SS詳細
※このSSはフィクションです。
登場人物一覧
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「いっけなーい! 遅刻遅刻~!」
私、亜竜祓いのレオナ!
世界に来てからというものの、戦士らしく様々な獣や亜竜を狩るためにたくさんの大地を走ってきた!
東を走ればグリズリー! 西を走ればヘルハウンド!
南を走ればサラマンダー! 北を走ればワイバーン!
いろんなところから討伐のお声がけをもらっちゃって、私ってば超有名!
だから今日もお仕事のために走ってたんだけど、私ってば……うっかりさん!
昨日のお仕事終わりに豪快に打ち上げをしていたら、着の身着のまま、そのまま寝ちゃって寝坊しちゃったの!
今日のお仕事はグリフィン退治! 街の人々から助けてくれって言われたからちょっと
でも寝坊しちゃったから、このままじゃグリフィンが巣から出かけちゃって討伐できないよ~!
「次の曲がり角を曲がれば、グリフィンの巣……!」
時間はギリギリ、寝坊の分だけ時間が押しているから急がなきゃグリフィンを倒せない!
そう思って曲がり角を曲がった、次の瞬間!
――ドンッ☆
「きゃっ!」
誰かとぶつかって、弾き飛ばされた相手。あ、私? 無事。相手だけが吹っ飛んだの。
ぶつかった箇所がちょっと痛いぐらいだったから相手を見てみたら、なんとそこには今日退治予定だったグリフィンが倒れていたわ!
グリフィンはなんだかめちゃくちゃもんどり打ってたけれど、ぶつかった相手――私を見たらピタッと身体の動きを止めて、じーっと私しか見つめなくなっちゃったの。
「えっ……」
やだ、何……この感じ……。
私、もしかして……。
――グリフィンに惚れられちゃった!?
「ちょ、ちょっと、待って……えーっ、ちょっと待って! そんな、ぶつかっただけで惚れられるなんて、そんな……」
『姐さん! これは運命の出会いなんっすよ!』 ※レオナには聞こえていません
「だ、だって私、今日、あなたを討伐しなきゃダメなのに……っ!!」
『俺ァ姐さんに討伐されるなら本望だ! 運命の出会いからの討伐!』 ※レオナには聞こえて(略)
どうしよう……!
グリフィンがぐいぐい来る度に、何故だか求婚されている気がする!!
これは早いうちに討伐しなきゃダメ!
このままでは街の被害というよりも、私の色んな感覚が大変なことになりそうな気がする!
だって……もう既に、私の頭の中は混乱しているんだもの!
『姐さん、どうぞ俺を討伐してくだせぇ! さあ!』 ※レオナには(略)
「うっ、うう、なんで、そんなぐいぐいと……!」
『俺は姐さんみたいな人に出会いたくて街を襲ってただけなんだ、だから……』 ※(略)
「ううう……!」
混乱してしまった私の頭の中は、もう、どうしたらいいのかわからなくて。
……勢い余って、私はグリフィンを押しのけてその場を逃げ出してしまった。
逃げる前にグリフィンの鳴き声が聞こえてきたけれど、それも全て振り払って、巣からどんどん遠ざかった。
戦士として、この行動が失格なのはわかっている。
わかっているのだけど……この感情をどうしたらいいのかわからなくて、整理をつけたくて今はグリフィンから逃げ出すことにした。
それで街が大変なことになってしまうってわかっている。討伐失敗の烙印を押されて、二度と依頼が舞い込まない可能性があることもわかっている。
けれど、今は……今は、乙女としての感情がすべてを許してくれなかった。
もう、あのグリフィンは街を襲いに行ったかもしれない。
街の人々は私を恨むかもしれないし、逆に怒らせているかもしれない。
「私……どうしちゃったの……」
町外れの森でうずくまる私は、仕事を完遂できなかったこと、グリフィンとの突然の出会いによる心の複雑さをまとめきれなかったこと、その他色んな感情を纏めきれなかったことを悔やんでいた。
どうしてこんな感情が湧き上がったのか、どうしてあの瞬間にナイフを振り下ろせなかったのか、グリフィンがじっと見つめてきたのはなんだったのか。
今までにない様々な出来事が私に襲いかかってきたから、余計に何が起こっているのかわからなくて……。
『姐さん』 ※(略)
「あっ……」
うずくまっていた私のもとに、さっきのグリフィンがやってきた。
街に行くでもなく、暴れるわけでもなく、ただただじっと私の目を見つめている。
何度か鳴き声を上げたけれど、私にはよくわからない。……はずなのに。
倒してくれて構わないと言っているような、気がした。
『姐さんに倒されるなら本望。これは、さっきと全く変わらねえ』 ※(略)
「……せっかくの出会いだったけれど……ごめんね」
謝る必要はない。それはわかっているけれど。
けれど彼には、謝らなきゃいけない気がしたから。
そうして私は、最初で最後の恋を終わらせた――。
おまけSS『※フィクションおまけ※』
討伐を終えた私は街に戻って依頼完了の報告を済ませた。
十分な報酬をもらって、この街から私は去ることに。
長らく歩いた私は、ふと、次の街へ続く森の前で立ち止まる。
全てに決着を付けてきたはずなのに、まだ、胸の中がざわざわしている……。
「……なんだろう、この気持ち……」
グリフィンと出会った時、倒した時、そのどちらで沸いた気持ちとはまた違う別の気持ち。
喪失感、虚無感、どれとも取れる気持ちが私を支配する。
忘れなきゃ。
そう思って一歩、森の中へ足を踏み入れた……その瞬間!
――ドンッ☆
「きゃっ!?」
何かとぶつかった私。
……あれ? この光景、数時間前にもあったような。
そんな気がして目を開いてみれば、ぶつかった相手が倒れていた。
……また繰り返すの~~!?