PandoraPartyProject

SS詳細

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登場人物一覧

ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)
不遜の魔王
ロジャーズ=L=ナイアの関係者
→ イラスト

 え? 私の一日が気になるって?
 ……えー、えー、えー? どうしても?
 言っとくけど、まじで面白みとかないよ。ちょーふつう。一般的!
 なんでそんなに私なの……わけわかんないんですけど。
 え? 協力したらお礼になにかおごる……?
 うーん……じゃあ放課後買い物付き合ってね。最近気になる雑貨屋さんがあるんだけど、めっちゃくちゃ可愛い赤い雑貨が売ってるんだよね。おっけー?


「ねーまじでちょっとカメラうざい!」
「いやいや、こういう条件だったでしょ」
「うーるーさーいー、すっぴんまじでだめなの、ちょっと家映さないで!」
「あはは、芸能人っぽい」
「違うけど……もー。ちょっとまってね、下地だけしてくる」
「ちょっと??」
「にゃははっ、おとなしくしてて!」
 なんでも最近低血圧なのだという彼女は最近遅刻が増えた。最近が続いているが本当に最近なので最近連打をしていても仕方ないのである。
 化粧に目覚めたのだと笑う彼女は最近みるみる憔悴していった。体調を崩したのだろうか。彼女の様子は至って健康だが、しかし、心と体が連動しているわけではないらしい。へらりと笑いながら倒れてしまうこともしばしば。よって最近保健室から目をつけられているのだとか。
 今日ゆいに密着する新聞部の親友――山下萌黄。彼女は先生から命じられていた。なにか変なところがあればすぐに伝えるようにと。虐待やその他諸々の異変があるようなら写真に取るようにと。彼女は新聞部であることから、密着すれば後は何をしていても適当な口実が付属する。先生からの依頼というのもあるし、何より大切な親友なのだ。疑う必要はない。もう怪しいから。
(……それにしては、普通だけどなあ)
 変わったことといえば、あれだけ長かった髪をばっさりいっていまったこととか、赤が好きになったこととか、体調を崩しがちになったところとか。それくらい。ただし彼女はこれまで自らサボるような真似さえしなければ皆勤賞の女だ。みるみる痩せていった彼女が不健康であること、また旧知の仲であるゆいになんらかの異変が生じたのだと萌黄は嫌でも理解していた。
 ただし再現性東京生まれの彼女らは、異変から目を背けて生きるようにできている。その為。
(……まあ大丈夫か)
 このように、違和感から目をそらしてしまうのだが。

 てきぱきと顔面塗装を終えたゆいは野菜ジュースを手に玄関から飛び出してきた。
「まだ間に合う?」
「まぁね。そのために早めに来たんだし」
「ありがとー。SHL間に合わないと死んじゃうよぉ」
「死にやしないでしょ」
「成績が!」
「あーね?」
「そこは萌黄のおかげでたすかった。ありがとね!」
「もちろん。そんなことよりゆい、体調大丈夫なの?」
「ばっちり元気よ! でも体温めっちゃ低かった、また怒られるかも」
「怒られるって解ってるのに学校に行く、メモメモっと」
「あーーーーねえちょっと!!!」
 化粧の甲斐あってか彼女の顔色はすこぶる良い。というわけではなく、むしろそれでもまだ白いほうだ。青さを消したのだろう、ようやく色白の具合に落ち着いてはいるものの、それでもどこか健康さを欠いているように思えた。
「まぁ学校で倒れなければいいよ。それだけは約束してほしいな、密着の意味もなくなるし」
「にゃはは、頑張るよお。倒れたくて倒れたいわけじゃないって」
「まぁそれはみんなそうでしょ。倒れたくて倒れてるのなんてないに決まってるし」
「えー?」
 へらりと笑ったゆいの笑顔は昔から見慣れていたそれにほかならないような気がした。
 けれど、その静けさの中から滲み出る狂気がある。きっと彼女は今までの彼女ではない。
(……)
 その事実が、酷く悲しかった。


「で、誰が倒れないって?」
「にゃは……」
「先生体温何度でした?」
「このこいっっっっっっっっっっっっっつも低いんだけど平熱ってこんな感じ?」
「いや、うーん……」

 ○月×日
 
 早退

 名前:赤城ゆい
 症状:貧血、吐き気
 体温:35.7℃
 来訪時間:9:40

 と書かれた以前の早退届を見る。真っ青な顔をしたゆいはてへ、と笑みを浮かべた。
「にゃはは」
「にゃははじゃないし……まず何その反応しづらい笑い方」
「くちぐせ?」
「いやしらないけど……」
 保健室の白いベッドの上で、悪びれる様子もなく寝ているゆい。学校ではなくて病院のようだった。やけに静まり返った保健室内では、ただ一人ゆいだけが笑顔を浮かべている。
「うーん……」
「あっ」
 額にぺた、と触れる先生。その手が肌へと異質なほどに沈む。
「え」
 ひ、と先生が叫ぶ声が聞こえた。
「先生? どうしちゃったんですか」
「………………っ」
「そんな顔しちゃって……私が変みたいじゃないですか。ねえ?」
 ぴったりと手のひらを、再び額にくっつけて。にっこりと笑ったゆいの表情は、今までのゆいが見せていた表情の親しみやすさをすべて壊すかのように、邪悪で、意地悪で、愚劣だった。
「ほら、普通でしょう?」
「…………そう、ね?」
「もー! 錯覚ですって。私のしっとりお肌に嫉妬しちゃったんですかぁ?」
「ど、どうなのかしら……私、疲れてるのかもしれないわ」
「まぁ否定はしませんけど! ゆっくり寝てくださいね?」
「赤城さんに言われるのもなかなかねえ……山下さん、赤城さんを送っていってあげてくれる? 担任の先生には私から伝えておくから」
「え?!」
「あはは、じゃあもえもえ宜しく~」
「……はぁ」
 小さくため息をついた萌黄は頷いて荷物を取りに向かう。ゆいが浮かべた笑みが脳裏にこべりついて離れなかった。
 美術室の前を通って、萌黄は教室へと走る。

 ――→ぐちゅぐちゅ――→

 ――→ぐちゃぐちゃ――→

 ――→べちょべちょ――→

 異音。
 肉塊がちぎれるような音。
 異音に次ぐ異音に背筋が凍る。

「なんだ、貴様は」

 そういえば。

「覗き見とは趣味が悪いな」

 ゆいの最近のお気に入りの先生は。

「来い、特別授業だ」

 彼女だ。


「い、いえ、大丈夫です」
「貴様、教員の特別授業を断るのか?」
「ちょっと友達を帰さないといけなくて」
「ほう、それは結構なことだ。私も車を出そう」
「いえ、結構です」
「……礼儀を欠いているのではないか」
「急いでるので、失礼します!!!!」
 おかしいのは貴方の方だ。
 おかしいのは、礼儀がないのは。恐ろしいのは。
 すべて、貴方のことだ。
(そういえば、私、知らない)
 走りながら萌黄は思考する。
(オラボナ=ヒールド=テゴス……あのひとの、これまでを、私知らない)
 新聞部である彼女は情報屋に等しい。
 だから彼女のことも何かしら入ってきていてもおかしくはない。そのはずだった。
(私でも知らない彼女って、一体、?)
 ギルド・ローレットに所属する特異運命座標イレギュラーズである教員や生徒がいる。彼女もその一人。
 ゆいはどうして、彼女を好いているのだろう?
(……おかしい)
 おかしいと、思わざるを得ない。
 ゆいの異変には、彼女が絡んでいるのだろう。
 そうでなければ。
「おい。赤城にこれを渡しておけ」
 大量のホイップクリームを差し入れに貰うわけがないからだ。

「もー、遅いよ萌黄」
「……」
「萌黄?」
「ねぇ、ゆい」
「なぁに?」
「私に、なにか隠してることはない?」
 おぼつかない彼女の手を引きながら歩く。
 酷く冷たい手。脈だって弱い。
 いつか繋いだときの手は、もっと温かくて、それから少し嫌がられたのを覚えている。
「んーん、ないよ」
 にゃは、と愛らしく笑った彼女の笑み。
 口元に浮かんだ赤い三日月。どこか重なる面影があるような気がして、心が酷くざわついた。
「……そっか。そういえば、あんたの好きなオラボナ先生がお見舞いだって」
「え、せんせーに会ったの?」
「たまたまだけどね」
 はい、と手渡したホイップクリームにきらきらと瞳を輝かせたゆい。ようやく普段の彼女らしい顔をしていて酷く安堵する。
「せんせー元気だった? でも萌黄のこと見つけちゃったんだ、それはやだな」
「え?」
「だって、せんせーは私のせんせーだもん。萌黄にもあげないよ?」
 ぐい、と圧倒的な力で手を握られる。その青い顔色でどうやってその力が、なんて笑みが溢れてしまうほどに強くて、痛い。
「ゆい?」
「……」
「ねえ、ゆい」
「……」
「ゆい、ゆいってば!!」
「……ごめん。今日は先に行くね。じゃ、また明日」
「ゆい?! ゆい!!!」
 おぼつかない足取りで身体にムチを打ち走り出すゆいの背中を追おうとして立ち止まる萌黄。
 少しずつ壊れてしまった友の姿。どうして気付くことが出来なかったのだろう?
 クラスの中心に居たゆいが少しずつ学校へと来るのを諦めてしまうほどに体調を壊しているのに。それをただの病気と決めつけていたなんて。

「あ、」

 そういえば、と思い出す。
 ゆいが髪を短く切りそろえるその前日のことを。

「あたし、オラボナってせんせーのこと探ってみようかなって。皆やばいって言ってるじゃん?」

 あの日を堺に、ゆいは壊れていったのだ。
 少しずつ、赤に溺れていったのだ。

「…………暴かなきゃ」
 そして、戻さなくては。
 あの日のゆいを。
 これまでのゆいを。

 彼女の名前は山下萌黄。
 ゆいの親友。そして、奪われたもの。

おまけSS『no title』

「先生!! 赤城さんが倒れました」
「先生、赤城さんが……」
「せんせー、赤城さんがまた倒れました」

 どうして、わたし、たおれちゃうんだろう。
 あかいのがたりないのかな。
 でもどうして? こんなにたのしくてしあわせなのに。
 みんなどうしてそんなにふあんそうにしてるんだろう。
 わたしはこんなにもみちているのに。

 ああ、そうか。
 わたしのなかみがからっぽだからか。

「にゃはは」

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