置く。肩に手を置いて慰める的なアレだ。
「いいんだ、おまえにゃ奥さんや今年28になる娘さんも居るんだろ? 大事にしてやりな」
男同士の涙無しには語れない友情風景と切ないBGMが流れ、物語は佳境へと向かっていく。
場面がまた移り、広大な海に船がポツンと浮かんでいる。並ぶ砲門に頑丈と見てわかる装甲は正に戦艦と呼称して間違いないだろう。
「いよいよ……か」
震える身体は武者震い、或いは緊張か、水不足による乾燥か。
「ここまで長かったな、色んな事があった。色んな犠牲があった」
過去を振り返れば思い出すのは強者との出会い、そして友との別れ。目を瞑れば今でもはっきりと思い出せる。
ガトリングとマシンガンで殴りあった敵が、次の戦いでは背中を合わせる心強い味方となってくれたこと。
郷愁漂わせるBGMと共に回想が始まれば、観客達も今までの流れを思い出して瞳が潤み、涙を誘う。ポップコーンがなくなった。
「あいつらの為にも海の平和はオイラが護らなければ……」
「ワモン君」
鋼の甲板の上で転がりながら誓いをたてていたワモンにかかる声。振り向けないので身体ごとそちらに向けば白い髭をこれでもかと蓄えた白い軍服を着た割腹の良い壮年男性が此方にやってくる。みるからに船長だ、船長以外有り得ない風体だし。
「船員見習い……」
よく見たら胸のバッジに見習いのマークが拵えられている。どう見ても見習いの図体では無い。
「決戦が近いからか……海も何処か鳴いているな」
凪の海を見て零す見習い。特に何も鳴いてはない。
「…………?」
言っていることがわからず首を傾げるワモン。凄い恥ずかしい感じのやつである。
「この戦いが無事に終わり、帰還出来れば結婚できるんだ……愛する者が待っている。互いに絶対負けられんな。生きて帰ろう、同士よ」
出てきて数分で旗を建て始める見習いに、ワモンはこいつだれなんだろうという顔でとりあえず頷いてみせる。アザラシにとっては彼もまた、護るべき対象の一つなのだから。
見習いも頷き返し、踵を返した所で。
––おっおっおっおぉぉぉぉん!!!!!!!!
これまで静かだった海が揺れ、波打つと共に轟音が辺りに響き渡る。
––ぼえぇぇぇぇぇ!!!!!!!!
鋼鉄の船が揺れ、警報が鳴る。海の底から波飛沫と共に現れるは巨大な海獣。
「あ、あ、あ……アシカだぁぁぁ!!!!」
––おっおっおっおっおっ
巨大なアシカがヒレで船をぺちんぺちんさせながら、何が面白いのか興奮している。
「うわぁぁぁぁ!!!!!!」
「み、見習いぃぃぃ!!!!」
突然の大きな揺れと波で甲板に波が押し寄せる。戦艦をも飲み込まんとする大波に抵抗できる筈も無く見習いは流されてしまった。
「ちくしょう!! これ以上犠牲を出してたまるか!!」
しかしこの苦難のフィールドでもワモンに取っては何のことは無い。なぜならアザラシだから。アザラシにとってこんなのは遊園地のメリーゴーランドの様な感覚でしかないのだ。
「いくぜぇ! ここで終わらせてやる!」
何処から現れたかワモンに操作されるガトリング砲がアシカに向けられ火を噴いた。
無数の弾丸の雨が降り注ぎ、アシカに命中するも顔色一つ変えずに海面をぺちんぺちんするのみ。可愛らしい擬音だが実際は大荒れで大変な事になってる。
体勢を整え第二射ん撃ちこもうとした時。なんと今まで「おっおっおっ」しか発さなかった奴の口から……。
––アシカ! 仲間! 我等、仲間!
喋ったぁ!!!! アシカが喋ったのである! アザラシが喋るこの世の中特に驚くことかと言われるかもしれないが。
だがその一言がワモンの怒りゲージの天井を突き破ってしまった。
「オイラはぁ!!!! アシカじゃねぇ!!!!」
ワモンの身体が光り輝き、宙を昇る。
「この世のアザラシパゥワーをオイラに分けてくれ!!」
アザラシパワーがなんなのかは判明されていない。
「喰らえぇぇ……この力を、アザラシの本気を見せてやらぁ!!」
視認できるほどのオーラがワモンを包む。直後、自らを砲弾にするかのようにアシカへ突撃。
海獣とアザラシ、強大な力と力がぶつかり合う……!
……所で映像が切り替わり、暗かった劇場に照明が着いていく。
「"如何でしたでしょうか。『海獣騎兵アザラシ 〜reloaded〜』一部先行上映会は以上を持ちまして終了となります。上映日は4月1日。皆様の来場を心からお待ちしております。お気をつけてお帰りくださいませ。"」
流れてくるアナウンスを合図に扉から出ていく観客達。
そして最後に残ったのは……。
「…………見習い出てくる必要あったんかな」
ポップコーンを食べ終わった一頭のアザラシだったという。
「"この物語はフィクションです。実際の
ピロピロ〜♪