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すみれと日向ぼっこ
すみれと日向ぼっこ
登場人物一覧
周藤日向には大好きな人が居る。
燈堂の屋敷へ出向く途中で出会ったとても美しい人だ。
すみれという名前も、朗らかな笑顔も、間違った時は叱ってくれる優しさも。
全部、全部大好きなのだと日向は心に思い描く。
日向は情報収集を得意とする夜妖――管狐を使役している。
だから、調べようと思えばすみれの事を全部知る事も出来るかも知れない。
されど、それをしないのは日向がすみれの事が大好きだからだ。
「何でかって? 僕はね、すみれの口から、すみれが話したいと思ったことが聞きたいんだ」
日向の事を思い紡ぐ言葉や過去。それが何より愛おしいのだと日向は笑う。
「諜報のお仕事をしていると嫌な事もいっぱい見聞きするよ。心を殺して割り切ってやらなきゃならないこともある。でもね、すみれの前に居る時だけは僕はきちんと人間らしく居られる気がするんだ」
だから、と。縁側に寝転んだ日向はすみれの膝に頭を乗せる。
「すみれの膝枕落ち着くね」
「ふふ、それは良かったです。背中も叩いてあげましょうね」
子供扱いではあるけれど。今この時はそれでも良いかと、日向はすみれの温もりに長い睫毛をゆっくり閉じた。
春の兆しが咲く中庭を見つめ、すみれは日向の背を緩く叩いていた。