PandoraPartyProject

SS詳細

嘘っぱちだらけの日常で

登場人物一覧

グレイシア=オルトバーン(p3p000111)
勇者と生きる魔王
ルアナ・テルフォード(p3p000291)
魔王と生きる勇者

 再現性東京。希望ヶ浜学園――数学の非常勤講師として毎日忙しない日々を送っているグレイシア=オルトバーンがこの地を拠点としたのは偶然のことだった。
 イレギュラーズが練達で新たに訪れる場所として得られた希望ヶ浜地区では学園からある程度の地位が与えられていた。
 例えば、グレイシアに付いてやってきたルアナ・テルフォードは特待生として小学生をしている。イレギュラーズであれば寮生活も無料。食堂も優待を受けれると至れり尽くせりである。
 その理由というのも、この地は『神秘』を許さずとする暗黙のルールが存在してたからだ。グレイシアやルアナは非常勤講師や学生の身分で『住民』達が目をそらすモンスター問題――この地ではそれらを総括して悪性怪異:夜妖<ヨル>と呼ぶらしい――の撃退に勤しんでいる。
 グレイシアは希望ヶ浜を拠点に活動する際に適した身分を得ただけであったが、ルアナはそう簡単に許してはくれなかった。
「おじさまは先生になるの?」
「ああ。その方が都合が良いだろう」
「ええっ、じゃあ、ルアナも!」
「……教師は無理だろうな」
「おじさまと学校に行くなら、わたしもいく! 生徒でいいもん!
 おじさまは先生に向いてるだろうなー! だって、教え方上手だもん!」
 にんまりと微笑んだルアナにグレイシアは肩を竦めるしかなかった。幻想に存在するグレイシアが営む喫茶店で、彼はルアナに日々勉強を教えていたのだ。
 放課後は喫茶店の看板娘として頑張ると張り切るルアナにグレイシアは「疲れて其れ処ではないだろう」「勉強について行けるのだろうか」と父親染みた事を考えながらも渋々OKを出した。寧ろ、少しばかり不安が首を擡げたがグレイシアの視点で言わせれば『押し切られた』状況だろう。
 ――因みに、これもグレイシアの視点ではあるが、ルアナ側からすると「学校に行ってもわたしはおじさまの一番の生徒だよ!」と言った調子なのだろうが……。
 グレイシアは日々、『はらはら』していた。ルアナがちゃんと学園生活を送れているか。授業に遅れはないか。何か忘れ物をしていないか等と立派な父親染みた不安を胸に抱いていた。そして、同様に身内だから甘やかさないようにと注意をしている自分がルアナのミスなどを見て何かフォローをしてしまわないかと言う不安まで抱く始末だ。
「まるでテルフォードさんのお父さんですね」とルアナの担任に揶揄われたことがある。グレイシアは頭と抱えたが、希望ヶ浜の教師に悪気はない。非常勤講師であるグレイシアがルアナの世話をしている事は学園である程度、認知されているからだ。
「身内だからと甘やかすつもりはない。寧ろ厳しく接しようと思っている」
「そんなに気を張らなくても大丈夫ですよ。グレイシア先生のためにテルフォードさんも一生懸命勉強していますから。テストで言い点数を盗ったらうんと褒めて上げて下さいね」
 担任教師の優しい声音にグレイシアは自身がルアナを偉いと褒めてデザートプレートを放課後にプレゼントしている様子がしっかりと脳裏に浮かんで更に頭を抱えたのだった。
 時間割表を確認すると、次はルアナのクラスの授業だ。小学生であろうとも希望ヶ浜には様々な教師がいる。専門的な学習を身に着けられるようにと授業のカリキュラム事に教師が替わることは珍しくはない。
 次はグレイシアが教鞭を取るのだと聞いているルアナは姿勢をぴんと伸ばして、彼が姿を見せるのを今か今かと待っていた。クラスメイト達にテルフォードさん嬉しそうと揶揄われようがルアナは気にはしない――何方かというとグレイシアが気にしていた。ルアナを贔屓していると思われるのではないか、思わず胃もキリキリと痛んできそうな苦労性の『おじさま』は咳払いをして教室へと入った。
「きりーつ」
 日直が辿々しく告げれば真っ先に飛び上がるように立ち上がったルアナがぴんと背筋を伸ばしている。
「れーい」
 礼の姿勢も他の生徒より完璧だ。他のクラスメイトが『ルアナちゃんやる気バッチリ』と揶揄うように笑った声を聞いてグレイシアがなぜだか恥ずかしくなった。
「着席~」
 がたがたと音を立てて座る小学生達を前にして、グレイシアは咳払いを幾つか繰り返してから早速教鞭をとった。簡単な数学――いや、この年齢なら『算数』か。ルアナにはある程度の教育を施してあるとグレイシアは自負している――ばかりの教科書を開いて、黒板に記述しながら教えて行く。詰まらなさそうな生徒達の中でもルアナはそわそわと身を揺らしてグレイシアの話を聞いていた。
 何を考えているかなど想像しなくても分かる。「おじさま格好いい!」等、いつもグレイシアが苦く笑いを漏すようなことばかりを彼女は考えているのだろう。
「せんせー、ルアナちゃんがぼんやりしてます!」
「えっ、そ、そんなことないもん! おじさまのことばっかり見てないもん!」
「……テルフォード。おじさま、じゃなくて先生だ」
 クラスメイトがどっと湧き上がるように笑えばルアナは唇を尖らせて「おじさまはおじさまだもん」と呟いた。
 拗ねたように呟く彼女にクラスメイト達が「じゃあわたしもおじさまって呼んでいい~?」とルアナは「だめー!」と叫ぶ。
「授業中だ」と指摘すればルアナはふてくされたように「はあい、先生」と呟くのだった。
 彼女がグレイシアをおじさまと呼ぶのは今に始まったことでも、慌てたときばかりではない。癖のように彼をおじさまと呼んでしまうのは日常に染み付いているからだ。最初は「グレイシア先生」と呼ぶ努力をしていたようだが、少しの気恥ずかしさを感じたのか照れたように笑みを零し続けていた。
 難なく授業を終えた後、ルアナの周りに出来た人だかりはグレイシアについてだった。
 授業中におじさまと呼んだこともありグレイシアとルアナの関係性で話題は持ちきりだ。
「ルアナちゃんって、グレイシア先生のうちの子なんでしょ?」
「うん。おじさまと一緒に住んでるんだ」
「いいな~、さんすうの分からないところ聞けるね!」
「分からないところあったなら聞きに来る?」
「いいの? やったー、ルアナちゃんちに後で行くね!」
 やはり空中庭園を経由する必要があるために、グレイシアの喫茶店へと連れて行くことの出来るクラスメイトは特異運命座標だけだ。
 それでも旅人が多く存在し、イレギュラーズの数の多い希望ヶ浜ではルアナが誘えば遊びに来てくれる学友は多かった。
「みんなイレギュラーズだっけ?」
 確かめるように問いかけるルアナに「そっか、ルアナちゃんちって希望ヶ浜じゃないんだっけ!」と子供達はまとも驚いたように告げた。
 希望ヶ浜で過す子供達の大半が『外』を恐れた者や、現実を直視できない者が多かった。ルアナのように外と行き来する者は珍しく、旅人であれど希望ヶ浜を拠点にしてしまえば出る事のない者は多かった。
「そうだよ。おじさま――……あ、グレイシア先生と一緒に住んでるんだ」
 ルアナが言い換えたのはグレイシアと目が合ったからだ。教卓を後にして廊下に出たところで鉢合わせたルアナはばつが悪そうな顔をしたがグレイシアは「気が向いたら来るが良い」とクラスメイト達に優しく声を掛けるだけだ。
 グレイシアもルアナが学友を連れて帰宅することは悪い気はしない。父親代わりのような立場になっている――本来ならば、そうした『家族』のような関係も偽りだらけではあるのだが妙に心地よいのが困りごとだ――彼にとってはルアナが楽しげに友人達と語らう様子は見ていて安心する。ルアナが勇者として過すのではなく普通の少女として過す日常が此処に存在するのだと安心することが出来るからだった。
 彼女が友人に声を掛けている場面を確認し、残る授業を終えてからグレイシアはルアナより先に帰宅した。喫茶店の開店準備をし、教師ではなく喫茶店マスターとなる。
 珈琲の香りが漂い始めた頃、「ただいま!」と飛び込んできたルアナの後ろにはグレイシアも見覚えのあるクラスメイトが数人「お邪魔します」と頭を下げていた。
「いらっしゃい」
「わあ、本当に先生がマスターしてるんだ」
「先生、ルアナちゃんと一緒に住んでるんでしょ? いいな~、ルアナちゃん。ケーキ食べ放題!」
「わたしだって、おじさまのお手伝いしてるんだから!」
 子供達の言葉を聞きながらグレイシアは微笑ましいと子供達のテーブルにジュースを運んだ。早速テーブルには『たのしいさんすう』と書かれた教科書が開かれている。
 客足が落ち着いてからであれば質問に答えることが出来ると告げれば子供達は喜んで、メニューを開いた。僅かなお小遣いでケーキを食べるのだと口々に言い合い、ルアナが味の感想を披露する。
 賑やかな一角に目を遣って微笑む喫茶客に断りを入れて菓子を差し入れれば「子供は楽しいのが一番」だとからからと彼らは笑ってくれた。
 グレイシアと活動し、イレギュラーズとして日々を忙しなく過ごすルアナが『同年代』の子供達とあの様に過すのは奇跡のような物だとグレイシアはぼんやりと考える。
「あー、先生がぼーっとしてる!」
 揶揄うように指さした子供達が「先生、ケーキ!」と手招いている。
 折角ならばケーキの割引をしてやることも吝かではない。但し、『先生』であるならば『たのしいさんすう』の問題をきちんと正解したご褒美にしてやろう。
 グレイシアは「さて、算数の授業をしようか」と希望ヶ浜に居るときのように子供達の教師役となり、簡単な算数問題を解かせて行く。
「あ、お客さんだ。おじさまは皆の算数を見ててね!」
 いらっしゃいませと声を掛けに行くルアナを見送ってから、グレイシアはこうした平凡な日常も悪くは無いと子供達の答え合わせをして、赤ペンでバツをつけたのだった。

  • 嘘っぱちだらけの日常で完了
  • GM名夏あかね
  • 種別SS
  • 納品日2022年03月08日
  • ・グレイシア=オルトバーン(p3p000111
    ・ルアナ・テルフォード(p3p000291

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