PandoraPartyProject

SS詳細

League of the Forest's wiches

登場人物一覧

ポシェティケト・フルートゥフル(p3p001802)
白いわたがし

●第一話『The Seeker』

 幼いメイドがひとり、メモを片手に店の前で立ち尽くしていた。
 透き通った翡翠の髪は人間には出せない発色であり、目に見える感情は彼女がAI内蔵のアンドロイドであることを示している。
 陽光色の石壁、苔の生えた茅葺屋根。窓の向こうではウィンドチャイムのガラス玉が虹色に光っている。
 看板に掲げられたMagic Shopの文字は長閑な英国の片田舎ではよく見かけるものだ。
 占いから薬草、宝石といった魔法の品を取り扱うお店。
 リンゴの花とおなじ色のカーテンや漂う紅茶の香りはAIメイドに内蔵された「好ましい」のカテゴリーに属するが、この場所は彼女の求めるモノのイメージとはかけ離れていた。
 AIメイドが再度メモを読みこもうとすると。
「お客さんかしら?」
 穏やかな声と共に扉が開いた。
 AIメイドは最初、目の前の女性を「新雪」と認識した。
 それほどまでに純白であったのだ。
 しぼりたてのミルクのように白い肌、白銀の髪と霜のような睫毛で縁取られたグレイの瞳。
 それら全てが信じられない事に非人工物――自然のものだと出ている。つまりこの女性の白さは生まれつきなのだ。
 薄いラベンダー色のワンピースにはミモザの小花が舞っていて、店の素朴で愛らしい雰囲気から抜け出してきた妖精のようだった。
 AIメイドは目の前の女性を「人間」ではなく「不思議」と「綺麗」の間に分類することにした。そうすべきだと思ったのだ。
「家庭用テクニカルクローンアンドロイド。こんなにカスタマイズされた個体と出逢ったのは初めてよ。アナタ、大切にされているのねぇ」
 女性のその言葉にAIメイドは驚き、音声出力のロックを解除した。
『こちらにポシェティケトさまはいらっしゃいますか?』
「あら、まぁ」
 女性は驚いたように小首を傾げた。その仕草は少女のようで、彼女の年齢不詳さに一層拍車がかかる。
「どこでそのお話を聞いたのかしら。そうね、立ち話も何だからどうぞ入って頂戴な。可愛いメイドさん」
 女性はドアにかかっていた看板をクローズに変える。
 AIメイドは安堵した。どうやら話を聞いてもらえるらしい。
 アンドロイドであることを理由に罵詈雑言や水をかけられることには慣れているが、任務を完了するまで故障するリスクを高めるのは良くない。
 ポシェティケト・フルートゥフルと言えば『森の魔女連盟』と呼ばれる正体不明のホワイトハッカー集団の中で、唯一コンタクトが取れる窓口として有名だ。有名とは言っても、性別、職業、年齢といったプライベートは全て不明であり、連絡を取る方法も知られてはいない。
 結局のところ『ポシェティケト』も他の魔女と同じくアンノウンな存在なのだった。
『突然お邪魔してごめんなさい。わたしのパパ……マスターがいなくなってしまったんです』
 温かいお茶を頂いたAIメイド、個体名テックは話し始めた。
 マスターから「ちょっとトラブルがあって帰りが遅くなる」と連絡があった日、マスターは帰宅せず、代わりに警察からマスターが失踪したとの連絡が入ったこと。
『机の上に残されたメモには、ポシェティケトさまのお名前とここの住所が書かれていました』
「それで家を飛び出して、唯一の証拠であるワタシを探しに来てしまったのね」
『肯定。……え、わたし?』
「そうよ。ワタシがポシェティケト」
『えぇ!?』
「ふふふ、驚かせてしまってごめんなさいね。しかしご心配ねぇ、テックのパパさん。どうしてしまったのかしら」
 春風に揺れるカーテンのようにポシェティケトは立ち上がると店の奥へと消えていく。慌てて追いかけたテックが見たものは、開いたクローゼットと中にある地下へ続く細い階段であった。
「ついてきて」
 地下の暗闇からポシェティケトの声が聞こえる。
 テックは恐るおそる足を踏み入れ、驚愕した。蜘蛛の巣ケーブルに何枚もの大型のディスプレイが並ぶ部屋は正しくハッカーの部屋といった様相だ。
「おはよう、クララ」
 ポシェティケトの声に合わせて画面に黄金の粒子が映し出される。
 縦横無尽にディスプレイを渡っていく様は金の流砂のようだ。音楽に似た電子音が聞こえるが、テックに内蔵されている音声解析ソフトはそれを『にゅー』と暗号化して表示している。
「ええ、今日はお客さんがいるのよ。悪い子じゃないの、パパを探しているんですって」
『お邪魔します』
 テックは慌てて頭を下げた。画面の主がどういうプログラムにせよ、家庭用アンドロイドの矜持として礼儀を失する訳にはいかない。
 画面で渦巻く流砂が少しだけ、勢いを落としたような気がした。
「ほら。鹿の、人を見る目は確かなのよ」
 くすくすとポシェティケトは笑い、手慣れた様子でゴーグル付きのヘッドギアを装着する。
 妖精のようなポシェティケトが機械に囲まれ、素早くコンソールを操作する姿はまるで鍵盤楽器を奏でる魔法使いのようであった。

  • League of the Forest's wiches完了
  • NM名駒米
  • 種別SS
  • 納品日2022年04月01日
  • ・ポシェティケト・フルートゥフル(p3p001802
    ※ おまけSS『シーズン1番組宣伝』付き

おまけSS『シーズン1番組宣伝』

『League of the Forest's wiches』(シーズン1 一話完結型)
ジャンル:ファンタジー&コンピュータークライム
ネタ元:上級ハッカーの事をウィザードと呼ぶことから、ウィッチもありなのではないかと。

英国の湖水地方を舞台に繰り広げられる上品なクライムドラマ。
ホワイトハッカー、ポシェティケト・フルートゥフルと戦闘用プログラム『クララシュシュルカ・ポッケ』、AIメイドテックの
人間一人、人工知能二人でお届けする電脳事件簿。

盗まれた美術品を探し出すMI6の捜査に協力するため黒スーツをビシバシッと決めてロンドンの地下鉄に乗って移動したところ「お二人とも、とても目立っているので、残念だけどやめようね……」と担当の胴の長い犬(コードネーム)から言われてガッカリしたり

長年動きを見せなかった伝説のハッカー『月光蝶々』が動いてイギリスに入ったとの情報があり各国諜報部に激震が走ったり
(「僕の可愛い可愛い綿毛ちゃんにお友達が出来たと聞いてね! 今年は庭の林檎が豊作だったからついでに持ってきたんだ。アップルパイはお好きかな」とは本人の談。「じゃあ、うるさいのたちが追いかけてくる前に僕は失礼するね!」)

同じく長年動きを見せなかった伝説のハッカー『箱庭の女主人』が続けてイギリスに入ったとの情報があり「今年は英国で何かあるのか!?」と各国諜報部の警戒レベルがAに引き上げられたり
(「エルマーはどこですの!? あの魔女ときたら、いつもいつも突然! 移動する際は連絡を入れろと、わたくし、あれほど言っておいたのに……えっ、もう帰ったのですか? そ、それならば良いのです。……それと子鹿ちゃん。今年も庭で良い薬草が採れましたので後でノピンペロディ便で送っておきますわね」とは本人の談)

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